これからやること
フェニックスで森を焼き尽くしたことで、逃げ出した魔物がうようよと出てきた。
「軍人達は住民達の盾になれ。大隊長、列の反対側をお願いします」
大隊長はカザフ達を連れてオルターネンと反対側の防衛を担う。こちらはバネッサとロッカが対応する。
魔物の大群が出てきたことで、恐怖に固まった北の街の住民達。
しかし、オルターネン達と大隊長達がバッサバッサと魔狼を倒す姿を見て誰かが勇者だと声を上げた。
「勇者様だ。勇者達が俺達を助けに来てくれだんだ」
うぉぉぉぉ!
恐怖から熱狂に変わる住民達。
その一方、マーギンの隣に来たアイリス。
「燃え上がれー、燃え上がれー、燃え上がれ魔狼」
と、歌いながら、ファイアボールで魔狼を燃やしていく。
「ファイアボールじゃなく、ファイアバレットで撃ち抜け。燃えたままみんなのところに行ったらどうする」
「それもそうですねぇ。では、魔狼よ、我が業火の贄となり燃え尽きろ!」
《インフェルノ!》
ゴォォォォ。
お前、いつからそんな風になったんだ?
マーギンは少し引きつつも、負けじと魔狼をファイアバレットで撃ち抜く。撃ち出されたファイアバレットが青白い閃光を放ち、撃たれた魔狼が蒸発するように消えていく。
「魔王とその配下だ……」
その様子を見ていた住民達達からどんどんと、恐怖の対象となっていくマーギンとアイリス。
「大隊長、グロロが来た!」
向こうから来るグロロを発見したカザフ。下手に攻撃をすると、毒を撒かれてしまう。
「俺がやろう」
大隊長がずいっと前に出て、ヴィコーレを構えた。
「フンフンフンっ、フーーン!」
グロロに向かってダッシュし、ヴィコーレをブンブンと振り回して顎から上へと撃ち抜いた。
強烈な一撃を食らったグロロの頭が砕けて身体ごと跳ね上がる。そこに竜巻のような風ではるか上空まで飛ばされた。
おぉー。
湧き上がる住民達。
ドシャッ。
すでに無惨な姿になったグロロが落ちてきた。
「うむ、毒は出せないようだな」
住民達から凄い凄いと拍手が飛ぶ。その反対側では、バネッサがオスクリタで魔狼を誘導し、ロッカがぷちゃっとし、オルターネンが華麗に斬っていく。こちらは女性から黄色声が飛んでいた。
「マーギンさん、まだまだ出てきますね」
「そうだな。焼き足らなかったかな? こっちまで燃え広がらないようにしたのがまずかったのかもしれん」
フェニックスでやると、街まで影響しかけないと思ったのがまずかったようだ。
「街の向こう側に行きます?」
「そうだな。プロテクションステップに乗って、上からやるか」
「はい」
マーギンとアイリスはプロテクションステップをトントンと登っていく。そして、そのまま空中を歩いて行った。
「ファイアウォール」
アイリスが炎の壁を出し、魔物が住民達の方にいかないようにし、マーギンがファイアバレットでサクサクと撃ち抜いて、魔物の討伐が完了したのだった。
「お疲れ。しばらくは出てこないと思うよ」
みんなのところに戻ってきたマーギンとアイリス。
ビクッ。
住民達はマーギンが来たことで怯えた。
「マーギンさん、足に力が入りません」
「そんなに走ってないだろ?」
「でもフラフラします」
アイリスの顔を見ると、甘えや冗談ではなさそうなので、チラッと鑑定すると、アイリスは魔力切れになっていた。あのファイアウォールで魔力を一気に持っていかれたのか。しょうがない。
「乗れ」
「はい!」
マーギンの背中にぴょんと飛び乗ったアイリスはそのまま寝てしまった。
こうして、アイリスは住民達に魔王の配下ではなく、魔王の娘として認定されたのだった。
無事王都に辿り着いたあとは騎士と衛兵にバトンタッチ。北の街の住人はしばらく王都の空き貴族邸で休んでから、開拓地に行くことになる。
「マーギン、これでしばらく北側の魔物退治は必要なくなるな」
「そうだね、ちい兄様」
「お前はこれから何をする予定だ?」
「開拓の手伝いと街道の改善をやろうかと思ってる」
「街道の改善?」
マーギンは大隊長から街道のことを説明してもらった。
「で、お前は何を改善するんだ?」
「壁の基礎作りと水場を作ろうかと思ってる」
「井戸でも掘るのか?」
「水脈が見つかるかどうか分からないから、魔道具でなんとかしようかと思ってる」
「魔道具?」
「そう。魔道具を置いといて、水が欲しい人は魔石か魔結晶をセットしたら水が出るようにすればいいかなって。魔石や魔結晶の管理をするのは面倒だし、自分の魔石を使ってもらえば、必要以上に水を使わないでしょ」
「なるほどな。しかし、結構な数が必要になるんじゃないか?」
「どれぐらい必要だろうね?」
「そんなの俺に分かるか」
「マーギン、どれぐらいの規模の休憩所にするかによるな。中間の宿場町は全部の店と街中にいくつも必要だろう。お前がそれを作ってる暇があるのか?」
「街にまでなるようなら別に考えますよ。休憩所や街はシュベタインとゴルドバーンの管轄になるでしょうけど、ノウブシルクもいっちょ噛みしておいた方がいいかなって」
「ならばウエサンプトンにも声を掛けろ。中間の街は各国が出資して、共同の街にしてしまえ。そうすれば実現も早まる」
「ウエサンプトンにはメリットないでしょ? ノウブシルクはもっとメリットないですけど」
「ノウブシルクが参加するならば、ウエサンプトンも出資するだろう。大国4カ国のうち、3カ国が参加するのだ。1カ国だけ参加しないわけにはいかんだろうからな」
そして、街道の街が各国の協議を行う場所として使えないかとか、レジャー的なもので人を呼び込めないか等、話が進んでいく。
「なんの話をしてんだよ?」
「シュベタインとゴルドバーンをつなぐ街道に宿場町があればいいんじゃないかって話をしてただろ? ただ泊まるだけじゃなくて、街として魅力をもたせたら、発展するんじゃないかと話してたんだよ」
「そんな話をしてやがったのか。それならやっぱ、美味い飯と酒じゃねーか」
「そんなのどこの国でもあるだろ?」
「そこの街でしか味わえないようなものとかさ、お前がタイベでやってんのがそんな感じだろ?」
「あれは、タイベに美味くて安いものがあるからだよ。街道にはなんにもないんだぞ」
「そっか」
「ねーねー、混ざっていいんだったら私も参加したい」
バネッサが話に加わったことで、カタリーナも参戦。そして、他のみんなも話に加わった。
「各国自慢の武器屋が集まる街とかどうだ?」
鍛冶屋の娘、ロッカの提案。
「それ、いいかもな」
「だろ? 親父来るかな?」
来ないだろ。シュベタインで成功してるのに。
「マーギンさん。ハンバーグの街にしましょう。世界中のありとあらゆるハンバーグが食べられる街になればいいと思います」
「ハンバーグにそんなに種類ないだろ。しかし、名物料理があるというのは魅力の一つになるな」
「マーギンさん、大忙しですね」
なぜ俺が宿場町でハンバーグ屋をやらにゃならんのだ。
「マーギン、なんか遊べるようなものがあったらいいんじゃねーか?」
と、カザフ達。
「どんな遊びだ?」
「プロテクションスライダーとか」
「滑り台みたいなものか。大人が遊ぶか?」
「俺達は遊ぶぜ。空飛んでるみたいな気になるじゃん」
「プロテクションスライダーは無理だ。俺の他に誰ができるんだよ?」
「マーギン、大変だな」
と、カザフ達が頷く。
これ、言われた方は嫌な気持ちになるんだな……
「空飛ぶような気持ちか。それなら、ジップラインとかいいかもな」
ジップラインとはなんだと聞かれたので、説明しておく。
「それ作ってくれよ」
「どこにだよ?」
「ここに」
「却下だ」
「えー」
しかし、ジップラインはいいかもしれない。大人でも遊ぶ人が出てくるだろうし、建設費用も少ない。
「ねーねー、花が溢れる街とかは?」
「花?」
「そう。ローズガーデンとか。お庭に植えてる人が多いから、素敵なローズガーデンがあれば見に来るかもよ」
と、カタリーナからは金持ちを呼ぶための提案。
「ちゃんと咲くのか?」
「知らないけど、温室とか作ればいいんじゃない? ガーデン全部が温室になってたら凄いわね」
あの板ガラスがあれば作れるかもしれんな。
「他はなんかあるか?」
「ゆくゆくはコンサートとか劇とか、他の国のも観れたらいいんじゃないかな。ここに来たら、世界のものが観れますよって」
「なるほどな。街が発展したらそういうのもありだな」
続きは飯を食いながらするかとなり、食べて飲んでしながら、マーギン達はワイワイと楽しく話したのであった。