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18話「領主の娘から好意を向けられるニート」

「うっ……ここはどこだ……?」


 一体どれほど俺は気を失っていたのだろうか。徐々にだが朧げな意識を明確なものへと取り戻し始めると、なにか金属製の冷たい物が手足の首に付けられているような違和感を覚えていた。


「ったくなんだよ……これは?」


 そうして手を動かして物の正体を確認しようとするが、怪しい鎖の音が手首の方から聞こえてくると今の俺の状態はベッドの上で万歳の姿勢を無理やり取らされている状態で、その音を聞いた瞬間に全ての意識が光の速さで瞬く間に覚醒を果たした。


「うぉぉぃ! なんだよこれ! ちょ、本当にどういう状況なんだよ!?」


 それから自分の今置かれている状況を再度確認するように手足を暴れさせると鉄の鎖が擦れ合う音が室内に響いて、よくよく視線を向けてみると手足の首に付けられている物の正体は罪人に使用されるとされている手錠のような物であった。


 しかもその手錠は純鉄製であり、それは日本の警察が使用するような生易しいものではない。

 だがそれは今気にするべきことではないのだ。


 ……いや、少しは気にした方がいいかも知れないが、それよりも一体誰が何の目的で俺を拘束して監禁しているのかという理由を探さねばならない。


「まぁそれでも大方、誰がの部分は予想出来ているがな……。何故ならここはアリスの部屋であり、俺に変な茶を飲ませたのもアリスだからだ。ならば必然的に犯人は彼女となるだろう。それに――」


 最後の言葉を呟く前に部屋全体を見回すと俺が寝かされているベッドから少し離れた所に、ほぼ十中八九犯人と思われる人物、そうアリスが優雅に椅子に座りながら新聞のような物に目を通して紅茶を嗜んでいる様子であった。


「……ん、待てよ? おいおい待ってくれ。何を読んでいるって? ええ?」


 その余りにも自然な素振りに自身の危機感と呼ばれる感情を麻痺させるのに充分ではあったが、アリスが今読んでいる新聞は紛れもない俺が折り畳んでポケットに隠しておいた物に間違いなかった。


 そして彼女は窓を開け放ち窓際付近で新聞を読んでいるのだが時折風が流れ込むと髪が靡いてそれはそれで美しくもあり、こんな状況だと言うのに視線が釘付けとなると綺麗な花には刺があるものだというのはこういう事を言うのだろうと気付かされた。 


「あら、漸く起きましたのね。ふーむ、少々薬草の配合を間違えましたかね。本来ならば、もう少し早く起きる筈なのですが……まあいいでしょう」


 どうやら俺の声が聞こえていたらしくアリスは新聞を読むのを辞めると椅子から立ち上がり顔を向けてきたのだが、その表情には依然のように若々しく剣の修練に真摯に打ち込んでいた光り輝くものは一切消え失せていて、今や彼女の表情は病んでいるように影が色濃く顕れ出ていた。


「こ、これは一体どういうことなのか説明して貰えるんだよな?」

 

 アリスと視線を合わせると呪い殺されそうな雰囲気があるのだが、それでも何故こんな事をするのかと言う理由を問わねばならないとして尋ねる。


「ふふっ、見ての通りですわ。本当ならこんな手荒な真似はしたくなかったのですが……生憎とこの新聞の内容を見てしまいましてね? こうせざる得なかったのですわ」


 短く笑みを零す彼女ではあるが暗く陰る表情には恐怖とは違い、また別な狂気とも言えるものが感じ取れて狂う者だけが見せられるのであろう表情をすると、そのまま静かに右手持っていた新聞を主張してきた。


 しかもその新聞には勇者一行の面々が鮮明に写る写真のような物が貼られていたのだが、その全員の顔部分には黒く塗り潰されたような後があり、俺が見たときにはそんなものはなく考えられるのは後からアリスが手を加えたということのみ。


「つまりアリスは俺の身元を把握した上でこれを実行したと言う訳か。……それで、どうするんだ? 勇者一行にでも通報する気なのか?」


 一番見られたくない人物に新聞を読まれて事情を知られると俺としては、既に文字通り為すすべもないという状況で半ば全てを諦めている状況である。


「いいえ、通報はしません。そんなことをしたら貴方と離れてしまうことになるじゃないですか。それに拘束した意味すらも……ね?」


 だがアリスは目尻を尖らせて反応すると領主の娘ということも影響しているのか報酬金を気にする様子は微塵も感じられず、それよりも俺と一緒に居るという何とも意味の分からない選択を選んだようであるのだ。


 しかも彼女の言葉の所々からは妙に含みのあるものが多く有り、それは何を意味しているのかは分からないが、そのおかげで俺は通報されずに済んでいるも事実だ。


「それはどういう意味だ?」


 けれど考え出すと頭の中は一瞬にしてその事で溢れ返り訊かずには要られなかった。


「これは隠しておこうと思いましたが……まあいいでしょう。どのみち契約が終了したとしても、わたくしは貴方を捉えて拘束するつもりでしたから」


 そう、くすくすと笑いつつ手を顎に当てながら答えるアリスは瞳だけは一切笑うような色をしていなく、まるで俺の内側を見透かすしていくような雰囲気すら受けるほどで、もはや今の彼女は恐怖の対象でしか見られない。


 しかしそれと同時に体中を何か冷たいものが這いよる感覚を否応なしに味わうと、


「は、はぁ!? なんだよそれ! どど、どういう意味だ! さっきから何を言っているのか一ミリも分かんねぇぞ!」


 彼女が何を伝えたいのか理解出来ずにただ声を荒げて言い知れぬ不安を取り払おうとした。


「わたくしは……あの時以来ずっと貴方の事が好きなんですの。それはあの日、わたくしの身を案じて代わりに雨鳥と戦うアマデウスさんの姿を見て、あれが何かを守る為の強さ。それを教えてくれた貴方には感謝と共に好意が芽生えましたの!」


 アリスは自身の豊満な胸に手を当てながら瞼を閉じて感慨深く事情を話していくと、それはどうやら俺が雨鳥を討伐した時から全ては始まりを告げていたようで、そこで何かを壮絶に勘違いさせてしまったようである。


「あ、あれは別にそういう意味で戦った訳では……」


 自然とその言葉が口から出て行くと、あの時の戦いで特に何かを守る為の強さを教えるとかそんな深い意味はなくて、ただ単純にアリスがこれ以上傷つくと後でモーセルから小言や嫌味や給料の減給を言い渡されるのではないかと肝を冷やして行動しただけなのだ。


「それだけではありません。わたくしは誰か守られるというのは初めてで、しかもあんなにも勇猛果敢に魔物に挑み勝利を収める姿はわたくしの心を揺らめかせるのに充分でしたの!」


 けれど彼女は一方的に話を続けていくと、そこで漸く俺は先程までの話の所々に見受けられた違和感の正体へとたどり着いた。そう、これはモテない俺が妄想を越えて起こしたことではなく、完全にアリスは俺に惚れているという事実だ。


 恐らく吊り橋効果に似たようなものが作用しているのだろう。それは男女が危機的状況を共有する際に確率的に恋心が芽生えるとされるもので、あれは伝説上の話かと今の今まで思っていたが、まさか自らが実体験して好意を向けられることになろうとは……。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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