プロヴィデンティア
次号、エピローグ
マーギンに恨まれているのではないか、嫌われているのではないかという不安から開放されたミスティは、暫くマーギンに背中をトントンされながら泣き続けた。
「ミスティ、鏡を貸してくれ」
ミスティが落ち着いたのを見て、マーギンは自分の姿を確認することに。
「う、うむ」
ミスティがマーギンに手鏡を渡した。
「はぁ〜」
マーギンは自分の姿を見てため息をつく。両腕に入れ墨のように黒い炎模様のような雷紋が頬まで残っている。そして、片目は黒目に金の瞳。夢かと思ったが、夢ではなかった。
「これ、元に戻ると思うか?」
「別に戻らんくてもいいではないか」
「なんでだよっ!」
ため息をつくマーギンとは裏腹に、ミスティはそのままでいいと言う。
「まるで俺が魔王になったみたいだろうが!」
マーギンがそう怒鳴ると、
「か、カッコいいではないか」
と、ミスティは照れたように答えた。
「カッコいい?」
マーギンは自分の両腕を見る。この世界に来たばかりの歳ならそう思えたかもしれない。しかし、今の自分には繁華街を我が物顔でうろつくやつのようにしか思えない。
「そういや、お前は魔物マニアだったな」
マーギンが呆れたようにミスティを見る。
「マニアとは何じゃっ! 研究者と言え」
こいつ、俺を解剖するつもりなんじゃなかろうな? とマーギンは警戒した。
「はぁ、とりあえず、まともに話を聞いてくれそうな大隊長のところに行くか。結末を話しておかないとまずい」
「やつらのところに行くのか?」
「このままってわけにもいかないだろ。お前らも連れて行くからな」
「えっ、私も行くのか?」
「ミスティだけじゃない。ムーも連れて行く」
「ふふん。我も連れて行くのか。良かろう」
コミュ障のミスティはモジモジし、ムーは受けて立つみたいな感じだ。
転移魔法は酔うので、プロテクションステップで行こうとすると、
「我が運んでやろう」
と、ムーが手を伸ばした。
「どうやって?」
「こうするのだ」
と、自分をお姫様抱っこさせ、ミスティをおんぶするように言った。このまま空を飛んで行くらしい。
「他の方法ないのかよ?」
「いいではないか。では、飛ぶぞ」
ムーの傷はとっくに塞がっており、瘴気も出ていない。しかし、この露出の激しい姿からフェロモンが出てるんじゃなかろうかと思うマーギン。
「何を赤くなっておる?」
と、ムーはニヤニヤする。
「なってない」
そのやり取りを聞いていたミスティの手に力が入り、マーギンの首が締まるのであった。
◆◆◆
元気を取り戻さないバネッサは特務隊の任務から外され、ハンナリー商会の高級店アンジュで警備員をしていた。
「バネッサ、中に入ってて。変なお店に間違われるじゃない」
シスコに化粧をされ、メイド風の警備員服を着せられたバネッサ。いつもは腰のベルトに差しているオスクリタも今はスカートの下のガーターベルトに収まっている。
バネッサは入口で警備員として立っていたが、破壊力抜群の姿なので、男連中がその手の店かと入ってくるのだ。
「お前が入口の警備をしろって言ったんだろ」
「いいからっ!」
シスコにブツブツと言いながら、店の中に入ろうとしたときに異変に気付いたバネッサは店に入らず、城に向かって走り出した。
「ちょっ、ちょっと、どこに行くのよっ!」
「悪いっ!」
それだけを叫んで走り去ったバネッサをシスコは追いかけた。
◆◆◆
「大隊長はどこにいるかな?」
城の近くに降り立ったマーギンたちは、マントに身を隠して様子を探る。
「大隊長とはどのようなやつだ?」
「魔斧ヴィコーレを持ってた人だ」
「あやつか。ちょっと待て」
ムーが《アーカイブ》で探してくれた。
「うむ、豪奢な服を着た男と話しておるの」
「あ、王様のところにいるのか。ちょうどいいわ。ムー、お前は気配を消せるか?」
「無論だ」
と、3人は気配を消して、王の元へと向かった。
「すまんが寝ておれ」
ミスティが王の部屋を守る騎士たちを魔法で眠らせ、扉をノックした。
「マーギンです。入っていいですか?」
扉を少し開けて声を掛ける。
「マーギン?」
中にいる騎士より早く大隊長が扉のところにやってきた。
「お前、今まで何を……」
大隊長はマーギンの後にいる2人を見て言葉を止めた。
「説明しに来ました」
「入れ」
王の許可を取らずに中に入れる大隊長。
そして、王妃も呼ばれて、ムーのことを説明した。
「そうか、そなたは魔王ではなく、女神であったか」
「そう呼ばれていたこともあったということだ。我は神ではない」
王に腕組みをして答えるムー。
「マーギンさん、これからどうするおつもりなの?」
「王妃様。自分はこのとおり、人ならざる見た目になってしまいました。なので、どこか人目のつかない場所で暮らそうと思います。特務隊が手に負えないような魔物が出たら、討伐の手伝いには来ますよ」
「見た目は気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
「いえ、自分は人類の共通の敵として魔王役をやろうと思います。王様や王妃様がおられる間は平和でしょうが、今後もずっと平和を保つために、魔王はいた方がいいのです」
「辛い道を歩まれるのですね……」
「まぁ、自分一人じゃありませんからね」
と、ミスティとムーを見たマーギン。
「ローズのことはどうなさるの?」
ローズの名前を出されたマーギンの心はキュッと締め付けられる。
「ローズは……ローズは普通の人間ですからね。俺たちに付き合わせるわけにはいきませんよ」
と、微笑んで見せた。
「マーギン、他の仲間には説明しないつもりか?」
と、大隊長がマーギンを見た。
「……この姿を見せたくないんですよね」
と、マーギンは少し淋しげな顔で微笑んだ。
「いや、お前には説明する責任がある。何の説明もなしにいなくなられる側の気持ちを考えろ」
大隊長にそう言われたマーギンは、自分がミスティを探し続けたときのことを思った。
「そうですね……申し訳ないですけど、みんなを集めてもらえますか?」
「分かった」
◆◆◆
「ちょっと、ちょっとっ! どうして訓練所になんかにきたのよ。あなた、特務隊の任務から外されてるでしょ」
シスコがそう言っても、バネッサはキョロキョロと必死に何かを探していた。
「あ、バネッサさん。凄い格好をしてますねぇ」
討伐から戻って来たアイリスがバネッサのはち切れんばかりのメイド服姿を見てからかう。
「うるせぇっ。それよりマーギンが帰って来てんだろ。どこにいるんだ?」
バネッサと違い、マーギンがいなくなった淋しさを顔に出していなかったアイリスの顔が曇る。
「戻ってきてませんよ……」
「嘘だ。ぜってぇに戻ってきてる」
しかし、バネッサは確信を持ったかのように言い切った。
その後も全員が戻ってきたときに、大隊長がやってきた。
「オルターネン、主要な者だけ城の謁見の間に呼んでくれ」
それだけでピンときたオルターネン。
「分かりました」
◆◆◆
城の謁見の間に集められた特務隊の主要メンバーとシスコ。
「お前、なんて格好してんだよ?」
カザフはバネッサを見て赤くなっている。
「うるせぇ。見んな」
こんな感じで、みんながざわざわと話していると大隊長が現れた。
「今回の魔王討伐の件はみんな知っているだろう」
正式な知らせはなかったものの、主要メンバーは魔王と戦って、マーギンが魔王と共にいなくなったことは知っていた。
「その結果報告だ。この報告に関しては箝口令を敷く。分かったな」
大隊長の有無を言わさぬ言葉にみんなはゴクリと唾を飲んだ。
「マーギン、いいぞ」
大隊長がマーギンの名前を出したことで、全員が前を見た。
「ようっ!」
そこに現れたのはマント姿の3人。
「あのときはいきなり消えて悪かったな。俺は転移酔いで暫く寝込んでたんだ。みんなへの報告が遅くなってすまん」
顔を見せずに言葉だけで伝えるマーギン。
バネッサは今すぐにでもマーギンの元に駆け寄りたかったが、誰も近寄らせない雰囲気を出しているのが理解でき、その場から動けない。
そして、マーギンは魔王が魔王でなく、女神と呼ばれていた存在であることを説明した。
「今言ったように、魔王というものは存在しなかった。そして、こいつを殺す理由がなくなってしまったんだ」
マーギンがそう説明すると、オルターネンが声を上げた。
「女神か何か知らんが、魔物を生み出す存在だということに変わりはない。魔物を使って人々を苦しめてきたんじゃないのかっ! 今までに人をたくさん殺してきただろう!!」
「ちい兄様、それは……」
と、マーギンが説明しようとしたら、ムーがずいっと前に出て、マントのフードを外した。
「我は人を殺したことはないぞ」
「嘘をつけっ! お前のせいで……お前のせいでマーギンが苦しんできたんじゃないか」
「なぜ我が人を殺さねばならぬ? 我が何もせずとも人が人を殺すのだ。違うか?」
「そんな戯言は……」
「信じられぬか? では見せてやろう。お前たちの祖先が何をしてきたか」
ムーは《アーカイブ》でコマ送りのように、過去の戦闘や虐殺を見せた。
「こ、これは……」
「実際にこの地で起こったことだ」
シュベタインの建国歴史を知っていたオルターネンは、言葉を返せなかった。
「ちい兄様、俺たちはこれから人々が争わないように、人類の共通の敵として魔王になるよ」
マーギンもパサッとマントのフードを外した。
「マーギン、その姿は……」
「ムーとの戦闘の影響が残ったみたいでね。見た目にも魔王みたいになっただろ?」
「お前……そんな……」
オルターネンは言葉が続かない。
「それに、俺たちは寿命がない。つまり、殺されない限りずっと生き続ける。魔王として君臨するにはちょうどいいんだよね」
「どこかに消えるつもりか……」
「そうだね。どこか人目のつかないところでひっそりと暮らすよ。それと、この前の戦闘でムーの核を一つ潰したから、今以上に強い魔物が出る可能性は低い。だから、人類の力で何とかなると思う。魔道具もますます発展していくだろうから、魔結晶ももっと必要になるしね」
「ローズ……ローズのことはどうするつもりなんだ?」
オルターネンは絞り出すような声で妹のことを聞く。
「ローズのことは……」
バンッ。
そのときに扉が開き、カタリーナとローズが走って来た。
《シャランランッ!》
カタリーナはいきなりマーギンに治癒魔法をかけた。王と王妃にマーギンのことを聞いて飛んできたのだ。
「無駄じゃ」
しかし、ミスティがカタリーナにそう言って首を振った。
「マーギンのこの状態が普通になっている。治癒魔法でどうにかなるなら、コヤツが自分で何とかしておる」
「そ、そんな……でもこれでもいいじゃない。ずっとここにいてよ。どこにも行かないでっ!」
カタリーナは涙を溜めてマーギンにしがみついた。
「カタリーナ、そういうわけにもいかないんだよ。俺がここにいれば魔王の脅威が薄れる。お前はこれから先、魔王の伝説を後世に伝える役目をしてくれ」
「ローズは……ローズのことはどうするの……?」
カタリーナはマーギンを見つめた。
その後ろで、ローズはマーギンの隣に少女がいるのを見ていた。しかし、ここで何もしなかったら本当にマーギンを失ってしまう。そして、
「マーギンっ、私も……つ、連れて行ってくれないだろうか……」
下を向き、涙を堪えてお願いするローズ。
「ローズ……俺は……」
マーギンがその願いを叶えられないと言いかけたとき、
「連れていってやれ」
ミスティがローズを連れて行けと言った。
「「えっ?」」
驚く2人。
「お前は私に責任を取れと言うたじゃろ」
「う、うん」
「だったら、お前はその娘の責任を取ってやらねばならん」
「どういう意味だよミスティ……?」
「そやつは、あのときにムーの血を飲んだじゃろ」
「あのとき?」
「ムーの返り血を浴びたお前にキスしたときじゃっ!」
ミスティは怒鳴った。
「ということは……」
「そやつも寿命がなくなっておる」
ミスティはそっぽを向いて答えた。
「そうみたいだな。確かにこやつも不老になっておるの」
ムーが鑑定するような仕草でローズを見て確認する。
「だってさ、マーギン。だからローズも連れて行ってあげて」
すんなりと不老のことを受け入れたカタリーナは、ドンッとローズの背中を押してマーギンに押し付けた。
「えっ、えっ、あの……」
この期に及んで尻込みするマーギン。
「マーギン、私の全てをお前に捧げる。だから、だから私も一緒に……」
ローズはマーギンの顔を見上げた。そして、マーギンは軽く目を閉じたあと、
「ちい兄様、ローズをもらってもいいかな?」
「好きにしろ」
と、オルターネンは笑って答えた。
しかし、
「ちょっと待ったぁぁ!」
大声を上げたのはローズの弟ノイエクス。
「ノクス、お前は出しゃばるな」
オルターネンに止めらたが、ノイエクスはマーギンの前まで走って来た。
「マーギンっ、お前がロー姉を連れて行くと言うなら、代わりに俺はアイリスをもらうからなっ!」
そう叫んだノイエクスの言葉に、その場にいる全員が「えっ?」という顔をした。
「ノクス、お前、それはアイリスへのプロポーズか?」
「そっ、そうだ。アイリスを連れていかないなら、俺が……俺が一緒にいてやるしかないだろ?」
と、ノイエクスはアイリスをチラッと見た。
「だってよアイリス。お前はどうするんだ? 俺と一緒に来るのはなしだぞ」
「マーギンさん……」
アイリスは悲痛な顔でマーギンを見た。
「ハンバーグをどうするつもりですか……」
マーギンは心を鬼にしてアイリスを突き放したが、アイリスの淋しげな顔はハンバーグを思ってのことだった。
「ノイエクス、お前がアイリスと結婚するには2つの試練がある。1つはアイリスが合格を出すハンバーグを作れるようになること」
「う、うん」
「もう一つは、本当の父親に認められることだ」
「えっ?」
「忘れたか? こいつの本当の父親はエドモンド・ボルティア辺境伯だろ? 貴族籍しか持たないお前が辺境伯令嬢を嫁にしようとチャレンジするんだ。大変だなノクス」
すっかりそんなことを忘れていたノイエクスは真っ青になっていた。
「マーギンさんを超えるハンバーグを作れるようになるなら、私は認めてあげてもいいんですよ」
と、アイリスもまんざらでもなさそうなので、マーギンはノイエクスに頑張れと、心の中で応援した。
その影で、バネッサが何も言えずに下を向いて涙をボロボロと流していた。マーギンはあの少女を選び、元々特別扱いをしてきたローズも連れて行く。そこに自分が入る隙間はないと悟ったのだ。
それを見ていたシスコがギリッと唇を噛んで声を上げた。
「ちょっとマーギンっ! あなたは何を勝手なことばかり言ってるのよ。責任を取りなさいよ、責任を!!」
「シスコ。もう俺が勝手に話を進めてくることもないから心配すんな」
「商売のことを言ってるんじゃないわよっ! この娘のお尻を見たでしょ。その責任を取りなさいって言ってるのよ!!」
パァンっ。
シスコはメイド服姿のバネッサのお尻を叩いた。
「痛ってぇっ。何しやがんだっ!」
「何よ、声が出るなら自分で言いなさいよ。好きだから連れていって欲しいって」
「てっ、てめえっ……」
と、シスコに言い返そうとしたが、マーギンの反応が気になるバネッサは、上目遣いで見つめた。胸がはち切れそうなメイド服を着たこれは破壊力抜群だ。
マーギンもバネッサのことは気になっていた。常に近くにいたのはバネッサ。しかし……
「バネッサ、お前は……」
マーギンに断られる、とバネッサがギュッと目を瞑った瞬間、
「ふむ、こやつも寿命がなくなっておるの」
「「えっ?」」
「我の血を飲んだことはないと思うが……お前、マーギンの血を飲んだことがあるのではないか?」
バネッサはマーギンが死にかけたときに、喉に溜まった血を吸い出したことがある。
「あ、ある」
「なら、それが原因だろうの」
「じゃ、じゃあ……」
俺の血を飲んでも不老になるのか? そんなことは初耳だが、とりあえずバネッサにも寿命がなくなってしまったのも本当らしい。
「お前も来るか?」
と、マーギンはバネッサに手を伸ばした。
「い、いいのかよ……?」
「俺のせいだからな。普通の生活を送れなくさせてすまん」
バネッサは涙をボロボロと流す。
「ちょ、ちょっと待てよマーギンっ!」
バネッサも連れて行こうとするのに待ったをかけたのはカザフ。
「俺はバネッサが好きだ。頼むから連れて行かないでくれ!」
「カザフ……」
マーギンは、ここまではっきりとバネッサを好きだと言ったカザフの言葉に戸惑った。
「バネッサ、俺がお前を幸せにする。だから行かないでくれよ」
「てめぇ……」
真剣な目で告白したカザフに戸惑うバネッサ。弟みたいな感じであったが、今は男として告白してきたのだ。しかし、
「少年よ、この娘はやめておけ」
と、ミスティが止めた。
「お前には関係ないだろっ!」
「私が止めた理由を知りたければ、自分の出自を調べるがいい」
「俺は捨て子だったんだよ。そんなもん分かるか!」
怒鳴るカザフ。
「隠密の里」
それに対してミスティはポソっと呟いた。
「えっ?」
「本当に知りたければ自分で調べろ。これ以上はここでは言えん」
「そんなもん知るかよ。バネッサ、頼む、行かないでくれ」
ミスティの言葉を聞き入れず、バネッサに手を伸ばしたカザフ。
「悪ぃ……」
しかし、バネッサはその手を取らなかった。
「やっぱり、マーギンが好きなのか?」
カザフの問いにバネッサはコクンと頷いた。
「他に女がいてもか?」
コクン。
「自分が一番じゃなくてもか?」
コクン。
「そ、そうかよ……なら勝手に行っちまいやがれっ!」
カザフは涙を堪えて、最後にはそう言ったのだった。
「で、私への責任はどう取ってくれるわけ?」
一段落付いたところで、シスコが自分への責任をどう取るのが聞いてくる。
「お前も一緒に来たいのか?」
「違うわよっ。どうして私がマーギンのハーレムに加わらないといけないのよ!」
ハーレムとか言うな。人聞きの悪い。
「私の商売よ、商売」
ハンナリー商会を私の商売と言い切るシスコ。
「順調にいってるんだろ?」
「さらなる発展が必要なの。それに、ハーレムを作るなら甲斐性が必要になるでしょ。どうやってバネッサを食べさせていくつもり? まさか、山の中で毎日毎日狩ってきた魔物を甘辛にして食べさせるつもりじゃないでしょうね?」
「そ、そんなつもりは……」
そんなつもりがあったマーギン。
「それに、脅威になるなら、コソコソと隠れずに堂々となりなさいよ」
「は? どうやってだよ」
「魔国を作って王になりなさい。そこで各国に目を光らせてればいいでしょ」
「国を作る……?」
「えぇ。そこで最新の魔道具の開発とかやってよ。それをハンナリー商会が独占するの。あなたは稼げる。私も稼げる。魔王がいる国が実際にある。それが脅威になる。違うかしら?」
シスコの言葉にミスティが頷いた。
「昔、私と国を作ろうと言ったの。それをやればいいのではないか」
マーギンの夢は身分もなにもなく、自由で楽しい国を作ることだった。
「できると思うか?」
「あなたたち死なないんでしょ? だったらどうとでもなるわ。じゃ、よろしくね」
しれっと今までの仕返しのように大きなことをマーギンに押し付けたシスコはニッコリと笑ったのであった。
「責任のぅ、ならば我も責任を取ってもらわねばならんの」
ムーまでもがマーギンに責任を取れと言い出した。
「何の責任だ?」
「忘れたとは言わさんぞ」
「だから何の責任だよ?」
「これじゃ」
ムーは《アーカイブ》を唱え、大きなスクリーンにして皆にも見えるようにした。
そこに映っていたものは……
倒れたムーの身体をまさぐるマーギンの姿が映っていた。
「身動きできない我を好き放題触っていたではないか。あのとき、我は辱めを受け……」
ヨヨヨと、泣くふりをするムー。
「そんなわけあるかーーっ! あれはお前の核を探し……」
マーギンは状況を説明しようとしたが、ここにいる全員が、何度も何度もマーギンがムーの身体を貪るように触る姿をリピート再生で見せられていた。
「あの……みんなは俺を信じてくれるよね?」
「このスケベやろーっ!」
バネッサにグーでいかれたマーギンは違うと大きな声で怒鳴ったが、オルターネンからもこんなときに何をやってるのかと怒られていた。
「ミスティよ」
「何じゃ」
「これから楽しくなりそうではないか」
「そうじゃの。これからはこんな光景が毎日のように見れるじゃろうの」
ミスティとムーの前で他のみんなからも、もみくちゃにされているマーギン。それはこれまでの感謝や、一緒にいられなくなる淋しさが混じった、マーギンへの気持ちが溢れ出るような光景だった。
「た、助け……」
と、2人に手を伸ばしたマーギン。
ムニ。
「どこを触っておるかーっ!」
「わ、悪い。壁かと思ったわ」
「何じゃとーっ!」
触られた上に、壁扱いされたミスティは激怒してマーギン討伐に参戦した。
「クックック。ようやく退屈しない未来が見えたわ」
ムーは《プロヴィデンティア》でマーギンが作る魔国を見てそう呟いた。
魔王が支配する国「魔国」。またの名を「真国」は各国から商人や旅行客が訪れ、新しい、楽しい、美味しいが溢れた国となっていく。
そして、毎日騒がしく暮らすマーギンたち。その中に自分もいる。何と幸せな未来だろうか。
「ムー、何とかしろーっ! お前のせいだろうがーーっ!!」
「うむ、ではこうしてやろう。これは褒美だ」
ムチュー。
「あーっ、何してやがんだテメーっ!」
「悔しかったら、お前も遠慮なくするがいい。我が許す」
「なんでお前に許可されねぇといけねぇんだよっ!」
「これは我のものだからのう」
「なんじゃとーっ! マーギン、ムーから離れるのじゃっ!!」
「そうだ。そのけしからん身体でマーギンを誘惑するな!」
マーギン対みんなから、ムー対ハーレム組のバトルへと変化していく。このことで開放されたマーギン。
「お前、これから毎日があんなことになるんじゃないか?」
マーギンの隣に来たオルターネン。
「嫌なことを言うなよ」
ぎゃーぎゃー騒ぐミスティたちを見てうんざりするマーギン。
「ま、ローズをよろしく頼む」
「うん……ありがとう、ちい兄様」
マーギンとオルターネンはお互いにゴツンと拳をぶつけた。
「何や、えらいことになってるやんか!」
「おっ、ハンナ。ちょうどいいときに来たな。みんなに《ラリパッパ》をかけろ」
遅れてやってきたハンナリー。
「ええで」
《ラリパッパっ!》
ラリパッパをかけられたみんなは、そのまま楽しく踊った。
いつの間にか、料理やお酒が運ばれてきて、そのまま、マーギンのお別れパーティーのようになるのであった。




