儀式用の歌
「マーギンが来たーっ!」
マーギンが先導してミャウ族の集落に入ると、ギンに乗ったポニーがやって来た。
キン、ギンとハナコが「あなた、マーギンのなんなのよ」という感じで睨み合う。
「グルルルルルッ」
「パォーーン」
「こらこら、喧嘩すんな。こいつはハナコ。ナムの集落の住象だ。こっちはキンとギン。ミャウ族の客犬だ。お互い仲良くしろよ」
と、マーギンがお互いを紹介すると、キンとギンがハナコの周りをウロウロして臭いを確認。ハナコも長い鼻で追いかけるように臭いを嗅ぐ。
「マーギン、この動物はなに?」
ポニーは象を初めて見るようだ。
「これは象という動物だ。名前はハナコ。身体も大きいし、力も強いんだぞ。ここに来るまでにラプトゥルも倒したしな」
「へぇ、凄いんだねぇ」
「ほら、これをあげてみろ。喜ぶぞ」
と、ポニーにリンゴを渡してやる。
「はい、ハナコにあげる」
ハナコはリンゴより先にポニーの臭いを嗅ぐ。
「な、なに?」
「敵かどうか確認してんだろ」
ムフーっと鼻息を掛けたあと、リンゴを掴んで食べた。
「ハナコ、ここの人間は敵じゃない。暴れるなよ」
そう教えると耳をパタパタと動かした。分かったわよ、てな感じかな。
なんかくれ、なんかくれと、キンとギンがマーギンの前を嬉しそうな顔でウロウロする。
「ほら、これをやるから」
ササミを茹でたものをそれぞれの口に入れてやる。
「マーギン、これは魔狼ではないのだな?」
大隊長がキンギンを見て確認してくる。
「これは山犬、ここでは山神と呼ばれてますけどね。チューマンにやられ掛けていたところを助けたら、懐いちゃったんですよ。今はここでワー族と集落を守ってます」
「ほう、山犬を見るのは初めてだな」
と、ロドリゲスが手を出す。
カプ。
「ぎゃーーっ、噛みやがった」
「大げさな。甘噛だろうが。怪しいやつが勝手に触るなとでも言いたいんだろ」
ケガしない程度に噛み噛みするギン。
「痛てててててっ、ゴリゴリすんじゃねーっ」
と、ロドリゲスがケリを入れようとするとひょいと避けたところにキンがデンッと身体をぶつけた。
「こいつらなんだってんだ」
プリプリ怒るロドリゲスに、ふんっ、このチンピラ風情が、とでも言いたげなキンとギン。
「俺と一緒にいるから、敵じゃないと分かってるけど、怪しいやつと認識されたんだろうな」
チンピラはこういう扱いを受けるのは世の常だ。
「おーい、オヤビンっ!」
今度はピアンだ。
「今回はまた珍しいものを連れてきやしたね。象の上に乗ってる人が嫁さんで?」
「違うわバカ。毎回毎回同じことを言うなよ」
「いやぁ、あの熟した人とかオヤビンの嫁さんに良さそうでヤンスね」
熟した人呼ばわりされた王妃は喜んでいいのか、怒っていいのか分からない表情をする。
「あの人はカタリーナのお母さんだ」
「あっ、そうでヤンしたか。どおりで似た匂いだと思ったヤンスよ。あの姫さんが熟すとこんな感じになるんでヤンすねぇ。オヤビンは若い実より、熟した実の方が好きでヤンすか?」
相変わらずデリカシーのないピアン。
「お前、失礼だぞ」
「いや、だって、なんでも腐りかけが一番旨いてヤンすから」
「腐りかけ……?」
ここで、王妃は怒ることを選択。
ヤバい。
「大隊長、こいつはワー族の特務隊志願者なんですよ。バネッサにも鍛えてもらってましたが、大隊長からも鍛えてやってくれません?」
大隊長も王妃のこめかみにピキッと怒りマークが出たのに気付いていた。
「良かろう。ラプトゥルとの対戦もできなかったからな。獣狩りといこうか」
「アッシが獣でヤンすと?」
ワー族を獣呼ばわりするのは禁句。そのことはみんなに教えてあったが、ワザとその言葉を口にした大隊長。
「お前が人であるならば、正々堂々と掛かって来るがいい」
「じゃ、大隊長、よろしくね。俺は族長代理のところに王妃様を紹介しに行くから」
「あぁ、任せておけ」
大隊長はヴィコーレを使わずに、素手でピアンとやるようだ。お互い風魔法使いだから、どんな戦いになるか興味があるな。しかし、先にミャウタンのところに行こう。
「ようこそお越し下さいました。私はミャウ族の族長代理をしております、ミャウタンと申します」
「初めまして。シュベタイン王国で王妃をしておりますオルヒデーエと申します。こちらはタイベの領主、エドモンド・ボルティアです」
エドモンドもペコリと頭を下げる。
そして、今回訪れた用件を伝える。
「友好を望むために、わざわざ王族の方と領主にお越しいただけるとはありがたい話です。これも使徒様のお力……」
ビシッ。
「あうっ」
マーギンにデコピンを食らってのけぞるミャウタン。
「それ、やめろって言っただろうが。あと、紹介が遅れたが、この二人はゴイルとマーイ。ナムの集落のものだ。こっちはマーロックとシシリー。ハンナリー商会のものだ」
「初めましてミャウタン様。ナムを祀る民の族長代理のゴイルです。妹のマーイは巫女で踊り子をしております」
ゴイルって、族長代理になったのか?
「シシリーです。直接お取引することはあまりないかもしれませんが、ご贔屓に願います」
マーロックはペコリと頭を下げただけ。
「最後はロドリゲス。こう見えても王都のハンター組合の組合長をしているものだ」
「よろしく」
「皆様、よくぞお越し下さいました。何もおもてなしはできませぬが、ごゆるりとお過ごし下さいませ。昼から儀式を行いますので、よろしければご参加くださいませ」
ミャウ族達も慌ただしくなっていたので、またうなぎとか取りに行ってくれるのだろう。
「王妃様並びに皆様方、長旅でお疲れでしょうから、どうぞご休息くださいませ」
みんながミャウタンの屋敷で休ませてもらう間に、マーギンは焼肉の準備をしておく。ロドリゲスとマーロックが手伝ってくれ、シシリーはミャウタンと仕事の話をしていた。
そして、儀式。
マナの心は親心から始まったあと、
「マナかなマナかなー♪ マーギンが押すのはマナかなー♪」
初めて聞くやつだな。
「不思議な歌ですわね」
「何種類もあるんですよ。マーイ、ナムの儀式も色んなパターンがあるのか?」
「ううん、そんなにないよ」
王妃の背中を押しながら聞いてみたが、こんなに種類が多いのはミャウ族だけのようだ。
その話を聞いた王妃は、のちにミャウタンと話をすることになる。
そして宴会に突入。
「うなぎーうなぎーうなうなぎー♪ うなぎのタレはここにある♪」
マーギンが作ったうなぎのタレを踊りながら持っていくミャウ族。今回、醤油を大量に持ってきたから、今後は自分達で作りたまへ。
「ひどい目に合いヤンした……大隊長、強いでヤンス」
「当たり前だ。特務隊で一番強いんだからな」
ボロボロになって戻ってきたピアン。大隊長はロブスンと一緒にこっちにきた。
「マーギン、大隊長は見事な強さだな」
「武器を持ったら、ロブスンでも敵わんと思うぞ。そのゴツい身体でスピードも兼ね備えてるからな」
「あぁ、素手でやってもらっても互角だったから、その通りだろう」
「ふはははは、ロブスンも相当強いな。ぜひオルターネンと立ち合いをさせてみたいところだ」
「ロブスンはここの要ですからね。対峙するなら隊長を連れてくることになるだろうけど、そうなれば大隊長は王都を離れられませんよ」
「ムムム、それはそうか。早急にサリドンかホープにオルターネンぐらいになってもらわねばならんな」
「そういうことです。ま、あの二人は副隊長向きかもしれませんけどね」
「そうだな」
「隊長候補ならロッカかな。そこにサリドンかホープを付ければいいかもしれません」
「うむ、それはそうだろうな。オルターネンはどう考えているか分からんが、そのうちそうなるだろう」
と、話しているとうなぎ丼を持ってきてくれた。
「これは旨い」
大隊長絶賛。焼肉と同じぐらい好きだろう。
「マーギンさん、これは初めて食べる魚ですわ」
「そうですね。この近くで捕れる魚です。ここに来たときのお楽しみってやつです。カタリーナも大好物ですよ」
「マーギン、どんな魚だ?」
マーロックがさばく前のうなぎを聞いてくるので、他の人に持ってきてもらった。
「なんだプラーイか。海でも捕れるぞ」
「そうなの? アナゴと間違ってないよな?」
「アナゴもそうだが、こいつもタコツボの中に入ってたりする。こんなに美味かったとは知らなかったぞ」
「タレとの相性が抜群だからな」
「ナムの川でも、海でも捕れるぞ」
と、ゴイルも言う。
「マジで? 一回も出てきたことなかっただろ?」
「捌くの面倒な割に美味いと思わなかったからな。しかし、こうして食うなら別だ。めちゃくちゃ美味い」
「うん、すっごく美味しい」
シシリーはすでに頭の中で計算を始めている。タイベ飯に加わりそうだな。
「シシリー、言っとくけど、こいつを売り物にするには時間が掛かるぞ」
「どうして?」
「捌くのも、串を打つのも、焼くのも職人を育てないとダメだからだ。それと、こいつはそれほど大量に捕る魚じゃないから、王都に売るのは止めとけ。捕りすぎて、うなぎがいなくなる。やるならタイベだけにしとけよ」
「そうなの? 分かったわ。でも、お客様をタイベに呼ぶためのものの一つになりそうね」
エドモンドはこうして、タイベに人を呼び込むための仕掛けができていくのかと、感心していた。
「マーギンくんに任せて正解だった。アイリス共々タイベを頼む」
と、手を握られる。アイリスはもう自分の手から離れてんだけど?
ミャウタン邸に宿泊するのは王妃、領主、シシリーとマーロック。ゴイルとマーイはミャウ族達と交流をするために儀式会場でマーギン達と宿泊することに。
「マーロック、ロブスン。ここは安全だけど護衛を頼めるか」
マーギンはミャウタン邸に来て、王妃の護衛を頼む。
「それは構わねぇけど、大隊長はなんかあるのか?」
「あぁ、ちょっと付いてきて欲しいところがあるんだよ」
「分かった」
こうして、マーギンはロドリゲスと大隊長を連れて、ラーの神殿へと向かったのであった。




