国の政策
ノウブシルクで重機の開発が急ピッチで進む。
「陛下、こんなにたくさん必要なのですか?」
「これは輸出も考えている」
「輸出ですか?」
「各地で魔物の対策が必要になるだろうからな。今より強固な壁や、ここのように堀が必要になってくる」
「他国のことは他国に任せておけばいいのではないですか?」
「各国で協力しておかないと、ノウブシルクも助けが必要なときに助けてもらえなくなるぞ。これは戦争を仕掛けたノウブシルクのイメージ改善にもつながるし、この国が一番魔物の脅威に晒されることになることを理解しろ」
「わ、分かりました」
こうして、重機の開発と生産はノウブシルクの力を集結して行われるのであった。
「キツネ目。しばらく出かけてくる」
「どちらにですか?」
「食料調達を兼ねて、魔物の調査をしてくる」
北の街を放棄したことで、農作物も家畜も不足気味だ。シュベタインと同じように、北の地が王都の食料を支えていたからだ。南側を開発しているが、作物が実るまで最低でも2年は掛かる。
「どこへ狩りに行くんだ?」
と、暇をしているバネッサが聞いてきた。
「まずはここから南東側だな」
ノウブシルクとウエサンプトンの中間地点から東側を調査することに。
東へ進むと、森の木々の高さが低くなり、まばらになりはじめた。
「おっ、ラッキー。マチョウ発見」
木々がなくなったあたりにマチョウの大きな群れを発見。
「あいつはどうやって狩る?」
「パラライズで一発だ。俺が魔法をかけるから、倒れたやつを斬ってくれ。アイリス、あれは食うから燃やすなよ」
と、先に言っておく。
《パラライズ!》
気配を消した3人がマチョウに近付いたところで、パラライズをかけて動けなくした。楽勝だ。
「こんなに簡単に倒せんのかよ?」
「まぁな。マチョウなら、みんな抵抗なく食えるだろ」
魔物肉に慣れてない人でもマチョウなら大丈夫。次々と解体して収納していく。数が多くて、これの処理だけで日が暮れてしまった。
晩飯はマチョウを焼き鳥にする。
「これ、前にも食ったよな?」
「食ったぞ。セセリとか食べ応えがあって旨いよな」
「酒が欲しくなんぜ」
「そうだな。戻ったら、みんなで焼き鳥パーティーでもするか」
と、たらふく食べてテントで雑魚寝。
「お前ら、離れて寝ろ。寝にくい」
夜になって、冷え込んできたので、2人がくっついてくる。
「寒ぃんだよ、ここ」
「マーギンさんは暖かいですからねぇ」
マーギンで暖を取る2人。
「ったくもう」
マーギンは毛布の中に、洗浄魔法をかけたマチョウの羽を突っ込む。
「おっ、暖けぇ」
「羽って暖かいんですね」
と、言いながら、離れずに寝てしまった。両脇にバネッサとアイリスがいるから寝返りを打てない。横を向くと、顔が目の前にくるのだ。上を向くと、両方から寝息を耳にかけられてくすぐったい。
マーギンはアイリスをひょいとバネッサの横に移動させ、自分はテントの端によって寝るのであった。
「寒っ!」
一人になると途端に寒い。アイリスを引き寄せて暖を取ろうか迷ったがやめておいた。足を乗せられるに決まってるのだ。
「温熱服を着るか」
温熱服を着て寝たマーギンは、夜中に2人からコタツがわりにされていたのであった。
翌日から南下したが、大した魔物は出てない。出たのはビッグワーム、ハリネズミ型の魔物デスピナ。アルマジロ型のマジローとかそんなものだった。
「これが街道か」
そのまま南下していくと、シュベタインとゴルドバーンをつなぐ街道にでた。
「街道の近くから、魔物が少なかったな」
「あぁ。拍子抜けだぜ」
食料調達は初めに狩ったマチョウぐらいしか使えない。とてもじゃないが足らない。
「とりあえず戻るか」
と、調査を終えて帰ろうとすると、トルクがやってくるのが見えた。
「あーっ、マーギン。迎えに来てくれたのー?」
「たまたまだ。ずいぶんと早くに来れたんだな」
「うん、シュベタインから2週間で来れたよ」
「かなりスピードを上げて走ったのか?」
「ううん。荷馬車と同じぐらいのスピード。大隊長がそうしろって。魔物もほとんど出なかった」
「トルク1人か? みんなはどうした?」
「今日は僕が斥候担当。みんなで役割を変えて、いろいろ試しながら来たんだ。異常がなかったら、休憩ポイントまで帰って伝えなきゃダメなんだー」
「そうか。なら、ここで待ってるわ」
「うん」
トルクがそう返事をして、大隊長達のいる休憩ポイントまで走っていった。
「大隊長、街道はどうでした?」
「安全っちゃ、安全だな。この一回だけで判断するのは危険だが」
「俺達はノウブシルクとウエサンプトンの中間付近から南下してきたんですけど、確かに、街道に近づくに連れて魔物が少なかったですね」
「動物もいなかったからな。餌がないから魔物もいないのかもしれん」
なるほど。とマーギンは相槌を打った。
「このままゴルドバーン経由でノウブシルクに向かいますか? それとも森を抜けますか?」
「お前の時間が許すなら、森を抜けよう。カザフ達の経験値が思ったより、溜まらなかったからな」
森を抜ける前に早めの夕食にする。
「マチョウがありますから、焼き鳥にします?」
「焼肉だ」
ソウデスカ。
焼き肉の仕込みはタジキに任せて、マーギンはマチョウ飯を土鍋で炊いていく。炊飯器だと絶対に足らなくなるからだ。
「マーギンさん、土鍋でハンバーグを作ってるんですか?」
「違う」
「じゃ、甘辛か?」
「違う」
なぜ、土鍋でそんな物を作らにゃならんのだ?
二人ともブツブツと不服そうなので、マチョウつくねを作ってやる。これで二人の希望が叶うだろう。
肉が焼けると、ソースに感謝をしてから食べる大隊長。マーギンはつくねに卵黄を絡めて食べる。
「マーギン、土鍋はそのままでいいのー?」
「おっと、ヤバいヤバい」
トルクに言われて、慌てて土鍋を台の上に移して、蓋をパカッとな。
「これは何ご飯?」
「マチョウ飯だ」
マーギンは混ぜながら希望者によそっていく。
「オコゲ欲しい人はいる?」
誰も焦げた部分はいらないようだ。ここが一番旨いのに。
マーギンは自分の分をオコゲ盛り盛りにして、残ったマチョウ飯をおにぎりにしておいた。
「マーギン、この木の皮みたいなものはなんだ?」
「ゴボウという食べられる根っこですよ。タイベで手に入れたんです」
「うむ、旨い。お代わりだ」
「……おにぎりでいいですか?」
「かまわんぞ」
「マーギン、僕達もお代わりー!」
結局、すべて食べられてしまい、握る必要のなかったマチョウ飯。寝る前にもう一度作っておくことにした。
飯が終わったあと、カザフ達は疲れているだろうと、先に寝かせて、大隊長と焚き火を挟んで話をする。
「街道は商人達が使えそうですか?」
「このまま魔物が少ないままならな」
「しかし、海路より陸路の方が早いとは思いませんでした」
「船を使うのは輸送量の問題だろう。通常の荷馬車だと、大量に運べんからな」
「なるほど」
「それと、水の問題がある。中間地点に水場がない。人と馬が飲む量の水を魔法で出せる者がいればいいが、そんなやつはほとんどおらんだろ。商人、護衛、馬。これらの2週間分の食料と水を積むには荷馬車を増やす必要がある。その分も必要になるから悪循環だな」
「中間地点に宿場町が必要になるわけですね」
「そういうことだ。あの何もない場所に宿場町を作ろうと思うやつもいないから、街道はほとんど使われなくなったのだろうな」
大隊長が取ったメモを見せてもらうと、野営ポイントに安心して寝られる工夫と、中央を含む3カ所に宿場町が必要だと書かれていた。
「これが解決すればなんとかなりそうですか?」
「それと護衛の問題がある。シュベタインからゴルドバーンの往復期間を受ける者はほとんどいないだろう。最短で一ヶ月拘束される。しかも休みなしでだ。受けるとしてもかなりの高額になるだろうな」
「シュベタインから中間の宿場町、宿場町からゴルドバーンと分ければ護衛の問題も解決できるかもしれませんね」
「拘束期間を半分にするということか?」
「そうです。中間の宿場町はシュベタインとゴルドバーンの両国が出資して作る。護衛はハンター協会に仕切ってもらうか、国が専属で雇ってもいいんじゃないですか?」
「国が?」
「はい。軍人か衛兵みたいな感じですよ。それに中間の宿場町で両国の売買をすれば、商人の拘束時間も半分になりますし、何もない宿場町が流通拠点となって発展するかもしれません」
「なるほど。ゴルドバーンが売るものは何がある?」
「宝石や金が豊富に採れるみたいですからね。それがメインになるんじゃないですか」
こうして、大隊長と街道の構想を決めて行くのであった。