マーギンのパートナーは?
「それ、うちが焼いてたカニだろうが」
「早いもん勝ちだ」
「てんめぇ!」
毎度のごとく、バネッサとカザフの意地汚いバトル。
「へぇ、タジキもそういう服を着ると、貴族みたいになるのね。それにずいぶんと大人っぽく見えるし」
「リッカも女の人らしくなってきたよな」
「どこ見てんのよスケベ!」
大将の料理を手伝っていたタジキは、大将のところの息子みたいになってる。
「姫様、カニ剥いてあげようか?」
「うん」
トルクは結構カタリーナの面倒を見ていることが多い。儀式会場でもすぐに守りに行ってたからな。
オルターネンはロッカと何やらゴニョゴニョ言ってるし、ホープはシスコと、サリドンはローズと、ノイエクスはアイリスと喋ってる。
「なんや、マーギン食べへんのかいな?」
一人でうーんと悩んでいたマーギンのところにハンナリーがやってきた。
「軍人達はこなかったのか?」
「誰か連れてきたら、ようけ呼ばなあかんやろ? そやから、今日はうちだけや」
「そうか。今日はここの準備をしててくれたんだってな。カザフ達のためにありがとう」
「そんなお礼言わんでええって。うちのときはマーギンがちゃんとしてくれたやん。あれホンマに嬉しかってんで」
「そうか。それなら良かった」
「そやかて、早いもんやなぁ。あれから2年経つねんなぁ」
「そうだな。お前もずいぶんと偉いさんになったな。見た目は変わってないけど」
「なんやねんそれ。うちかて結構大人になってきてるやんか」
ハンナリーは獣人ではないが、獣人の血が出てるのか、見た目の変化が少ない。もっと歳を取れば毛艶とか落ちるのかな? と、ハンナリーの頭をクシャクシャと撫でる。
「なっ、何?」
いきなり頭を撫でられたハンナリーは驚く。
「いや、猫っ毛だなと思って」
「猫ちゃうわ!」
と、怒るハンナリー。
「ところで、お前、誰かいい人できたか?」
「なんでそんなん聞くん?」
「明後日、パーティーがあってな、誰かパートナーを連れていかないとダメなんだよ。お前、パートナーとしてパーティーに出てくれないか?」
「別にかまへんけど、なんでうちにいい人できたか聞いたん?」
「他の人に俺の婚約者だと思われるからだ」
「えっ? うちがマーギンの婚約者になるんかいな」
「と、思われるだけだ。お前に求婚したわけじゃない」
と、マーギンが言ってるのを聞いてないハンナリー。
「えーっ、どうしよっかなぁ。うちがマーギンのお嫁さんになるんやろぉ。なんや、マーギン、うちのことそんな風に見てたんかいなぁ」
と、ほっぺに手を当てて、くねくねしはじめる。
「誰が嫁にすると言った。そう勘違いされるだけだ」
マーギンは少し怒り気味だ。
「冗談や。ちゃんと聞こえてる。そんな言い方しなや。別にええ人がいるわけちゃうけど、マーギン相手に誤解されたら困るかなぁ」
「ん?」
「いやな、他の人と誤解されるんやったらええねんけど、相手がマーギンやったらあかんかな」
「どういう意味だ?」
「相手がマーギンやったら身を引くと思うねん。他の人やったら戦うてくれると思うんやけど」
どうやらハンナリーは、お互い気になる人がいるようだ。それも俺のことを知ってる人。というか軍人の誰かだろう。
「それならやめとけ。別に無理矢理パートナーになってくれと言ったわけじゃない」
「マーギンはローズのことが好きなんちゃうん? ローズにパートナーのこと頼めばええやん。ローズもまんざらやないと思うで」
「だから、婚約者とまちがわれるといっただろ? それも貴族連中にだ。ローズが嫁にいけなくなったらどうすんだよ」
「あんたが責任取ったったらええやん。今は庶民やのうて王様なんやろ? 貴族のローズでも棚ぼたやんか」
「あのなぁ。俺は結婚とかできるようなやつじゃないんだよ。いつどうなるか分かんないし、王をやるのもあと少しだからな」
「そうなん? いつどうなるか分からんのはここにいる全員そうちゃうん。 特務隊なんて危険な仕事してんねんから」
マーギンは自分がコピー体であること、魔王を倒したあと、どうなるのか分からないことを言えずに、そうだな、としか答えられないのであった。
「成人おめでとう。これは隊長と私からだ」
ハンナリーと話し込んでいる間に、成人のプレゼントが始まった。
「うわっ、すっげぇ。いいのか?」
カザフがもらったのは短剣。今使っているのより少し長いものだ。
「背が伸びた分、その方が使い勝手がいいだろう」
タジキは分厚いナタみたいな剣。トルクはロングソードだった。
「全部、皮鉄に魔鉄が使われているぞ」
「すっげぇ!」
3人は大喜びだ。
「ロッカ、魔鉄は足りたのか?」
「前にお前がくれたやつが結構あっただろ。それを使わせてもらった」
「そうか。なら、まだ持ってるから、親父さんにまた持っていくわ」
「いいのか?」
「俺が持ってても、使い道がないからな」
他にもみんなから色々とプレゼントをもらっていた。
「俺からはお前らに魔法をやる。何が欲しいか考えとけ」
「やったぁぁぁ!」
家に戻ってから、好きな魔法をやると言ったら大喜びするガキ……いや、3人。 何を選ぶか楽しみだ。
「俺からはこのワインだ」
大隊長からはカザフ達が生まれたであろう年に作られたワインをプレゼントしてくれた。
「お前ら、いい物もらったな」
「これ凄いワインなのか?」
「多分、自分の子供が生まれた年のワインをプレゼントするのと同じ意味だと思うぞ」
「えっ?」
「マーギン、余計なことを言わなくていい」
マーギンに説明させて照れる大隊長。
「大隊長……」
「うちは子供がおらんからな。その代わりだ」
カザフ達に親はいないが、親の代わりになってくれたマーギンと大隊長にぎゅっと抱きついた。
「明日から、一人前としてしごくぞ。覚悟はいいか?」
「うんっ!」
マーギンと大隊長、それに大将と女将さん。みんな我が子のようにカザフ達の成長を喜んだのであった。
宴会も終わりかけたころ、カタリーナが話し掛けてきた。
「マーギン、明日お母様が来てほしいって」
「明後日パーティーで会うぞ」
「多分、そのことじゃない?」
「分かった。何時頃に行けばいいんだ?」
「午前中がいいって」
「分かった」
と、約束をして、カザフ達を連れて帰ろうとすると、当然のようにアイリスとバネッサが付いてくる。
「みんな行くの? じゃ、私も行こうっと」
カタリーナも来ようとする。
「姫様、こんなにたくさんで押しかけたら、寝る場所がないですよ。帰りましょう」
「えーっ」
「いけません。ほら、みんなと帰りますからね」
と、ローズに阻止されて連れていかれた。
家に着いてから、3人になんの魔法がいいか聞いてみる。
「俺は暗視魔法がいい」
カザフは暗視魔法、タジキは解体魔法、トルクは洗浄魔法を選んだ。
「誰も戦闘系の魔法を選ばないんだな」
「攻撃魔法でもいいのか?」
カザフ達は攻撃魔法はダメだと思っていたようだ。
「別にいいぞ。それぞれ適正の高い魔法を使えるようにしてやる」
カザフには風魔法、タジキは土魔法、トルクはどうするか悩んでいると、
「僕は洗浄魔法だけでいいよ。見えない手が使えるからー」
「そうか。お前なら他にも自分で使えるようになるかもしれんからな。その方がいいかもしれん」
こうして、カザフ達にも魔法を付与して、3人は成人したのであった。
バネッサがソファで寝るので、マーギンはコタツを出してコタツムリになる。
「なぁ、マーギン」
さぁ寝ようかと思ったときにバネッサが話し掛けてくる。
「なんだ?」
「カザフはうちより強くなんのかな?」
「どうしてそう思った?」
「風魔法を教えてたろ? あれを使えば速く走れるじゃんかよ。それにオスクリタがなくても、クナイとか風魔法で操作できるんじゃねーの?」
「風魔法で、お前が操るオスクリタみたいにするのは無理だな。風魔法は難しいから、走るスピードを上げるとかになると思うぞ」
「ならいいけどよ。じゃお休み」
「お休み」
バネッサはカザフに抜かれることを心配したようだが、抜くとしてももっとあとだ。バネッサの肉体的なピークが過ぎるころにカザフは全盛期を迎えるだろう。
そんなことを考えながら寝たマーギン。
うーん、うーん……
明け方にアイリスとバネッサがコタツに入ってきて、足を乗せられているマーギンなのであった。