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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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ノイエクスの成長

「落ち着け。まだ何かをすると決まったわけではない」


ブワッと殺気が溢れたマーギンを諫める大隊長。


そして、すぐにノウブシルク兵を連れて出発すると伝えることにした。



「本当に無条件解放を領主が認めたのですか?」


ノウブシルク兵の小隊長が移動中に聞いてくる。夜なのに移動すると言われたら疑問に思うのも当然だ。


「そうじゃなきゃ、こうしてウエサンプトンに向けて移動できると思うか? それに日中だとゴルドバーンの市民が攻めこんでこられたのかと驚くだろ?」


「そ、それもそうですね」


と、もっともらしい嘘をつく。領主に気付かれないうちに移動してしまわないとダメなのだ。


一応、敵ではないという意味を表すために白旗をいくつも掲げて移動し、街には寄らないことにした。土地勘がないので、北方面に続く道をバネッサに先行して確認をしてもらっている。


「姫様、眠いようですが大丈夫ですか?」


「う、うん。大丈夫」


疲労が抜けきってないカタリーナには夜通しの移動がきついようで歩みが遅い。


「乗ってください」


と、ローズがしゃがんで背中にどうぞと言った。


「ローズは走って戻ってきたんでしょ。大丈夫」


「しかし……」


その様子を伺っていたマーギンは前に作ったトロッコを出した。


「これに乗れ」


「う、うん」


マーギンには素直に甘えるカタリーナ。


トロッコの中にはマットレスも敷いてあり、マーギンにポンと毛布を渡される。


「寝とけ。先を急ぐからキツイ移動になる。ローズも疲れてるなら、一緒に乗ればいい」


「いや、私は護衛だから、警戒しながら後ろを歩く」


「わーい」

 

その横から飛び乗ってくるアイリス。おい、お前には乗れと言ってない。と、言う前に乗り込みやがった。


マーギンはトロッコにスリップを掛けて引っ張っろうとすると、


「マーギン、それは俺がやる」


と、ノイエクスが言ってきた。


「牽くのに力はいらんから大丈夫だぞ」

 

「いや、何かあったときにすぐに対処できるのはマーギンだ。お前の手が塞がっているのは良くない」


それを聞いていた大隊長はふふっと笑っていた。


ノイエクスにドナドナされるカタリーナとアイリスは寝てしまったようで静かだ。


「治癒師のお嬢さんに、かなり負担を掛けてしまっていたのですね」


「当たり前だろ? 何人治癒したと思ってるんだ。まぁ、本人が全員助けたいと言ったから、やらせたけどな」


「そうでしたか……慈悲深いお嬢さんなのですね」


「そうだな。ワガママなところもあるが、頑張り屋でもある」


小隊長とそんな話をしながら、進むと道が森に差し掛かる。


「お前ら魔物と戦った経験はあるか?」


「なくはないですが、今は丸腰ですので」


兵士達の武器のうち、魔導銃はマーギンが、剣や弓矢、槍はゴルドバーン兵によって接収されている。


「そうだったな。なら、全員でかたまれ。魔物が来るぞ。ローズ、ノイエクス。構えとけ。タジキもカタリーナの護衛に加われ。トルクは俺に付いてこい」


大隊長もすでにヴィコーレを構えている。バネッサとカザフは先行して戻ってきてないので、大した魔物じゃないと判断したのだろう。


「マーギン、何が来るのー?」


「多分魔犬だな。数はそこそこ多いぞ」


「マーギン、ここは任せろ」


と、大隊長が言ってくれたので、大きな群れがいる方向に向かった。


「トルク、今回は魔法を使え。あっちにいくやつを掴んで行かせるな」


「分かったー」


パスッ、パスッ、パスッ。


マーギンは魔犬が襲ってくる前にストーンバレットで頭を狙撃していく。魔犬はキャインと鳴く間もなく倒れていった。


「えいっ」


ドカッ、ギャインっ。


トルクは掴んだ魔犬を投げて木にぶつけて殺した。他の魔犬はその鳴き声を聞いて、自分達が先に襲われていることに気付いた。それをきっかけに、他の魔犬達も戦闘モードになっていく。


マーギンは狙撃を止め、マシンガンのようにズガガガガガと乱れ撃ち。


「トルク、ここは終わった。あっちの援護に入るぞ」


皆の方に戻ると、大隊長はもちろん、ノイエクスも頑張っていた。トロッコはローズとタジキが守っている。それを見たマーギンはトロッコの横に行き、トルクに指示を出す。


「ノクスに身体強化魔法を掛けろ。掛けっぱなしじゃないぞ。ノクスが剣を振り下ろす瞬間だけな」


「やってみる」


補助役として、バフを掛けっぱなしにするのは難しくない。が、掛けられている方の体力切れも早くなるので、瞬間瞬間で掛けるのが望ましい。今回は対象人物がどう動くか読んで瞬間的に掛ける必要があのだ。


トルクのバフを掛けるタイミングが上手くいかず、ノイエクスは違和感を感じる。


「トルク、遅い。振り下ろしの途中で掛けても効果が薄い。振り下ろそうとしたときに掛けるんだ」


「う、うん」


言うは易し、行うは難しだ。


トルクはノイエクスの動きとなかなか合わない。違和感の正体を確かめようとトロッコの方をチラッと見て、マーギンがトルクに指導している姿が見えた。


「そういうことか」


マーギンがトルクに魔法を教えていると理解したノイエクスは、トルクの身体強化魔法が掛かることを意識していく。


そして、剣を振り下ろすときに魔法を掛けようとしているのが分かった。


「ようし、いつでもこい」


自分の力が増すのを理解していると、違和感もずいぶんとマシになった。


「トルク、良く見るのと同時に、自分がノクスになったつもりになれ。お前が自分で戦っているような感じでな」


感覚的なことを言葉で教えるのは難しい。その人その人の感覚が違うからだ。しかし、トルクはノイエクスになったつもりで戦うイメージを持ちながら、マーギンならここでバフを掛けてくれると、マーギンにもなったつもりでバフを掛けるという方法をとった。


スパンっ、スパンっ。


ノイエクスの動きが突然、熟練した剣士のような動きになっていく。


こうして、被害が出ることもなく、魔犬の群れを討伐した。



「お疲れ。いい動きだったぞ」


ノイエクスを褒めるマーギン。


「トルクの魔法のおかげだな。慣れたあとはとても動きやすかった」


「マーギン、こっちに来てくれ」


と、大隊長が大声で呼ぶ。


「なにかあり……あっ!」


「これが黒い魔犬か?」


「そうです。この群れに3匹もいたのか」


大隊長の足元に、病気をばら撒く黒い魔犬が3匹死んでいた。


「これは厄犬じゃないですか」


と、見に来た小隊長が言う。


「これを知ってるのか?」


「はい。噛まれた人は魔犬のようになり、人を襲ったりします。魔狼にもいます」


ノウブシルクには黒い魔狼もいるのか。


とりあえず、近くに死んでいる魔犬はインフェルノで焼いておく。


「マーギン、この先に村があるけど、寄らねぇんだよな?」


「そのつもりだぞ」


バネッサとカザフが戻ってきて、村のある場所とその先の道を説明してくれる。


「村を避けるなら、こっちの森を抜けるしかねぇぞ。見つかってもいいなら、そのまま横を通り過ぎればいい」


「バネッサ、村の様子は確認したか?」


「どこにも寄らねぇって言ったから見てねぇぞ」


「了解。偵察ありがとうな」


そう、バネッサとカザフを労ったあと、大隊長に相談しようとしたとき、


コンッ。


「痛っ。こんなときにふざけんなよ」


バネッサがオスクリタを投げて後頭部に当ててきたのだ。


「うちはなんもしてねぇよ。オスクリタが勝手に飛んでったんだ。マーギンがなんかしたんじゃねぇのかよ?」


「え?」


勝手に飛んできただと? マーギンは頭をさすりながら、そんなことあるのか? と疑問に思う。


◆◆◆


「マーベリック、この先は魔物の巣になってる。どうする?」


斥候に出ていたベローチェが先の様子を調べて戻ってきた。


「避けて通るには時間が掛かる。進もう」


「えー、また魔物の巣に突っ込むのかよ。魔力も減ってるし、休むか、違う道を行こうぜ。ミスティもヘトヘトになってるだろ」


「マーギン、私のことはいい。余計な口出しをするなといつも言ってるじゃろうが」


「だってさぁ。ベローチェもマーベリックに聞いたら、進むとしか言わないんだから、行き止まりになってるとか言えよ。本当に使えない斥候だな」


連戦で疲れているのは皆同じ。ベローチェは先行しては戻りを繰り返すので、他の人より移動距離が増える分、体力的にもキツイのだ。


マーギンがベローチェを労いもせず、使えないやつ扱いしたことに腹を立てたベローチェが、


コンコンコンコンコンコン。

 

「あいてててててっ」


無言でオスクリタを投げ続けてくる。


「なにすんだよっ!」


「死ね」


そうベローチェはマーギンに吐き捨てた。


「皆疲れているなら、ここで休憩してからにしよう」


喧嘩を始めそうなマーギンとベローチェを見たマーベリックは無表情でそう言ったあと、座ってパンを食べ始めた。


マーギンはパンを炙り、バターとハチミツを掛けてミスティに渡す。自分のはバターだけだ。


コンッ。


「痛っ。それやめろって言ってるだろ」


「ハチミツをよこせ」


「やなこったい。食うもんは自分で用意することになってるだろうが」


「もうねぇんだよ。いいからさっさとよこせ」


と、強奪されるのであった。


◆◆◆


「変なこともあるもんだがまあいい。バネッサが調べてきてくれたところまで進むから、お前もそのトロッコで寝とけ」


「なんか食いてぇぞ」


「今作っている暇はないから、パンだけだぞ」


と、パンを炙ってバターとハチミツを掛けて渡す。カザフにも同じものを渡して、2人とも、次に斥候に出るまで寝ておくように言ったのだった。



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― 新着の感想 ―
過去の武器達は意思と記憶を抱えてるんやな(*・ω・)
オスクリタは神だったのか? マーギンの見落としをとがめることも出来るのか〜♪
お目付役のオスクリタで草
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