そろそろ調査に出発
夜中にはちゃんとテントを張って寝たマーギンたちは、夜明け前から動き出す漁師たちの喧騒で目が覚めた。
「おー、漁師の朝は早いな」
ガラガラとマーギンの作った氷を出す魔導具から順番に氷を入れては漁に出ていく。この時期としては海も凪いでいるようだ。
「こんなに朝早くから漁に行くのね」
シスコが起きてきて、マーギンの隣で次々と出航していく漁船を見る。
「漁師は大変だな。沖に出たら風も波もあるだろうし、魚が捕れるかどうかも分からんしな」
「そうね。ハンターもそうだけど、命を狩る仕事はこっちも命懸けになるわね」
シスコは改めて、漁師もハンターも危険な仕事なんだと実感する。
そこに1人の男が近づいてきた。
「お、久しぶりだな」
その男はクジラ漁船の船長だった。
ガバッと、男はその場で土下座をした。
「この度は申し訳ありません。仲間に甘えてしまい、ご迷惑をおかけしました」
「この人は誰?」
と、シスコはいきなり謝ってきた男のことをマーギンに聞いた。
「クジラ漁船の船長だ。昨日、誰かが知らせに行ったんだろ」
「そう、あなたがクジラ漁船の責任者なのね。頭を上げてちょうだい。別に怒ってないわよ」
「し、しかし……以前のクラーケン騒ぎのときにも手伝いを断り、今回も勝手にクジラの販売を……」
「もういいわ」
シスコはクジラ漁船船長の言葉を遮った。
「で、契約するの? しないの? どちらなのかしら?」
「えっ?」
「昨日、マーギンがクジラの新しい食べ方をみんなに教えたのを聞いたんでしょ? あれなら十分に売り物になるわ。ハンナリー商会として取り扱うのも問題ないものよ」
「で、では……」
「こっちに卸したいだけ卸してちょうだい。契約するなら条件の打ち合わせをしたいのだけど?」
「あっ、ありがとうございます、ありがとうございます」
船長は謝罪の土下座から、礼の土下座をして、シスコと打ち合わせをすることになった。
「寒ぃぞ」
と、シスコと入れ替わりでバネッサが隣にきた。
「なら、朝飯にするか。そろそろ、みんなも起きてくるだろ」
「温かい物が食いてぇ」
マーギンは大鍋で海鮮粥を作っていく。ロドリゲスたちも結構飲んでたみたいだから、こういう物の方がいいだろう。
「おっはよー!」
朝から元気いっぱいのカタリーナ。ローズはまだ眠いのか、フワワと口を手で押さえながら来た。
「マーギン、おはよう。頭が痛ぇ」
カザフたちは二日酔いのようだ。飲むなと言ってるのに、昨晩、ロドリゲスたちと飲んだようだ。
「飲むなって言っただろうが」
「これ飲んだら暖まるって言われたんだよ」
ったく、飲ませたのはロドリゲスだな。
「お湯をいっぱい飲んどけ」
海鮮粥ができたので、針生姜と白髪ネギを作り、自分用に辛ネギも作った。
「おー、もう飯もできてんのか」
タイミングのいいロドリゲス。大隊長とオルターネンもやってきたが、オルターネンはやや二日酔いっぽいので、海鮮粥とは別にアサリの味噌汁も作った。
「はい、お好きなものをどうぞ。二日酔いの人は味噌汁も飲んだ方がいいよ」
みんなが食べ始めるころにシスコも戻ってきた。
「話は纏まったのか?」
「えぇ。今まで街で売ってた値段で買い取るわ」
大量に仕入れる条件としては割高な契約だ。
「販売価格が上がりそうだな」
「今までよりクジラ肉の価値が上がりそうだからいいのよ。それでも安いもの。ライオネルでは加工したものをメインに販売するから利益も出るわ」
シスコは漁師たちの仕事を直で見て、仕入れ値を値切ることをしなかったようだ。
「そうか。これに針生姜をのせると旨いぞ」
と、シスコに海鮮粥をよそって、針生姜をのせてやる。
「なんかホッとする味ね」
「これは、刺身の残りとか、捨てるような切れ端とかでも作れるからな。賄いみたいなもんだ」
「へぇ、朝ごはんにぴったりなのにね」
「そう思うなら、カニドゥラックの前で朝飯として売ったらいいんじゃないか? 孤児たちの小遣い稼ぎにでもやらせてみればいい。残ったら自分たちで食うだろ」
「そうね。ゴミ収集もまじめにやってくれてるわよ。おかげで大量に肥料も溜まってるけど」
「売れてないのか?」
「通常の農作物用と花用に分けたの。花用のは売れてるわよ」
「花用?」
「えぇ。蟹の殻の肥料はキレイなバラを咲かせるのにいいそうよ。農作物用はゴルドバーンへの街道に作ってる宿場町で使ってもらう予定にしているから、それも解決ね」
肥料の効果は植物学者のゼーミンが検証してくれてるようだ。生ゴミから作られる肥料も効果があるそうだが、採算が合わないらしく、売れてなかったみたいだ。地引き網漁師の奥様達が作る魚粉肥料は売れているとのこと。
朝飯を食べてから魚介類を仕入れ、ついでに、地引き網漁のところで、フグを大量にもらった。
「親分、お久しぶりです」
マーロックの部下達に挨拶をされる。
「おう、久しぶりだな」
「このあと、タイベに行かれますか?」
「いや、今から森の調査に入る。魔物が増えてるらしいな」
「そうみたいですね。海の魔物も増えてますけど、狩り慣れてきたので、問題はありません。お時間があればタイベにも顔を出してください。マーロック親分が待ってます」
「そうだな。森の調査しだいで、タイベに行くかもしれん」
と、答えておいた。
「シスコ、お前に任せてばかりで悪いけど、俺たちは森の調査に行くわ」
「もう慣れたわよ。気をつけて行ってらっしゃい」
と、珍しく笑顔で送り出してくれた。なんかのフラグじゃないだろうな? と、ドキドキしながらの出発になったのであった。




