自分の目で確認
領主邸に入ると、騎士や衛兵の攻撃をプロテクションで防いで反撃する。
スドドドド。
いつもならパラライズで済ませるのに、ストーンバレットで肩や足を撃ち抜いていくマーギン。
「この賊めが……」
撃たれた肩を押さえながら、マーギンを見上げる騎士。
「お前ら、街中が化け物に襲われているときに何をしていた? 住民達が何人も死んでるんだぞ」
「我々は領主邸を守るのが任務だ」
「なら、お前は敵だ」
バン、バン、バン。
「ぐわっ……」
反対の肩と両足も撃ち抜く。
「お前らのせいで仲間が死にかけた。死んで償え」
マーギンはそう言って妖剣バンパイアをクビにあてた。
「ヒッ……」
「やめろマーギンっ!」
バネッサがマーギンの腕にしがみついて止める。
「こいつらはチューマンを呼び寄せたやつの仲間だぞ」
「こいつらはなんにも知らねぇかもしれねぇだろ」
バネッサにそう言われて、クビにあてた剣を降ろす。
「お前、ゴルドバーンが化け物を呼び寄せて、生物兵器にしようとしてたのを知ってるか?」
マーギンは無表情で騎士に聞くと、カタカタと震えながらも目線を逸らした。
「その顔は知ってるな。お前も殺された人達のように斬り刻んで肉団子にしてやろうか」
と、騎士の顔を覗き込んで囁いた。
じょろろろ。
恐怖のあまり失禁する騎士。
「お前ら、チューマンに襲われた住民がどうなったか自分の目で見てこい。あとで同じ目に合わせてやる。震えて待ってろ」
ブォン。
マーギンは転移の魔方陣を出し、騎士や衛兵達を門の入り口に飛ばしていったのだった。
◆◆◆
「お前達は教会の中にいろ」
オルターネンがカザフ達に教会の中でカタリーナのそばにいろと言った。教会前の広場には無残な死に方をした住民達が集められつつある。その悲惨な光景をあまり見せたくなかったのだ。
「隊長、慣れるつもりはないけど、これは耐えられるようにならないとダメだと思う。俺達は特務隊だから、これからもきっとこんな光景を見ることになる」
と、カザフが青い顔をしてオルターネンに答えた。
「俺はこの人達に飯を作るよ。せめて、腹いっぱいになって天に還って欲しいから」
タジキはそう言って、お供え用に料理を作り始める。
「きっと、マーギンは何度もこんな光景を見てきたんだろうね。だからあんなに……」
トルクはマーギンの心情を理解した。昨日まで笑っていた人が、こんな酷い死に方をする。見知らぬ人の悲しみでさえこんなに辛い。これが自分の大切な人だったとしたら……
ブワッとトルクの魔力が殺気となって溢れる。
「トルク、抑えろ。もうここに敵はいない」
と、ロッカがうしろからトルクの頭をくしゃくしゃとした。
「ロッカ姉、首がもげるよ」
「そんなに力を入れてないっ!」
お別れが済んだ人から、アイリスが高温で焼くと、残された人々は泣き崩れる。
「どうして……どうしてこんなことに……」
「この国の王と、ここの領主のせいですよ」
アイリスが無表情でそう呟く。
「えっ? 王様と領主様のせい……?」
「あの化け物はチューマンといいます。南側の先住民さん達はチューマンを増やすためにほとんどの人が餌にされました。ゴルドバーンの偉い人達はあれを兵器にしようとしたんです」
「う、嘘……」
「マーギンさんは、もうチューマンの殲滅は無理だと言っていました。これから先、ずっとこんな被害が出る覚悟をしておいてください」
「そっ、そんな……」
「仕方がありません。あなた達の国の偉い人がやったことです」
アイリスは淡々とそう言い切った。そして、このことは瞬く間に広がっていく。
◆◆◆
「うっ…うげぇぇぇ」
門近くに飛ばされてきた騎士や衛兵達はあちこちに散らばるチューマンの死体と、肉団子になった人だったものを目の当たりにして吐いた。
あの男に自分も同じ目に遭わされる。そう思うと震えが止まらない。
「うっ、うわぁぁっ。助けてくれぇぇ」
1人の男がパニックを起こすと、それが伝染し、次々とパニックになり門の外へと逃げ出した。
「おっ、おいて行かないでくれ……」
両肩両足を撃ち抜かれた男は逃げたくても逃げられない。それでも必死にズルズルと這って皆のあとを追った。
ギーギチギチ。
血の匂いを纏った男達は散り散りに逃げたが、その匂いに引き寄せられたチューマンが近くまで来ていたことは気付かないのであった。
◆◆◆
《シャランラン!》
教会の中で治癒を続けるカタリーナの元に怪我をした人が次々と運ばれてくる。
「残念ながら……」
治癒する順番を決めるのはローズ。しかし、間に合わなかった者も多く、外の広場に運んでくださいと言い続けた。
「どれぐらいの人が怪我しているんだろ?」
「他の門近くは私達が入ってきた門より酷いようですから、これからも増えると思います。少し、休憩なさいますか?」
「ううん。間に合わない人が増えるのが嫌だから頑張る」
カタリーナは少しだけ水を飲んで治癒を続けるのであった。
◆◆◆
「これは誤算でした……」
そう呟いた隠密執事。
チューマンはあまり王都にこなかった。何匹か来たチューマンも毒を大量に撒かれ死んでしまった。
「きゃーーっ」
「助けてくれーー」
しかし、王都の中から悲鳴が聞こえてくる。
隠密執事が誤算と言ったのは、チューマンが簡単に倒されてしまったことではなかったのである。
◆◆◆
「領主はどこだ?」
使用人らしき者を捕まえ、マーギンは領主の居場所を探す。
「ゆ、行方不明なのです。ほ、本当ですから殺さないで……」
バキッ。
「次はないぞ。領主はどこだ?」
ガタガタガタ。
「本当に知らないんです」
「ちっ」
誰に聞いても領主がどこに行ったか知らないと言う。
「どこに逃げやがった」
領主の部屋の壁や棚をバンパイアで斬っていく。どこかに隠れていないか、隠し部屋がないかを調べているのだ。
あちこちを斬り刻みながら、他の部屋も調べていく。
「ヒッ……」
隠れている男を見付けた。
「領主はどこだ?」
「お、落ちました」
「どこにだ?」
「宝物庫の前です。床が開いてご家族全員……」
それを聞いたマーギンは、この男も門近くに飛ばしてから宝物庫に向かった。
到着すると、1つ目の鍵は開いている。
《プロテクションステップ!》
マーギンはプロテクションステップを出して、そこに乗る。
「バネッサ、この扉を開けてみろ」
「開けるだけでいいのか?」
と、確認してから開ける。
バタン
「なるほど。ここに落ちたんだな」
マーギンは暗視魔法を使って穴を覗くと、領主とその家族が呻いていた。
「バネッサ、手を離せ」
と、手を離させるとパタンと床が元に戻った。
「皆のもとに戻るぞ」
「いいのか?」
「あぁ」
ようやくマーギンから殺気が収まりつつあることにバネッサはホッとしたのだった。
教会で治癒しているとの話を聞いて、マーギンとバネッサがやってきた。広場には人を焼く臭いが漂っているので、風で上空に臭いを飛ばす。
「アイリス、もっと温度を上げろ」
マーギンはいきなりアイリスにそう指示をした。
「これぐらいでいいんですよ。見送る人もちゃんと見送ってあげることができますので。マーギンさんがやるとその時間が足りませんからね」
「そうか」
カザフ達はここで治癒していることを街中で触れ回っているらしく、アイリスだけが広場にいた。
「アイリス、変わろうか?」
「まだ大丈夫です。マーギンさんが先に休んでてください」
マーギンはアイリスのそばで、亡くなった人達を焼くのをずっと見ていた。
「陛下」
夜になり、隠密執事がマーギンの元にやってきた。
「お前、こうなることが分かっていて、チューマンを誘き寄せたのか?」
「申し訳ございません。塀があるので、領内にまで被害が出るとは思っておりませんでした」
「そうか」
マーギンは淡々と答える。
「もう一つお詫びせねばならないことがございます」
「なんだ?」
「新種のチューマンが王都を襲っております。お力添えをお願いできませんでしょうか」
「新種だと? どんなやつだ」
「空を飛んで、王都内に入り込みました」
「空飛ぶチューマン……」
そのことは事態の深刻さのステージが変わったことを表していたのだった。




