ホステス姫
宿に戻ってから、カタリーナにシャランしてもらったカザフに、スポドリもどきを飲ませる。
「水分はちゃんと取っとけよ。お休み」
「お休みなさい……」
カザフ達はダブルベッドで3人一緒に寝る。
「カザフー、マーギン怒ってなかったねー」
「うん」
「カザフはまだイライラしてんのー?」
「なんか自分でも分かんねぇんだよ。マーギンのことは好きなのに」
「やきもち焼いてるだけでしょー?」
「お前までそんなことを言うのかよ」
「だって、いつもバネッサ姉のこと見てるじゃん。みんなカザフが、バネッサ姉のことを好きなの知ってるよー」
「うるさいっ。トルクこそ、カタリーナのことをよく構ってるじゃないか」
「そうだねー。なんか、姫様のことは守らなきゃって思うんだよねー。どうしてか分かんないけど。でも、姫様がマーギンにベタベタしてても、僕はイライラしないよ?」
「俺もしてねぇ」
と、カザフが答えるとクスクスと笑うトルク。
「俺はなんとなく、カザフの気持ちが分かるかな」
と、タジキも参戦。
「リッカのことか?」
「うん。リッカもマーギンのことを好きだろ? なんかそれがさぁ……」
「みんなマーギンのこと好きだねー」
「そうだよなぁ……」
と、タジキが頷く。
「僕達もマーギンのことを好きだからいいじゃない」
トルクがそう言うと、カザフとタジキもそうだなと笑ったのであった。
◆◆◆
「あー、オルターネンとロッカが帰ってきたー!」
もう少し飲もうと宿の食堂で飲んでいたマーギン達。そこへ、オルターネンとロッカが戻ってきたのだ。
「姫様、何かありました?」
いきなり大きな声でカタリーナに名前を呼ばれたオルターネンは、何事かと驚いた。
「どこで何してたのー?」
カタリーナにそうニヤニヤしながら聞かれて、オルターネンの隣にいたロッカが赤くなって俯いた。
「ふーん、なるほどねぇ。謎はすべて解けたわ! ロッカ、部屋で飲み直すわよ」
「えっ?」
「大隊長、ここの支払いお願いね。ロッカ、行くわよ!」
「えっ? えっ? えっ?」
こうして、女性陣はロッカを連行するように部屋へと戻っていった。
「大隊長、姫様はどうしたんです? かなり飲まれたんですか?」
「ロッカは色恋の話をするために連れて行かれたのだ」
「は?」
「お前ら、二人で出掛けただろ? 何があったか尋問されるということだ」
「何かって……」
◆◆◆
「さ、白状しなさい。オルターネンと何をしてたの?」
「べっ、べっ、別に何をしてようといいではないか」
顔を赤くしたロッカははぐらかす。
「そっか、お酒が足らないのね。ローズ、強いお酒を持ってきてもらって」
「姫様、人が話したがらないことを無理に聞くのはよくないですよ」
「それはロッカが決めること。早く持ってきてもらって!」
「じゃあ、私がもらってきますね」
と、カタリーナの護衛をしているローズが離れるのはまずいと思ったアイリスがお酒をもらいにいった。
「ほ、本当に何もしてないから、話すようなことはないぞ」
「はい、はい。それは飲んでから話そうね」
と、しばらく待つと、宿の人と一緒に戻ってきたアイリス。皆が飲みたいものとおつまみを頼み、カタリーナはロッカ用にウイスキーのボトルを頼んだ。
「さ、飲んで飲んで」
ホステスをするカタリーナ。接待されるロッカ。
「ほ、本当にないのだ」
「まぁまぁまぁまぁ、はい飲んで飲んで」
どんどんと飲まされるロッカ。いつ話をするのかワクワクしている周りの者達。
「どこのレストランに行ったの? 私たちは居酒屋だったのよね」
「いや、レストランでは……」
「はい、飲んで飲んで飲んで、飲んで飲んで飲んで、はい、飲んで♪」
酒を飲ませ続けるカタリーナ。
「ヒック、私達は……ヒック、食事買って街の外に……ヒック」
カタリーナに、気持ち悪くなったらシャランランするからと言われて、ウイスキーのボトルをストレートで2本を空けたロッカは酔ってきた。
「へー、食事を買って街の外に何をしにいったの?」
空いたグラスにドポドポドポとウイスキーを注いで続きを聞く。
みんなもようやく、ロッカが口を割りそうだとワクワクしているなか、ローズだけは兄の色恋話など聞きたくないようで、嫌な顔をしていた。
「吹雪も収まってきてたから……服を脱いで……」
「ふ、服を脱いで何をしたのっ?」
ローズ以外がロッカを取り囲み、顔を近付けて話を聞く。
「いや、ここからは恥ずかし……ヒック」
「はい、飲んで飲んで飲んで」
酒を自白剤に使うカタリーナ。
「だんだんと身体が熱く……なって……」
ロッカのろれつが回らずに何を言ってるのか分かりにくいが、話が核心に迫ってきたのが分かる。
「オルターネン様が私の足を持って……」
ごくっ。
「私の上に乗り……」
ここで、ロッカが寝そうになった。
「足を持って、上に乗って何をしたのよーーっ!」
「う……ん……」
クカーー。
「早く言いなさいよーーっ!」
寝ていくロッカを激しく揺らすカタリーナ。
「う……」
「う?」
「うぇぇぇぇぇ」
「ぎゃーーーーっ!」
自白ではなく自吐したロッカ。まともに浴びたカタリーナ。部屋は阿鼻叫喚となったのだった。
◆◆◆
「は? 筋トレだと」
「はい。剣の立ち会い稽古をするつもりだったのですが、私の体調が思ったより戻っていなかったので、軽く打ち合って終わりにしたんですよ。ロッカはマンモー討伐に加われなかったのが、心に引っ掛かってたようでして」
「で、ロッカが筋トレしたのか?」
「はい。1人でやるより、足を押さえて腹筋したほうが効率がいいと言うもので。他には私が上に乗って腕立て伏せとかですね」
「せっかく2人きりだったのに、色気のないことを……」
大隊長も呆れる。
「一段落付いたとはいえ、任務中ですよ。浮ついたことなんてするわけないじゃないですか」
そんな話をしていたら、バネッサが慌ててやってきた。
「マーギン、来てくれっ!」
「なんかあったのか?」
「いいから早く!」
何事だと慌ててカタリーナの部屋に行くと、大惨事になっていた。
「うぇぇぇん。マーギン」
酸味臭溢れるカタリーナがマーギンに抱き着こうとする。
ヒョイ。ベチャ。
それを避けるマーギン。
すぐに洗浄魔法をかけておく。
「酷いじゃないっ!」
「酷いのはお前だ。風呂に入ってこい」
と、カタリーナとぎゃいぎゃい言い合いするマーギンとは裏腹に。
吐いて倒れているロッカをオルターネンはタオルで口を拭ってやり、抱き抱えていた。
「マーギン、頼む」
2人に洗浄魔法をかけると、オルターネンはそのままロッカの部屋に寝かせにいった。
「姫様、ロッカに何をされたのですか?」
と、大隊長が真面目な顔でカタリーナに聞く。
「の、飲んでもらっただけよ……」
ギヌロっ。
「ローズ、お前は何をしていたんだっ! 姫様の暴走を止めるのもお前の役目だろうが!」
説明されなくても、だいたいの状況を察した大隊長はカタリーナに怒鳴らずにローズを怒鳴った。
「も、申し訳ありません」
「大隊長、ローズは悪くないの。私が……」
「姫様、酒は飲み過ぎると毒と同じだというのはご存じでしょう?」
「そ、そこはほら、シャランランすれば……」
「マーギンはそんなことのために、姫様に聖杖を託したのではありませんぞっ!」
ついにカタリーナにも怒鳴った大隊長。
「ご、ごめんなさい……」
と、謝ったカタリーナは助けを求めるようにチラッとマーギンを……
「……いないっ!」
マーギンはとっとと、この場から逃げ出していた。
「姫様、ちょうどいい機会です。そこへお座りください。ローズも隣に座れ」
「「はひ……」」
こうして、カタリーナとローズはコンコンと大隊長から説教をされたのであった。
「大丈夫か?」
ロッカをベッドに寝かせたオルターネンは顔を覗き込んだ。
「オ、オルターネン様。申し訳ありません。つい飲み過ぎてしまいまして……」
「だいたいの状況は察しが付いている。謝らなくてもいい。もう気持ち悪くないのなら、このまま寝てしまえ」
「はい……」
「おやすみ」
チュっ。
ボッ。
顔から火が出そうになったロッカは布団に潜り込んで、明け方近くまでドキドキしていた。
「自分の部屋で寝ろよ」
マーギンの部屋まできたアイリスとバネッサ。
「うちはカタリーナと隣の部屋なんだよ。ずっと大隊長の怒った声が聞こえてくんだろが」
「私の部屋も隣なので同じです」
「自業自得だろ? ロッカが自分で吐くまで飲むか。お前らが無理矢理飲ませたんだろうが」
「カタリーナが飲ませやがったんだ」
「同じ部屋にいて、止めなかったんなら同罪だ。部屋に戻れ」
「冷たいこと言うなよ」
と、バネッサがベッドに潜り込みやがった。そして、アイリスもすでに潜り込んでいる。
ここの床は床暖になってないので冷たい。ソファも寝転ぶには小さい。
「ベッドは譲らんからな」
そう言っても二人とも出てこないので、潜り込んでやる。
「狭いだろうが。うちの部屋使っていいぞ」
「お前が戻れ」
「私の部屋でもいいですよ」
「お前が戻れ」
そして、誰もマーギンのベッドを譲らなかったので、そのまま寝たのであった。




