10話「カークランド領主の屋敷にて」
「着いたぞ。さっさと降りろッ!」
「わ、分かってるって。そんな大きな声を出すなよ……ったく」
ギルドで騎士達に連行された俺は馬車へと放り込まれると体感時間で2時間ほど揺られて、ついに目的地に到着したらしく降りるように促されると、一体何処に連れてこられたのかという不安に駆られながらも馬車から降りた。
本当に俺はこれからどうなるのだろうか……。
逃げようにも縄で拘束されて腕は自由に動かないし、そもそも周囲には大勢の騎士が取り囲んでいて逃げる隙間すらない状況だ。
「さっさと歩け。この屋敷の中で領主様がお待ちだ」
馬車から降りて逃げの算段を企てようとするが、騎士に背中を押されて歩くように指示される。
「はいはい。はぁ……俺はただの冒険者だっつーのに、なぜ領主が俺なんかを」
溜息を漏らしながら今は大人しく従う他ないとして、目の前に聳える立派な豪邸……屋敷と呼ばれる領主所有の家へと向かい歩き出した。しかしこんな豪勢な風貌をした屋敷は日本では絶対に見ることが叶わない建造物だろうと見ていて思う。
まるでアニメや漫画に出てきそうなほどに馬鹿みたいに大きく、それでいて屋敷全体からは金持ちオーラというか如何にも貴族が住んでいますよと言わんばかりの雰囲気を醸し出しているのだ。
恐らく領主に息子か娘が居ればきっとワガママで世間知らずに育っていること間違いないだろう。
「さあ、入れ。我々はここまでだ」
屋敷の門を潜ると騎士が拘束の縄を解いて視線を屋敷の扉へと向けていた。
「お、おう分かった」
そして漸く身の自由が得られると早速この場から逃げようと振り返るが、そこには門を塞ぐように横一列に騎士達が整列していて鉄壁の布陣を築いていた。
まあ実際問題として両手さえ自由に使えれば、あの程度の騎士達ならば簡単に突破できるのだが、俺とて無意味に人の命を奪いたくはない。
何故ならそれをしてしまうとあの日の出来事が鮮明に蘇り、きっともう消えることのない記憶として永遠に残り続け、俺があのクソ親と同じ人間になるからだ。
だから決して無意味な人殺しはしたくない。
「まあここまで来て拘束を解かれたんだから、よっぽど殺される事はないだろう。多分だけど。さくっと領主に会って直ぐに帰ればいいや」
そう呟いて自身の気持を軽くしていくと、このあとの予定を頭の中で組み上げながら屋敷の扉へと向けて歩き始める。
そして肝心の予定としては領主と顔を合わせたあと早急にギルドへと帰り、ダイヤモンド級への昇進の話が進んでいるかギルド長に聞いて、仮に進んでいたら仲間集めの方を本格的に開始しようと考えているのだ。
色々とあって未だにブロンズではあるが、きっとダイヤモンドになれる筈だと持ち前のポジティブ思考で確信している。そう、ニートのポジティブ思考は一種のステータスなのだ。そう思うことで自分は何者にもなれるが、あくまでも思い込みなだけなので実力の方は個人の問題である。
「――っとそうこうしている間に扉の前へと来てしまったな。まっ今更引き返そうにも背後には騎士達が居るし、進むしか残された選択肢はないけどな。はぁ……本当これなんてクソゲーだよ」
最早この異世界がクソゲーのように見えつつあるが取り敢えず現状の問題をクリアしなければ先には進めない事から意を決して木製の扉に手を掛けると、厄介事を持ち込んできた領主に怒りの気持ちを込めて乱暴に扉を開け放つ事にした。
「おらぁぁあ! アマデウス=クリフォードがギルドからはるばる来たぞ!」
扉を開け放つと同時に怒声混じりの声を吐き捨てながら領主に自身が来たことを告げた。
「「「…………」」」
だがしかし中から返答はなく代わりに無言の圧力と、冷ややかな視線が返事として周囲から向けられている事に気が付いた。
「えっ? ま、間違えました?」
現在俺の視界にはメイド服を着た給仕の人が大勢映り込んでいるのだが、もしかしてこの女性達の中に領主が居るのだろうかと思案を巡らせ始めていた。
よくよく考えてみても領主の性別を知らないのだから仮に女性であったり、男の娘であったりと色々な可能性がある訳だ。個人的には男の娘を推したいのだが……。
「やあやあ! 待たせたね!」
すると奥の方から手を振りながら爽やかな青年らしき男が姿を現した。
視線の先から察するに俺に声を掛けているように見えるが、どうやら女性でもなく況してや男の娘でもないらしい。実に残念だ。ああ、無念。もう帰りたい。
「えーっと貴方が俺を呼び出した領主様ですか?」
だが一応は要件を聞いておかないと態々連行された意味がないと言える。
一番嫌なのは無駄足を踏むことだ。
「そうだよ。僕がカークランドの街を実質統治している領主の【モーセル=カークランド】さっ! これからよろしく頼むよ、古龍をたった一人で討伐したアマデウス=クリフォードくん!」
領主のモーセルという男は俺に近づいて目の前で立ち止まると、そんな事を言いながら握手でも求めているのか右手を差し伸ばしてきた。しかし今は握手よりも彼が口にしていた言葉の中に幾つか気になる箇所があり、そっちの方に興味が惹かれている。
まさか自らの名前を街の名前にしているとは、どれほど自分の名前に自信があるのだろうか。
そしてこれからよろしく頼むとは一体何をよろしくされるのだろうか。
あとこれは予想していたが、やはり俺の情報は筒抜けということか。
「「「えっ、ええぇ――っ!?」」」」
けれどそんな事を考えている間に周りからは給仕達の驚愕の声が屋敷内に響き渡っていた。
堪らず俺は耳を両手で塞ぐが意図せずモーセルと同じ行動をしていたようで、彼は苦悶とした顔を見せながらもほくそ笑んでいた。
「古龍をたった一人で!?」
「う、嘘よ……ありえないわ……」
「古龍って確かドラゴンスレイヤーの称号を持つ者しか倒せない筈じゃぁ……」
給仕達が次々にと言葉を零すと漸く悲鳴にも似た声が収まり耳から手を離すが古龍を討伐するのに一々称号が必要なのかと、初めて聞いた情報に日本という資格で全てが決まるクソ社会を連想してしまい気分が滅入った。
結局のところ何処の世界でも資格のような物が自らの能力や身分を証明する物であり、例え何かしらの技能や能力を有していても資格がなければ世間に認められないという事だろう。
だが俺は既に古龍を討伐し証拠として首を持ち帰ったことで嘘ではないことは明白だがな。
「給仕達が騒がしくてすまないね。彼女らは元々冒険者をしていた所を僕がスカウトして雇っているんだ。だから古龍とかお金の話になると……ね?」
そう言うと妙に含みのある余韻を残しつつ片目を閉じて顔を近づけてくるモーセル。
「ああ、なるほど。ですが俺をここに連れて来た理由は一体なんですか? ……んっ、待てよ? 元冒険者……スカウト? はっ!?」
モーセルの言い方に無理やり納得すると改めて事の本題を確認しようとするが、そこで突如として雷に打たれるような感覚を体の内に覚えると最悪な展開が刹那の間に予想できた。
「ま、まさか俺をここでメイドとして働かせる気か!? おいおい待ってくれ! 俺にそんな趣味はないぞ! 本当に勘弁してくれ頼む!」
彼の目的に気が付いた瞬間にこの異世界に来て初めて何かを本気で断ろうとして、その場で大声を出しながら座り込んでは両手を上げて伝家の宝刀『ジャパニーズ・ドゲザ】を何度も披露する。
「いや、違うよ。実はキミにしか頼めない依頼があって、態々この屋敷まで足を運んで頂いたのさ」
すると意外にもモーセルは冷静なままであり、剰え俺を立たせようとしているのか右手を伸ばしてくる始末である。
「そ、そうなのか? なんか早まった考え方をして悪かったな」
「気にしなくていいさ。それよりも部屋を用意させたから、そこで詳しい事を話そうか」
そう言いながら彼は俺を立たせると部屋へと案内するべく先頭を歩き出した。
だがモーセルの後ろ姿を付いて歩いていると妙に裏がありそうな予感がして、
「あー、先に言っておくが専属の護衛とかは無理だぞ。俺こう見えても魔王討伐を目指す冒険者だからな」
最初に先手を打とうと自らの事情と目的があることを伝えた。
「おお、魔王討伐を目的としているのか。それは凄いね、あははっ!」
「馬鹿にしてます?」
目の前から高笑いするような声が聞こえてくるが、その声色からして完全に夢を見ている青年を嘲笑う様な印象が強く伝わってくる。これは十中八九、俺のことを馬鹿にしているに違いない。
「いやいや馬鹿になんてしていないさ。なんせキミは古龍を一人で倒せるほどの実力を持ち合わせているんだからね。寧ろ応援したいぐらいさ、あははっ!」
後付けのように否定の言葉を述べてくるが、未だに笑っているのが何よりの証拠となるだろう。
絶対にこの男は本心では魔王討伐なんぞ無理だと嘲笑っているに違いない。
なんだろうな、段々と苛立ちが湧いてきて今すぐにでも帰りたい気分だ。
「さて着いたよ。この部屋でアマデウスくんに、とある依頼の内容を話したいと思う。ささ、入って入って」
「あ、はい」
しかし苛立ちを湧かせているいる間に部屋の前へと付いていたらしく、モーセルが扉を開けて中に入るように促すと条件反射で部屋の中へと足を踏み入れてしまうのであった。
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