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気兼ねなくやる

「住民達の避難はこちらの準備が整うまで待て」


 すぐに避難できる者から先に避難させようとした軍人達を止めるオルターネン。


「すぐにでも避難を開始した方がいいのではないですか?」


「今の戦力では住民を守りきれない可能性が高い」


 魔物に殺されては元も子もないと説明したオルターネンは、王都にバネッサとアイリスを呼びに向かった。


 ◆◆◆ 


「うわっ。なんか身体に巻き付いてきた」


「慌てるな。それは魔木の一種だ。タジキ、巻き付いている蔓を切れ」


 カザフに巻き付いた蔓をタジキが切っていく。


「この葉っぱをよく覚えておけ。これを踏むと足から絡めとられる。身体まで巻き付かれたら自分ではどうしようもなくなるからな」


「こんな草があるのかよ」


「どちらかと言うと、タイベとか暖かい地域に多いんだけど、この辺りに生えててもおかしくはないな」


「集中して気配探ってたのに」


 先頭で気配を探りながら進んでいたカザフはまた危険な目にあってしまったことを悔しがる。


「忘れたか? 植物系と爬虫類系は気配がない。特に植物系はまったく気配がないからな。目、耳、それと違和感というか、勘を磨く必要がある。これは経験して覚えていくしかない。斥候役は特にな」


「うん」


 マーギンはカザフ達の経験値を上げるために、わざとヤバそうなところを選んで進んでいた。通常、人が入りこまない場所に入ると、これ幸いと様々な魔物が襲ってくる。


「魔木にも色々と種類があるのだな」


「そうですね。自分も全部知ってるわけじゃないですよ。特に魔木系は普通の植物と見分けがつきにくいですからね」


 巻き付いてきたのは葛のような魔木だった。


「何かコツはあるのか?」


「蔓が地面を這っていたら、魔木だと疑ってください。蜘蛛の巣みたいなイメージです。さっきのは蔓としては強靭ですけど、トゲはないタイプです。トゲのあるタイプだと、巻き付かれたら外すのも大変です。皮膚がズタボロになりますからね」


 と、大隊長に説明していると、アイリスが小さい炎のスライムをひゅーっと走らせるた。すると、くにょくにょくにょと逃げていく蔓。


「あ、やっぱり逃げますね。これで魔木かどうか分かりますよ」


「そんなのお前しかできんだろうが」


「他の攻撃でもいいんじゃないですか? 棒でつつくとか」


「それは正解だな」


「やった!」


 アイリスが正解を出した。そう、怪しいやつはつついてみればいいのだ。隠れているヘビとかもそれで対処できる。


「へっ、そんなの木の上を移動すりゃいいんだよ」


 と、バネッサがひょいひょいと木の上に乗り、木から木へと移動する。まるで猿みたいだ。


「うわっ、うわわわ」


 蔦は木の上にも巻き付いている。木にも同じ葉っぱがあるのに気付けよ。


 足に蔦が絡みついたバネッサは慌てて飛び降りた。


 ぶらーん。


「楽しいか?」


「そんなわきゃねーだろ。さっさと助けろ」


 マーギンの目の前に逆さまでぶら下がっているバネッサ。


「蔦を切るから、受け身を取れよ」


「頭から落ちるのに、無理だって」


「なら、俺に掴まっとけ」


 むぎゅ。


「死ぬっ、死ぬ。窒息する」


 マーギンの顔を持ったバネッサの胸に埋もれる。


「しょうがねぇだろ。こっちも恥ずかしいんだよ! さっさと切れ」


 マーギンは窒息しないうちに火魔法で蔦を切る。それと同時にバネッサの腹が頭の上に落ちてきた。そして、そのままマーギンの背中側に降りた。


 グキ。


「首の骨が折れて死ぬわ!」


 バネッサはマーギンの首を持ったまま降りたので、マーギンの首が向いてはいけない向き方をしたのだった。


 そのあとはあまり魔物がでなかったので、王都に戻ることに。


「やっと戻ってきたか。カザフ達も一緒とは助かる」


 マーギンを待ち構えていたオルターネンは北の街の状況を説明した。


「了解。なら俺も行くわ」


「いいのか?」


「俺がいた方が便利でしょ」


 と、全員で出ることに。


 北の街に向かう道中にも魔狼がいる。


「アイリス、撃て」


「はい」


 走りながら、アイリスがファイアバレットで撃ち、バネッサがオスクリタで反対方向のを仕留めていく。


「やはり、遠距離攻撃ができる者がいると楽だな」


 先行させているカザフ達は、タジキがウロコの盾を持ち、先頭を走って魔狼に突進。盾を避けて飛び上がったやつをカザフがタジキの肩を蹴って飛び上がり斬る。トルクは魔法を使わずに、横からくる魔狼を剣で倒していた。


「大隊長。あいつら見慣れた魔物ならやるもんですね」


「成人前にあれだけ魔狼を倒せるやつはおらんぞ」


 確かにそうだよな。あの歳であれだけ戦えたら大したもんだ。


 こうして、魔狼をサクサクと倒しながら北の街に到着した。



「マーギン!」


 飛び付いてきたカタリーナをいつものように避けようかと思ったが、住民を説得したのはカタリーナと聞いたので、そのまま受け止めることに。


 ベチャ。


 しかし、躓いてベチャするカタリーナ。


「もうっ、なんで避けるのよ!」


 お約束が過ぎる聖女カタリーナ。


「避けてないだろ。お前が勝手に転んだんだ」


「もうっ!」


 いや、俺のせいじゃないからね。


 マーギンが現れたことで、ざわざわと、住民達がざわめき立つ。


「みんな、この人がマーギン王。国を滅ぼす力を持った人よ」


 そんな紹介の仕方をするな。


「お前ら、魔狼に苦戦してるんだってな」


 住民に挨拶する前に、軍人達に話し掛ける。


「申し訳ございません。あそこまで数が多いと対応ができませんでした」


「確かにここに来る途中も多かったな。お前らは住民の守りに入れ。討伐は俺がする。他のみんなは軍の方にヘルプに入って」


「お前一人で討伐するつもりか?」


「もうこの近隣は放棄するから、遠慮する必要がない。だからフェニックスで焼き尽くす。そうすりゃ一気に数が減るでしょ」


「まさか森ごと焼くつもりか?」


「黒い魔狼もいるだろうから、その方がいいんだよ」


 こうして、住民達の避難を開始した。


 住民達はマーギンが王だとはまだ信じられない。普通にみんなと接し、威厳も感じられないからだ。


 《フェニックス!》


 マーギンは外に出るなり、いきなり大きなフェニックスを出し、街の北側に旋回させた。


「キャーッ」

「うわぁぁ」


 炎の鳥が現れたことで怖がって住民達は大きな声を出す。


 ゴォォォォ。


 フェニックスから出る炎の音が街中にまで響き渡り、北の森に炎の雨が降る。


「魔王だ……ノウブシルクの王は魔王だ……」


 人々はその光景を見て、小さくそう呟いたのであった。




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折角受け止めてやろうとしたのに(*・ω・) 自ら魔王としての実績解除しつつあるマーギン…
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