俺がやらねば
「ね、ねぇ大隊長。もういいんじゃないかな……」
折っては治し、折っては治しを続けている大隊長。男の心も折れているが、大隊長がしゃべらせようとしないのだ。その様子をずっと見ていたカタリーナはついに、そう言ったのだ
「姫様、私が止めれば、同じことをマーギンがやりますよ」
「えっ?」
「姫様はマーギンにこれをやらせたいのですか? あいつなら、自分で治癒もできるので、姫様はこの様子を見なくて済みますが」
「で、でも、なんか話そうとしてるじゃない」
「こいつは恐らく隠密です。それもかなりの手練れです。こんなことで本当のことを吐くわけがないのですよ」
「じゃ、じゃあなんでこんなことを続けるのよっ!」
そう叫ぶカタリーナを大隊長はじっと見つめた。
「マーギンが同じことをせずに済むようにです」
「マーギンが……」
「マーギンは優しい男です。それでも必要とあらば、このようなことをやるでしょう。だが、優しいがゆえに、心に傷が残っていきます。我々はマーギンの心も守らねばならんのですよ」
「大隊長は平気なの……?」
「私はこいつを生かしておくつもりはありません。子供を兵器にした者の配下です。悔い改める必要もないのです。ただ、苦しめばいい」
そう言い切った大隊長は、再び骨を折りだした。
「本当のことを吐けば、楽にしてやってもいいんですがね。このまま、痛みで発狂するまでやり続けますよ」
と、指の骨を折るのではなく、握り潰した。
「姫様、お疲れでしょうから、お休みになってください」
「えっ?」
「もう治癒する必要はありません。死なないように気をつけてやりますので。オルターネン、姫様を連れて行ってくれ」
「ちょっ、ちょっと大隊長っ!」
オルターネンは大隊長がカタリーナを連れて行けと言った意味を理解した。これからカタリーナには見せられないようなことをするつもりだと。
「姫様、さ、みんなの元に戻りましょう」
「オルターネン、ダメよ」
「言うことを聞いてください。でないと、これから行動を共にできないとマーギンに言います」
「そんな……」
「どうされますか?」
と、淡々とオルターネンに言われて、カタリーナはオルターネンと共に部屋を出たのであった。
◆◆◆
テントの中と違って、ローズと同じ部屋で寝ているのだと思うと、ドキドキして寝れないマーギン。それに対して、ローズは寝ていた。
「うっ……はぁっ、はぁっ」
時折、ローズが声にならないような声を出す。それに息づかいが荒い。寝苦しいのだろうか?
チラッとローズの方を見るが、うずくまったような体勢で向こうを向いているので、様子が分からない。
しばらく静かになったかと思えば、またはぁっはぁっと息づかいが荒くなってきた。何か様子がおかしいのかもしれない。
「ローズ?」
マーギンが声をかけても反応せずに、はぁはぁしたまま振り向きもしない。
「ローズ、大丈夫か?」
と、再び声をかけても反応しないので、ベッドから出てローズの所に行った。
「大丈夫?」
と、ローズを見ると顔が真っ赤だ。汗もダラダラと出て震えている。
「ローズ、おい、ローズ。しっかりしろ」
マーギンがローズの身体を揺らすと、物凄く熱を持っている。何か病気かと思ったが、自分がストーンバレットに撃たれたときに、ローズもカタリーナに治癒魔法をうけていた。
「まさか……」
ローズの毛布を剥がす。
「ごめん」
そして、服の上からローズを触っていく。
「どこだ? どこに弾が残っている?」
身体のあちこちを触りながら、熱を最も持っている場所を探すマーギン。
「あった。ここと、ここか」
微かに異物の感触があり、熱を持っている場所を見つけた。
マーギンは包丁に研ぎ魔法と洗浄魔法をかけ、ローズに痛み止めの魔法をかけた。服をめくって、除去を試みる。
ブシュっ。
包丁をメス代わりにして、皮膚を切り異物を取り出す。残っていたのは取り除いた後のカケラのようなものだ。
もう一箇所も同じようにカケラを取り除いてから、洗浄し治癒魔法をかけたが、熱が下がらない。
「マーギン……」
すると、ローズが目を覚ました。
「大丈夫か? 身体に残ってたストーンバレットのカケラがローズの身体に悪さをしたんだ。それは取り除いたから、カタリーナを呼んでくる」
ギュッ。
「マーギン……」
意識が朦朧としているローズはマーギンの首に手を回した。
「ちょっ、ちょっと、ローズさん……?」
慌てたマーギンは大きな声を上げてしまった。
「どうした?」
と、バネッサがマーギンの声を聞きつけて部屋に入ってきた。
「おっ、おっ、お前ら、こんなときに何やってやがんだっ!」
服をまくり上げられ、半裸のローズがマーギンに抱きついているのを見たバネッサが大声を上げる。
「ちっ、違うっ。ローズの身体にストーンバレットのカケラが残ってて、熱を出してたんだ。カタリーナを呼んできてくれ」
「本当かよ?」
疑うバネッサ。
「こんなことで嘘をつくかっ! もういい。俺が呼んでくる」
と、ローズの腕をほどいて部屋を出ると、バネッサも付いてきて、本当だろうな? としつこかった。
「カタリーナ、ローズにストーンバレットのカケラが残ってたのが原因で熱を出している。カケラは取り除いたからシャランランしてやってくれ」
「う、うん……」
「どうした?」
「えっ、分かった。今すぐ行く」
なんかカタリーナの様子が変だったが、すぐに状況を理解してバネッサと共にローズの所に向かった。
「ちい兄様、大隊長は?」
マーギンはローズの元に戻らず、その場に残っていたオルターネンに大隊長の様子を聞く。
「1人で尋問されている」
「なんか吐いた?」
「恐らく、あの男は隠密だろうから吐かないだろうと大隊長は言っていた」
「そう。俺も見に行ってみるよ」
と、オルターネンと一緒に大隊長の所に行くと、すでに男は斬り捨てられている。その遺体の腕や足はあらぬ方向を向き、目玉がくり抜かれていた。
「随分と口が堅いやつだったんですね」
「そうだな。が、主は第一王子だそうだ」
マーギンはすでに知っているとは言わずに、そうでしたかと答えた。
《インフェルノ!》
ゴウッ。
男の遺体をこの世から消し去る炎で包み、骨すら残らずに燃え尽きた。
「お疲れ様でした」
「お前ほどではない。それよりまだ寝てなくて良かったのか?」
「ローズが熱を出しましてね。今、カタリーナが治癒してくれてますよ」
マーギンはストーンバレットのカケラが体内に残っていたことを説明した。
◆◆◆
シャランランで熱が下がったローズはスースーと寝息を立てて寝ている。
「ねぇ、バネッサ。この血って……」
「さぁな」
ストーンバレットを取り出したときの血がシーツに残っているのを見たカタリーナは、違う方向の想像をしていたのであった。




