バカバカバカバカっ!
ウッキウキでマーギンが来るのを待つカタリーナ。しかし、待てど暮らせどマーギンが来ない。
「お父様達とお昼ご飯食べてるのかな?」
「そうかもしれませんね。ゴルドバーンのことをどうするかお話をされているのでしょうから、長引くのではありませんか」
「うん……」
「姫様も何か食べましょう」
カタリーナとローズは私室でランチを取り、マーギンを待った。
「おっそーーい! いくらなんでも遅すぎない?」
「ですね……誰かに聞いてきてもらいましょうか」
と、王が誰と謁見しているか、使用人に聞きに行ってもらった。
「姫様、陛下は他の方と謁見されているようです」
「マーギンは?」
「申し訳ございません。そこまでは……」
「探しに行くっ!」
と、カタリーナは痺れを切らしてマーギンを探しに行った。しかし、城のどこにもいない。
「何か緊急事態が発生したのかもしれませんね。大隊長もおられませんし」
「なんかあったのかな?」
「どうでしょう」
「街に探しに行ってみよ。もしかしたら、家にいるかもしれないし」
「それより部屋にいた方がよろしいのではないですか? 入れ違いになるかもしれませんよ」
と、ローズに言われて部屋に戻った。
その頃、マーギンはいくら考えても答えが出ずに、溜まりに溜まった疲れがどっと出てベッドで寝ていた。
日が暮れた頃に目覚めたマーギン。
「あーっ、よく寝た。寝すぎて頭が痛いわ」
指先から水を出してゴクゴクと飲む。自分のベッドて寝るのも久しぶりだし、1人なのも久しぶり。
ぐーっ。
朝うどんを食べたきり、何も食べてないマーギンのお腹が鳴る。しかし、自分だけ食べるのに何かを作るのが面倒臭い。
「大将の賄いでも食べにいくか」
しばらく顔を出してなかったリッカの食堂に食べに行くことに。
「おや、マーギン。久しぶりだね」
「うん、昨日戻ってきたんだよ。さっきまで寝てた」
「で、その髪の毛の色はなんだい?」
すでにほとんど黒髪に戻っているマーギン。毛先だけが金髪なのだ。
「おしゃれ」
「ちっとも良くないよ。サビ柄の野良猫みたいじゃないか」
と、褒めてくれなかった女将さん。
リッカの食堂は流行ってはいるものの、前みたいな混雑ぶりではない。
「いつものちょうだい」
と、注文したら、すでにリッカが持って来た。
「どこに行ってたのよ?」
「他国だ」
「他国? へぇ、いいなぁ。私も外国に行ってみたい」
「他国は戦争中だ。なんにも楽しくないぞ」
「戦争してるの?」
「そうだ。魔物も増えてるし、安心して暮らせるような状況じゃない。それと比べたらシュベタインは平和でいい国だな」
「そうなんだ」
と、ピンとこないリッカ。平和しかしらないと、そのありがたみは分からない。ま、それが幸せというやつなんだろうけど。
久しぶりの大将の賄いを堪能していると、
「いたーーっ!」
カタリーナがやってくるなり大きな声を出す。
「騒ぐな。他の客に迷惑だろ」
ボロボロ……
そしていきなり泣き出すカタリーナ。
「おっ、おい、どうしたんだよ?」
「マーギンのバカバカバカバカっ!」
マーギンに泣きながらポカポカしてくる。
「マーギン、姫様の部屋に来る約束はどうした?」
「えっ? 約束……あっ」
「姫様はずーっと、部屋でお待ちになられていたのだぞ。何か緊急事態が発生したのかと思っていたが、呑気に酒を飲んでいるとはな」
ローズにピーマンを見る目で見られるマーギン。
「わ、悪かったな……考えごとをしていたら、ついな……」
「うぇぇぇん。マーギンのバカぁ」
「明日、明日の朝に行くから」
「いっ、今から……ヒック。今から来てっ!」
「今からって、もう夜だぞ」
「いいから今から来てっ!」
「おっ、おい……今からって」
と、カタリーナはマーギンの手を引っ張って外へと連れていく。ローズはマーギンの食べたものの支払いと、騒がせたお詫びに金貨1枚を支払っていた。
「魔法使って」
「は?」
「転移魔法使って私の部屋に来て」
「こんなところで転移魔法を使うとか……」
「早くっ!」
あまりの剣幕に路地裏に入ってから転移魔法を使ってカタリーナの部屋に移動したマーギン。
「お待たせしまし……た? あれ?」
哀れ、ローズ間に合わず。
カタリーナの部屋でちょっぴりうえぇをしたマーギンは洗浄魔法で綺麗にする。
「どうしたんだよ?」
「ずっとマーギンが来るの待ってたのにっ!」
「だから悪かったって。あっ……」
「なに?」
「ローズを置いてきた」
「あっ……でも、もう夜だしいいよね」
王城にカタリーナがいるときは、夜の護衛は他のものがする。しかし……
「マーギン」
真剣な顔をするカタリーナ。
「はい」
「魔道金庫に自分の名前を入力してみて」
「もう試したぞ」
「本当の名前を入力してみて」
「本当の名前?」
「そう。サナダギンジロウって入力して」
マーギンは言われるがままに入力をする。
カチャ。
「えっ……? 開いた……こっ、これ……」
「お母様がね、パスワードはマーギンの本当の名前じゃないかって。それでもずっと開かなくて、何か間違ってるんじゃないかと思って、マーギンに名前を書いてもらったの。サナダギンジローじゃなくて、サナダギンジロウだったのよ」
「俺の本名がパスワード……だと?」
「そんなの絶対に誰も分かんないよね」
ミスティの魔道具金庫のパスワードが俺の名前? あいつがそんなことをするわけが……
「ミャウ族のマナって、本当の名前ってことだったのよ」
本当の名前……真の名……マナか。
◆◆◆
「マーギン、お前の生まれた国の文字はよくできているな」
ガインに漢字のことを聞かれて説明しているマーギン。
「覚えるのは大変だけど、ぱっと見ただけで意味が分かるという点では優れてるらしいよ」
「うむ。これは暗号にも使えるな」
と、ガインは軍の作戦書類とかに使うつもりらしく、マーギンにしばらく漢字について教えてもらうのであった。
◆◆◆
そういや、ガインに漢字とか教えたことがあったな。それでパスワードのヒントにマナを押せと儀式に組み込んだのか。なんて分かりにくいヒントを残すんだよ。
しかし、よく数千年も変わらずに残ったものだ……
俺の本名をパスワードにしたのがガインだとすると合点がいく。ミスティが先に目覚めてたら、パスワードが変わってて開けられなかったんじゃないのか? と疑問に思いつつ、金庫の中身を確かめねばと思う。ミスティの指輪が入っていたなら、あの壊れた石像が本物かもしれない。指輪がなければあの石像は偽物の可能性が高くなる。
「マーギン、開けないの?」
「カタリーナ」
「なに?」
「ありがとう。俺だけなら絶対に開けられなかったわ」
「うん♪」
マーギンは金庫の取っ手を持ちながらカタリーナにお礼を言った。
ふーっ。
マーギンは大きく深呼吸をした。
金庫を開けるのに勇気がいる。真実を確かめたいのと、知らないほうが良かったと後悔する自分の未来が見える。
「ローズは金庫が開いたことを知っているのか?」
「知ってるよ」
「もう中身は見たか?」
「ううん。パスワードを入力しただけで、扉は開けてないよ」
「そうか。なら、ローズが戻るのを待とうか」
「どうして?」
「ここまで付き合わせて、先に開けるのもなんだろ? それに王妃様も知ってるのか?」
「うん」
「そうか。なら、王妃様とローズにも立ち会ってもらおうか。みんな何が入ってるか気になってるだろ?」
「でも、魔法の師匠は他の人に見られたくないんじゃない? マーギンが見て、みんなに見せていいと思ったものだけ見せた方がいいと思う。だから、お母様もパスワードが分かっても、開けないようにと言ってたから」
そうか。ミスティが何を入れてるか分からんからな。人様に見せてはいけないものとか入ってるかもしれん。
「分かった。じゃ、先に開けるわ」
「じゃ、カウントダウンしてあげる。さんっ、にー、いちっ、ゼロっ。オープン!」
カタリーナのオープンの掛け声に合わせて、マーギンは扉を開けたのであった。




