ゴルドバーンの宝物庫
ゲオルク領軍は放棄した街に戻ってから、シュベタインに戻ることになり、マーギンは大隊長と言葉を交わさぬまま、ノウブシルク王都に戻った。
「キツネ目、シュベタイン軍は大隊長が処理してくれた。あの街の住人は冬までに王都南側の新領地に移住するかどうか打診しておいてくれ。それと次の冬に魔物に襲われても誰も助けにこないとも教えておいてくれ」
「かしこまりました。陛下はどこかに行かれるのですか?」
「ゴルドバーンに行ってくる」
マーギンは転移魔法を使って、全員でゴルドバーン王都に向かった。
「酷い有り様だな」
王城は崩れ落ち、火山灰がうっすらと積もっている。
「この灰もマーギンがやったのか?」
「チューマンの召喚魔方陣を壊したときに噴火しちゃってね。どうしようねこれ」
王都で火山灰が積もっているなら、南側の領地や港街にも積もっているだろう。農地も被害を受けているはずだ。
ゴルドバーン王都の人々は途方にくれて、行動を起こしていない。
「住民に任せておけ。俺達にできることは何もない」
と、オルターネンが言う。
「俺が原因なんだけど?」
「違う。ゴルドバーンの王族や貴族が原因だ。住民が王を選ぶことはできないが、そのツケは国民が払うことになる。俺達はチューマンやトラバチからこの国を守った。それだけで十分だと思わんか?」
と、言われても、ここの人達のこれからを思うと心が痛む。
「灰の除去、建物の修繕はここの人達でもできる。できることは自分でやらせろ。お前は何もかもできる神ではない」
同じようなことをミスティにもよく言われていた。あれから俺は何も成長していないのか。とマーギンは思い、
「そうだね」
と返事をした。
「陛下、気に病まれることはございません。オルターネン様のおっしゃるとおりです。これからどうするかは、ゴルドバーンの者が考えればいいのです。シュベタインからの派遣も断りましょう」
「そうだな。王には自分がここの状況を伝える。この国を数年で立て直す力がある者がいるとは思えん」
と、大隊長も賛同した。
「では陛下、大変お世話になりました」
と、隠密執事がいきなり別れを告げる。
「え?」
「私はゴルドバーンの者でございますので、生き残りの貴族を集めて、復興対策を行います。陛下と皆様にはお礼の言葉もございません」
と、深々と頭を下げた。
「お前一人でやるってのか?」
「一人ではございません。ゴルドバーンの者が全員でやるのです」
と、隠密執事は言い切った。
「そうか。お前はもう仲間だと思ってたから、淋しくなるな」
「陛下から、そのようなお言葉をいただけるとは感慨深いものでございますね。ありがとうございます。最後に城の宝物庫を見て行かれませんか? 宝物庫は地下にございますので、崩れずに残っていると思います」
隠密執事は好きなものをお持ちくださいと言う。せめてもの礼だそうだ。
「復興には金が掛かるだろ。全部それに使え」
「私も中に何があるか存じませんが、金銭価値はなくとも、陛下にとって価値があるものがあるかもしれません。研究成果や歴史書などが」
チューマンを召喚した研究室、南の領主街の宝物庫にはなかった物があるかもしれないということのようだ。
マーギン達は崩れた王城の中に入り、瓦礫で塞がっているところはスリップで取り除きながら進んだ。
物理鍵は隠密執事が開錠し、魔法鍵は雷の影響で破壊されていた。
宝物庫の中に入ると、金塊や宝石類がたくさんあった。
「ずいぶんと溜め込んでいるな」
「今となっては復興資金になるのでありがたいですね」
「こんなことを見越して、溜め込んでいたなら、いい王族だったのかもしれんな」
そう言うと、隠密執事は苦笑いをした。
みんなは宝物庫のお宝をすげぇなと見ているが、マーギンは書類や魔道具ぽいものを見て回る。そして、古そうな箱を見付けた。
マーギンがその箱を開けようとすると、バネッサとアイリスがひょいと覗き込んでくる。
「なんだよ?」
「珍しいお宝が入ってんだろ? 鍵を開けてやるよ」
「開かなかったら、箱を燃やしますよ」
やめろ。
バネッサがカチャカチャとして開錠し、箱を開けると、古そうな本が入っていた。
読めない文字もあるが歴史書のようだ。
「お宝か?」
「歴史的価値はあると思うけど、金にはならんぞ」
「なんだよ、つまんねぇ」
マーギンはしばらく中の本も見ていくと、ゴルドバーン周辺の内容だけでなく、シャーラム、つまり今のタイベの内容も出てきた。
「あー、前にロドリゲスに見てもらった遺跡に書いてあった内容と似てるな」
太陽神ラーと月の女神ムーに付いての神話のようだ。
「ん?」
簡単な地図ではあるが、遺跡がある場所を示してある。
「ミャウ族のところがここで、ムーの遺跡の場所は……」
ガインの亡骸が保管されていた場所は海のすぐ近く。しかし、この地図ではもっと内陸部だ。
「どうしたの?」
カタリーナが覗き込んできた。
「いや、ここにタイベにある遺跡の場所が書いてあるんだけどね」
カタリーナもここがこうで、こうなってと地図を読む。
「あの鎧の人がいた場所は載ってないね」
「そうなんだよ」
「陛下、何かいいものが見つかりましたか?」
と、隠密執事も見に来た。
「いいものというより、謎が残ると言えばいいのかな」
「どのような内容でしょうか?」
マーギンは隠密執事に説明をした。
「そういう内容でしたか」
「なんか知ってるのか?」
「お宝伝説というものがいくつか残っておりまして、遺物と呼ばれるものを探していたのですよ。あのチューマンを呼び出した魔方陣もその一つでしょうな」
マーギンは過去のアリストリア王国以外、どんな国があったか知らない。ミスティに教えてもらっていたはずだが、まったく興味がなかったので聞いていなかったのだ。
各地に何か残っててもおかしくないのか。と、マーギンは思った。
「しかし、この場所……」
ムーの遺跡がある場所は昔の魔国に近い。シュベタイン王都とタイベの中間地点だ。今は深い森に覆われている。
「執事、もういいぞ」
「かしこまりました。では、必要なものをお持ちください」
マーギンは遺跡の場所が書かれた本だけを持ち帰ったのであった。




