実家にいるみたいな感じ
大隊長とオルターネンから王都軍と話が付いたと聞かされた。ホープやサリドン達と王都軍の引き継きに立ち会うから1日出発をずらしてほしいと言われ、出発は2日後となった。
「俺は一度家に帰るわ」
「えー、ここに泊まってた方が楽なのに」
カタリーナは今晩もここに泊まれと言う。
「疲れてるから、自分の家で寝たいんだよ。他のみんなも宿舎に戻るだろ?」
「じゃあ、私がマーギンの家に行く」
「姫様、マーギンは疲れているのです。1人でゆっくりとさせてあげてください」
と、ローズがカタリーナを諌めてくれた。
久々に自分の家に戻り、家全体に洗浄魔法をかけてから風呂に浸かる。
「朝風呂もいいもんだ」
と、風呂に浸かりながら、天井に向かって手を伸ばす。
あれはやっぱり夢だったのか? ものすごく長い間、あの何もない空間にいた気がしたけど、カタリーナの部屋で目が覚めたときには時間が経ってなかったからなと、マーギンは伸ばした手をグーパーグーパーしてみる。
「小さい手だったな……」
あの感触も夢だったのかと思い、風呂からでる。
「ぷはっ」
1人でソファに座ってレモンサワーを飲んでいると、そのまま寝てしまった。そして、お腹が空いて目が覚める。
「もうこんな時間か」
外はすっかり日が暮れていた。自分で何かを作るのも面倒なので、リッカの食堂に行くことに。
「いらっしゃ……マーギン。あんた今まで何やってたのよ!」
出迎えくれたのはリッカ。ここに来るのは怒られるぐらい久しぶりだ。
「久しぶりだな。ちょっとバタバタしてて、家にも帰ってなかったからな。いつもの頼む」
「いつものってのは、いつも来る人が言うセリフですぅ」
「そんな意地悪言うな。疲れてんだよ」
リッカは憎まれ口を叩いたが、厨房に向かう顔は笑顔だった。
「マーギン、あんた今は何やってんだい?」
「女将さんも元気そうだな。今は面倒なことをやってるよ」
「ほどほどにしときなよ」
「ありがとうね。しかし、店はずいぶんと落ち着いたね」
「萌え萌えキュンはやめたからね」
「なんで?」
「あちこちの店でもやってるし、リッカもお金貯まったから、やりたがらないんだよ。それにダッドも料理でやっていきたいみたいだしね」
「俺がやらせておいてなんだけど、その方がいいよね。リッカも大人になってきたみたいだし」
少女から女性になりつつあるリッカ。前に聞かされていたとおり、出るところが出てきていた。アイリスの見た目は変わらんのに。
「はい、お待たせ。店が終わる時間にもう一度顔出せって、父さんが言ってたよ」
「分かった」
赤ワインにくるっと指を回して一口飲み、賄い料理を頬張ったマーギンは、もぐもぐして手が止まった。
「あれ? 美味しくない?」
「いや、いつもどおり旨いよ。うん、いつもどおり旨い」
穏やかな顔でそう答えたマーギンは、一口ずつ何かを確かめるように食べていた。
そして、そのまま家に戻らず、厨房に入って大将の手伝いをする。
「ほら、マーギン。そっちの魚を捌いてくれ」
リッカの食堂でもハンナリー商会から魚を仕入れ始めているようで、刺盛りの注文が入ってくる。
「そんなに薄く切るな。もっと分厚く切ってくれ」
「ぶつ切りにすんのか?」
マーギンが刺盛りを作っていたら、大将からクレームが入る。
「そんなに薄く切ったら貧乏臭ぇだろうが」
「バランスってもんがあるだろ?」
「もういい、貸せ」
結局マーギンは柵にするだけで、刺身というか、ぶつ切りを盛り付けるのは大将がやった。漁師飯みたいな感じだ。
店が閉店したあと、食器類を魔法で綺麗にしてから、残った材料で飲むことに。
「で、今は何をやってるんだ?」
「王様」
「は? 何の冗談だ」
「冗談じゃなくて、ノウブシルクの王様をやってんだよ。落ち着いたら誰かにやってもらうけどね」
「本当の話か?」
「本当の話」
「何をやってるんだお前は」
と、大将に呆れられた。話が大きすぎて現実味がないって感じだ。
「また王都を空けるのか?」
「そうだね。ここは平和だけど、西側は大変なんだよ。ゴルドバーンの王都も滅ぼしてきたからね」
「は? 滅ぼしただと?」
「そう。その後始末もやらないとダメだし。こんなことならのんびりと魔法書店をやってりゃ良かったよ」
と、酒をぐいっと飲み干した。
「私も飲もうっと」
「私もお邪魔しようかね」
と、大将と一通り話が終わったのを見計らって、女将さんとリッカが参戦してきた。
「刺身じゃないものがいい。父さん、何かないの?」
と、ワインを飲むリッカが他の物を要求する。ワインと刺身はあまり合わないからな、とマーギンはすぐにできる物を作りに行った。
「これなら軽くつまめるだろ」
マーギンが持ってきたのは揚げたお菓子のような物。
「あ、サクサクしてて美味しい」
「ほんとだね。これならいくらでも食べれるよ」
いくらでも食べるから、そんな身体に……
「痛てててて」
何も言ってないのに、女将さんに口をつねられるマーギン。
「何も言ってないだろ?」
「お黙り!」
女将さんとリッカがバクバク食ってる間に、マグロのぶつ切りを食べる。
「マグロだとこれぐらい分厚くてもいいね」
「肉と比べりゃ柔らけぇからな。これぐらいの方が食べ応えがあっていいんだ」
「白身はたべにくいぞ」
「そうか?」
まぁ、ぶつ切りの方が人気があるなら、それでいいけど。
「マーギン、なくなった」
と、空になったお菓子の皿を見せるリッカ。
「まだ食うのか?」
「別にいいでしょ」
そんな食い方してたら、すぐに女将さんみたいに……
「痛てててて」
「太ってないわよ!」
なぜ、この母娘には心に思っただけでバレるのだ?
「マーギン、これはここでも作れるのかい?」
「切って揚げるだけだからね。材料さえあればできるよ」
「材料はなんだい?」
「ビッグワーム」
「え? なんて?」
「ビッグワームだよ。少し残ってたから使ったんだ。ほとんどあげちゃったから、もうないけど」
「もしかして、魔物のビッグワームじゃないだろうね?」
「魔物のビッグワームだよ」
それを聞いてワナワナと震える女将さん。
「あんた、なんてもんを食わしてくれたんだい!」
激怒する女将さん。
「美味かったろ? 下処理をちゃんとしたら、普通に食えるから……」
と言ってもめっちゃ怒る。女将さんはあの手の魔物が嫌いらしい。口直しとして魔牛カルビを焼いてだしたら機嫌が治った。
そんなに食うから……
「痛てててて」
いらぬことを言わなくても口をつねられるマーギンなのであった。




