20話「ニートに宿る時間停止の能力?それはつまり……」
監禁生活ルートを脱する為にもアリスに魔王討伐の話を持ち掛けるが、これは一種の賭けでもあり断られれば即ここで俺の冒険はここで終わりを迎えることとなるだろう。だがそれでも唯一の救いと言えば相手が領主の一人娘であり、容姿端麗の上にお金持ちという部分である。
故に監禁生活を送る事になろうとも、それほど支障が出るわけでもないが恐らく自由は完全に無くなるだろう。そして与えられる食事にも血か何かしらの薬が混ぜられることも充分に考えられる。
何かを得るにはそれ相応の対価を払うとはよく聞いた言葉ではあるが、安定した生活と共に失うものが余りにも多すぎるだろう。
それに俺は魔王を討伐して願い事を叶えて欲しいのだ。いや、叶えて貰わなければならないことがあるのだ。……だからこんなところで足止めを食らう訳にはいかんのだ!
「それも有りかも知れませんわね。ですがまずはわたくしと一緒に愛を育む為にも婚姻の義を行いましょう」
手を顎に当てた状態で暫く悩むような素振りを見せたあと魔王討伐に関しては拒否する様子は見受けられないが、相変わらず瞳は暗いままであり剰え結婚などという人生の墓場を意味する言葉を口にして近づいてきた。
「さぁ……わたくしと愛を育みますのよ。子供は10人ほど欲しいですわ」
そう言うとアリスは一瞬にして禍々しい雰囲気から獣のような獰猛な性格へと豹変させると、舌なめずりをしながらベッドに片膝を乗せて徐々に覆いかぶさるようにして這い上がって来る。
「ひぃっ……!」
その光景はさながら某ホラー映画の貞子がテレビ画面から出てくるものと似ているものがあり、性的に襲われる前に呪い殺されそうな印象の方が強く感じられて普通に漏らしそうになった。
だが今更かも知れないが子供10人とは些か多すぎではないだろうか。
そこまですると俺の体が持たないというか、色々と枯れてしまい死にそうな気がする。
主にテクノブレイクと呼ばれるものに近い死因として。
まるで目の前に迫る彼女は気品溢れる令嬢というよりは、魔物のサキュバスを相手にしているように思えて仕方ない。
もしかしたらアリスの母方はサキュバスなのではないのだろうかと思われるほどだ。
「はぁはぁ……アマデウスさんと……はぁはぁ!」
俺が現実逃避していた僅かな時間の間にアリスは完全にベッドへと上がり込んでいて、そのまま両手を巧妙に使いながらズボンのベルトを外しに掛かると――――それはお嬢様の彼女にとって初めて扱う物であるのか外し方が分からずに苦戦している様子であった。
「な、なんですのこれは! なんで外れないんですの! ……うぬぬっ、わたくしとアマデウスさんの愛を邪魔する物は全て破壊して差し上げますわっ!」
流石のお嬢様でも苦手な物があるようで張り詰めた気分が少しだけ緩和されるが、それも束の間の出来事となると急にバーサーカーのような力を発揮して、ベルトの金具部分を指先だけで折り曲げては捩じ切るように破壊していた。
「ま、まじですか。え、ええ? なにこれどういうことだよ……」
余りにも現実離れした光景を目の当たりにすると、アリスの華奢な体の何処にそんな怪力じみた能力が封印されていたというのだろうか。
まさかこれは俺が特訓させて彼女に身に付けさせた力とかではないだろうな?
仮にそうだとしたならばこの状況は自らが生んだことになるのだが。
「ふぅー! ふぅー! わたくしの邪魔をするからですわ!」
興奮しているのか息を荒げてベルトに文句を言い放つアリスだがその姿は先程のヤンデレとは違い、獣のような性格を取り入れて攻撃型のヤンデレと変化を遂げているような気がしてならない。
つまり一歩間違えれば簡単に、あの怪力でボコボコにされるという訳だ。
これならまだ血をお菓子に混ぜる程度で落ち着いてた方のがマシに思える。
「な、なあ頼むから一旦落ち着いて話を……」
取り敢えず自身の安全を確保する為にも話し掛ける。
「ああ服も邪魔ですわね。わたくしとするんですから、生まれたままの姿となるのが礼儀というものですわよ?」
もはや人の話を聞く耳を持ち合わせていないのか本当に聞こえてないか分からないが、アリスの口から明確に例の言葉が呟かれると、どうやら俺の童貞はここで散る定めにあるのかも知れない。
「いや、拘束されてたら脱ぐことも出来ないんだが……」
「あら、それもそうですわね。でしたらわたくしが全て脱がせてあげますわ」
攻撃型のヤンデレと化すと知能が低下するのだろうか、アリスは自らが施した拘束具すらも視野に入っていない様子であり、視線をズボンへと向けて口の端を吊り上げると手を伸ばしてきた。
「はっ!? ま、待て待て! これ以上は本当に駄目だ! 後悔するぞ! というか戻れなくなるぞ!」
ベルトを外された今の状態では防御力は皆無であり、なんとか身を捻ることで脱がされないように抵抗を繰り広げる。本当にこのままでは童貞を無くすことになる。それもこんな訳の分からない状態でだ。せめて童貞を失う時ぐらいは自らの意思で成し遂げたい!
「うるさいですわね! 男ならさっさと覚悟を決めてわたくしのものになりなさいっ!」
イケメン女子が言いそうな台詞を口にしながらアリスは手を緩めることなく、ズボンを掴むと引きちぎる勢いで力を加えたのか『ビリィ』などという布が裂ける音が聞こえてくる。
そして次第にズボンが破れていくと最後の防衛線でもある下着部分へと到着して、
「ひぃいいぃやぁぁぁぁ!」
もはや俺の童貞もここまでかと女性のような悲鳴を叫び散らかした。
――しかしそこで突如として両目に灼熱の鉄棒を押し付けられるような感覚を受けると、
「うぉぉぁっぁ!? なんだこれ目が熱い! 焼けるように熱い! め、目がぁぁあ!」
目から炎が吹き出しているのではないかと錯覚するどの痛みを負い体が痙攣を起こし始めた。
するとそのあまりの異様にアリスは冷静な思考を取り戻したのか、
「ア、アマデウスさん――」
途端に心配そうな声色を出してズボンから手を離すと同時に言葉が途中で止まっていた。
それから暫くして目の痛みと熱が収まると漸く視界が安定して見えてくるが、次の瞬間俺は自らの視界を疑わずには要られなかった。
「お、おいどうしたんだよ? アリス?」
何故なら目の前で時間が停止したように彼女が何一つ動く素振りを見せなかったからだ。
いや、正確に言うのであればアリスは呼吸すらもしてないように見受けられる。
「な、なな、なんだよこれ!? 一体なにがどうなって……」
頭の中が色々な出来事のせいでごちゃごちゃになると軽い頭痛が生じたが、それでも目の前で起きていることは紛れもない現実だということだけは分かる。
本当に何をきっかけにこうなったのかは不明だが今のアリスは石像のような状態だ。
「と、取り敢えず! こういう訳の分からない時こそ冷静に動かないとな! うん!」
冷静さを失えば本来見えていたものすらも見えなくなるという事は生前の頃に学んだことであり、同じ轍を踏んではならないとしてまずは四肢を拘束している鉄製の錠を外すことを優先とする。
「俺の力でどうにかなる物かは分からないが、物は試しという言葉があるぐらいだし大丈夫だろう」
最初に右手首に付けられている錠を外すことを考えると、軽く引っ張ってみるが錠自体はやはり鉄製のもので簡単に外れそうにない。
だがそれと同時に錠から伸びている鎖が固定されているのはベッドの四方にある木柱だという事が分かると、そこで元ゲーマーとしての知識をフル活動させて一つの答えへとたどり着いた。
そう、それはずばり錠は外せずとも木柱をなんとかすれば動けるようになるということ。
「ふっ、そういうことなら俺の力でもなんとかなりそうだぜ!」
一筋の希望の光が見えたことでやる気を上げていくと、さっそくこの拘束から逃れるために行動に移す。その際に彫刻像のように動かないアリスに視線が不意に止まると、何をきっかけに動き出すか分からないので恐怖心が消えることはなかった。
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