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本音

「そっちに群れが行ったぞ。気を付けろ」


 オルターネンがノウブシルク軍に注意を促す。放棄した北の街近くで魔狼の群れを討伐している最中だ。


「弓隊射れ!」


 シュパパパパと矢が飛んで行くが魔狼達は素早く躱していく。


「来るぞ。魔導銃隊撃てーーっ!」


 パンパンパンパン。


 魔導銃で何匹か倒れたものの、すり抜けてくるやつがいる。


「盾隊防げ」


 盾隊が止めている間に、剣で魔狼と戦う軍人達。


「こうやって見比べると、ハンナリー隊は本当に優秀なのだな」


 と、ロッカがノウブシルク軍の戦いを見て言った。


「対人と対魔物専門で訓練をしてきた差だな。それに、ハンナリーが隊員を鼓舞する能力の高さもある」


 ハンナリー隊は全員が家族のような関係になっている。無理して突っ込むこともないし、皆がハンナリーを守り、ハンナリーが皆を守る。まさに一つの塊といった感じの隊なのだ。


「ロッカ、ヘルプに入るぞ」


「はい」


 魔狼の多さに、ノウブシルク軍が劣勢と見たオルターネンはヘルプに入った。


「態勢を立て直せ」


「ありがとうございます!」


 ノウブシルク軍は、オルターネンとロッカが魔狼を倒している間に、怪我人を回収し、再び陣形を整えた。


「怪我人を姫様に治してもらえ。一旦、北の街に退避しろ」


 ノウブシルク軍が引く間、オルターネンとロッカが魔狼を倒し続けた。



「魔狼と言えど、あれだけ数がいるとキツイですね」


「バネッサやアイリスのありがたさがよく分かるな」


「そうですね」


 バネッサがいると、オスクリタで牽制をしたり守りを抜けたものを倒してくれる。アイリスは炎で一網打尽にできる。


「やはり、遠距離攻撃ができるやつがほしいな」


「一度戻って、バネッサとアイリスにこちらを手伝ってもらいましょうか」


「そうだな」


 オルターネンとロッカも休憩を取るのに北の街に戻ることにした。



 ざわざわざわざわ。


 オルターネン達が街の中に入ると、カタリーナのところに人が集まっている。


「ローズ、なんの騒ぎだ?」


「あ、隊長。この街の人達がノウブシルク軍に守って欲しいと集まってまして、ちょっと言い合いになってしまったのです」


「それは俺達が口を出すべき問題ではないだろ」


「この街を治めていた者たちはシュベタイン軍に全員処刑されたので、街の人達はどうしていいか分からないようなのです」


「それでもだ。ノウブシルク軍は何度もこの街を捨てて、王都南側に移住しろと説明をしたはずだ。まさか、姫様をそのようなことに巻き込んでいないだろうな?」


「それが……」



「だから、マーギンはそんなことをしないって言ってるじゃない。ここはもうすぐ住めなくなるの」


「聖女様。そこをなんとかなりませんか? 代々築いてきた店を捨てるなんてできないんです。奴隷にならないとしても、すべてを捨てるなんて……」


「よく聞きなさい。店を守ってもあなたの命を捨てることになるのよ」


「しかし、軍の方々や皆様がいてくださればこの街もなんとかなるんじゃないですか?」


 軍と言い合いになったのを、まぁまぁ、と収めに入ったカタリーナ。しかし、軍の代わりにカタリーナが住民達と言い合いをしていた。


「姫様、関わるのはおやめください」


「あ、オルターネン。あなたからも言ってよ」


「ここはノウブシルクです。他国の者が口を挟むべきではないのです」  


「でも、マーギンが王様じゃない」


「それでもです。マーギンが移住するかどうかの判断を住民に委ねたのです。住民がここに残りたいと言うなら、それは仕方がないことなのです」


「だって、マーギンがここの防衛は無理だと諦めたのよ。絶対に死ぬじゃない。ここにはまだたくさん人が残ってるのよ」


 カタリーナが大きな声で、ここの防衛を諦めたと叫んだことで、住民達のざわめきが大きくなる。


「聖女様、マーギンというのは、ノウブシルクの新しき王のことですか?」


「そう。マーギンが防衛を諦めるなんて異常事態なの!」


「なぜですか?」


「マーギンは一人で国を滅ぼせるぐらい強いの。そのマーギンがここの防衛は無理だと言ったのよ。それがどういうことか分かってるの? ここに残った人達全員が死ぬことが確定したのよ」


 ざわざわざわざわ。


「今から移住を始めても、冬が来る前に全員移住できるかどうか分からないぐらいギリギリじゃない」


「本当にどうにもならないのですか?」


「ならない。マーギンがそう言ったんだから、絶対どうにもならない」


 カタリーナはこの街に来てから、軍人以外に住民達も治癒していた。そのことにより、カタリーナは聖女として信頼度がとても高くなっていたのである。


「どうしてノウブシルクを乗っ取った王をそんなに信頼されているのですか?」


「マーギンはここの王になんかなりたくなかったの! シュベタインと戦争にならないようにするために仕方がなくなったんじゃない。あなた達のためにしなくていいことをしてるのよ。ちょっとは感謝しなさい!」


 カタリーナは感情が昂ってきて、どんどん心の中に溜まっていたものが噴き出てくる。


「自分のやりたいこと、やらないといけないことがあるのに、それを後回しにして、なんの関係もないノウブシルクの人達のために頑張ってるのよ。ノウブシルクの前王が各国に戦争を仕掛けて、何も悪いことをしていない人達がたくさん死んだ。その中にはマーギンの関係者もいたわ。それでも、ノウブシルクの人達のために頑張ってるのよ。私達を構う暇もないぐらい……」


 最後に本音が出たカタリーナはボロボロと涙を流した。


「軍人さん、俺は移住を希望する」

「お、俺もだ」

「うちも頼む」


 カタリーナの言葉を聞いた住民達は次々と移住希望を申し出るのであった。


 ◆◆◆


 マーギンは魔物の気配を察知しても、何も言わずにカザフ達の動きを見守った。


「マーギン、この気配はなんだ?」


「大隊長にも見えてませんか?」


「見えるかだと?」


「もう視界に入ってますよ」


 大隊長は気配のする方に目をやるが、何が隠れているのか分からない。


 カザフ達もようやく何かいると気付いたようだ。


「マーギン、ありゃなんだよ?」


「マーブルパンサー。かなりの強敵だ。視線が合ったら目線を外すな。襲われるぞ」


「燃やしましょうか?」


「お前のスピードじゃ逃げられる。ちょっかいを出すな。これ以上警戒されたら、気配も追えなくなる」


 マーギンはマーブルパンサーとカザフ達から目を離さずにアイリスに答えた。その様子から、かなりヤバい魔物だと理解したバネッサとアイリスもマーブルパンサーを凝視した。


「ヤバい」


 《プロテクション!》


 ガッ。


 マーブルパンサーがカザフを襲おうとしたが、マーギンの出したプロテクションに阻まれた。


 そして、バネッサがオスクリタを投げ、アイリスがファイアバレットを乱れ撃ちする。


「速ぇ!」


 バネッサのオスクリタもアイリスのファイアバレットもホーミングさせているが、木々の上をものすごいスピードで複雑に動くマーブルパンサーを捉えられない。そして見失う。


 きゅむ。


「マーギン、捕まえた」


 トルクが見えない手でマーブルパンサーを掴んだ。


「お前らでやれ」


 トルクが掴んでいる間にカザフとタジキが、マーブルパンサーの首と腹を斬った。


「カザフ、お前さっき死んだぞ」


「分かってる」


 もちろんカザフ達はマーギンに守られたことを理解していた。


「マーギン、こいつ綺麗な毛皮してんな」


 カザフ達が倒したマーブルパンサーをバネッサが見ている。


「もっと綺麗に倒せてたら、完品の毛皮として高く売れたんだけどな」


 このマーブルパンサーは緑系の迷彩柄をしている。砂地にいるものは茶色系。雪国にいるやつは白系だ。


 マーギンは解体せずに、タジキに持っておけと言った。


「食わないのか?」


「食えなくないけど、俺はいらん」  


 マーブルパンサーの肉は獣臭が強く、マーギンの苦手な肉だ。


「マーギンがいなかったら危なかったな」


「俺がいなかったら、大隊長はカザフ達を連れて、こんな道なき道を通らないでしょ?」


「まぁ、そうだが。マーギンはこの森にこいつがいるのを知ってたのか?」


「なんかいそうだなと、思ってただけです。さ、進みましょう」


 カザフ達に次の試練があるといいなと思っていたのであった。







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― 新着の感想 ―
理不尽に抗う力も持たないのに他者の命を秤にかけてでも財を守ろうとする。無辜の民と善良な民は同じではない。弱さを売り物にして強者に責任転嫁する者は護られる価値などないということだな。
カタリーナの目からオイルーサーディンが
数百年後、聖女が涙で説得し住民が安全に非難した街として復興後聖女の記念碑が町の中央広場に作られた。 聖女の足元には聖女が活動中「会えない・遊べない」ともらしてたと先祖から伝え聞いてた住人により愛犬のマ…
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