どうする?
年内でやらねばならないことを終えたマーギンはキツネ目と打ち合わせをしていた。
「王子のヘルメニスと話がしたい。もう歩けるようになってるんだろ?」
「かしこまりました」
マーギンはキツネ目と共に元第二王子、ヘルメニスの所へと向かった。
「陛下、わざわざお越しくださりありがとうございます」
「ずいぶんと顔色も良くなったな。もう大丈夫そうか?」
「お陰様で。窮屈ではありますが、穏やかな日々を過ごさせていただいております」
と、ヘルメニスは微笑んだ。
「その穏やかな生活も年内で終わりだ」
「と、申されますと?」
「お前、ここの王をやれ。北の街の住民達の避難は完了し、防衛のための対策も済んだ。開拓地はまだ建設ラッシュが続いているが、騎士団長の奮闘もあり順調に進んでいる。今のところ、大きな問題は出てない」
「はい、そのように報告を受けております。この短期間に国が変わっていくのは脅威的でございます」
「あとは内部のゴタゴタを抑えていけば、国も落ち着くだろう。俺にはそういった能力がないから、お前にバトンタッチだ」
「なりません。私が王になればまた国がゴタゴタします。私には力がないのです」
ヘルメニスは自分には無理だと言って、王になるのを拒否する。
「お前が王にならないならならないで別にいいけどな。俺は、春になれば自分がやらないといけないことをやるぞ。そうなりゃ、ノウブシルクは王不在になり、もっと荒れるからな」
と、マーギンは王を降りる前提での話をした。もうこれは決定なのだと。
「陛下……」
「年明けに俺はシュベタインに行く。シュベタイン王と話をする予定だ。内容はシュベタイン、ノウブシルク、ウエサンプトン、ゴルドバーンの4大国が共同で街道整備をすることについてだ。ノウブシルクとシュベタイン間の街道は閉鎖。陸路はその街道を使うことになる」
「シュベタインとの街道を閉鎖するのは、戦争にならないようにですか?」
「いや、魔物の脅威が増すからだ。人が通れなくなるというより、魔物を侵入させないためだな」
「そこまでになりますか?」
「なる。と言うかなってる。北の街より北側はすでに滅びただろ? 同じ状況がどんどん南下してくるはずだ。ノウブシルクはそれ以上南下させないように王都で食い止める。そのうち王都の移転も考えないとダメになるかもしれん。今のノウブシルクが置かれているのはこういう現状だ」
「そんなときに陛下はいなくなるとおっしゃるのですか」
「俺はノウブシルクの人間じゃないからな。ノウブシルクのことはノウブシルクの人間がやらないとダメだ。俺がやったのは、ここの人達だけではどうしようもないところを手伝っただけに過ぎない。お前も王族だったんなら、前王達がやらかした後始末をしろ」
後始末をしろと言われて、ヘルメニスは黙る。そして……
「かしこまりました。謹んで王代行をさせていただきます」
「代行だと?」
「はい。実務はさせていただきます。しかし、陛下が王として君臨されているからこその現状です。実権はそのまま陛下が握っていてください。そのほうが他国も安心でしょう」
「そこが落としどころか?」
「はい。ノウブシルクには陛下がおられる。それだけで国が落ち着きます」
これはこのまま恐怖の対象として国を抑え付けておけとの意味だろう。
「分かった。では、年明けにヘルメニス王代行として告知する。式典はやらんぞ」
「はい」
こうして、年明けになると同時にヘルメニスをノウブシルク王代行として知らしめたのであった。
「マーギンが帰ってきたーっ!」
真っ先にマーギンを見付けたのはトルク。気配を察知する能力がかなり上がったみたいだ。
「明日が成人の儀だったな。間に合って良かった」
「うん。絶対に帰ってきてくれると思ってたから大丈夫」
そして、カザフとタジキも大隊長とやってくる。
「もう少し、余裕を持って戻ってこんか」
と、大隊長に叱られる。
「スイマセン。これでも急いだんですけどね。寒くて寒くて」
ホバー移動で戻ってきたマーギンは凍えて死にそうだったと説明する。
「今年の冬は更に寒いからな。北の領地も雪で埋もれかけている」
「魔物はどうです?」
「雪が来る前に大討伐をしたから、今のところは問題ない。今のところはな」
と、大隊長が嫌な言い方をする。
「何か心配ごとが?」
「ノウブシルク側はどうだ?」
「どうでしょうね? 王都周辺は落ち着いてますが、寒さが厳しいですね。寒すぎて雪が少ないぐらいです」
「今年は北の領地にある湖の氷がかなり厚くなってるはずだ。ノウブシルク側から大型魔物が渡ってくるんじゃないかと思ってな」
「マンモーとかですか。それより黒い魔狼が来たらまずいですね。成人の儀が終わったら見に行きますよ」
「それより王との会談が先だ。お前をノウブシルク王として国賓で迎える予定になっている」
「嘘でしょ? そんなのいいですよ」
「ダメだ。シュベタインは街道に多額の資金を投入するのだ。それなりのイベントがないと他の貴族の理解が得られん」
一気に気が重くなるマーギン。ヘルメニスを連れてくるんだったと後悔した。
「で、今日はうちに泊まれ。カザフ達の準備をうちでして、そのまま会場に向かう」
「うちのほうが近いですよ?」
「庶民の会場ではない。貴族街の会場に行くのだ」
「は? カザフ達は庶民ですよ」
「ノウブシルクの王が参列するのだ。当然だろう」
こうして、マーギンは連行されるように大隊長の屋敷に行くことに。
「ずいぶんと賑やかですね」
「ハンナリー商会のサロンが人気でな。お陰でご婦人達だらけだ」
どうやら、大隊長はご婦人だらけの屋敷で居心地が悪いらしい。
応接室で飲みながらノウブシルク王の代行を任せる話をする。
「そうか。元々の王族に代行をやらせるのか。その方がいいかもしれんな」
「本当は王をやれと言ったんですけどね」
「ま、お前が存在するというだけで反勢力の牽制になるからな。今は代行の方がいいと俺も思う」
カザフ達は明日のことがあるので早めに寝かせ、二人はもう少し飲む。
「で、国賓としてお前を迎える件だがな、パートナーはどうする?」
「パートナー?」
「そうだ。会談のあとパーティーもある。そのときに、誰かにパートナーを務めてもらう必要がある」
「あ、あの……パートナーって、どういう意味ですかね?」
「妃のいない王は初めてのことだから、お前に誰がいいか聞いているのだ。本来は第一王妃をパートナーとして連れてくる。年若く王になったのであれば母親でもいいのだがな。お前はどちらも当てはまらん。最悪、姉や妹などの親族になるだろうが、それもおらんだろ」
「あの……ということは……」
「体裁的には婚約者ということになるだろうな。王妃様はカタリーナ姫様を推しておられたが、俺が止めている。それとも姫様でいいか?」
「い、いや。止めていただいてありがとうございます」
「当然のことだ。シュベタインの貴族の前でパートナーに姫様を連れていたら、婚約が確定する。他の者なら婚約者と紹介しない限り、あとから何とでもなる。誰をパートナーに選ぶか決めておいてくれ」
「……」
どうする、マーギン?
マーギンは自分にそう聞くのであった。