襲撃
広間にマットレスを敷いて、みんなで固まって寝る。プロテクションで包んで就寝。
マーギンは寝たふりをしながら、意識を集中して気配を探り続ける。カザフが見たと言った人影、それと奇妙な気配がどうしても気になっていたのだ。
みんなの寝息が本格的な睡眠の開始を告げる。普通の野営なら、ここまで深く眠ることはない。プロテクションを張っていることと、マーギンがいることで安心して寝ているのだろうか?
グッ……
意識を集中しているマーギンにも睡魔が襲ってきた。
おかしい。こんなに眠くなるのは……と、マーギンが思った瞬間。
ドガガガガガっ!
いきなりストーンバレットと思われる襲撃を受けた。プロテクションを張っていなければヤバかった。
衝撃音で目を覚ましたのは大隊長とオルターネン。
「襲撃か?」
「そうみたいですね。気を付けてください。気配がすごく掴みにくい」
しかし、気配を探っても、もう何もない。
「おい、お前ら、起きんかっ! 襲撃されたのに呑気に寝ている場合か」
大隊長がみんなに大声を出す。
「無駄ですよ。睡眠魔法をかけられてます」
「なんだと? プロテクションを張っていたのではないのか?」
「プロテクションは物理攻撃を防ぐものですからね。デバフ系の魔法をかけられたら防げません。かなり強力な睡眠魔法使いのようです」
つぎに目を覚ましたのはアイリスとカタリーナ、バネッサ。
「なにかあったの?」
「カタリーナ、全員に睡眠魔法が解けるかシャランランしてみてくれ」
「う、うん」
寝起きで何が起こったのか理解できないままに、カタリーナはシャランランを唱えた。
「あれ? 解除できてないのかな?」
まだ起きない面々。
「おら、起きろってんだ、てめぇら」
バネッサがカザフ達を蹴飛ばして起こそうとする。が、起きない。
「おっぱい触らせてやろうか?」
それならと、耳元で囁くバネッサ。
「えっ?」
すると、カザフが目を覚ます。
「この、スケベ野郎っ!」
と、バネッサにしこたま蹴飛ばされ、カザフはまた意識を失った。
この状況で何をやってるのだあいつは? と、バネッサが何をしたか分からなかったマーギンは呆れる。
《シャランラン! シャランラン! シャランラン!》
カタリーナがシャランランを連発したことで、全員が目を覚ます。そして、プロテクションの中にカタリーナから発せられた甘い匂いが充満した。
「襲撃に備えておいてくれ。プロテクションを解除する」
と、マーギンはみんなに伝えてから、プロテクションを解除する。自分が甘い匂い酔いしそうだったからだ。
「お前、甘臭いぞ」
「甘臭いって何よっ!」
マーギンに臭いと言われて怒るカタリーナ。
「で、うちらは何に襲われたんだ?」
しばらく警戒していても、次の攻撃がなかったことから、バネッサがそう切り出した。
「何に襲われたのか分からん。多分だけど、昼間にカザフが見た人影なんじゃないかと思う」
「魔物じゃなしに、人に襲われたのかよ?」
「どうだろうな? 気配が人のようにも思えるし、違うかもしれない」
「なんだそりゃ?」
マーギンがあやふや答えをしたので、バネッサが怪訝な顔をした。
「マーギン、どんな気配なんだ?」
と、オルターネンも聞いてくる。
「なんて言うんだろうね? そもそも気配そのものがすごく薄い。人っぽくはあるんだけど、攻撃してきたときに殺気が少しも混じってなかったんだよね。カザフが人影を見たと言った方向で感じた気配もそう。感情がないって言うのかな?」
「感情がないって、虫系か、爬虫類系の魔物かよ?」
と、スケベで目を覚ましたカザフが口を挟む。
「エロガキは黙ってやがれ!」
「エロガキってなんだよっ! 成人もしたし、エロくもねぇ!!」
おっぱいで目を覚ましたことを覚えてないカザフ。
「エロチビは黙ってやがれ!」
「誰がチビだ。もうお前より背が高くなってんだぞ。お前の方こそチビだろうが」
バネッサより少し背が高くなったカザフにそう言われて、ぐぬぬぬするバネッサ。
「マーギンの横に並んでみろよ」
「ぐぬぬぬ」
マーギンはデカい。横に並ぶと大人と子供が強調されてしまうカザフはまたぐぬぬぬした。
「で、マーギン。どうするつもりだ?」
バネッサとカザフのやり取りにも動じない冷静な大隊長。
「相手が魔法使いだとすると、厄介ですね。ファイアバレットやストーンバレットとかはプロテクションで防げますけど、デバフ系が使えるとなると、防ぎようがないです」
「パラライズもかけられるということか?」
「そうです。使えるどうか分かりませんけど。俺にも効きかけた睡眠魔法だったので、結構強力なデバフ使いでしょうね」
「退却するか?」
「いえ、何が目的か分からないですし、相手が何者か分からないので調査をしたいです」
他のみんなを転移魔法でシュベタインに戻そうかと思ったが、みんなで固まっている方が対処しやすいとなり、そのまま眠ることなく夜明けを迎えた。あれから襲撃がなかったので昼まで交代で睡眠を取り、領主邸内部を調査することに。
「どこから入って来たかだな」
入口に鍵をかけていたわけでもないので、普通に入ってきたとも考えられる。しかし、それならもう少し早く気配に気づけたはずだ。と、バネッサとカザフが何か仕掛けや罠、隠し通路がないか探っていく。
「マーギン、攻撃はどの方向から来たんだ?」
「上からだな。詳細な方角は分からん。アイリスみたいにホーミングできるかもしれんから、方角はあてにならんぞ」
バネッサは攻撃された方角から、見当を付けようとしたようだが、睡眠魔法をかけてからの攻撃だと、相手は1人だとは限らない。俺達だと分かって狙ったのか、侵入者だから攻撃したのか……
マーギンはなぜ攻撃されたのかを考える。しかし、答えが出ないまま、再び夜を迎えた。
「マーギン、晩御飯を作ってあげる」
「いらん」
嬉しそうにマーギンにそう言ったカタリーナに間髪入れずに断るマーギン。
「何でよっ!」
「豚バナナなんか作るやつの飯はいらん」
「結構美味しかったじゃない」
「俺は嫌なんだよ。飯は適当に食うから、ほっといてくれ」
マーギンは気配の薄い敵に対して、対策を練っていた。集音器の仕組みを自分に付与できないかを試しているのだ。
「難しいな、これ」
回路と物理的なものを組み合わせる魔道具。それに対して、魔法は物理的なものを魔法に変換しなければならない。オンオフだけなら簡単なのだが、ボリューム調整や周波数等のスイッチの役割を上手く魔法に変換できないのだ。
「マーギンは何をやってるのだ?」
と、ローズが聞きに来る。何かに集中しているときに声をかけると怒るマーギン。しかし、ローズには怒らないだろうと言われて、ローズが代表して聞きに来たのだ。
「いや、気配が探れないなら、音で探るしかないかなと思ってね」
マーギンは集音器がどういうものか説明をした。
「要するに耳がよくなる魔法なんだな?」
「そう。だから、この魔法を使ってるときに、いきなり大きな音が聞こえたら、耳がダメになりそうなんだよね。時間があれば、試しながら使って、自分の魔法になるまで訓練できるんだけど、その時間がないから、初めから回路で設定しないとダメなんだよ」
「なら、今日はその魔道具を使って、対処すればいい。マーギンはほとんど寝てないのだろ? ちゃんと食べて少しでも寝てくれ。みんなで交代しながら、その魔道具を使えばいいじゃないか」
と、ローズに諭され、手持ちのものを食べようとすると、カタリーナ料理が用意されていた。
ニコニコ。
嬉しそうな顔をするカタリーナを見て、もういらないとは言えなかったマーギン。
もぐもぐもぐもぐ。
「美味しい?」
「昨日よりマシだな」
今日の料理は豚キュウリの串焼きだった。




