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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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俺がやらねば

「ね、ねぇ大隊長。もういいんじゃないかな……」


 折っては治し、折っては治しを続けている大隊長。男の心も折れているが、大隊長がしゃべらせようとしないのだ。その様子をずっと見ていたカタリーナはついに、そう言ったのだ


「姫様、私が止めれば、同じことをマーギンがやりますよ」


「えっ?」


「姫様はマーギンにこれをやらせたいのですか? あいつなら、自分で治癒もできるので、姫様はこの様子を見なくて済みますが」


「で、でも、なんか話そうとしてるじゃない」


「こいつは恐らく隠密です。それもかなりの手練れです。こんなことで本当のことを吐くわけがないのですよ」


「じゃ、じゃあなんでこんなことを続けるのよっ!」


 そう叫ぶカタリーナを大隊長はじっと見つめた。


「マーギンが同じことをせずに済むようにです」


「マーギンが……」


「マーギンは優しい男です。それでも必要とあらば、このようなことをやるでしょう。だが、優しいがゆえに、心に傷が残っていきます。我々はマーギンの心も守らねばならんのですよ」


「大隊長は平気なの……?」


「私はこいつを生かしておくつもりはありません。子供を兵器にした者の配下です。悔い改める必要もないのです。ただ、苦しめばいい」


 そう言い切った大隊長は、再び骨を折りだした。


「本当のことを吐けば、楽にしてやってもいいんですがね。このまま、痛みで発狂するまでやり続けますよ」


 と、指の骨を折るのではなく、握り潰した。


「姫様、お疲れでしょうから、お休みになってください」


「えっ?」


「もう治癒する必要はありません。死なないように気をつけてやりますので。オルターネン、姫様を連れて行ってくれ」


「ちょっ、ちょっと大隊長っ!」


 オルターネンは大隊長がカタリーナを連れて行けと言った意味を理解した。これからカタリーナには見せられないようなことをするつもりだと。


「姫様、さ、みんなの元に戻りましょう」


「オルターネン、ダメよ」


「言うことを聞いてください。でないと、これから行動を共にできないとマーギンに言います」


「そんな……」


「どうされますか?」


 と、淡々とオルターネンに言われて、カタリーナはオルターネンと共に部屋を出たのであった。


 ◆◆◆


 テントの中と違って、ローズと同じ部屋で寝ているのだと思うと、ドキドキして寝れないマーギン。それに対して、ローズは寝ていた。


「うっ……はぁっ、はぁっ」


 時折、ローズが声にならないような声を出す。それに息づかいが荒い。寝苦しいのだろうか?


 チラッとローズの方を見るが、うずくまったような体勢で向こうを向いているので、様子が分からない。


 しばらく静かになったかと思えば、またはぁっはぁっと息づかいが荒くなってきた。何か様子がおかしいのかもしれない。


「ローズ?」


 マーギンが声をかけても反応せずに、はぁはぁしたまま振り向きもしない。


「ローズ、大丈夫か?」


 と、再び声をかけても反応しないので、ベッドから出てローズの所に行った。


「大丈夫?」


 と、ローズを見ると顔が真っ赤だ。汗もダラダラと出て震えている。


「ローズ、おい、ローズ。しっかりしろ」


 マーギンがローズの身体を揺らすと、物凄く熱を持っている。何か病気かと思ったが、自分がストーンバレットに撃たれたときに、ローズもカタリーナに治癒魔法をうけていた。


「まさか……」


 ローズの毛布を剥がす。


「ごめん」


 そして、服の上からローズを触っていく。


「どこだ? どこに弾が残っている?」


 身体のあちこちを触りながら、熱を最も持っている場所を探すマーギン。


「あった。ここと、ここか」


 微かに異物の感触があり、熱を持っている場所を見つけた。


 マーギンは包丁に研ぎ魔法と洗浄魔法をかけ、ローズに痛み止めの魔法をかけた。服をめくって、除去を試みる。


 ブシュっ。


 包丁をメス代わりにして、皮膚を切り異物を取り出す。残っていたのは取り除いた後のカケラのようなものだ。


 もう一箇所も同じようにカケラを取り除いてから、洗浄し治癒魔法をかけたが、熱が下がらない。


「マーギン……」


 すると、ローズが目を覚ました。


「大丈夫か? 身体に残ってたストーンバレットのカケラがローズの身体に悪さをしたんだ。それは取り除いたから、カタリーナを呼んでくる」


 ギュッ。


「マーギン……」


 意識が朦朧としているローズはマーギンの首に手を回した。


「ちょっ、ちょっと、ローズさん……?」


 慌てたマーギンは大きな声を上げてしまった。


「どうした?」


 と、バネッサがマーギンの声を聞きつけて部屋に入ってきた。


「おっ、おっ、お前ら、こんなときに何やってやがんだっ!」


 服をまくり上げられ、半裸のローズがマーギンに抱きついているのを見たバネッサが大声を上げる。


「ちっ、違うっ。ローズの身体にストーンバレットのカケラが残ってて、熱を出してたんだ。カタリーナを呼んできてくれ」


「本当かよ?」


 疑うバネッサ。


「こんなことで嘘をつくかっ! もういい。俺が呼んでくる」


 と、ローズの腕をほどいて部屋を出ると、バネッサも付いてきて、本当だろうな? としつこかった。



「カタリーナ、ローズにストーンバレットのカケラが残ってたのが原因で熱を出している。カケラは取り除いたからシャランランしてやってくれ」


「う、うん……」


「どうした?」


「えっ、分かった。今すぐ行く」


 なんかカタリーナの様子が変だったが、すぐに状況を理解してバネッサと共にローズの所に向かった。


「ちい兄様、大隊長は?」


マーギンはローズの元に戻らず、その場に残っていたオルターネンに大隊長の様子を聞く。


「1人で尋問されている」


「なんか吐いた?」


「恐らく、あの男は隠密だろうから吐かないだろうと大隊長は言っていた」


「そう。俺も見に行ってみるよ」


 と、オルターネンと一緒に大隊長の所に行くと、すでに男は斬り捨てられている。その遺体の腕や足はあらぬ方向を向き、目玉がくり抜かれていた。


「随分と口が堅いやつだったんですね」


「そうだな。が、主は第一王子だそうだ」


 マーギンはすでに知っているとは言わずに、そうでしたかと答えた。


 《インフェルノ!》


 ゴウッ。


 男の遺体をこの世から消し去る炎で包み、骨すら残らずに燃え尽きた。


「お疲れ様でした」


「お前ほどではない。それよりまだ寝てなくて良かったのか?」


「ローズが熱を出しましてね。今、カタリーナが治癒してくれてますよ」


 マーギンはストーンバレットのカケラが体内に残っていたことを説明した。


 ◆◆◆


 シャランランで熱が下がったローズはスースーと寝息を立てて寝ている。


「ねぇ、バネッサ。この血って……」


「さぁな」


 ストーンバレットを取り出したときの血がシーツに残っているのを見たカタリーナは、違う方向の想像をしていたのであった。




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― 新着の感想 ―
カタリーナも国の運営が綺麗事だけでは済まないことを学んでいってるね。よき
隠密は単に優秀で忠実な部下。 上司に命令されてやった事なら責任は上司にあり、そこまで罰を受けるのはかわいそうに思える。
大隊長は自分の子供が授からないとわかってるから、なおさら子供に対する悪意が許せない。死すら生ゆるいと思っているんだろうな。
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