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背中を見せる

 ザッザッザッザッ。


 ゲオルク領軍が行進してきた。夜に奇襲を掛けるなら、もっとひっそりと気付かれないようにするべきでは? と、マーギンは領軍の意図がよく分からなかった。


「大隊長、どういう作戦だと思います? 俺はてっきり奇襲作戦だと思ってたんですけど」


「奇襲作戦だろうな」


「こんなのバレバレじゃないですか。バネッサやカザフみたいなタイプが陽動するとかもなさそうですし」


「まともな実戦経験がなければこんなもんだろう。それに特務隊のように気配察知ができるものがどれぐらいいると思っているのだ?」


 領軍は盾隊を先頭に行進している。警戒しているのは前方からの魔導銃攻撃なのだろう。奇襲なら、まずは少数精鋭で敵を撹乱すればいいのに。


「フェニックスを使おうかと思いましたが、それも必要なさそうです」


「何をするつもりだ?」


「思いっきり照らしてやれば怯むんじゃないですか? そのあとにパラライズで盾隊を無効化します」


「ぬるくないか?」


「なら、唐辛子攻撃でもしましょうか。暗闇でそっとやればパニックになるでしょうから」


「あれか……まぁ、戦意喪失させるには有効だな」


 と、作戦が決まったので、唐辛子の粉を風魔法で部隊に撒くだけにしてみる。


「拡散は俺がやろう。マーギンは唐辛子の粉だけを頼む」


 マーギンは唐辛子を魔法で小麦粉ぐらいの粉にしてプロテクションボールで包む。


「これを行軍の上空に飛ばしますから、あとはお願いします」


「うむ、さっそくやってくれ」


 マーギンは唐辛子の粉を包んだプロテクションボールを行軍の上まで飛ばす。


「いいぞ」


 大隊長の魔法でヒュオォォと風が吹き始めたので、プロテクションを解除した。


 ゴォー。


 竜巻のように風をコントールする大隊長。


「なんだ? いきなり風が……うぎゃぁぁ。目が、目があぁぁ」


 領軍がどんどんと唐辛子パウダーの餌食になっていく。


「毒だ。目を閉じ……ゴホッゴホッっ、喉が、喉が焼け……ガハッ」


 指示を出そうとした隊長が唐辛子パウダーを吸い込み、咳き込んで立てなくなる。


 大隊長は風魔法を解除しないので、唐辛子パウダーから逃れられない領軍達はその場で無効化されたのであった。


「マーギン、あいつらはもう目を開けられん。死なん程度にストーンバレットを腹に撃ち込んでやれ」


 マーギンは言われたとおり、悶絶している領軍の腹めがけてストーンバレットを撃ち込んでいく。


「ぐふっ、ゴホッゴホッ、ぜーっ、ぜーっ」


 腹への攻撃で息ができなくなり、必死に息をしようとしても喉も腫れていて、息を吸うことができない。そして両手で喉を押さえてチアノーゼをおこす領軍。


「あれ、下手したら窒息死するんじゃないですか?」


「死ぬような思いをしたほうがいいのだ。領主に忠誠を誓ったものを止めるには、殺すか、心を折る必要がある。痛みだけで心を折ろうと思えば、身体が元に戻らんぐらい痛め付けることになるぞ」


 それはマーギンにも理解ができた。数人なら、以前、マーロック達にやったように、足を焼ききるフリをして、治癒魔法で治すこともできるが、今回は人数が多いからそれも無理だ。


「本当に死にますよ」


「運の悪いやつは死ぬ。軍人とはそういうものだ。だから死んでも気にするな。それにやったのは俺だ」


 大隊長はマーギンに力を使わせないためにこのようなことをしたのであった。


 マーギンは本当に死にそうになっている人のところに走り、鼻をつまんで口の中に風魔法で空気を送る。


「ゴホッゴホッ」


 シューっ。


「ゴホッゴホッ」


 空気を送っては咳き込み、送っては咳き込みをするが、なんとか顔に血の気が戻ってきた。こいつはもう大丈夫だ。と、ヤバそうな人を順番に同じように助けていった。


「あ、あなたは……」


 助けてもらった隊長がマーギンを神のような目で見る。


「俺はノウブシルク王だ」


「なんだと……?」


 助けてくれた者がノウブシルク王と聞いて、敵意を剥き出しにする。


「お前らが敵だと思っているノウブシルク王は俺が排除した。シュベタイン王とも不可侵条約と有効条約を結んだ。今のノウブシルクは敵じゃない」


「そんな話が信じられるか!」


「本当に敵なら、わざわざ助けると思うか?」


 マーギンがそう聞くと黙る。


「シュベタイン王は進軍の中止命令を出した。しかし、ゲオルク領主がその命令を無視したんだよ。このままノウブシルクを攻めたら、そのことを知らなかったお前らも重大な処分を食らう。だから少々手荒な真似をして進軍を止めたんだ」


 なぜこんなことをしたのかを説明すると、少し黙ったあと、下を向いたまま絞るように声を出す。


「その話が本当なら、ここで我らを止めても無駄なことです。すでに街を一つ落とし、そこにいた貴族をすべて処刑しました」


「らしいな。しかし、ノウブシルク軍は出てこなかったろ?」


「えっ? あ、はい」


「あそこはノウブシルクが放棄した街だ。処刑された貴族はノウブシルクから追放した者たち。すなわち、戦争を引き起こした者や、俺に従わないといった貴族だ。だから、ノウブシルクに攻撃したことには当たらない」


「では、独立したと言っていたのは……」


「事実だ。あの街が欲しいならそのまま占領してればいい。ただ、庶民達がノウブシルクに行きたいと言えばそれを認めるという条件付きだけどな」


「なぜ、あの街を放棄されたのですか?」


「魔物からの防衛が無理だと判断したからだ。恐らく次の冬には魔物に襲われて滅びるだろう。この世界はそこまで魔物の脅威が増してるんだよ。お前らも人間相手に戦ってる場合じゃないぞ。あの砦街もマンモーの群れが来たら飲み込まれる」


「砦が魔物に飲み込まれる……?」


「砦じゃない。砦街全部だ。領軍はすべて特務隊と同じように魔物討伐軍になることを勧める」


「マーギン、もういいか?」


 マーギンが領軍の隊長に説明していると、大隊長がやってきた。


「あ、はい。だいたいのことは説明終わりました」


「そうか。ではお前らはどうする? マーギンの言うことを信じて、進軍を取りやめるか、それともヨーゼフ・ゲオルクの命令に従うのか決めろ。ゲオルクの命令を遂行するというなら、お前らは国家反乱罪で俺が処分する」


 大隊長は領軍の隊長にそう伝えた。


「あ、あなたは……」


「俺はスターム・ケルニー。元騎士隊の大隊長をしていたものだ。今は特務隊の隊員だが、今回の件は陛下より任せられている。早く決めろ」


「大変失礼を致しました。今回の領主様の王命違反の件は本当なのでございますね?」


「事実だからマーギンや俺が出てきたのだ。お前らはマーギンをシュベタインの敵にする気か? 国が滅ぶぞ」


「えっ?」


「大隊長、止めてくださいよ」


「事実だろう? お前がノウブシルクの王になり、それを伝えたにもかかわらずシュベタインが敵国として攻めてきたのだ。王として対応せねばならんだろ? お前はノウブシルクの民を守る責を負っているのだ。情を捨てろ。お前はノウブシルクの国民を守る義務がある」


「大隊長……」


「王になるということはそういうことだ。それを分かった上で王になったのだろうが。お前には覚悟が足らん」


 マーギンは大隊長からそう叱責されたのであった。


「わ、我々は王命に従います」


領軍の隊長が、進軍を取り止めた。


「ならば領軍はここで待機せよ。お前はこの部隊の責任者か?」


「はい」


「では、お前は同行しろ。マーギンはここまででいい」


「え?」


「ここからはシュベタイン王国のものが処理する問題だ。お前が関わる必要はない」


 と、大隊長はマーギンをおいて、ゲオルクの元へと向かった。


 ◆◆◆


「スターム・ケルニー。ただの隊員に下ったお前には関係のない話だ」


 大隊長はゲオルクに帰国して王に釈明せよと迫ったが、ゲオルクは取り合わない。


「釈明するつもりはないのだな?」


「だから、お前には関係のない話だと言ったのが聞こえんのか?」


 スバっ。


 ゴトン。ブシャァァァ。


 大隊長はヴィコーレを一振し、ヨーゼフ・ゲオルクの首を刎ねた。


「ヨーゼフ・ゲオルク。国家反乱罪で死罪とする」


 そして、落ちた首に罪状を言い渡したのだった。


 ◆◆◆


「どうでした?」


「王命により、シュベタイン王国の法に則って解決した」


 と、大隊長がマーギンに答え、ゲオルクの首をマーギンに見せた。


「……」


「マーギン。国を守るとはこういうことだ。陛下はシュベタインをお守りになられたぞ」


 と、マーギンに現実を突き付けたのであった。




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― 新着の感想 ―
マーギンは人を殺したくないのは分かるけどいい加減流石に甘すぎない?
大隊長がいて良かった。これをマーギンにできる人が必要だ。
時に冷徹 時に苛烈 全部が責任で覚悟を持って進むのだ(*・ω・)
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