11話「領主の一人娘とは」
「それでだね。キミに依頼したい事とは詰まるところ、娘に正しい剣の扱い方を教えてあげて欲しいんだ」
客間のような部屋に案内されて革張りの高級そうな椅子に俺が腰を下ろすと、領主のモーセルも椅子に腰を落ち着かせて若干姿勢を前のめりにしながら口を開いた。
「は、はぁ? 正しい剣の扱い方ですか?」
領主が人を拉致してまで直々に頼みたい依頼とは一体なんなのかと、どうせ厄介事の類だろうという事は既に確定していて、あとはその厄介具合が何処までのものかと危惧していたのだが……どうにも話の先が読めない。
「そうだとも。実は何を思ったのか急に娘が――」
モーセルは両手を組みながら領主らしく威圧的な態度を取ると、そのまま娘とやらに剣を教えて欲しい理由を話し始めた。
その際に彼の表情は娘を自慢するような何処か優しい父親の顔をしていて、それを見ていると俺は生前の頃の父の顔を思い出していた。俺にもこんな父親が居たら、もっと人生は変わっていたのだろうかと。たがそれは最早過ぎ去りし過去であり、今は今で目の前の事に意識を向け直した。
「――ということなんだ。いやはや本当にキミが運良くカークランドに来てくれて助かったよ! あははっ!」
そうしてカーセルが娘自慢と依頼内容を語り終えると体感時間では既に十五分ほど経過していることが何となくわかるが、娘自慢の部分を省いて依頼内容を簡潔に纏めるとこんな感じとなる。
どうやら彼の一人娘、名前は【アリス=カークランド】というらしく年齢は16歳らしいのだが、そのアリスに俺が剣の扱い方を教えてあげて欲しいというものらしい。
彼女は何を思ったのかつい最近急に剣を手に取り、独学で扱い方を学び始めたとのことだ。
最初の頃は一過性のものだとして直ぐに飽きるだろうとカーセルは思っていたらしく、領主としての仕事を済ませたあと彼女の稽古相手を毎日努めていたようなのだ。だがそれも日を追う事に次第に過激差が増していくと、等々彼は娘のアリスに負けるようになったらしいのだ。
元々カーセルは嗜み程度の剣技しか扱えないらしいのだが、それを差し引いてもアリスの成長速度は凄まじいものがあるらしく、屋敷で働いている元冒険者の給仕達を相手にさせても誰ひとりとして彼女に勝てる者はいないらしいのだ。
つまりこの屋敷で一番強く実力を有しているのはアリスということで、今現在も裏庭で一人で剣の修練を行っているとのことだ。
まあそうした経緯があってカーセルは剣の指導を行える者を常々探していたらしく、そんな時に二本の剣を携えた者が一人で古龍を討伐したという情報を耳にして俺を拉致したらしいのだ。
……というよりもダイヤモンド級の冒険者へと昇格する為には領主の許可も必要らしく、ギルド長が情報を事前に回していたようなのである。
とどのつまり、あの骨董品オタクのギルド長は間接的に拉致に関与していることになるだろう。
「ねっ、だからお願いだよ! どうか娘に剣の指導をしてくれないか?」
俺が頭の中で話を纏めていると前の方からカーセルが顔を近づけて更に懇願してくる。
恐らく無言の状態を維持していたことから深く考えているとでも思ったのだろうが、生憎俺には仲間を集めるという大事な目的があるのだ。
そりゃあ確かに16歳の女子と接する機会を逃すは実に惜しいと言える。
剣の指導ともなれば合法的に体に触れる事も可能だからだ。
例えば『構え方がなっていない!』と言いつつ、手や腕や腰や足を触ることも出来るだろう。
しかもそれが領主の一人娘ならば尚更だ。恐らく相当な美少女に間違いはない。
なんせ父親のカーセルが美形の紳士だからな。本当に苛立つほどにだ。
……がしかし、それらを踏まえたとしても魔王討伐を第一にしている俺には早急に仲間が必要で、こんなところで道草を食っている場合ではないのだ。
「あー、すみません。先程も言いましたが俺これでも魔王討伐を掲げている者ですので、ここで時間を使う訳にはいきません。というより俺なんかよりも、王都から剣聖の称号を持つ騎士を呼んだ方が良いと思いますけど」
頭を短く下げたあと視線をしっかりと合わせて依頼を断る旨を伝えると、最後にちゃんとした剣の指導を行える者を呼んだ方がいいのではと囁かな助言を添えた。
「そうかぁ……そうだよね、うんうん。でもまだ僕は依頼内容を話しただけで、その後の報酬の話をしてないんだけどね」
モーセルは小刻みに首を動かして頷いたあと口の端を伸ばして妙な笑みを見せてきた。
「ああ、そう言いばそうですね。でも俺の意思が揺るぐ事はないですよ」
「ほほう、中々に言うね。じゃあ早速だが報酬の話をしよう。娘に剣を教えてくれるのならば、こちらは衣食住を全て保証して尚且つ月に一度金貨二枚銀貨三十枚を賃金として渡すことを誓おう」
瞳の奥に何か言い知れぬ力を込めさせて彼は報酬の話を始めると、それは依頼を達成した時に支払われるものとは大きく異なり、要約すれば剣を教えている間は住み込みでお金が貰えるということであった。そう、これは俺が元々暮らしていた世界での一般的な月給制というやつだ。
「金貨二枚に銀貨三十枚? たかが剣を教えるだけで、そんなにも貰えるのか?」
しかし幾らなんでも素人の俺が剣を教えるだけで、そんなにもお金が貰えるものなんだろうか。
少しばかり疑問に思うが実際それだけ貰えればエッチなお店で散財し放題だろうな。
「そうさ。これで僕がどれだけ本気かというのが伝わったかな? そして肝心の指導期限だが……現状は一年間とする」
モーセルは得意気な顔を見せつけてくると、そのまま人差し指を立たせてそう言い切る。
けれどそれを聞いた途端に元々受ける気はなかったが、
「あ、一年間は無理ですね。そんな悠長なことをしていると魔王軍の幹部が大陸に進軍してきますよ」
さらに受ける理由が無くなり丁寧にお断りの言葉を再度伝えた。
一年も指導なんかしていたら魔王軍の進行があっという間に進んでしまうだろう。
ただでさえ勇者一行は貴重な戦力を追放したのだから、尚更今は時間を無駄にできない状況。
「アマデウス君はあくまでも魔王側を優先するんだね……。だけどキミは一つ大事な事を忘れているよ。それはダイヤモンド級へと昇格する為に領主の許可が必要だということをね」
モーセルは最初こそ俺の即答の返事を聞いて渋い顔をしていたが、急に右手を懐のポケットへと忍ばせると中から印鑑のような物を取り出して主張するように見せつつ、ダイヤモンド級の冒険者へと上がる為に必要不可欠な事を言い出した。
「うぐっ!?」
それを聞いて思わず変な声が喉から口へと抜け出ていくが、まさかこんな最後の最後で切り札を使用してくるとは思わなかった。しかしその口振りから察するに、まだモーセルは許可という名の印鑑を押していないという事だろう。
「まあ取り敢えずだ。一度でもいいから実際に娘と会ってくれないか? それからでも考えるのは遅くないだろう?」
俺に見せつけるように手元で何度も印鑑を回していた彼だが手を止めると、ゆっくりと再び懐へと仕舞い席を立ちながらそう告げてきた。
しかも表情からは憎たらしくも勝利を確信しているような余裕すら伺える。
「……はぁ、分かりましたよ。会うだけですよ」
溜息を大きく吐きながらそう答えた。本当は凄く面倒なのだが致し方ない。
ここでモーセルの機嫌を損ねさせると、そもそも許可すら貰えなくなる危険性があるのだ。
苦渋の決断ではあるが、さっさと娘のアリスとやらに会って才能がないですねと言って話を終わらせよう。そのあと揉めた場合は印鑑を強奪して何とかすればいいだけだしな。
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