止まらない
翌朝、全員でノウブシルクに行くことになった。
ノウブシルクへの転移魔法陣を出したマーギンだが、中に入るのを躊躇する。また次元の狭間を漂うことになったら……と心がブレーキを掛けるのだ。
「マーギンさん、どうしたんですか? みんな先に行きましたよ」
と、アイリスが行こうとする。しかし、マーギンの足が動かない。
「行きますよ?」
「あぁ、そうだな」
自分では行こうと思うのに、足が言うことをきかない。
マーギンの様子がおかしいと感じたアイリスが手をつないだ。
「大丈夫ですよ。きっと上手くいきます」
と、手を引っ張って、転移の魔方陣の中に入ったのだった。
うぇ……
《シャランラン!》
無事にノウブシルクに出ると、すかさずカタリーナがシャランランしてくれる。
「陛下、お帰りなさいませ」
すぐさまキツネ目がやってきた。
「シュベタインが攻め込んできたらしいな。どうなってる?」
「追放した貴族達の街が落ちました。王都には近付けさせておりません。材木を扱う町にも軍を配備し、壁の内側に立てこもっております」
どうやら、ノウブシルクには被害が出ていないようだ。
「分かった。今から放棄した街に向かう」
「救援に向かわれるのですか?」
「救援ではないが、シュベタインに戻るように話をする。シュベタインは攻撃中止命令を出したが、領主がそれを無視したようだ」
「では、シュベタインが攻めてきたわけではないのですね?」
「あぁ。あれは領軍だ」
「では、こちらに攻めて来るまで放置してはいかがでしょうか。国の命令を無視したのであれば、もう引くに引けないでしょうし」
「ここで領軍が引けば咎められるのは領主だけで済むんだぞ」
「寄せ集めの部隊であれば説得も可能でしょうが、領軍となると、国より領主に従うと思います。撤退を促しても領主命令がなければ撤退しないでしょう」
国より領主を取るか。キツネ目の言うことは正しいのかもしれないと思ったマーギンは大隊長に相談する。
「大隊長、どう思います?」
「その可能性は否定できんな。街を落としたとなると、そうやすやすと手放そうとせんだろうしな」
大隊長の想定では、領軍は王都近隣でベースキャンプを張り、攻め入る隙を狙っているものだと思っていた。しかし、すでに街を落としたとなると、事情が変わってくる。
「では、私が使者として参ります」
と、ノウブシルクの隠密が申し出た。
「危ないぞ」
「門に矢文を射って参ります。それならば問題ありませんね」
撤退が王命だと矢文で伝え、ゲオルク軍の様子を見ることにした。
「陛下、お一人お仲間が増えておられるようですが?」
と、隠密頭が北の街に向かったあと、キツネ目が隠密執事を見た。
「あいつはゴルドバーンの元隠密だ。かなり優秀だぞ」
「そうでしたか。私は陛下の秘書をしております、ドックスと申します。お見知りおきを」
と、隠密執事にキツネ目が挑戦的な感じで挨拶をした。
「初めまして、ドックス様。ご丁寧なご挨拶痛み入ります。私は名乗れるほどのものではございませんので、影とでもお呼びください」
と、挑戦的な態度を華麗にスルーした。
「キツネ目、お前の負けだ。こいつはもう仲間だから揉めるな」
「は、はい」
悔しそうな感情を隠して、マーギンがいない間の報告をするキツネ目。
「騎士団長は苦労しているみたいだな」
「慣れぬ任務でございますから」
「誰か手伝いに回せるか? 実務ができるやつがいいな」
「かしこまりました」
「あと、宰相はどうした?」
「お疲れが出たようで、お休みしていただいております」
と、ニッコリ笑う。まさか毒を盛ったんじゃないだろうな?
「殿下は?」
「順調に回復されております」
「元王と第一王子が何をしているか掴めたか?」
「王の足取りは分かりました。ウエサンプトンで保護されています」
「ウエサンプトン?」
「はい。隠密頭が好きにしろと、ウエサンプトンに渡したそうです。ウエサンプトンは扱いに困り、保護しているようですが」
隠密頭のやつ、前王をウエサンプトンに捨てに行ったのか。ウエサンプトン王も面倒なことを押し付けられたもんだ。
「王子は?」
「不明のままです」
「了解だ」
◆◆◆
カッ。
隠密頭が射った矢文が北の放棄した街の門に突き刺さった。
「伝令! このような手紙が閣下宛に飛んで参りました」
と、矢文が届けられ、それを読むゲオルク。
「ふん、スタームのやつがこんなところまで出しゃばってきたのか」
ゲオルクは手紙に目を通してから燃やした。
「ここを砦にすれば、ノウブシルク王都も落とせように。相変わらず腑抜けたことを言うものだ」
シュベタイン王国、北西の辺境伯、ヨーゼフ・ゲオルクはノウブシルクの戦力はウエサンプトン、ゴルドバーンとの戦争で疲弊していると思っていた。
「ノウブシルク軍は出てきたか?」
「いえ。まったく動きがありません。堀を建設中だったようですが、それを止めて、こちらの侵攻に備えているようです」
ゲオルクはこの街に入ってすぐに貴族を全員処刑していた。独立国家だと言ってはいたが、信じていなかったのだ。
「夜襲をかける。全部隊備えよ」
「はっ!」
隠密頭は近くで様子を伺っていると、兵士達がバタバタと慌ただしくなってきた。恐らく今夜動くのだろう。
すぐにその場を離れて、マーギンの元に戻ることにしたのだった。
◆◆◆
「そうか。止まらんか」
「はい。すでに出発して、未明に攻撃を仕掛けてくるものと思われます」
「大隊長、どうしましょうね?」
「止まらんのなら、止めるしかあるまい」
と、大隊長が出ようとする。
「なら、俺がやりますよ。俺はノウブシルクの王なんでね」
と、マーギンは自ら動くことを宣言する。
「覚悟を決めた軍人は殺さんと止まらんぞ。引くに引けないからな」
と、大隊長が渋い顔をする。
「相手は人間ですからね。チューマンやトラバチより簡単ですよ。感情がありますから。大隊長は領主の対応だけお願いします」
他のみんなはここで待機してもらい、大隊長と2人で、ゲオルク領軍と対峙することにしたのであった。
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