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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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マーギンがいなかったら

 飯も食べ終わり、寝ようかとなったときに、


 ガーー、ゴーっと風ではない音が響いてきた。


「何の音だ?」


 オルターネンが湖の方を見る。


「結構デカいやつっぽいな」


 と、マーギンは音の聞こえてくる方向を確認した。


「マーギン、何か分かるのか?」


「多分、レーキ。それも結構デカいと思う。ちい兄様、湖側に壁を作って」


 マーギンはオルターネンに壁を作らせ、魔法で強化しておく。


「そうか、レーキが来るのか」


 ロッカはまた葬ムランができると、剣ではなく、こん棒を取り出して素振りをする。


「ロッカ、想像しているよりデカいと思うぞ。一撃でやれると思うな」


 そう忠告してから、次にアイリスに指示をする。


「アイリス、高温で湖の氷を溶かせ。岸から20mぐらいの所を中心にな」


「はい」


「マーギン、偵察に出るか?」


 と、バネッサが様子を見に行こうかと言う。


「いや、バネッサとカザフは後方で他の魔物が来ないか確認をしろ。トルクとタジキはローズと一緒にカタリーナの守りだ。トルクは飛んできたら掴んでなんとかしろ」


 カタリーナ達を壁のうしろ側に待機させる。


「今から照らすから目を細めて」


 マーギンはそう言ってから魔法で湖の方向を照らした。しかし、吹雪いているので視界は悪い。


「ロッカ、視界が悪いから、いきなり目の前に現れるぞ。力いっぱい打とうとしたら、攻撃を食らうからな」


 力任せにレーキを打とうとするだろうロッカに忠告をしておく。


 ガー、ゴーという音は足元から聞こえてくる。氷を通じて音が聞こえてきているようで、距離感が掴めない。


「アイリス、撃て」


 《ファイアバレットマキシマム!》


 いつそんな言葉を覚えた?


 と、疑問に思う間もなく、青白い炎の弾が湖にババババババと撃ち込まれる。


 ジュジュジュジュジュジュと音が聞こえるが、岸近くの氷は分厚く、なかなか溶けない。


「マーギンさん、溶けませんよ」


「そのまま撃ち続けろ。レーキが見えたら、氷じゃなくレーキを撃て」


「はい」


 しばらくすると、ガー、ゴーの音が氷からではなく、前方から聞こえてきた。


「来るぞ」


「おうっ!」


 吹雪の中、前方に現れたのは直径3mほどのレーキ。


 シュンッ。


 アイリスが氷の表面を溶かしていたことで、そこに乗ったレーキは減速しない。そして、氷が少しくぼんでいたことで、バンっと跳ねた。


「フンッ!」


 まずは大隊長がヴィコーレで叩き割る。そして次々に現れたレーキをオルターネンもジェニクスで斬っていく。


「うぉぉっ、葬らん!」


 ロッカは飛んできたレーキをアッパースイングで打つ。


 ガツンっ。


 ファールチップのようにうしろに飛んだレーキ。


「しまった!」


 むぎゅ。


 それを見えない手で掴んだトルク。しかし、まだレーキは無傷。


 《ファイアマシンガン!》


 次々と新技を出すアイリス。


「どりゃぁぁ!」


 タジキが盾で体当たりを食らわせて、レーキをひっくり返した。そこに更にアイリスのファイアバレットが撃ち込まれ、トルクが剣でとどめを刺した。


「大丈夫か?」


 ロッカが壁をよじ登って様子を確認する。


「ロッカ姉、こっちは大丈夫だから気にしないで」


「分かった。次から気を付ける」


 その間もレーキが来ていたが、大隊長とオルターネンがなんとかカバーしていた。


「ロッカ、うしろは気にするな。お前が気を取られている間に、大隊長とちい兄様が危ないだろうが」


「すっ、すまん」


 マーギンは指示を出すだけで参戦せず、他に注意を払っていた。そして、


「来る」


 マーギンはそう呟いた。


「ロッカ、壁のうしろに行け」


「さっきのことは悪かった。だから、そんな言い方をするな」


 ミスを重ねたロッカは、マーギンに戦力外通告をされたと思った。


「違う。マンモーが来る。お前のこん棒では歯が立たん。大隊長とちい兄様に任せろ」


「なんだと?」


「いいから俺の言うことを聞け」


「くっ……」


「アイリス、お前も壁のうしろに行け」


「はい」


「ロッカ、うしろを頼む。他の魔物も来てる。みんなを守ってやってくれ」


「分かった」


 戦力外通告ではなく、他の役割を任されたと分かったロッカはアイリスを連れて壁のうしろ側に行った。


「マンモーの数はどれぐらいだ?」


 大隊長がマーギンのところに来て確認する。


「群れですね。しかし、なんか変なんですよ」


 微かに聞こえるドドドドドドというマンモーの群れの足音が暴れているように聞こえる。


「レーキはマンモーに追われてたのか?」


「みたいですね。しかし……マンモーは何かと戦ってんのか?」


 さっきまでバンバンと来ていたレーキがピタッと来なくなり、マーギン、大隊長、オルターネンはだんだんと近付いて来るマンモーの足音を確認するように聞いていた。


「ちい兄様、ここから退避する? 数が多い上に様子が分からないから危ないかも」


「そのまま雪崩込んできたら、街がヤバいのではないか?」


「うん、ヤバい。でも大隊長とちい兄様の二人で対応するような数じゃないし」


「ならばお前も参戦しろ」


「俺がいないときに同じような状況になったらどうすんのさ? 最悪、街を見捨てないとダメなときも出てくるんだよ」


「今はお前がいる。先のことはあとで考える。今は北の街を守ることが優先だ」


「じゃ、凍え死ぬ覚悟をしてね。ちい兄様だけでなく、大隊長も」


 そう言ったマーギンは二人を連れて、足音の聞こえる方向にダッシュした。


 ツルッ。ゴチンっ。


「痛ってぇぇぇ」


 格好付けてダッシュしたマーギンは氷で滑って顔面強打。


「何をしているのだお前は?」


 呆れるオルターネン。


「うるさいな。ヒントだよヒント!」


「ヒント?」


「ま、それはあとで」


 マーギンはダッシュをやめてホバー移動に切り替えた。大隊長とオルターネンはダッシュだ。


 二人とも滑って転ぶのを期待したマーギン。しかし、二人ともこけずに付いてきた。


 ドドドンドドドンと暴れているマンモーの群れを発見。群れの中心にいるのは……


「なんだあのデカいのは? まさかあれもレーキか?」


 マンモーが戦っていたのは特大のレーキだった。


「あぁ、昔見たことのあるサイズだね。レーキはマンモーの好物なんだけど、さすがにあのサイズだとあんなふうに戦うことになるんだ」


 マーギンも初めて見る光景。


 巨大なレーキの甲羅には鋭利な雪の結晶のようなトゲが3列に並んで付いている。甲羅の縁も鋭利な刃物のようで、レーキは回転したり、ダッシュしたりして、マンモーと戦っていた。


「あの刃物を通さないマンモーの毛でも防げないみたいだね」


 激しく戦っているマンモーは血だらけだ。しかし、マンモーの数が多いので、特大レーキの方が分が悪く、逃げつつ戦っているというところか、とマーギンは分析した。


「これ、ミスティが見たら歓喜してただろうな」


 と、ポソッと呟く。


「マーギン、何か言ったか?」


「いや、何も。それよりどうします? 俺が殲滅しましょうか? それとも二人がやるなら補助しますけど」


「では補助を頼む」


「了解です。バフはかけないので、そのつもりで」


「分かった」


 マーギンはバンっとファイアボールを打ち上げ、マンモー達の注意をこちらに向ける。そして、魔法で周囲を照らした。


 ザッと、マンモーの注意がこちらに向く。そしてレーキもその隙を突いたのか、こちらを敵と見なしたのか分からないが、ガッとこっちに突進してきた。


「レーキは俺に任せて、マンモーをやってください」


 そう伝えると、大隊長とオルターネンはマンモーに向かってダッシュ。マーギンは特大レーキにファイアバレットを乱れ撃つ。


 ジュジュジュと水蒸気をあげながら向かって来るレーキ。


 《プロテクション!》


 とりあえずレーキをプロテクションで包んでから、二人のうしろに付いてホバー移動。


 《スリップ!》


 先頭のマンモーをスリップでこかせて、群れのダッシュを止める。


「ふうんっ!」


 大隊長がヴィコーレを振り回して、竜巻のような風を出し、マンモーが怯んだ隙にオルターネンが斬り込んだ。


 ブシャシャシャッ!


 オルターネンはコケたマンモーを素通りして、他のマンモーの腹の下に潜り込んで斬り裂いていく。大隊長はコケたマンモーの頭を砕いた。


 《スリップ!》《スリップ!》《スリップ!》


 大隊長に攻撃しようとするマンモーをこかせ、大隊長がそれを狩る。そして、その隙に他のマンモーをオルターネンが狩るというパターンがはまり、どんどんと倒していく。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ、終わったか?」


 血塗れになったオルターネンが肩で息をしながら、殲滅したかを確認する。


「お疲れ様。もう終わりだね」


 マーギンがそう答えると、膝を付いた。


「ほら、しっかりしろ」


 大隊長がオルターネンの手を取って立たせ、肩を貸した。


「申し訳ありません」


「体力、魔力、どちらが切れた?」


「多分両方ですかね。マンモーは集中してないと斬れなかったものですから」 


「そうか。良くやった。見事な動きだったぞ」


「ありがとうございます」


「マーギン、お前一人ならどうやって倒すつもりだったのだ?」


「ここは湖の上ですからね。こうするつもりだったんですよ」


 プロテクション階段を出し、湖の上から退避。そして、


 《フェニックス!》


 炎の鳥が炎の雨を降らせていく。あまり高温にすると水蒸気爆発を引き起こすかもしれないので、マーギンは少し温度を下げた。


 ブワッ。


 極寒の吹雪だった湖の上が蒸し暑くなっていく。マーギン達はその場から距離を取って、温度を上げつつ湖の氷を溶かした。


 パキッ、パキパキパキ。ドバッチャーン。


 薄くなった氷が割れ、マンモーの死体は湖に落ち、レーキを包んでいたプロテクションを解除して、狙い撃っておいた。


「はい、完了です」


 今の様子を見ていたオルターネンは悔しそうな顔をする。


「お前、ズルいぞ」


 と、オルターネンが言うと、


「ちい兄様もフェニックス覚える?」


 と、マーギンは笑って答えたのであった。



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― 新着の感想 ―
レーキがどうしても脳内でトンボになる(*・ω・) あ…昆虫のトンボじゃなくて土木の…グラウンド整備とかに使う… 冷亀なんやろけど(*・ω・)
巨大レーキ、足から吹雪を出して飛んだり全部を引っ込めて回転して空を飛んで欲しかった
しかしアイリス、これだけ役に立つようになったのに勇者グループの誰ともカブらないってのはおかしいよな……? アイリス……魔法使い……!……まさか、ね?
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