遺跡は見つからず、過去を見る
バネッサが斥候に出て、マーギン達に状況を知らせ、マーギン達が魔物を討伐し、夜は楽しく宴会をする。こんな日々が続くが、遺跡は一向に見付からない。
「今、どの辺に来ているか分からんな」
鬱蒼と茂る木々に阻まれ、進むスピードも遅い。こういう場所では方向感覚が狂うもの。
「一度、上空に出ますか」
と、今日はプロテクション階段で上空から確認する。
「あの山があそこにあるのか。思ったより南に逸れて進んだのだな」
上から森を見渡した大隊長がそう言った。
「それに地図に印のあった場所もすでに過ぎてるみたいですね」
「お前のように上空から確認しながら作った地図ではないだろうからな。遺跡が本当にあるとしても、確実な場所ではないのだろう」
「でしょうね。このまま南側に進んで山の麓の方面に行ってみましょうか?」
「まぁ、行き先はお前に任せる」
ということで南に向かって進んでみる。本当に遺跡があるとすれば、森の奥深くではなしに、人が住める場所に近いのではないかと思われる。それとも大昔は森の中に住む人達がいたのだろうか?
「マーギン、ラプトゥルがいた」
斥候に出てたバネッサがそう伝えてきた。
「そうか。見付からなかったか?」
「初めは気付きやがった。だから木の上の方に登って、気配を消してたらどこかに行きやがったぞ」
「了解。もう斥候に出ずに俺と一緒にいろ」
マーギンはラプトゥルが出たと聞いて、バネッサをそばに置いた。
ラプトゥルは気配がないので、音頼りで警戒するしかない。バネッサを一瞬でも見たということは必ず探しにくる。
マーギン達は足音を立てないように警戒しながら進むが、ラプトゥルは来ない。
「ストップ」
マーギンがみんなを止めた。
「どうした?」
「警戒しながら進むの疲れるから、誘き寄せよう」
「どうやって誘き寄せるつもりだ」
「肉を焼こう。だいたいのやつはこれで寄ってくる」
極力死角の少ないところに移動して、肉を焼く。
「バネッサ、お前は上を警戒しといてくれ」
「分かった」
前後は大隊長とオルターネンが警戒。上はバネッサが警戒する。マーギンは肉を焼き始めたあと、何やら魔道具を取り出した。
「なんだよそれ?」
「いいから、上を警戒してろ。お前が一番狙われるんだぞ」
「なんで、うちが狙われるんだよ?」
「柔らかくて旨そうだからだ」
と、胸を指さした。
「スケベ野郎っ!」
殴りはしなかったが、いつものバネッサの反応をしたことで、マーギンは少し安心する。この前から少し様子が変だったからだ。
そして、マーギンが取り出したものは集音器。小さな音を増幅させるものだ。前にミスティの金庫に残してくれていた魔道具の本に作り方が書いてあったものだ。
「それはどうやって使うのだ?」
次はオルターネンが興味を持って聞いてくる。
「これは小さな音でも聞こえるようにする魔道具だよ。この耳当てで聞くか、音を拾うとこの針が動くんだよ、だから静かにしてて」
集音器は低音用、通常用、高音用と3つの針が有り、それぞれの動き方で、どんな音を拾っているのかの目安にできる。マーギンは集音マイクをあちこちに向けて音を拾っていく。
カサカサ、カサササ。
「来てるね。周囲の状況を確認しているようだ」
と、耳当てから聞こえてきた音で状況を判断し、みんなに伝えてからマイクを上に向けると、微かに何かの音が聞こえる。なんだろうか? とマーギンは耳をすます。
よく分からないので、マーギンは針を見た。すると、聞こえはしないものの、高音を拾っている針が動いた。
高音のボリュームを最大に上げてみる。
ヒュー、ヒュヒュ、ヒュー。
これ、ラプトゥルの声というか合図か。木の上にいるやつが指示をしてるんだな。鳴かずにこんなこともできるのか。と、マーギンも知らなかったラプトゥルの能力が今発見された。
「バネッサ、俺の後ろに回れ」
「来るのか?」
「どれが囮か分からん。初っ端に出たやつはプロテクションで防ぐ。次に飛び出してきたやつを殺れ」
と、バネッサだけに指示を出す。
キュルルルーッ!
いつものように一匹が囮で来るのではなく、3匹が同時に飛び出してきた。
「ちっ!」
マーギンは舌打ちをする。今プロテクションを出すと、大隊長とオルターネンの攻撃の邪魔になる。バネッサもオスクリタを投げようとしているから無理だ。
大隊長とオルターネンがラプトゥルに斬りつけた。その瞬間、
キュルルルーっ!
上空からも3匹のラプトゥルが飛んできた。
《パラライズアンドプロテクション》
麻痺させたラプトゥルがバンッとプロテクションに当たって落ちた。
バネッサが投げたオスクリタはラプトゥルの目に刺さり、バタンバタンと暴れているのをオルターネンが止めを刺した。
「大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
「こいつら、初めて見る攻撃をしてきたよ」
マーギンはラプトゥルの攻撃パターンを改めて説明する。
「6匹か。群れの数が増えると、攻撃パターンも変わるのではないか?」
「かもしれないね。様子を見に出てくるやつもいなかったし、こいつら普通のより、一回りデカいわ」
マーギンはラプトゥルを解体して収納しておく。
「ちょっと、その魔道具を試させてくれ」
オルターネンは集音器に興味があるのか、試しに使いたいと言うので、使わせてみる。
「耳元でカサコソと音がすると、くすぐったいな」
そういうことを言わないでほしい。それを意識したら、自分も次に使うときにくすぐったくなるではないか。
「わっ!」
キーン。
「うわっ」
オルターネンが慌てて耳栓を外す。 バネッサがいたずらをしたのだ。
「耳が壊れるではないかっ!」
結構マジで怒るオルターネン。
「わ、悪ぃ。そんなにすごいのかよ?」
「ならばお前も使ってみろ」
オルターネンはバネッサに耳当てを渡す。大きな声で仕返しはしないだろうけど。
コショコショコショコショ。
バネッサが耳当てをしたのを見て、マイクに向かって、オルターネンはくすぐったくなるようなことを言った。
「うひゃひゃひゃひゃ」
大きな声で笑い出すバネッサ。
「くすぐってぇっ!」
と、バネッサは耳当てを外して、地面に投げ付けた。
「壊れるだろうが」
「だってよぉ……」
マーギンが壊れてないか確認のために耳当てを付ける。
コショコショコショコショ。
「うびゃひゃひゃひゃ」
バネッサにコショコショと言われるマーギン。耳当ての中からくすぐられたような感じになり、くすぐったがる。
「やめろっ!」
「ほれ、みろ。くすぐったいだろうが」
ラプトゥルに襲われた直後だというのに、呑気な3人。
「もういいか? 先に進むぞ」
輪に入れなかった大隊長が、あきれて先に進みだした。
そして、何日かして、森を抜けた。
その場所でマーギンは顔をしかめた。
「どうした、そんなに怖い顔をして」
「いや、昔この場所に村があったんだよ。多分、そこだと思う」
村の形跡は何も残ってない。しかし、この位置から見る山の位置は記憶に残っている。
マーギンは昔、ここで何があったのかをみんなに話した。
「ピンクロウカストが人を食うのか……」
マーギンの話を聞いて絶句する。
「まさに数の暴力ってやつだね。大量発生したら、手の打ちようがなくなる。発生元を絶たないときりなく出てくるから」
「チューマンもトラバチもそうだったが、虫系のやつは厄介だな」
大隊長が腕組みをしながらそう言った。
「そうですね。ある意味最強かもしれないですね」
マーギンはそう答えたあと、しばらく緑が復活している光景を眺めていたのだった。




