19話「ヤンデレに拘束されたニートの駆け引き」
突然アリスから好意が芽生えたと熱い言葉の数々を投げ掛けられると、俺としてもこんな美少女に好かれること自体が初めてのことで色々と不安や嬉しさやらが募るばかりなのだが、これだけは絶対に言える。
そう、手足を拘束された状態で好きと言われても心の奥底まで響くことはないと。
一体これは何処ぞのヤンデレゲームの中盤辺りだよ。っとツッコミを入れたくなるほどである。
だがこのまま彼女の好意を受け入れたとしても、既にこの状態であるならば恐らくまともな恋人関係は待っていないだろう。ならばここは意を決して、
「ま、待ってくれ。多分だがそれは一瞬の熱病みたいなものだ。ほら、冷静になってよく考えてみろ! こんな対してイケメンでもなく財力もなく身分も怪しい男を好きになっても特はないぞ!」
アリスに芽生えている好意自体を沈ませれば解放されるのでないかと思いつつ自身を自虐することにした。
普通ならばこれぐらいやれば解放されると思うのだが生前の頃は幾度となくヤンデレゲームをプレイしてきた俺だとしても、自虐をして逃げるなんて選択見たこともないから多分これはイレギュラーもいい所なのだろう。
「黙りなさい! わたくしの好きな人を侮辱することは貴方でも許しませんわ!」
額に青筋を浮かばせて睨み付けるような視線を向けてくると急に怒り出したアリスを目の当たりにして更に恐怖心が倍増したことは言うまでもないだろう。
だがなんで俺自身を卑下しているだけでこうも怒鳴られなければならないのだろうか。
しかも普通に怖いし、これはきっと結婚したら鬼嫁に豹変するタイプだろうと、まだそんな事を考えられる余裕があることに僅かに救われていた。
しかし恋とは人をおかしくさせるとはよく聞いたものだが、実際に遭遇すると中々どうして厄介なものだ。あれはフィクションの中だけものだと思っていたのだが、どうやら現実の世界でも充分にありえる話だったのか。
ああ、クソが。こんな事になるんだったらしっかりと最後まで見ておくべきだったぜ。
いつもそういう在り来たりな場面が来ると変に冷めて見るのを辞めていたからな。
けどまあこれが生前のモテない頃ならば喜んでアリスからの好意は受け止めていただろう。
しかしながら、この異世界では恋よりも先に優先すべきことがあるのだ。
「それにわたくしは覚えていますのよ。貴方が特訓中に剣の振り方が駄目と理由をこじつけては腰や太ももを性的な眼差しを向けながら触れていたことに……ね」
そう言うと彼女は全てを見透かしたように微笑むと自身の腰を艶かしく動かしたり、自身の太もも晒すようにミディスカートを捲くり上げると、アリスは黒タイツを履いていることから妙に色気が強く、誠に遺憾ながら下半身が反応しそうになるのを気合で堪えるのに必死である。
恐らくここで俺の息子が反応しているところを見られようものなら絶対に唯では済まないだろう、ということだけはこの場の雰囲気と長年エロゲーをプレイしてきた勘が告げてくるのだ。
故に今現在俺の頭の中にはモニカの茶を想像して気分を萎えさせているところだ。
だがしかし俺が特訓中に触れていたことが行為であることを知り得ていたと言うのに、それを承知の上で触らせていたということは、アリスは見かけによらずビッチなのではないだろうか。
そのせいで俺は夜な夜な一人で致す回数が増えて朝起きるのも苦痛だというのに。
まあこれに関しては自業自得というもので完全に自分が悪いのだがな。だが言い訳を述べるのであれば、休日にエッチなお店にさえ行ければ何も問題はなかったであろう。
「あとは……そうですね。わたくしがお茶に誘い出してから貴方が美味い美味いと言いながら食べていたお菓子には、わたくしの抑えきれずに溢れ出てしまった愛情が沢山入っていましたのよ」
俺が下半身の息子を落ち着かせる為に色々な事を考えていた間にも、アリスは矢継ぎ早に話を進めていたようで何か不穏な言葉を織り交ぜては光すらも通さない暗い瞳を向けてきた。
「あ、愛情ってのはあれか? 比喩表現かなにかのことか……?」
こういう一見してヤンデレような雰囲気を醸し出している女子が食べ物に愛情を入れたと言うと、数々のヤンデレゲームすらも制覇してきた俺にとってそれは想像したくもないが、自然と答えが思い浮かんでしまう辺りゲーム脳というのは怖い。
「いいえ、違いますわ。愛とはつまるところ血ですわね。苺ジャムが中に練り込まれていたお菓子があったでしょう? あれはわたくしの手作りで、そのジャムに少量ですが混ぜていましたの」
いとも簡単に答えを教えてくるとアリスは自身の手首を見せながら薄い笑みを浮かべてきたが、彼女の手首には幾度となくナイフで切り込んだような浅い傷痕が残っていた。
「ッ!? うぐっ……おえぇぇっ」
そのアリスの手首が紛うことなき証拠となりうると俺が一番茶菓子として美味いと感じていたのがまさかの血入りの物だったとして、全身が一瞬にして極度の悪寒に包み込まれるとそれと共に吐き気すらも込み上げてきて新たにトラウマが増えた瞬間でもあった。
一体どんな悪いことをすればこんなにも食べ物や飲み物から酷い仕打ちを受ける運命を辿るというのだろうか。生前の頃でも食べ物や飲み物は生きる為の物として、感謝の念を毎日抱いて口にしていたというのに。
「……だけど、このままではやばいな」
本能的に口から飛び出してきた言葉は現状を表すのに充分であり、それは歴戦のゲーマーとしての感覚が脳内に語りかけてくるのだ。アリスが今ヤンデレと呼ばれる状態であるのならば、最悪の場合は生きたままこの屋敷で飼われることになると。
なんせ相手は領主の一人娘であり財力に関しては申し分ないからだ。
さらにヤンデレの特徴としては邪魔する者は例え肉親であろうと殺そうとする所にある。
つまり仮に異変を察知したモーセルが止めに入ろうとしても俺が無駄に鍛え上げているアリスを相手に勝てる筈もなく、実質この屋敷の権利は全て彼女の元へと移り変わることも考えられるのだ。だがもしそうなったら確実にバットエンドは間違いないだろう。
「……なあアリス。突然のことで混乱するかも知れないが聞いてくれ」
しかしそこで俺は生きたまま飼われるという最悪なルートを脱する為に、一つの賭けに出ることにした。これは即席で考えたものであるが故に矛盾や綻びがあるかも知れないが勢いて通すしかない。
「あら、突然どうなされましたの?」
右手のひらを自身の頬に添えながらアリスは不思議そうな顔を見せている。
「実はだな。これは余りに人に言うべきことではないんだが、俺は魔王を討伐する為に東の国からここまで来たんだ」
なるべく話を信じて貰えるように真剣な眼差しを敢えて作りつつ向けて、声色も気が抜けるようなものではなく所々で覇気を混ぜて切りをよくして主張する。
「魔王を討伐……? まあ貴方の容姿を見るに東の国出身だということは分かりますわ」
すると思いのほか食い付きがよくてアリスは目を細めながらも聞き返してきた。
「ああ、そうだ。俺の故郷では助言師という神に使える者が居るんだが、その者が言うに俺には仲間を集めて魔王を討伐するという大事な使命があるとのことなんだ」
そう、これは壮大な嘘を織り交ぜた俺が現状で思いつく限りの最善の策であるのだ。出来ることならばアリスというレイピア使いを仲間にしたい部分もあるのだが、このままでは飼育ルートを歩むことになり魔王討伐すらも夢のまた夢……というよりかは墓場まで持っていくことになるだろう。
「……だからこれは提案なんだが、アリスも一緒に俺と魔王を討伐する協力をしてくれないか?」
一つの間を空けて優しめな声色で告げると彼女を仲間に引き入れることで魔王討伐を手伝って貰うと共に飼育ルートを破棄させるという一石二鳥の案を講じた。
あとは彼女の返事次第で俺の今後の運命が決まるだろう。出来ることならば二つ返事で了承して欲しいところだが、最悪の場合は今この場で監禁生活が始まりを告げるだろう。
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