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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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自分の状態

 ズンっ。


 ゴルドバーン王国内に、地響きにも似た振動が伝わった。


 ガラっ、ガラガラガラ。


 ゴルドバーン城は一瞬で黒焦げになり、城の上部が崩れて落ちる。その瓦礫が城のあちこちを巻き込み、半壊したのであった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 マーギンはへたり込んで、その崩れゆく城を眺めたあと、街の方へ目をやる。


「火事になってるな。消さなきゃ……」


 城からも火の手が上がっているが、中心部の建物のあちこちが燃えている。通常の水魔法では消せそうにもない。


「ウォーターキャノンをぶっ放して落とすか」


 マーギンは上空に向かって、ウォーターキャノンを撃つが、単発ではお話にならないので、連弾することに。


 《ウォーターキャノン! ウォーターキャノン! ウォーターキャノン!》


 何度もウォーターキャノンを撃つのが面倒臭くなってきたマーギン。


 《雨ぇジングストーリー!》


 ストリートとストーリーと混同していることには気付いていない。ストリートだったとしても、何を意味するのか分からないものでも発動するマーギンの魔法。


 ウォーターキャノンが花火のスターマインのようにバンバンと打ち上がり、上空でバラけて大粒の雨となってゴルドバーンに降り注ぐ。そして、出火間もないこともあって、ゴルドバーン王都は大きな火事にならずに済んだのだった。


 マーギンは半壊したゴルドバーン城の中を確認するために入ると、トラバチが山のように落ちている。


「建物内にいるやつにも効いて良かった」


 どうやら、ここにいたトラバチは全滅したようでホッとする。そして、瓦礫の中を上がって行くと、チューマンも死んでいた。


 電撃魔法は効くチューマン。スタンだと動きを一瞬止めるだけの効果しかないが、あれだけの威力を込めたら、殺せることが分かったのは収穫だ。直接落としたら、まとめて駆除できるだろう。


 マーギンはチューマン討伐に光明が差したなと思った。


「さて、召喚の魔方陣を壊しに行くか」


 ゴルドバーン王都の復興は後回しにして、チューマンを召喚した魔方陣のところにプロテクションステップを使ってホバー移動した。


 魔方陣のある場所は前のままだ。少し穴をあけたら水が出てきた。これはあれから新たなチューマンが外に出ていないことを意味する。


 そして、固めた壁を壊した。


 バシャーー。


 大量の水が溢れ出し、中には1匹のチューマンが死んでいた。


 魔方陣を破壊するために、台座の温度をどんどんと下げていく。


 ピキッ、ピキッピキピキ……


 溢れ出た水が瞬く間に凍って、研究所内部は耐えられないほど気温が下がっていく。


「ダメだ。寒さで死ぬ」


 ブルルと震えたマーギンはプロテクションボールで包んだ水を置いて退却する。


 今度は前のような危ないことにならないように、プロテクションボールで自分を包んでから高温のフェニックスを研究所に飛ばした。


 そして、水を包んだプロテクションボールを解除する瞬間に重大なことに気付く。


「もしかしたら、台座を凍らせたのにフェニックスで溶けてるんじゃ……」


 カッ。


 ドカーーンっ!


 まるで火山が噴火するかのごとく、研究所のあった山が爆発し、それ以外の場所からも爆風が噴き出して山脈の形が変わってしまった。


「あわわわわ」


 慌てるマーギン。


「誰も見てない、誰も見てない」


 この近辺には人間どころか、魔物も動物もいない。セーフ、セーーフ! と心の中で言い訳をした。


 ズズ……


 まだ山崩れが起こるのだろうか? いやな地響きがする。


 ゴゴゴゴ。


 冷や汗を流すマーギン。


「我、撤退せよ!」


 マーギンはプロテクションボールで身を包んだまま、その場をホバー移動で離れる。


 ドドドドド。


 地鳴りがさらに大きくなり、


 ドカーーン。


「やっべ、噴火しやがった」


 大きな爆発が溶岩をあちこちに吹き飛ばす。


 ガンっ、ゴツン、ゴンッ。ベチャドロロォ。


 容赦なく襲ってくる噴石とアチアチ溶岩。プロテクションボールで身を包んでいても、蒸し焼きになるかもしれないと思ったマーギン。


 《スリープアンドワープ!》


 転移魔法でカタリーナの部屋に移動する。そのときに寝ていれば酔わないのではないかと、睡眠魔法を併用してみたのだ。 


 マーギンが転移魔法で消えたあと、研究所のあった山脈は火山となり、チューマンの巣へと続く穴も溶岩で埋め尽くされていくのであった。


 ◆◆◆


「おいっ、オッサン。生きてんのかっ?」


 いきなりカタリーナの部屋に現れた隠密執事。


「バネッサ、離れて」


 《この者の傷を治し給え、シャランラン》


 傷だらけの身体が治癒されていくが、目を覚まさない。慌てて、ローズが隠密執事の状態を確認する。


「姫様、生きてはいますが、呼吸は浅く、脈も弱いです」


「血をたくさん失ったのかも」


「いえ、顔色は青白くありません。それに傷はあったものの、服はそれほど血塗れになってはおりませんので、血を失ったのが原因ではないと思います」


「じゃ、何が原因で……」


「カタリーナ、毒だ。トラバチの毒にやられんだよ。毒を消せ」


「う、うん。我の名は癒しの聖女カタリーナ。聖杖エクレールよ、この者の毒を消しさり給え」


 《シャランラン!》


 優しい光が隠密執事を包み込み、苦しそうな顔が寝顔のように変わった。


「目を覚まさないけど、もう大丈夫かな?」


「分かりません。しかし、寝顔のように見えますから、このまま様子をみましょう」


 と、浅かった呼吸と弱かった脈も正常に戻りつつあったので、様子をみることにした。


「なぁ、これってマーギンが転移させてきたんだよな?」


「そうだと思います」


「あいつは戻って来ねぇのかよ……」


「大丈夫ですよきっと」


 マーギンのことを心配するバネッサにアイリスは大丈夫ですよと何度も言い続けたのであった。


 ◆◆◆


「北西の領主、ゲオルクが離反したですと?」


 大隊長はゴルドバーンの報告を王にしにきたときに、北西領の軍がノウブシルクに侵攻したことを聞かされた。


「ゲオルク領から、ノウブシルクへの進軍中止通知を受け取ってないと返答があった。それにすでにゲオルク自身も出陣しておっての。他の者が軍を呼び戻すとのことじゃが、すべて後手に回っておる」


 この内容だと話の筋は通っている。


「離反と判断された理由は?」


「通知を届ける使者が魔物に殺られて死んでいるのが見つかったそうじゃ」


「ということは、死んだことは確認できていないのですね?」 


「生きておる。うちのが剣で斬られていたのを治癒して、連れ帰ってきたからの」


 王家の隠密が使者を連れ帰ったようだ。


「マーギンはノウブシルクを離れております。それにノウブシルクの者はマーギンがシュベタインの関係者だと知っております。このままでは、マーギンが策略を働いたと思われますぞ」


「そうじゃな……しかし、今からでは手の打ちようがないのじゃ。王都軍を出しても間に合わん」


 王は頭を抱えていた。


「間に合うかどうかは別として、ゲオルクのことはマルクに任せておけばいいでしょう。自国の軍同士で戦うことになるでしょうが、陛下が国家反乱だと通達すれば済む話です。それにノウブシルクはゲオルク領軍だけで落とせるとは思えません。マーギンがすでに手ほどきをしたみたいですからね」 


「マーギンが手ほどきを……」


 王は王都軍が到着するよりも、先にノウブシルク軍に滅ぼされるのだなと理解した。


「それより、ゴルドバーンの復興を助ける人を出して下さい」


「分かった。あの一件以来くすぶっておるウェーバー家を中心に人を手配しよう」


 ウェーバー家とはホープの実家である。


「名誉挽回というわけですか?」


「そうじゃ。何かきっかけを作ってやらねばならん者達が多くいるからの」


 ◆◆◆


「ん……」


 目を覚ましたマーギン。


「どこだここ?」


 夢の中だろうかと、マーギンは自分のほっぺをつねる。


「痛っ。ということは夢じゃないな」


 マーギンは宇宙空間のような不思議な場所にいた。ところどころに光が差しては消えを繰り返している。


 上下左右の感覚が掴めない。ホバー移動をしようとしても発動しない。


「まさか……ここは次元の狭間……?」


 マーギンはスリープとワープを同時に使ったことにより、転移先のゲートが繋がらなかったのだと予想した。


「どうすんだよこれ?」


 もう一度転移魔法を使おうとしても発動しない。アイテムボックスも使えなければ、マジックバッグも開かない。


「詰んでるじゃん。というか……もしかして死んだのか俺?」


 マーギンは今自分がどういう状態なのかを確認する術がなかったのであった。



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― 新着の感想 ―
ホープ家の失態って 思い出せない どちらかというか、ローズもオルターネンも忠実な貴族やん ていうか、明らかに王家から信頼されていると思ってた?なにやったん?
ミスティさん、出番ですよーーー!
時の賢者ボッシュが居そう…(*・ω・)
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