理不尽を与える立場
朝食のときにカタリーナはぐったりしていた。明け方近くまで大隊長の説教が続いたようだ。
「マーギン、王都に戻ったら、ノウブシルクへ行くのか?」
と、大隊長に予定を聞かれる。
「いえ、ゴルドバーンへの街道の拠点の整備をしてから戻ろうかと思ってます」
「どこまでやるつもりだ?」
「休息ポイントは土魔法で壁と小屋を作っておきますよ。街はどこまでできるか、やってみないと分かんないですね」
「そうか。それなら俺も行こう。だいたいの場所の目安を付けてあるからな」
と話していると、結局みんな来ると言い出した。
飯を食ったあとは、訓練を兼ねて走って帰ることに。
「姫様、遅れてますよ」
「う、うん」
寝不足のカタリーナの足取りが重い。アイリスより遅いぐらいだ。
「ローズ、カタリーナの調子が悪いのか?」
「寝不足もあるだろうが、精神的なものだと思う」
走りながらローズに理由を聞いた。大隊長の説教がかなり効いたようで、心が重いようだ。
「カタリーナ、調子が悪いなら乗れ」
と、マーギンがしゃがんでおぶってやる。
「いいの?」
「お前が遅いと、みんなの足を引っ張るからな」
「うん」
いつもなら、はしゃいで乗ってくるのに、静かに乗る。そして、しばらくするとぐすぐすと泣き始めた。
「お前が悪いんだぞ」
「うん」
「このメンバーは他の人達よりはマシだろうが、お前に言われたら断りにくいのが分かるだろ」
「うん」
カタリーナは姫だ。みんなは普通に接しているが、心のどこかでは線引きが残っている。ロッカがあんなになるまで飲んだのを見たことがない。きっと、完全に断れなかったのだろう。
「私はやっぱりみんなと完全に仲間になれてるわけじゃないのね……」
「そうだ。というより、お前がそうさせている」
「えっ? そんなことないもん」
「いーや、そんなことある。お前の言動に、「私の言うことが聞けないの?」というのがあるんだよ。違うか?」
「……」
「ローズにも命令するだろ? まぁ、ローズはお前の護衛だから、部下みたいな立場になるから仕方がないけどな。他のやつにもそれが出てんだよ」
マーギンはキッパリと言っておいた。日頃は普通に仲間として接してほしいと言いながら、自分が望んだときは言うことを聞けというのは無理だと。
「私……そんなふうになってるの?」
「なってなきゃ、ロッカがあんなになるまで飲まんだろ。ヤケ酒や、はしゃいで飲み過ぎたとかでもなさそうだからな」
「……嫌な人なのね、私……」
「そうだな。これが続いていけば嫌われるか、ずっと姫として扱われるかだ。前にも言っただろ? お前は理不尽を与える側の人間だと」
「うん……」
「ちゃんと自覚しとけ」
「うん……」
このあと、野営ポイントまでカタリーナは一言も喋ることはなく大人しくしていたのであった。
晩飯はタジキにボア汁を作ってもらい、メインはカツにした。
「ロッカ、昨日はごめんなさい」
カタリーナはロッカに素直に謝った。
「大隊長に叱られたのだろ? もう気にすることはない。勧められたままに飲み過ぎた私が悪いのだ。旨い酒だったからつい飲み過ぎただけの話だ」
と、笑ってカタリーナを責めないロッカ。
「私に気を遣ってくれてるの?」
「そうだな。気を遣っているのは確かだ」
ロッカは隠さずに気を遣っていると言った。そのことで、カタリーナの心がチクリとする。
「お前は私より、ずっと年下だからな」
「えっ?」
「私がカタリーナぐらいのときは、あのような話を聞きたいとかはなかったが、興味があるのは理解している。私もすぐにちゃんと言えば良かったのだがな。別に面白い話ではないが、まだ聞きたいか?」
「うん」
ロッカはカタリーナとローズを自分のテントに入れ、窮屈になったバネッサはマーギンのテントへ。
「お前、自分のテントで寝ろよ」
「ロッカがカタリーナとローズを連れてきて、狭ぇんだよ」
マーギンがコタツムリになって寝ようと準備していたところに、すでにアイリスがちゃっかりとコタツに入っていた。
「ズルいぞお前。うちも入る」
「2人でも狭いのに、3人なんて寝れないだろうが」
「ケチケチすんなよな」
と、バネッサもコタツに入ってきた。
「うー、暖けぇ」
座っている間はいいが、寝転ぶには狭いので、先に寝転ぶマーギン。
しかし、左右から足を乗せられ、足がむず痒くなってくる。
「だーっ、もうっ!」
たまらずコタツから出て、マチョウマントを布団代わりにして寝たのであった。
王都に着いたマーギン達は、北の街のことを報告してから、街道の拠点づくりを始める。
「俺達は魔物の調査に出てくる」
「了解」
オルターネンがカザフ達を連れて街道近くの魔物調査に出てくれた。
「大隊長、どれぐらいの規模にしとけばいいですかね?」
「とりあえず、大型荷馬車が3台停められるスペースが必要だな」
ハンナリー商会以外が使うなら、4頭立てをメインに考えておかねばならない。あとから拡張するのも面倒なので、5台分停められるスペース、20頭分の馬小屋、人が寝られる小屋を土魔法で作っていく。
「扉は後から大工が付けてくれますよね?」
「建物を作ってくれるだけで、随分と工期が早まるぞ」
人が寝る小屋も単なるコンテナみたいなものだ。雨風が避けられたらいいだろう。
「マーギン、私が手伝えることは何かないか?」
と、ロッカが聞いてきたので、整地をしてもらうことに。
「そうだな……ブルドーザーで整地をしてくれる?」
「ブルドーザー?」
マーギンはアイテムボックスからデデンとブルドーザーを出した。
「な、なんだこれは?」
「工事用魔道具。ノウブシルクの産業にするものだ。ここに乗って、こうすると前進して、こうするとバックで……」
と、操作方法を教えていく。
「うぉぉっ、これは面白い。こんな魔道具があるのか」
ロッカはブレードを上げたり、下げたりしてはしゃぐ。
「周りに人がいないか常に確認してくれ。巻き込まれると死ぬからな」
「気を付けよう」
そう返事をしたロッカはガガガガガと土地を均していく。
その姿が似合い過ぎるぞ、と、言いかけてやめておいた。口は禍の元なのだ。
「私もやりたい!」
カタリーナにはショベルカーを出して、壁を作る予定の周りを掘ってもらうことにした。
ショベルカーの操作は難しいので、多分上手く掘れないだろうが、適当にやっててくれればいい。魔法でなんとかなるものだからな。
大隊長がこんな感じで、と指示をだし、マーギン達は拠点作りに励む。
「うわっ、すっげぇ。なんだよそれ」
夕方に戻ってきたカザフ達は自分達もやりたいと言い出し、工事は遊びのようになっていくのであった。




