現場確認
宿場街にする予定の場所に移動すると、前とは随分と違う光景が広がっていた。
「オアシスみたいになってるね」
湧き出た水は南側へ広がり、水の流れに沿って縦長に青く、そこから扇状に水面が広がっていた。少し舐めてみてもしょっぱくはないので、植物も育ちそうだ。
「ここは水を出す魔道具は必要なさそうだな」
と、大隊長が言うが、飲水として使うには適してない可能性がある。
「常飲できるかどうか分からないですから、水場は設置しておきますよ。そのうち建物ができてきたら、水を出す蛇口を販売してもいいかもしれませんね」
街になるのはまだまだ先だろうということで、ここも休憩ポイントと同じように整地をして、壁を作っておいた。
ゴルドバーンに向けて、残りの2カ所も同じようにして作業は終わり。あとは大工達に任せようと、そのままゴルドバーンの王都だったところに向かうことにした。
「まだボロボロのままだな」
王城だったところは崩れたままだ。しかし、人々の表情は暗くはない。開いている食堂を見付けて、そこで食べながら話を聞くことにした。
「へい、いらっしゃい。何にします?」
「何があるのだ?」
「ビッグワーム、ボア、魔狼とかです」
どうやら、ハンター達が狩った肉をメインに扱っているようだが、チョイスに悩む。この時期のボアは臭みが強いし、魔狼は季節を問わずクセがある。
「俺はビッグワーム」
「わ、私はボアにしよう」
ニョロロ系がダメなローズはビッグワームを避けた。ビッグワームを選んだのはマーギン以外にバネッサとアイリス。他はボアだ。
「へい、お待ち」
どちらもシンプルに焼いたもの。食えなくはない。
「マーギン、これ食べて」
と、カタリーナがボア肉の焼いたのを渡してきやがった。
「自分で頼んだ物は自分で食え」
「硬くて噛めないの。飲み込めないのっ!」
「なら、ロッカに食ってもらえ。見てみろ、平気で食いちぎってるぞ」
歯ごたえのある肉を好むロッカはぶちぃぃってというような感じで食べている。
「お嬢さん、うちの肉はダメか?」
「う、うん……」
「ご主人、すまんね。こいつはいいところのお嬢さんで、わがままなんだよ。今は肉を手に入れるのも大変だろ?」
「そうなんだよ。牛も豚も鶏と魚も手に入りにくいんだ。魚は漁港街がまだ復活してないし、家畜はまず増やさねぇとダメらしくてな」
「そうだね。来年には復活するといいね。他のバケモノは出てない? 虫みたいなやつ」
「あぁ、あれから出てないな。火山が噴火して、南と分断されたそうだからな。あっちのやつらは生き残ってんのかねぇ」
一般の人が、南の先住民達がどうなってたか知るわけもないからな。と、マーギンは思う。生まれてから一度も街を出ない人が多いからな。
店の人の話によると、チューマンもトラバチも出てないみたいだから、復興は進んでいくだろう。そう判断したマーギン達は店を出たのであった。
「マーギン、お腹空いた」
ボア肉を食べなかったカタリーナ。ローズもあまり食べられなかったようで、オルターネンがその残りを食べていた。
「これでも食っとけ」
と、ソフトジャーキーをカタリーナとローズに渡すと、他のみんなも欲しいと言いだす。腹が減ってるというより、お口直しらしい。
「大隊長、あの執事を探しますか? 焼け石に水かもしれないけど、持ってきた食料を渡さないとダメなんですよね」
「どこにいるか分からんからな。てっきり王都にいると思ってたんだが」
と、聞いて回ってみたが見つからないので、転移魔法で港街に行ってみることにした。
「おっ、いた、いた!」
港の復興を先にしていたようで、隠密執事が指揮を取っていた。
「陛下っ! どうしてこちらに?」
作業中だというのに、すぐに気付いた隠密執事。
「街道の休憩所を作りがてら来たんだ。年内には休憩所として使えるように完成すると思うぞ」
「わざわざ陛下がしてくださってるのですか。大変申し訳ございません。本当に助かります」
「俺達がやったのは整地とかだけな。建物は大工達がやってくれてる。港の復旧を最優先したんだな」
「はい。雨風をしのげるようにしたあとは安定した食料供給が最優先ですので」
「そっか。何か手伝えることはあるか?」
「その御心だけいただいておきます。皆で力を合わせて作り上げて行くことに意味がございます。お気遣いありがとうございます」
と、隠密執事はにっこりと微笑んで答えた。
「了解。コレはお土産だ。焼け石に水かもしれんが、懇意にしているハンナリー商会から提供してもらった食料が入っている。支払いはシュベタイン王国がしてくれた。なんかの足しにしてくれ」
と、マジックバッグに移し替えた大量の食料を渡した。
隠密執事はマーギンが渡してきた物がマジックバッグだとすぐに理解したが、まだ常識の範囲で理解していた。
「ありがとうございます。食料は助かりますので、ありがたくいただきます」
隠密執事はとても忙しいようなので、また様子を見にくると伝えて、その場を離れたのであった。
「閣下、あの方は?」
「あの方はノウブシルク王でございます。ゴルドバーンを救ってくださった方ですよ」
「えっ、あの方が王ですか?」
「ええ。あのようなお姿をされておられますが、とてつもないお力をお持ちです。それにとてもお優しい。今回もわざわざ食料を持って来てくださったみたいです。今日はこれをいただきましょうか」
工事をしている者たちを労うために、食料を使おうと、マジックバッグの中身を出していく。
「なっ、なんですかこの量は……」
マジックバッグの中から、倉庫にしまっておくほどの食料が出てきたことに腰を抜かしそうになる隠密執事。
「やはり、あの方は人類の桁を超えておられますね」
と、呆れたように笑ったのであった。
◆◆◆
「じゃあ、ノウブシルクの状況を確認して、問題がなければシュベタインに戻ろうかと思います」
「そうだな。そうしよう」
と、いうことで、転移魔法でノウブシルクに移動する。
「おっ、随分と活気があるな」
ウエサンプトンとの国境沿いで領地開拓をしている場所に転移すると、たくさん人がいた。おそらく北の街から来た人達だろう。
「おー、ショベルカーがあるぞ」
ショベルカーやブルドーザーで開拓をしている様子を見て、ロッカとタジキは嬉しそうだ。確かに働く車を見ているのは楽しい。
しばらく見学し、ここは問題なさそうなので、そのまま北上していった。
「陛下、お帰りなさいませ。皆様もようこそノウブシルクへ」
王代理とキツネ目に出迎えられ、近況報告を受ける。
「じゃ、特に問題はないんだな?」
「はい、開拓もショベルカーやブルドーザーのお陰で、想定よりずっと速いペースで進んでおります」
「ショベルカーとブルドーザーの生産は進んでるか?」
「そちらも順調に」
「そしたら、何台か操縦者と共にゴルドバーンに派遣してやってくれない? 向こうもなるべく早く復興させてやりたいんだよ」
「かしこまりました。手配致します」
このあと、ノウブシルク内の開発状況の確認と北側の魔物がどうなっているか調べるために数日滞在することにしたのであった。




