いい石
ひとまず今日のラプトゥル討伐は一段落し、あとはワー族とタイベのハンターたちに任せることになった。明日から、ピアンの身を挺した戦いが繰り広げられるだろう。
夜は村人を交えての宴会をすることに。
「マーギンさん、魔カイコがちょっと食われてしまいましたが、この程度ならすぐに元どおりになります。出荷予定はそのままでいけそうです」
「そうか。あれからずっと頑張ってくれてたおかげだな。ここでの暮らしは問題ないか?」
「はい。食料も豊富に運んできてもらえてますし、何よりチューマンに怯えることのない生活は心が休まります」
そう答えたゴルドバーンから連れてきた村人たちの顔は明るい。タイベの人たちとも上手くいってるようで何よりだ。
「マーギン、ナムの集落には顔を出したか?」
酒を飲みながら、ロブスンがナムの集落に行ったか聞いてくる。
「いや、寄ってないぞ」
「そうか。時間があるなら顔を出せないか?」
「なんかあるのか?」
「ポニーと山神様が待機してる。お前、ポニーを王都に連れてってやると約束したまま放置してるだろ。ナムの集落ならマーギンが来るかもしれないと言って、俺たちに付いて来たんだ」
ロブスンたちはナムの集落経由でここに来たらしい。
「そうだったな。俺もいろいろとあって、約束を守れてなかったな。ポニーに悪いことをしちゃったよ」
「まぁ、マーギンが忙しいのはポニーも理解してるだろうが、少しだけでも顔を出してやってくれ」
「あぁ、そうする」
ロブスンとそんな話をしていると、カザフとバネッサが前に拾った石の自慢合戦をしている。
「なぁ、うちの石の方が綺麗だよな?」
「俺の方がいいやつだっての!」
くだらないことに巻き込まれている村人たちは苦笑いだ。
「お前ら、いくつになっても変わらんな。どれ、俺が判定をしてやろう」
と、ほろ酔いのロドリゲスが、決着を付けてやると言って石を見る。
「ふーん、どれどれ。確かにあまり見ない石だな。魔石でもなし、宝石でもないが……」
右手にバネッサの石、左手にカザフの石を持って見比べる。
「これは、同じ種類の石みたいだが……これはどこで拾った?」
「前の遺跡探索のときに見つけたんだよ」
初めにバネッサが拾って自慢したので、カザフもいい石を探して、同じようなものを見つけたらしい。
「これ、ちょっと預かってもいいか?」
「いいけどよ、絶対返せよな」
「こんなもん盗るか」
大切な石を「こんなもん」と言われた2人は怒っていたが、ロドリゲスに石を預けた。
宴会も終わり、テントで寝ようとすると、ロドリゲスがこっそりと合図を送ってきたので、トイレに行くふりをして、ロドリゲスの元へ行った。
「どうした?」
「お前、これが何か分かるか?」
「バネッサとカザフの石か。どっちがいい石か決着を付けてやったのか?」
そんなことで呼んだのか? とマーギンは疑問に思う。しかし、ロドリゲスは難しい顔をして話を続けた。
「お前もこの石が何か分からんのだな?」
「石の種類なんか知らんぞ」
マーギンがそう答えると、ロドリゲスはおもむろに眼帯を外し、隠されていた目で石を見る。
「なんだろうなこれ。ただの石じゃなさそうだ。ただの石に見せかけた物だと思う」
「人工物ってことか?」
マーギンの脳裏に浮かんだのはノウブシルクで作られていた人工宝石。
「だと思う。人工物かどうかは分からんが、普通の石じゃねぇな。波動というか……なんと言うか、普通の石じゃねぇ」
ロドリゲスが魔眼で見ても詳しいことは分からない。ただ、この石には何かがあると感じるようだ。
「パワーストーンってやつかな?」
「パワーストーン?」
「うん、俺もよく知らないんだけどさ、水晶には邪気を祓う力があるとかなんとか。本当かどうか分からないけどね。ロドがそう感じるなら、その石にはそんな力があるのかもしれんね」
「なるほどな。昔の文献にもそんなことが書かれていたような気がするな」
「なら本当にいい石だったんだな。ただの石だと、けなして2人には悪いことをしたかもしれん」
ロドリゲスは「引き分けにしとくわ」と言って、自分のテントに戻って行ったのだった。
マーギンがテントに戻ると、さも自分のテントのようにアイリスとバネッサが寝ている。
「あーっ、もうっ!」
そうぶつくさと言って、入り口の狭いところで眠るのだった。
翌日、ロドリゲスは村に残り、王都のハンターを派遣するために、普通の戦い方を見学するとのこと。マーギンたちはナムの集落に転移した。
「マーギンっ!」
金色の山犬に乗った美少女がこっちにやってくる。
「お前、ポニーか?」
「そうだよっ! 私のことを忘れたとは言わせないからね」
いつの間にか、子供だったポニーが少女になっていた。獣人の血を引くポニーの成長は想像より早いようだ。
「お前、大きくなったな」
「うん。やっと来てくれたねマーギン」
と、ポニーが抱きつこうとする前に、キンとギンがマーギンに飛びついた。
ベロベロベロベロベロ。
「分かった、分かった。もういいもういい」
デカい山犬にこんなにベロンベロンされたらヨダレで溺れる。
2匹の首元をポンポンと叩き、落ち着かせた。
ドスドスドスドスドスドス。
「パオーン」
次はハナコだ。ものすごい勢いで走ってきて、マーギンに鼻を巻きつけてホールド。そしてハグハグベロベロされる。知らない人が見たら、象に食われているようにしか見えない。
しばらくされるがまま我慢して、鼻を撫でてやると、そのままヒョイと背中に乗せた。キンとギンはマーギンを取られてしまい、ハナコの周りをぐるぐると回る。
「ハナコーっ、ハナコーっ!」
そのとき、マーイがハナコを追って走ってきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。マーギンが来てたのね。凄い勢いで走って行ったから、何事かと思って……」
ぜーぜーしているマーイをハナコが鼻で掴み、マーギンの前に乗せた。
「久しぶりだな」
「ほんとに、ぜんぜん来ないんだから」
と、口調は怒っているが、顔は嬉しそうにしていた。
ナムの集落に入り、長老に挨拶をする。
「使徒様、ご無沙汰をしております」
「元気そうで何よりだよ。ちょっとあちこちで問題が発生しててね。ぜんぜん顔を出せずに申し訳ない」
「いえいえ、使徒様は成すべきことを成してください。ナムの集落はおかげ様で潤っております」
ナムの集落はハンナリー商会との取引で生活が豊かになったそうだ。それでも昔とあまり変わらない生活をしているようで、見た目には変わりがない。
長老に挨拶が終わったあと、前に作った風呂でのんびりすることに。全員水着姿で一緒に入ることになってしまった。
「水着なしで入りたかったんだけどな」
と、マーギンが言うと、
「このスケベ野郎」
と、バネッサがあっかんべーをする。
「違う。俺がひとりで裸になって入りたかったんだよ」
誰がお前に脱げと言ったんだ。とブツブツ言いながら、湯を溜めていく。
「マーギン……」
ポニーが隣に来て、もじもじする。
「どうした?」
「私、水着持ってない」
「そうか。誰かのを借りるか」
「私のを貸してあげますよ」
と、アイリスが予備の水着を持ってきた。
ポニーはその水着をじーっと見る。
「は、入らないかな……」
「えっ?」
ポニーは身長こそアイリスと変わらないが、胸はアイリスを追い越してしまったようだ。
入らないと言われたアイリスは愕然としていた。
結局、マーイの水着を借りて無事に一緒に入れた。
ゆっくり浸かろうと思っていたのに、ハナコが鼻でシャワーのように湯をかけてくるので、アイリス、ポニー、マーイがキャッキャとはしゃぎ、まったく落ち着けない。
楽しそうな3人を見て、カタリーナがローズを連れて参戦。そして何やらコソコソと話したと思ったら、
ぶしゅーーっ!
「ぶベベベべべ。やりやがったなこの野郎!」
カザフたちにハナコのお湯鉄砲を食らわせた。そして、お湯の掛け合いになる。もうめちゃくちゃだ。
それに参戦しなかったバネッサが隣に来た。
「あの石、やっぱりいいものだったじゃねーかよ」
ロドリゲスに石を返してもらうときに「これはいいものだ」と説明をされたようだ。
「みたいだな。俺の目は節穴だったってことだ」
「へへっ。あの石、マーギンにやるよ」
「いらない」
「なんだとーーっ! 人がせっかくやろうって言ってんのに、なんだよその言い方はっ!」
嬉しそうに、マーギンにお気に入りの石をあげると言ったバネッサは、マーギンに素っ気なく断られて激怒する。
「俺は石に興味がないんだよ。宝石ですらお前らにやっただろうが」
「そ、そりゃそうかもしんねぇけどよ……なんだよ、せっかくうちが……もらってばっかだから、なんか返せるもんがねーかと思ってたのによ」
と、拗ねたようにそっぽを向く。
「お前らになんか返してもらおうと思ってないから気にすんな。元気に生きてくれてりゃそれでいい」
「けどよぉ」
「それーっ! 次はマーギンを狙えーー!」
カタリーナがハナコに指示出して、お湯鉄砲を撃ってきた。
《プロテクション!》
魔法を無駄遣いするマーギン。
「あーっ、ずっるーい。だったら、奥の手よ! 食らえっ!」
「えっ?」
「えっ?」
カタリーナは、ローズをどんっと押した。油断していたローズはそのままよろめいてマーギンの元へ。
マーギンも、飛び込んできたローズにどうしていいか分からず、反応が遅れる。
ムギュ。
「このスケベ野郎」
ローズの胸に顔を埋めたマーギンは、バネッサにゲンコツを食らうのであった。




