やっぱり親?
グスグスと鼻をすすって甘辛唐揚げを食うバネッサ。
「ちょっと手を見せろ」
「なんだよ?」
「いいから見せろって」
と、手を出させると真っ赤になっている。
「しもやけになってるな。下手したら凍傷になるぞ。手袋ぐらいしろ」
「手袋してたら木にも登りにくいし、武器も投げにくいじゃねーかよ」
「ったく」
マーギンはバネッサの手を握り、治癒魔法を掛けていく。
「足も出せ」
「足はなってねえって」
「いいから見せろ」
と、嫌がるバネッサの靴と靴下を脱がせる。
「バカっ、やめろっ。スケベっ!」
なぜ靴下を脱がせてスケベ扱いされにゃいかんのだ。
「ほれみろ、足の方が酷いじゃねーかよ」
足にも治癒魔法を掛けておく。
「食ったら風呂に入って身体を温めてこい。足が冷えきってる」
「分かったよ」
キツネ目がメイドを呼び、バネッサを風呂に案内させた。
「陛下、バネッサ嬢は仲間なのですよね?」
「まぁ、そうだな」
「ずいぶんと面倒を見られているようですが……」
「あいつは中身が子供だからな。つい世話を焼くことになる」
「それと、ここに忍び込めたのもそうですが、私は気配に気付けませんでした」
「あいつが本気で俺を殺すつもりで気配を消したら、俺も気付けないかもしれんな」
「まだ気配断ちの精度が上がると?」
「多分な」
「バネッサ嬢は隠密向きでございますね」
「まぁ、そうだろうけど、俺は隠密の生き方は好ましく思ってないんだ」
「と、申されますと?」
「バネッサには陽のあたる世界にいて欲しいってことだ。隠密の最後がどうなるかお前なら分かるだろ。利用されるだけ利用されて、切り捨てられる。悲しい生き方だ」
「……そうですね。しかし、その世界に身を置かねば生きていけなかったものもいるのですよ」
「それは知ってる。少しでもそういう環境が改善されていくといいな」
と、マーギンは少し悲しめな顔で微笑んだ。
「陛下なら改善できると思いますよ」
「俺じゃなくて、誰が王になってもそうしていかないとダメなんだよ」
そんな話をしていると、髪の毛をベチャベチャにしたままのバネッサがこっちにやってきた。そのうしろにはメイドがタオルを持ってあたふたしている。
「温まってこいと言っただろ?」
「ここの風呂がでかくて落ち着かねぇんだよ」
「ったく」
マーギンはメイドが持ってるタオルをもらい、バネッサの頭をワシャワシャ拭いてから、温風で乾かしていく。まるでトリマーになった気分だ。
「へへっ」
頭を振って軽くなった髪の毛を確認するバネッサ。そしてすぐに、
「マーギン、眠ぃ」
飯食って風呂入って、一気に疲れが出てきたのだろう。すでに目が寝かけている。
「あっちに俺のベッドがあるからそこで寝ろ」
「陛下、同衾なさるのですか?」
「俺は自分のマットレスがあるから問題ない」
同衾とか言うな。変な意味に聞こえるじゃないか。
そして皆を下がらせ、ベッドの隣にマットレスを敷いて寝ることに。バネッサはベッドに入った瞬間に寝たようで、布団に埋もれて丸くなって寝ていた。
モゾモゾ。
ん?
夜中にバネッサがこっちに潜り込んできた。ずっと不安だったのかもしれない。
「しょうがないやつだ……」
玉座の間は冷える。特に夜間はそれが顕著だ。しかし、バネッサが潜り込んできたことで暖かさが増し、マーギンも爆睡するのであった。
「おい、朝だぞ」
いつもはすぐに起きるバネッサがウンウンと言って起きない。
「早く起き……ろ」
と、バネッサの手を持つと熱い。慌ててデコに手をやると熱があるようだ。風邪引いたのか。
抱き上げてベッドに寝かせて布団を掛ける。
カタカタカタ。
「頭痛い……寒い……」
自分の毛布も掛けてやるが、震えが止まらないので、布団の中に手を突っ込んで温風を出してやる。布団乾燥機の要領だ。
「まだ寒いか?」
「頭が痛ぇ」
タオルを冷水で冷やして頭にのせてみる。
「ちょっとはマシか?」
「マーギン……」
心細そうな声を出すバネッサ。
「なんだ?」
「うち……死ぬのか……?」
「こんなもんで死ぬか。熱が下がるまでおとなしく寝てろ」
マーギンは水分を取らせた方がいいと、スポドリもどきを作るのにその場を離れようとすると、バネッサが手を握ってきた。
「ここにいてくれよ……」
そう言われて動けなくなったマーギンは、冷やしタオルを何度も冷やしなおしては頭にのせてを繰り返す。
まだ熱が上がってきてるな。
「陛下、どうなさいました?」
「バネッサが風邪を引いたようだ。子供達も今日はここにこさせないでくれ。伝染るとまずい」
「畏まりました。医者を連れて参ります」
「いや、大丈夫だ。それよりピッチャーを持ってきてくれ。あとタオルを何枚か」
キツネ目が用意したピッチャーに砂糖と塩を入れて経口補水液を作る。
「これを飲め」
バネッサの上半身を起こしてやると、汗びっしょりだ。脱がせて拭くわけにもいかないので、洗浄魔法を掛けてから温風で乾かす。
「飲みたくねぇ」
「ダメだ。飲まないともっと頭が痛くなるぞ」
と、無理矢理飲ませて寝かせた。
起きたら洗浄魔法と温風、経口補水液を飲ませるを繰り返す。
しかし、夜になるとさらに熱が上がってきたので、熱冷ましの薬を作って飲ませた。
「スー、スー」
さっきまでウンウンと言っていたのが、寝息に変わったので、熱冷ましが効いてきたのだろう。
マーギンはそのまま一晩中、タオルを冷やしなおして頭にのせるを繰り返した。
「頭が痛いのはどうだ?」
翌朝、バネッサのおでこを触りながら様子を聞く。
「まだ痛ぇ」
「そうか。まだしばらくかかりそうだな。お粥作ってあるけど食べられそうか?」
「ちょっと食べる」
「ならそれ食って、熱冷ましを飲め」
ヘラルドから熱を下げすぎてもダメだと言われていたので、熱冷ましの量も少量だ。
お粥を食べたあとに洗浄魔法と温風で綺麗にし、熱冷ましを飲ませる。
「トイレ」
「それはメイドに連れて行ってもらえ」
ふらつくバネッサを抱えるようにするメイド。なんか危なっかしいな。
「俺が連れて行くから、中は頼む」
「申し訳ございません」
ひょいと抱き上げても嫌がらないバネッサをトイレの前まで連れていき、メイドとバトンタッチ。そしてまたベッドに運ぶ。
こうして、3日間ほど寝込んだバネッサはようやく復調した。
「もう平気だぜ」
「そうか。なら俺は寝る」
看病でほとんど寝てなかったマーギンはマットレスで爆睡したのであった。




