やっぱり親
「ふぁぁぁ」
「起きたか?」
マーギンが目を覚ますと覗き込んでくるバネッサ。
「もう朝か?」
「昼だ」
そんなに寝てたのか……
「朝飯……昼飯になっちまうけど、作ってやんよ」
「お前、もう大丈夫なのか?」
「まぁな」
と、トーストと目玉焼きとソーセージを焼いてくれた。
「うん、旨い」
「へへっ」
マーギンが褒めると嬉しそうに笑うバネッサ。
じーーっ。
その様子を子供達が見ている。
「なぁ、マーギン。なんでこんなに子供がいやがんだ?」
「街中にいた孤児院に入れない子供達を連れて来たんだよ。凍死するんじゃないかと思ってな」
「ふーん。ノウブシルクは寒かったからな。よく今まで生きてこれたもんだ」
「そうだな。ここも年々寒さが増してるみたいだから、限界だったんじゃないか」
「ラッキーなやつらだぜまったく」
と、言いつつも、バネッサもちょっと嬉しそうな顔をしていた。
「陛下」
と、マーギンが食べ終わるのを待って話しかけてきたキツネ目。
「どうした?」
「シュベタインから来客が来ております」
「誰?」
「スターム・ケルニー様でございます」
「大隊長じゃん。いつ来たんだ?」
「今朝です。陛下はお疲れでお休みになられていると伝えたところ、起きるのを待つと仰られたので、応接室でお待ちいただいております」
「すぐ行く」
ガチャと応接室の扉を開けると、
「ハンバーグ王!」
と、真っ先にアイリスが飛びついてきた。誰がハンバーグ王だ。
「お前らまで来たのか?」
マーギンに抱きついてブラーンとぶら下がるアイリス。
「へへっ、マーギン。本当に王様になったのかよ」
と、カザフ達。
「まぁな。それより大隊長。何しにこられたんですか?」
「お前が本当にノウブシルク王になったのか確認しにきたのだ」
「まぁ、王になったと言っても、無理矢理ですけどね」
「それでも本当なんだな?」
「はい」
「そうか。それはおめでとうございます」
と、跪いておめでとうと言う大隊長。
「やめて下さい……冗談が過ぎるぞスターム」
と、王様らしく言ってみる。
「はっはっは。ぜんぜん様になってはおらんな」
「そりゃそうですよ」
と、2人で笑いあう。
「陛下、こちらの方々とはどのようなご関係で?」
「こちらは、シュベタイン王国騎士隊の元大隊長だ。今は特務隊の隊員になってる。騎士を指揮する役目を降りて、魔物討伐の最前線に出てくれてるんだよ。俺にぶら下がってるのがアイリス」
「初めまして。妻のアイリスです」
ごすっ。
「それやめろって言ってるだろ。で、カザフ、タジキ、トルク。全員特務隊のメンバーだ」
「なるほど、バネッサ嬢のお仲間ですね。初めまして。私は陛下の秘書兼、子供達の教育係をしております、ドックスと申します」
こいつ、名前あったのか……
いつもキツネ目と呼んでいたので初めて名前を知る。
「やはりバネッサもいるのだな?」
「4日前だったかな? 1人で来ましたよ」
「我々より3日も早く着いたのか。相当無茶したんだな」
大隊長達はバネッサより1日あとに出発したらしい。
「その反動は来てましたけどね。玉座の間にいるから案内しますよ」
と、玉座の間にアイリスをぶら下げたまま移動する。
「ハンバーグ、ハンバーグ、マーギンさんはハンバーグを作りたくなる〜」
耳元で呪文を唱えるアイリス。
「晩飯に作ってやるから耳元で囁くな。くすぐったいだろうが」
「ふーっ、ふーっ」
くすぐったいと言ったマーギンに面白がって息を吹きかける。
「やめろ」
と言っても面白がってやめないので、アイリスの方に手を回して脇腹をくすぐり返す。
「キャッハッハッハ」
ぐぎゅうう。
くすぐられたアイリスは思わずぶら下がっていたマーギンの首を絞める。
「死ぬっ、死ぬっ」
「王が人前でイチャイチャするな」
と、大隊長に言われたが、これのどこがイチャイチャなのだ?
「大隊長達も来たのかよ?」
マーギンのベッドに座って、足をプラン、プランさせているバネッサ。
「馬鹿者。勝手にノウブシルクまで行くやつがあるかっ!」
「言ったら止めるだろ?」
「当たり前だ」
と、大隊長に説教されたバネッサ。まぁ、反省の色は見せてないが。
玉座の間でここで何をしていたか説明していると、軍統括と騎士団長も 来たので皆を紹介しておいた。
「大隊長殿、一度手合わせをお願いできませんか?」
と、騎士団長が申し出た。呼び方は違えど、大隊長と階級は同じ。シュベタインの騎士をまとめていた実力を見たいのだろう。
「団長、大隊長は強いぞ」
「えぇ、雰囲気で分かります」
「では私も」
と、軍統括も申し出た。
「貴殿はカザフと立ち合いをして下さい」
「カザフ殿? まだ子供ではありませんか」
「まだ未成年だが、特務隊の最前線を任されておりますので、楽に勝てると思わない方がいいですぞ」
ほう、剣での立ち合いにカザフを抜擢か。どこまで成長してんのかな?
木剣での模擬試合は団長と大隊長から。子供達も見学にきた。
「キツネ目、お前が審判をやれ」
「畏まりました。では、よろしいですか? 始めっ!」
お互い見から入り、攻撃を仕掛けない。しかし、大隊長のどうぞという雰囲気を察した団長が仕掛けた。
ガンッ。ガンッ。
団長の剣を受ける大隊長。様子見の攻撃からだんだんとスピードが上がっていく。
カカカカッ。
2人ともデカい身体なのに速い。
大隊長はスピードの上がった団長の攻撃に余裕で対応している。そして、
ガッ。ぐりん。
大隊長は上段から振り下ろされた剣を絡め取るように受け、返す剣で喉元に剣先をあて
「それまで」
「参りました。やはりお強いですね」
「貴殿の剣は綺麗な剣ですから、読みやすいのですよ」
「と、言われますと?」
「剣術のお手本としては見事です。が、怖さがない。次のカザフの試合を見れば今の意味が分かるでしょう」
次に軍統括とカザフの試合。2人が並ぶと、まさに大人と子供だ。
「手加減はせんぞ」
「こっちもな、オッサン」
生意気なカザフにカチンときた軍統括。
「始めっ!」
シュンッ。
低い姿勢でダッシュして軍統括の死角に入ろうとしたカザフ。
「ちっ、すばしっこい」
軍統括はバックステップして視野を広げようとした。が、カザフはそれを追う。軍統括は牽制するために剣を下段に構えた。
ピュッ。
まっすぐにくると見せかけて、右移動をしたカザフ。
ガッ。
「ちっ、受けられたか」
奇襲が不発したカザフは間を取り直そうとバックステップ。
「うわっ」
それに付いてきた軍統括は下段から剣を振り上げた。
ガツンっ。
カザフはそれを受け止め、衝撃を利用してコロンコロンと後ろに転がり間を取った。
「オッサン、やるじゃねーか」
「お前もなかなかいい動きをしてるな。この技は受け止められるかな?」
と、軍統括は突きの連撃を繰り出す。
受けきれないと思ったカザフは上に飛んで回避。
「あ、バカ」
思わず声が出たマーギン。
飛び上がったカザフを斬り上げて狙い撃つ軍統括。
ガンッ。
カザフはそれを剣で受け、その衝撃でクルンと空中で回転して軍統括の頭に剣をあてた。
「それまで。勝者カザフ」
「くっ。軽い身体を生かした戦法か。見事だ」
「へへん。どんなもんだ!」
と、カザフはマーギンに向かってピースした。
「不合格」
「え?」
「お前、剣の試合に抜擢されたんだろ? 身体能力で勝つんじゃなしに、剣技で勝てよ」
「こ、これも剣技じゃんかよ」
「今のはクナイの代わりに剣を使っただけの戦法だ。ったく、大隊長がお前を指名したから楽しみにしてたのによ」
「な、なんだよ。勝ったじゃんか……」
褒めてもらえると思ったのに、不合格を出されてショックを受ける。
「分かった。俺が剣で相手をしてやる。お前は好きに戦え。勝てたら褒めてやる」
「魔法なしで?」
「お前相手に魔法を使うか」
ということでマーギンと試合をすることになったカザフ。
「始めっ!」
カザフは身体能力を生かした動きでマーギンに攻撃を仕掛けるが、全てカンっ、カンっと弾かれる。
「どうした? 俺は一歩も動いてないぞ」
「クソッ」
いくら飛び跳ねようと、全ての動きが読まれているカザフは手の打ちようがない。
「はぁぁぁっ」
全身に身体強化魔法を掛けて全力でマーギンに打ち込む。
カツン。
それをいなされるカザフの剣。
「鋭さが足らん。余計な力が入ってる」
「くっそぉぉぉっ!」
「ダメダメっ。もっと剣を振り下ろすことに集中しろ」
バシッ。
カザフの手を木剣で叩く。
「ほらもう一回」
それから何度も手を叩かれ、真っ赤になった手が痺れていく。
「もう手が……」
「負けを認めるか?」
「まだだっ!」
痺れた手で剣を振り下ろし続けるカザフ。しかし、全部弾かれて握力がなくなってきて、力いっぱい握り続けられなくなってきた。それに体力も精神力もすり減ってきて、何も考えられなくなってきている。
「フンッ!」
カザフは無心でただ剣を振り下ろした。
マーギンはそれを受けずに避け、剣をカザフの喉にあてた。
「勝者、陛下!」
「はい、お前の負け」
「ハァッ、ハァッ」
肩で息息をしながらその場でへたり込むんだカザフは自分の手を見た。
「マーギン」
「なんだ?」
「なんか、最後のめっちゃ軽く振れたんだけど……」
「最後のはいい剣筋だった。どうやったら毎回あんなふうにやれるのか、今の自分が何をやったか思い出しておけ」
試合を見終わった団長は目を丸くしていた。
「カザフ殿の初めの試合もすごかったですが、陛下との試合ではどんどん剣筋が……」
「マーギンはカザフ達の親代わりでもあるのだ。今回、ちょっと伸びてきた鼻を折ってやったのだろう」
「日頃は陛下が訓練をされていたのですか?」
「基礎はな。そのあと、剣術は他の者に教えてもらい、今は俺が教えている。今回、軍統括とやって学べばいいと思ったのだが、カザフが思っていたより強くなっていた」
「ええ、私も負けていたでしょうね。あんな戦法を使ってくるとは想像がつきませんでした」
「貴殿に見てもらいたかったのはそこだ。何をしてくるか分からん相手とはやりづらいものなのだ。逆に何をしてくるか分かる相手は怖くないということだな」
そして、マーギンは「王様すごーい」と子供達に拍手されてデレていたのであった。




