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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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旅行気分

「陛下からもらってきたぞ」


大隊長が髪の毛の色を変える薬を持ってきてくれた。臭いを嗅ぐとブリーチ剤かなんかだなこれ。


「貴重な薬らしいから、こぼすなよ」


いや、そんなに貴重なものではないと思う。魔法の薬かなんかと期待していたが、そうではなさそうだ。


早速髪の毛に付けて、しばし放置すると、髪の毛の色が抜けていく。


「こんなもんでいいかな?」


「なにか違和感があるな。もう少し待った方がいいんじゃ」


「そう?」


待つだけなのも暇なので、地図を見ながら、ゴルドバーンのどの辺りに転移するか相談する。


「前はどこに行ったのだ?」


「ほとんどが南側の山とかそんなところ。街中は怪しまれても嫌だから、少し覗いた程度だね」


「そうか、状況を調べるには中心地に行かねばならんからな。シュベタインから入国したように見せる必要もある」


「なら、南側の山近くに転移してから、こっちに移動する必要があるね」


「距離はどれぐらいある?」


「ミャウ族の集落からライオネルぐらいかな」


「かなりあるな。徒歩移動だと1ヶ月ぐらい掛かるかもしれん」


「なら、俺とカタリーナで、ここに移動してから、みんなを呼び寄せようか?」


と、シュベタインから陸路で向かったときの入り口付近を指で示す。


「初めからそこに転移できんのか?」


「転移魔法って、一度行ったことがある場所しか無理なんだよね。俺一人で行って、転移で戻って来てもいいんだけど、ずっと同じ場所にいてもらうことになる」


マーギンは転移酔いのことと、カタリーナがいないと2〜3日動けなくなることを説明する。


「そうか。ならば姫様を連れて行って、戻ってくる方がいいな」


そこまでの移動はプロテクション階段を使うことを説明すると、


「皆で行けばいいのではないか?」


「スピード出すと、結構危なかったりするんだよね。2人ならなんとかできても、全員になんかあったら、助けられないかも」


結局、安全策を取ることになり、全員でゴルドバーンの南側に転移し、マーギンとカタリーナがゴルドバーンの入り口に行って、転移ポイントを作ってくることで決まった。


「うむ、髪の色もいい感じになったな」


と、言われて鏡を見る。


「金髪みたいになってんじゃん」


「いいではないか」


「俺の顔立ちに似合わんでしょ」


まるで田舎のヤンキーみたいな感じだ。それに違和感があるのは眉毛のせいだな。


「眉毛も色揃えないとダメだね」


と、眉毛に薬を塗る。


「まつ毛だけ黒いとおかしいぞ」


と、言われたのでまつ毛にも……


「うぎゃぁぁ、目がっ、目がぁぁぁ」


薬品が目に入り、転げ回るマーギン。城が空から崩れ落ちてしまいそうだ。


治癒魔法でなんとか乗り切り、金髪マーギンの完成。


「おぉ、目の色もブラウンになったぞ」


え?


また鏡を見てみると、確かに瞳の色も黒からブラウンに変わっていた。ブリーチ剤じゃないのかこれ? もし、ブリーチ剤と同じだとしたら、目ん玉漂白とか怖すぎる。



出発前に全員の持ち物を確認するために、夜に宿舎に集合した。


「ぎゃーはっはっは、マーギンじゃねぇ。マーキンだ」


金髪マーギンを見て大笑いするバネッサ。


ギンからキンに変わっただけで、なんか卑猥な名前に聞こえるのはなぜだろう。


「うるさい。ゴルドバーンに行くのに各自の持ち物をチェックをする」


「マーギンが全部用意してくれてんじゃねぇのかよ?」


「人数が多いだろうが。着替えはもちろん、食料やテントも自分の分を用意しておけ」


マジックバッグ持ちは、アイリス、タジキ、バネッサ。追加で大隊長の分も必要だな。ヴィコーレを持ち歩くと目立つからな。


「マーギンさん、ハンバーグはおやつに入りますか?」


「入る」


「えーっ」


別におやつの上限とかないだろうが。


「ノイエクス……呼びにくいな、お前の名前。ノックスでいいか?」


「ノクスでいい」


「なら、ノクス。お前、自前のテントとか持ってるか?」


「一応あるけど」


「着替えとか含めてタジキのマジックバッグに入れといてもらえ。食料もある程度、自分で用意しとけよ。肉は現地でも調達できるだろうが、パンとかな」


「分かった」


「大隊長、全員で動くとは思うけど、チーム分けしといた方がいいかな?」


「そうだな。なにか希望はあるか?」


「タジキは大隊長、カザフはバネッサ、トルクは俺に付け。他は……ノクス、お前はアイリスの盾役、カタリーナの盾役は俺がやる」


「マーギン、ローズは連れて行かないの?」


「ローズ、行きたい?」


「わ、私は……」


「マーギン、ローズも連れていけ。もしかしたら、ゴルドバーンの貴族と話をすることがあるかもしれん。俺1人より、女性がいた方が警戒されずに済む」


「了解」


「僕がマーギンに付けって、どういう意味?」


と、トルクが聞いてくる。


「カザフ、タジキ、トルクは俺か大隊長が許可を出すまで実戦をさせない。それぞれ付いた人が何をするのか、どう動くのかをよく見ておけ。絶対に勝手に戦闘するな」


「えっ? なんでだよっ。俺達はもう結構やれるようになってんだぜ」


カザフが不満を言う。


「知ってる。だから連れて行くんだ。見るのも特訓だと思え。ノクス、お前もだ。アイリスがやらかしたらお前に責任を問うからな」


「えっ? なんでだよ」


「盾役とはそういうものだ」


と、適当なことを言っておく。アイリスに自分がやらかしたら、怒られるのは他人だということを知っといてもらおう。


それから2日掛けて、それぞれが準備を整え、出発することになった。



「さ、行くぞ」


「おー!」


マーギンがカタリーナと先に入り、あとに皆が続く。カタリーナも慣れたもので、マーギンがグラッときた瞬間にシャランランをしてくれる。


「助かる……スンスン」


マーギンがカタリーナを嗅ぐ。


「嗅ぎたいの?」


「やっぱりお前がシャランランを使うと甘い匂いがする」


「自分では分かんない」


「だろうな。他の人にも分からんみたいだから、魔力が関係してるのかもしれん」


「何をやっとるのだお前は?」


カタリーナを嗅いでいるところを大隊長に見られたマーギン。


「い、いや。変なことをしていたわけじゃないんだよ……」


「変態野郎が。お前、前にうちの匂いも嗅いでたよな」


バネッサからも白い目で見られる。そんな目で見るのは構わないが、ローズの前で人聞きの悪いことを言わないで欲しい。


「あー、姫様から甘い匂いがする」


「トルクも分かるの?」


「うん、甘い花みたいな匂いがする」


「マジで?」


カザフとタジキもクンカクンカとカタリーナの匂いを嗅ぎに行く。


「やっ、やめてよ」


カザフ達よ、もうすぐそれは変態と呼ばれる行為になるのだぞ。


そして、カザフとタジキはしつこく嗅ぐので、エクレールの餌食になるのであった。



「タイベみたいな気候だなここ」


冬の王都から来たから、蒸し暑く感じるので、軽装に着替えてから、拠点をどこにするか話し合う。


「見知らぬ場所で拠点を作るのはまずいな。どこかに村かなにかないか?」

 

「ありますよ。前にチューマンに襲われ掛けていた村がね」


「ではそこに行こう。金を払えば、村の中で野営させてもらえるだろう」


と、村を目指して移動する。



「これは酷いな……」


マーギン達が目にしたものは、壊滅した村だった。


「これはチューマンの仕業か?」


「どうでしょうね」


ここに来るまで、マーギンと大隊長以外は旅行気分だったのが、壊滅した村を見て、自分達が甘かったことを自覚する。


黒ずんだ土がそこらかしこにあるが、すでに血の臭いはしない。襲われてから時間が経っているのだろう。


「大隊長、チューマンの可能性が高いです。入り口が綺麗に斬られてますからね」


夜に襲撃を受けたのだろう。入り口の扉がすっぱりと斬られ、家の中にはおびただしい血の跡が残っている。逃げる暇もなかったということだな。


他の家も似たような感じだ。タイベでは3匹セットのことが多かったが、どの家も似たような感じだ。おそらくこの村は複数のチューマンに襲われたのだろう。


「ここにまた来ると思うか?」


「どうでしょうね。狩り尽くしたと思えば来ないでしょうし、餌場と認識していれば、餌が溜まってないか確認に来るでしょうね」


「そうか。ならばここで野営をするのはやめておこう。移動するぞ」


この感じだと、周辺の村は襲われてなくても、離村しているだろう。この近辺で野営地を作るのは無理と判断して、全員でプロテクション階段を使って、ゴルドバーンの入り口へと移動することになったのだった。


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― 新着の感想 ―
現地の空気感を知る、解らせるって点で一気に目的地行かせるよりチビ共には良かったんだろう…(*・ω・)
バネッサやカザフ達は転移魔法のことを知っていたのですか?
全員を救う事は無理だからな。残念です
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