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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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国が変わってもやることは同じ

倒したマンモーを軍人達に庶民街まで運ばせた。


ざわざわざわ。


「食いたいやつは肉を持っていけ」


マーギンはそう宣言して、軍人達に指導しながら解体させた。


「できました」


「上出来だ。では、部位ごとに分けていく。希望者に配ってやれ」


「はっ!」


しかし、誰も取りに来ようとしない。


「ん? ここは魔物肉は食わないのか?」


「王都の一般人には馴染みがない者が多いであります」


「そうか。なら、地方の村に持っていってやるべきだったな」


「北側の民は避難して、ウエサンプトン方面に移り住んでおります」


なるほど。


「みんなが食わないなら、お前らで食うか?」


「いいのですか?」


「結構旨いんだぞこれ。レーキも持って帰ってきてるな?」


「はい」


「じゃ、それも捌くからかせ」


と、マーギンはまだ生きているレーキをもらう。


「こいつは生きてる間は素手で触るな。手が凍る」


縄で縛ったままのレーキの顔の部分だけ縄を切り、60cmぐらい離れたところに手を出す。


ガバッ。


いきなり噛みつこうと出したレーキのクビをナイフでスパッと落とす。


ぶしゃぁぁ。


「俺は苦手だけど、血を飲めるやつはいるか?」


「はい」


と、平気なやつもいるようなので、血も貯めていくことに。


死んだレーキは氷の装甲がなくなるので、そこからの解体は普通の亀と同じだ。


肉を一度下茹でしてから、甲羅を鍋代わりにしてネギと一緒に煮込み、最後に生姜を加える。味付けは塩だ。醤油味の方が旨いけど、ここでは手に入らないからな。


血はノウブシルクの強い酒で割り、飲めるやつに渡していった。


「旨いですっ!」


「だろ。一匹で10人分くらいの量があるから、遠征のときの貴重な食料になる。それに、こいつを食うと身体が温まるから寒いときにはぴったりだな。血の酒は飲み過ぎるなよ。寝れなくなるぞ」


◆◆◆


「マーギン、お前も飲め」


「ガイン、血の酒なんていらないって言ってるだろ」


「なんでも試してみるものだ。それで好きか嫌いか決めろ」


ガインが血をウオッカのようなキツイ酒で割り、そのまま飲めと言う。


「絶対にダメだって」


と断っているのに無理矢理飲まされた。


「うげぇぇぇ。やっぱりダメじゃんかよ。ペッペッ。くそまじい。うぇぇぇ」


少しだけ飲んで吐き出したマーギン。


「子供かお前は」


「だからダメだって言ったじゃんかよ。血の味も嫌だし、こんなキツイ酒飲めるか」


「まったく張り合いのないやつだ」


クソ寒い中、ガインとミスティとレーキの鍋を食う。


「おー、身体が温まってきたわ」


「寒いところに出る魔物の肉は身体を温める作用がある。血はもっと身体を温めるのだぞ。寒がりのお前にはぴったりなんだぞ」


「俺が寒がりなんじゃない。ガインとミスティがおかしいんだよ」


寒さに強いガインとミスティ。はっきり言って異常だ。普通の人間は息をしたら肺が痛くなるような気温のところで上着を脱ぐか。


レーキ肉を食った2人は暑いとか言い出して、上着を脱いでいるのだ。


「そろそろ帰るか。お前らはここに残るのか?」


寒さに耐えるか、転移魔法酔いに耐えるかの2択。


うーん、うーんと悩んで残ることを選んだマーギン。


ガインはミスティの出した転移魔法陣で城に戻って行った。


「お前も帰ってよかったんだぞ」


「貴様1人だと凍死しかねんからな」


テントの中は冷凍庫のようだ。分厚い毛布にくるまっていてもカタカタと震える。


「まだ寒いのか?」


「寒いに決まってんだろ。さっきの鍋で随分と温まったけどさ」


「しょうがないやつだ」


と、ミスティが自分の毛布をマーギンの毛布上に載せ、中に入ってくる。


「へんなところを触るなよ」


「さっ、触るかよ」


マーギンの前に小さくなって寝るミスティ。


「寒いのマシになったわ」


「へんなところを触るなよ」


「前か後ろか分からんやつのどこにへんなところがあるんだよ?」


どすぅっ。


「ぐおっ……」


みぞおちに肘鉄を食らって悶絶するマーギン。


しばらくすると、小さく丸まっていたミスティが寝息を立て始め、マーギンは後ろから抱きしめるようにして寝たのであった。


◆◆◆


「おー、温まってきたぞー!」


と、軍人達は上着を脱いでいく。ガインかお前らは?


特に血の酒を飲んだやつは上半身裸になりそうな勢いだ。


マンモーの肉も脂が火に落ちて、ジュージューと香ばしい匂いを放っている。


「焼きすぎると硬くなるぞ」


「これも旨いです。毛牛よりずっと旨い」


毛牛とは北国にいる毛の長いデカい牛だ。獣臭があり、硬い肉質が特徴。マーギンは苦手な部類に入る。 


軍人達がマンモーの肉を旨いと食い出したのと、いい匂いを放っていることで、痩せた子供達が集まってきた。


「僕達も食べていいの?」


「いいぞ。好きなだけ食え」


マーギンは自分のところに子供を集め、肉に花咲カットをしてやってから焼いていく。


「美味しいっ!」


「そうか。肉はたくさんあるからな。好きなだけ食え」


「うんっ」


そして、他の大人達も軍人達のところにマンモーの肉をもらいにいくようになっていた。


「お前ら孤児か?」


「うん」


最終的に結構な人数の孤児達が集まってきた。この寒さの中でよくそんな服で平気だな。シュベタインの冬も寒かったが、ここはもっと寒い。このままだと凍死するんじゃないか?


「孤児院はどこにある」


「孤児院?」


ん?


「お前らどこに住んでる?」


「空き家とか」


「おい、この国には孤児院はないのか?」


と、軍人に尋ねる。


「教会が孤児院を兼ねてますが、入れない子供達も多いのです」


「そうか……よし、住むところのないやつは全員付いて来い」


「どこに行くの?」


「うちに泊めてやる」


「えっ? いいの?」


「このままだと、お前ら凍え死にそうだからな。全員泊めて、飯も食わせてやる」


「やったあっ!」


「ここに来てないやつにも声を掛けて連れてこい」


「分かった!」


そうして50人ほど集まった子供達をぞろぞろと連れて歩く。小さくて城まで歩けなさそうな子供は軍人達に背負わせた。


「おじちゃん、こっちに行ったらダメだよ。怒られちゃう」


おじちゃん……


「大丈夫だ」


「えーっ、だって叩かれるの嫌だよ」


「誰も叩いたりしないから大丈夫だ。それにおじちゃんは強いんだぞ」


「ほんと?」


「あぁ、この国で一番強いんだぞ。なぁ、お前ら」


「はっ!」


軍人達がそう答えたことでキャッキャとはしゃぐ子供達。


そして……


「さ、着いたぞ」


「こ、ここお城だよね?」


「そう。おじちゃんは城に住んでるんだ」


「えーっ、すっごーい」


ぞろぞろと小汚い子供達を見て、ざわつく衛兵や騎士達。


「陛下、この子供達はいかがなさいましたか」


騎士団長が慌ててやってきた。


「住むところのない子供達だ。このまま城に住まわせる。何人か医者を呼べ。健康診断をさせる」


「城に孤児達を住まわせるのですか?」


「部屋はたくさんあるんだ。問題ないだろ」


「あれは来賓用の部屋で……」


「こいつらは俺の客だ」


「か、かしこまりました」



「えっ、おじちゃんって王様だったの?」


玉座の間に連れてきたことではしゃぐ子供達。


「この前王様になったんだ。凄いだろ?」


「すっごーい!」


マーギンは王の私室や他の部屋も使わず、玉座の間を自分の部屋として使っていた。


ここに来るまでに孤児達に洗浄魔法を掛けたが、ボロい服はそのままだ。


「へ、陛下。少々お戯れが過ぎ……」


「死ぬか?」


「素晴らしい御慈悲でございます」


「ここに子供達が寝られるベッドや毛布、それと服を用意しろ。明日の朝からは飯の用意もだ」


「はっ」


そして、医者が呼ばれて来たがとても嫌そうな顔をしている。貴族相手の医者なのだろう。


「子供達の健康診断をしろ」

 

「特に問題がないように見受けられます」


何も診断せずにそう言った1人の医者。


バンッ。


マーギンは魔導銃を出して肩を撃った。


「うぎゃぁぁっ」


《ヒール》


一瞬で傷が治った医者。


「さて、質問だ。今お前は俺に撃たれ、治癒された。このあとどうなると思う?」


「なんだ今の治癒魔法は……」


「そんなことは聞いてない。このあとどうなるか聞いたんだ。早く答えろ」


「も、もうなんともありません……」


「お前、本当に医者か? 今お前に撃ち込んだのは鉛の弾だ。それがお前の中に残ったまま傷口が治癒された。これがどういう意味か分かるか」


「お、おっしゃってる意味が……」


「ここまで言っても分からんか。お前は鉛中毒になって死ぬんだよ」


「はっ?」


「鉛を摂取すると鉛中毒というものになる。お前は身体に直接鉛を取り込んだ状態だ。中毒になるのも早いだろうな」


今のやりとりを見ていた他の医者はすでに震えながら子供の健康診断を始めていた。


「な、なんですとっ」


「それを治す方法は分かるか?」


「おっ、教えてください」


「それは鉛の弾を取り出すことだ」


《パラライズ!》


「うぐっ……」


マーギンは医者にパラライズを掛けて身動きできなくしてから、ナイフで肩をえぐる。


「うっ、うぎゃぁぉぁっ!」


「パラライズを掛けられたまま無理矢理動くと、筋肉が裂けたり、筋が切れたりするから暴れようとしない方がいいぞ」


マーギンはそのまま傷口に指を突っ込んで弾を取り出す。


「うぐぐぐ、ぐふっ、ぐふっ」 


声にならない声を出す医者。


傷口をジョボボボボと水魔法で洗ってから治癒魔法を掛けて、パラライズを解除した。


「俺の命令を蔑ろにしたらどうなるか分かったろ? さっさと子供達の健康診断をしろ。もし、診断ミスをしたら命はないと思え」


医者達も恐怖支配をしたマーギン。


しかし、自分達にない医療知識を持ったマーギンに興味を持ったのも事実なのであった。



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― 新着の感想 ―
また飯の話してる…からのこの展開好きw いつもマーギンはみんなのお母さんやってるけど正直こういうマーギンの方があってると思ってた
転生チート主人公みたいだ(*・ω・)
無限城に住んでそう
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