働く車は男心をくすぐる
パーティーが開始されると、続々と貴族達が挨拶に来る。顔見知り以外誰も覚えられない。
「マーギン陛下、いつぞやは大変失礼を致しました」
若い貴族にそう挨拶されたが、誰だこいつ? という顔をするマーギン。
「以前、社交会で料理を振る舞われておられましたよね? そのときにお叱りを受けたものでございます」
「あー、そんなことあったけな。悪いけど、あんまり覚えてないわ」
「さすが、王になられるお方でございます。私のような者が無礼を働いたことをお許しくださっているとは」
いや、覚えてないんだってば。
こんなやり取りがあったり、あわよくば娘を第二王妃や第三王妃にと売り込みに来る親とかがたくさんいた。権威とは恐ろしいものだ。
「マーギン、売り込む魔道具のデモンストレーションとやらはいつやるのじゃ?」
「ここでは無理なので、庭でやりたいんですけど」
「それならば先にやった方がいいと思うぞ。話を聞きたい者もいるじゃろう」
パーティーの最後の方にデモンストレーションをやると、パーティがいつまでも終わらないだろうとのこと。ということで、興味のある人は庭へどうぞと言うと、全員付いてきた。
外はかなり寒いので、パーティー用の服だと震えている貴族達。これだと話を聞くどころじゃないな。
《プロテクション!》
全員をプロテクションで包み、ゴーッと温風を出して温める。
「えー、では、これからノウブシルクの主力産業となる、大型魔道具をご覧いただきたいと思います」
でんっ。
アイテムボックスからショベルカーを出したマーギン。やりたい放題である。
ざわざわざわざわ。
「これは穴を掘ったり、切り株を掘り起こしたりするのに使える魔道具です」
マーギンはショベルカーに乗り込み、ウィーンと動かしてみせる。
「おぉー。これは凄い」
ショベルカーが動くだけで歓声が上がる。
「こいつで、こうやると」
ガガガガガと穴を掘り、土を横に避けて見せた。
「このように、人が掘るよりもずっと早く掘ることができます。この魔道具以外にも土を運んだり、均したりする魔道具もあります。これらを鋭意生産中ですので、いずれ輸出していく予定です」
「これはいかほどのお値段になるのでしょうか」
「まだ値段は決めていないですが、1台当たり、1億Gとか……」
「予約を、予約をいたしますぞ!」
「私も、私も予約をしますぞ」
あんたら、ショベルカーを何に使うつもりだ? 買っても使う場所ないだろ、とマーギンは思う。領地持ちの貴族なら分かるけど。
「まだいつ販売できるか分からないので……」
「私が先に予約を申し出たのだ」
「いや、私の方が早かった。私を一番に」
「うちは2億G払いますので、一番に納品を!」
「それならばこちらは3億G出しますぞ」
勝手に揉め始める貴族達。どうやら、働く車は貴族連中の男心をくすぐったらしい。
わーわーと収まりが付きそうにないので、プロテクションを解除した。
ヒュオォォ。
途端に寒風が吹き荒れて騒ぎが収まった。
室内に戻って、パーティーの続きが始まると、どわっと貴族が寄ってくる。そしてもみくちゃにされそうになる。
「皆様、ノウブシルク王に対して失礼ですぞ」
と、大隊長が割って入ってくれた。
「大隊長、ありがとう」
「お前がイラッとしてやらかしそうだからな」
やらかすってなんだよ? さすがにここでは何もせんぞ。
「えー、皆様。先ほどお見せした魔道具はまだ輸出できるほど生産体制が整っておりません。まずはシュベタインとゴルドバーンを繋ぐ街道整備に使用します。その後、輸出を予定しておりますので、輸出が決まりしだいご連絡致します」
「陛下、どちらに問い合わせをすればよろしいのでしょうか?」
問い合わせ先か。
「ハンナリー商会にお願いいたします」
ビタンッ。
ほっぺたにモンゴリアンビンタを食らったような衝撃を感じる。
「痛てててて」
「いかがなさいましたか?」
「い、いや別に」
「ハンナリー商会が問い合わせ先ですと、ケルニー伯爵邸のサロンで良いのですね?」
「あ、はい」
こうして大隊長も無事に巻き込まれた。大変だな大隊長。
そのあとは、オルターネンもこちらに来て、マーギンを守るような体制を組んでくれる。
「ちい兄様、ローズが婚約者みたいに見えちゃってごめんね。王妃様にハメられたわ」
「かまわん。ローズは誰とも結婚しないと言ったのだ。今さらだ」
「でもさぁ」
と、マーギンは頭をポリポリと掻く。
「気に病むなら責任をとってやれ。姫様がいたが、お似合いだったと思うぞ」
そう言われたマーギンは返答に困る。
「マーギン、王妃様がハメたとか言うな」
と、次は大隊長から怒られる。
「だってさ、王妃様がパートナーになれば問題ないって言ったんだよ?」
「俺がせっかくお膳立てしておいたのに、誰も選ばんからだ。あの場で一人で入ってきてみろ。縁談の話が死ぬほどきて収拾がつかなくなっただろうが。だから王妃様は姫様をパートナーとされたのだ。そのお陰で姫様が相手では第一王妃は無理だと皆も理解しただろう」
そういう意図だったのか……
「でもカタリーナが婚約者と思われたら、カタリーナの立場がまずくなるじゃんかよ」
「そんなことは知らん。お前が撒いた種だ。責任を問われてもどうにもしてやれん」
なんて冷たいことを言うのだ?
「マーギンっ、話は済んだ?」
貴族のご令嬢達がマーギンに近付こうとした瞬間を狙ったカタリーナ。
「まぁな。お前、俺の婚約者だと間違われたぞ」
「別にいいわよ」
「お前なぁ……」
「私とローズをもらえばいいじゃない」
「軽々しくそんなことを言うな」
「えー、そこは、ばっ、ばか、よせよ。とかやってくれないと。ねー、ローズ」
「なんで俺が青春ドラマみたいなことをやらにゃならんのだ? それにローズを巻き込むな」
「マーギン、私のことは気にしないでいい。別に誰にどう思われてもかまわんのだ」
ローズも気にしないと言う。
「えっ、あ、うん」
こうして、男貴族からは大隊長とオルターネンが、女性貴族からはカタリーナとローズがマーギンを守り、パーティーは無事に終わったのだった。
「王妃様、酷いじゃないですか」
パーティーが終わったあと、王家のプライベートダイニングで食事をご馳走になりながら、今日の話をする。
「でも楽しかったでしょう?」
「カタリーナが俺の婚約者だと誤解されましたよ」
「問題ありませんわ。誤解があろうとなかろうと、王族は恋愛で結婚するわけではありませんもの。国のため、理由はこれだけですわ」
まぁ、そうなのかもしれんが。
「ねー、マーギン。今日はうちに泊まるの?」
城を普通の家みたいに言うカタリーナ。
「家に帰る。さすがに疲れたからな」
「じゃ、私も行こうっと」
「なんでだよ? 一人でゆっくりしたいんだよ」
「えーっ」
「えー、じゃありません。なんでお前はいちいち、うちに来ようとするんだ」
「だって……」
と、不貞腐れたような顔をする。
「バネッサとかアイリスとかいつもいるじゃない」
確かに。
「だから私も行きたい」
カタリーナは一人で広くて大きな部屋にいるより、狭いマーギンの家でワチャワチャしているのが好きなようだ。
「でも今日はダメだ。慣れないパーティーで疲れてんだよ」
「もーっ!」
それに王様が凄い顔でこっちを見てるのを気付けよ。
王様とはショベルカーやブルドーザーを街道の宿場街や休憩所を作るのに提供することを約束し、すぐにでも取り掛かるようなスケジュールになった。
はぁ、疲れた……と家に帰るとアイリスとバネッサがいた。
「お帰りなさい、あなた。ハンバーグにします? それとも先にハンバーグにしますか?」
「お前、どこでそんなことを覚えてきたんだ? それに選択肢がハンバーグしかないじゃないか」
「ダーリンの方が良かったですか?」
「だから、誰にそんなことを教えてもらったんだ?」
「軍人さん達が誰もいない部屋に戻ると途端に淋しくなるって言ってたんです。それで、こんな風に奥さんが待っててくれるのが夢なんですって」
「俺はそんなことを望んでない」
「えー、喜んでくれるって言われたのに」
それは人による。
「マーギン、ほら見ろよ」
次はバネッサがヒールを履くのを練習したようで、ガクガクと震えることなく立っているのを見せてきた。
「おー、ずいぶんと成長したな」
「もうへっちゃらだぜ」
と、リビングをハンター服とヒールでモデルウォーキングするバネッサ。
靴のままリビングを歩くな。俺がそこで寝るハメになるんだぞ。
「な、これでもうドレスを着てもへっちゃらだぜ」
次に着る機会があるかのかお前?
「へへっ、こんなこともできるようになったぜ!」
次はヒールを軸にしてくるくると回る。
ボキッ。
「うわっ!」
ヒールが折れて、コケそうになりマーギンに抱きとめられたバネッサ。
「お前なぁ。そんなことをしたら折れるに決まってるだろうが」
「わっ、わりぃ」
マーギンに抱きしめられるような格好になり、赤くなるバネッサ。
バンッ。
そのときにいきなり玄関の扉が開いた。
「あー、やっぱりバネッサといちゃいちゃしてる。私と婚約したくせに」
「マーギンさん、姫様と婚約したんですか?」
「してません。カタリーナも嘘を広めるな」
「マーギン、すまない。姫様が城を抜け出したと聞いて追いかけてきた」
少し遅れてローズもやってきた。パジャマにコートを羽織っただけの姿だ。
「お前、一人で抜け出してきたのか?」
「うん。ローズ、もう任務終わりで良かったのに」
「そんなわけには参りません。戻りますよ」
「手紙置いてきたからヘーキ。ローズはそんな格好で走ってきたの?」
ローズはマーギンが城で食事をしているときにはもう任務が終わって宿舎に戻っていたのだ。
「着替えはマジックバッグに入ってます。着替えたら、戻りますよ」
「ちょうどいいから、そのまま泊まればいいじゃない」
「姫様っ! 私はそんなつもりで追いかけてきたのではありません」
はぁ、まったく。
「手紙は置いてきたんだな?」
と、マーギンがカタリーナに確認をする。
「うん。お母様にも声を掛けてきたよ」
「えっ? 姫様がいなくなったと私に連絡が来たのは?」
「ローズも行きなさいってことじゃないの? だから泊まればいいのよ」
と、家主の許可は誰にも出してないのに、全員が泊まることになるのであった。




