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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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やっぱり地獄絵図

「さ、ここを上がっていくから」


プロテクション階段を初めて経験する人はへっぴり腰だ。


「ほ、本当に大丈夫なのか?」


ノクスは高さが苦手のようで、膝がカクカク震えている。


「大隊長は平気?」


「問題ない。空中を歩くというのはいささか変な感覚だがな」


「うーん、どうしようかな」


「歩くのではないのか?」


「スリップで滑っていくと早いんだけど、予想以上にスピードが出たりするんだよ。途中でスリップを解除したら、尻が摩擦熱で火傷しそうになるし」


「では歩くしかないのだな」


「いや、プロテクションをチューブ状にして、落っこちないようにしてやってみるよ。歩いたら時間掛かり過ぎるし」


マーギンは大きなホースのようなものをイメージしたプロテクションを出していく。これ、集中力が半端なく必要だ。


「みんな固まって。今から滑って移動するから」


「また怖いんでしょ?」


カタリーナが顔をしかめる。


「緩やかな角度にしてあるから前よりましだと思う」


先頭はマーギン。方角と角度を調整しながらチューブ状のプロテクションを出すのだ。


《スリップ!》


マーギンがみんなを浮かせると、スルッと動き始める。


ビューーーン。


緩やかな角度なのに、いきなりスピードが出る。


「うっぎゃぁぁぁっー! 落ちるーー!」


「ノクス、暴れるな。危ない」


姉のローズがノクスを抑える。しかし、1列になっているので、みんなが巻き込まれて、列がうねり、チューブの中で左右に大きく振られる。


「ばっ、ばか。こんなに揺らされたら、集中力が持たん」


角度を調節しようにも、どう角度をつけていいか分からない。とりあえずスピードを落とすのに上に向けねば。


プロテクションを上に向けると、上昇Gが襲う。ヤバいヤバい。もう少し下に……


バビューン。


今度は下げすぎて、落下しているような感じになる。


「止めてーっ、止めてーっ!」


叫ぶカタリーナ。


《スリップ解除》


キュキュキューっ。


「熱っちぃぃぃっ!」


《スリップ! スリップ!》


尻の熱さに耐えきれず、アイリスが勝手にスリップを掛けた。


バビューン。


「ぎゃぁぁぁっ!」


地獄絵図アゲイン。


そのあとも、ジェットコースターのような移動になったのだった。



「死ぬ……」


ジェットコースター酔いはシャランランで治してもらい、ゴルドバーンの入り口から徒歩1日ほど離れた場所で野営することになった。


「ノクス、ごめんなさいは?」


チューブ状のプロテクションを出し続けたマーギンもぐったりしながら、ことの発端となったノイエクスをジロリと睨む。


「あっ、あんなの怖いに決まってるじゃないかっ!」


「他のものを巻き込むな。全員ヤバかっただろうが。次にあれを使うときはお前を一番うしろにして、列に加えんからな」


それを聞いていたみんなは、またあれで移動することがあるのかと青ざめたのであった。


テント設営をし、飯もそこそこにして寝ることに。全員嫌な汗をかいたので、洗浄魔法を掛けておく。


マーギンがテントを張り、寝ようとするとアイリスが入ってきた。


「自分のテントで寝ろ」


「大丈夫ですよ」


何がだ?


「このテント、二人で寝てもまだ広いじゃないですか」


「あのなぁ……」


「うちもここで寝る」


と、バネッサも来た。ここは荒野みたいなところなので、かなり気温も下がってきているので、一人で寝ると寒いらしい。このテントは空調付きだしな。


大隊長はノイエクスと、カザフ達は3人で、カタリーナはローズと同じテントだ。


「もう好きにしろ」


疲れて、言い合いする気も起こらない。全体をプロテクションで囲って、見張りも立てずに寝るのであった。


朝飯もそれぞれで。スープはタジキが全員の分を作ってくれた。


ひたすらゴルドバーンの入り口を目指して歩き、早めの野営をしてから、入国することに。


「晩飯は何を食うんだ?」


「そうだな。カニ鍋でも食うか?」


「いいぜ」


他のみんなも鍋でいいとのことなので、それぞれ鍋を用意して、カニや魚、鶏、豚なんかを出しておく。好きなものを勝手に食べてくれたまへ。


「大隊長、飲む?」


「マーギンは何を飲むのだ?」


「甲羅酒でも飲もうかと思って」


「お、いいな。俺もそれをもらおう」


甲羅にタイベ酒を注いで、炭焼きの網の上に。甲羅はまだあるので、カニ味噌にほぐしたカニの身を混ぜてのせる。


「あつつつ、かぁー、旨いなこれ」


カニ味噌で和えたカニの身をつまみながら甲羅酒。寒いときにこういうのはたまらんな。


酒を飲みつつ、しばらく、ゴルドバーンの村のことを話さない二人。そして飲み終わったあと、


「なぁ、マーギン。あの区域はどうしようもないか?」


「そうですね。タイベの先住民達には対策を取ってもらいましたけど、ゴルドバーンのことは情報がないですから、手の打ち方が分からないってのが正直なところです。ゴルドバーンでも魔物は同じように数も増えて、強くなってるでしょうが、国として対策を練ってるかどうかすら分からないですしね」


「そうだな。シュベタインもマーギンがいなければ対策は遅れていただろう。先住民達も同じような状態になっていただろうな」


「ま、明日、ゴルドバーンの街に入ってから情報収集しないと始まらないってことですね」


「そうだな」


翌朝、


「どこから来た?」


「シュベタイン。これはハンター証ね」


ゴルドバーンへの入り口の門で身分証を見せる。


「シュベタインだと? 徒歩で来たのか?」


「そう。魔物を退治しながらね。ガキ共の教育をしてんだよ」


「そっちの幼き娘もハンターか?」


幼き娘扱いされる、化け物アイリス。


「そうだよ。みんなハンター証出して」


カタリーナとローズの分も作ってきてある。


「同じパーティか?」


「んー、仲間は仲間だけど、いつもパーティを組んでるわけじゃないね。今回は遠出だから一緒に来ただけ。それよりゴルドバーンって、ハンターのパーティのことまで聞かれんの?」


「い、いや。シュベタインから人が来るのは珍しくてな」


そらそうだろうな。


「知ってたら教えて欲しいんだけどさ、ゴルドバーンって、人型の虫系の魔物出てる?」


「シュベタインでも出てるのかっ」


門番でも知ってるってことは、やはり問題になってるんだな。


「王都近辺には出てないけど、南側には出てる。かなりヤバいやつだ」


「そうか……ゴルドバーンだけの問題ではなかったのだな」


「シュベタインは南側の温暖なところだけなんだけど、ゴルドバーンもそう?」


「今のところはな。いくつもの村がなくなっている。村ごと街へ避難してきたものもいる」


「倒せる人いる?」


「いや、ハンターも何人も殺られている。しばらくゴルドバーンに滞在するなら、ぜひ討伐に参加してくれ。それと……」


「それと?」


「傭兵も募集している。詳しくはハンター組合で聞いてくれ」


門番が色々と教えてくれたのはいいけど、傭兵か。


「ノウブシルクが攻めて来てんの?」


「ウエサンプトンがノウブシルクに下ったからな。現在、ゴルドバーンとウエサンプトンとの国境沿いで小競り合いが続いている。ウエサンプトンは友好国だったから、複雑な状況だ」


本当はウエサンプトンとゴルドバーンはお互い戦いたくないのだろう。


「色々教えてくれてありがとうね。しばらく魔物討伐で稼がせてもらうよ」


「頼んだぞ」


今ゴルドバーンは、戦える者はウェルカムのようで、スムーズに入国ができたのであった。




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― 新着の感想 ―
次の想像なんか、したくないみんな…w
お尻が熱くなったアイリスをヨシヨシしてあげたい
アイリスいても居なくても… 初期から好感度がマイナスになってるんだが…
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