また仲間が増える
「マーギン、いつまで遊んでるんだ? 俺もそんなに暇ってわけじゃないんだぞ」
宿の部屋でロドリゲスにそう言われる。確かにそうなんだよ。今回の旅は王妃のためのものではないのだ。
「明日にはナムの村経由でミャウ族の集落に向かう。王妃様は大隊長がいるから大丈夫だろ」
「そうか。ならいいけどな」
「大隊長に予定を伝えに行ってくるよ」
と、王妃の部屋の前で護衛をしている大隊長の元へ。
「交代してくれるのか?」
「違いますよ。明日からの予定の話。俺とロドリゲスは先住民の集落に用があるんです。今回の目的はそれなんですよ。なので、明日からは別行動ですよ、と伝えに来たんです」
「そうか。王妃様も何も告げずに出てこられたようだから、ここらが潮時だろうな」
「大隊長も大変ですね。では……」
と、去ろうとすると、カチャッと扉が開いた。
「マーギンさん、私のわがままに付き合って下さってありがとうございました」
と、王妃にこちらの声が聞こえていたようで、挨拶に出てきてくれたみたいだ。
「こちらこそ。素敵な水着姿を拝見させていただき、ご馳走様でした」
と、変な返しをするマーギン。すると、王妃はふふふと笑ってから、真顔に戻る。
「もしお嫌ならお断りしていただいて結構です」
「何をですか?」
「ミャウ族の元に向かわれるのに、同行させていただけませんでしょうか」
は?
「どどど、どうしてですか?」
まだ付いて来るのかよ? と言いかけるマーギン。
「そうですわね。きちんとお話した方が宜しいですわね。スターム、ボルティアも呼んできてください。ロドリゲスさんもご一緒に」
と、いうことで、王妃の部屋に全員集合した。
「マーギンさん、今回の目的は先住民と王国のつながりを強化したいと思い、マーギンさんに付いて参りました。本来であれば、マーギンさんを巻き込むのはご迷惑な話と分かっておりますが、架け橋になってくださる方がいたほうがスムーズに話が進むと思ったのです」
「なぜ急につながりを持たれるんですか?」
「これまでも機があればとは思っておりましたが、チャンスがなかったのですよ。このままでも問題がないのかもしれませんが、ハンナリー商会が先住民達と取引を始めたので、他の商人達も先住民と取り引きを持ち掛けるようになるでしょう。王都からの人の流れも増えるでしょうし、揉めごとが起こる可能性が高いのです」
「それは自分も心配してましたので、他の商人と取り引きしないように伝えてあります」
「商人は海千山千、純朴な先住民は簡単に騙されますわ。こじれてから話をするより、先に話をしておきたいのです。別に先住民達を国に取り込もうとしているのではありません。こちらは友好を望むと直接お伝えしたいのです」
そういうことか。
「ここから結構な距離がありますけど、王妃様が移動するには無理があると思うんです」
「カタリーナはどうやって移動してましたの?」
転移魔法以外だと、おんぶしてホバー移動や、プロテクションスライダーとか言えない。それにトロッコでヤバかったこととか……
「は、走ってとかです」
と、マーギンはフクロウのように顔を背けて返事をする。
「プロテクション階段で空から滑ったと伺いましたけど?」
げ、バレてる。
危ないんですよ、と言いかけて、カタリーナをそんな危ない移動をさせたのかと突っ込まれても困るしなぁ。
「怖いかもしれませんよ?」
「大丈夫ですわ。スタームもおりますし」
そうか、王妃の護衛は大隊長だ。王妃を後ろから支える役は大隊長にしてもらうか。それからプロテクションスライダーを水平にして、半筒状にしたらホバー移動しても危なくないかもしれん。多分……
「分かりました。明日、マーロックの船でナムの集落の港に行き、そこからミャウ族の集落を目指します」
「ありがとうございます。ボルティアは同行しますか? タイベの領主として、先住民の長とお会いしておいた方がいいとは思いますけど」
「も、もちろんでございます」
ここで嫌とは言えないわな。
「マーギン、いいのか?」
ロドリゲスが俺の秘密のことがバレるぞと言いたげだ。
「王妃様と大隊長は知ってる。領主様にもバレても問題ないかな」
「お前がいいならいいけどな」
「マーギンくん、なんの話かね?」
エドモンドはなんの話か分からない。
「別に気にしないでください。そのうち分かるかもしれませんし」
と、詳しくは説明しなかった。
翌日、
「船でナムの集落に向かいます」
「マーギン、王妃様達もナムに行くの?」
と、シシリーが聞いてくる。
「そうなった。そのあと、ミャウ族のところにもな」
「えっ、大丈夫なの?」
「まぁ、しょうがない」
シシリーに王妃が懸念していることと、友好を望んでいることを先住民に直接伝えに行くことを話す。
「そうなのね。じゃあ、私も付いていってあげる」
「なんで?」
「貴人が女性のお付きなしなんて、大変じゃない。もし、女性にしか分からない問題が起きたときに、マーギンが対応できるの?」
「……無理だな」
「でしょ?」
「エルラも行くなら俺も付いてってやる。護衛役が足りなくなるだろ」
「心配症ね」
と、シシリーはマーロックに微笑んだのであった。
ナムの港に到着すると、
「マーギンさん、サメのヒレが溜まってるんですけど」
そういや、フカヒレにするから干しといてと頼んでたの忘れてた。すでに100匹分ぐらいあるらしい。いくらぐらいの価値があるか分からんな。さて、いくら払おうか。
「いくら払おうね?」
「タダでいいですよ。すり身にする魔道具とかいただいてますし」
というわけにもいかないので、10万G払っておく。
「それ何に使うんだ?」
と、マーロックは不思議そうだ。
「戻してからスープで煮ると高級食材になるらしい」
「らしい?」
「俺も食ったことないんだよね」
フカヒレは高級品というのは知ってる。が、食べたことはないのだ。
そんなもんが欲しいなら、俺達もとっておくぞと言ってくれた。
歩きがてら、ゴイル達のところへ向かうが、王妃は歩き慣れてないから辛そうだな。
「デーエ夫人。ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、箱に乗ります?」
「箱に乗る?」
マーギンは前に作ったトロッコを出し、底にマットを敷く。
「ここに乗ってください。大隊長が引っ張ってくれますので」
自分で引っ張るとは言わないマーギン。
王妃はよいしょと箱に乗り込んで座る。
《スリップ!》
「はい、大隊長引っ張って」
「お前なぁ」
「なんの抵抗もないから大丈夫。俺は横にズレないようにしてるから。ロドは反対側に付いて」
こうして王妃をドナドナしていく。エドモンドもだんだんと辛そうな顔をしているが、王妃と同乗する勇気はないだろうから歩いてくれたまへ。
「マーギン来たか」
と、ゴイルがやってきた。誰かが知らせに行ってくれたのだろう。
「ゴイル、長老のところに案内してもらえるかな? ちょっと話があるんだよ」
「そりゃいいけどよ、今日はメンツが違うな。そっちのご夫人はケガでもしたのか?」
「歩き慣れてないから馬車がわりだよ。あとでちゃんとみんな紹介するよ」
と、伝えて、長老の家に向かった。
「長老様、お久しぶりです。突然申し訳ありません」
「よくぞおいでくださいました」
「今日はご紹介したい方々をお連れしました。こちらはシュベタイン王国の王妃様です」
「オルヒデーエと申します。初めまして長老様」
長老は王妃だと聞かされ、くわっと目を見開き、立ち上がろうとする。
「大丈夫、大丈夫。そのままでいいですよ」
と、マーギンが勝手に許可を出す。
「足が悪く、申し訳ございません」
「お気になさらないで下さい。あと、この者がタイベの領主、エドモンド・ボルティアと護衛のスターム・ケルニーです。ロドリゲスさん達はマーギンさんがご紹介くださいな」
「こちらはロドリゲス、王都ハンター組合の組合長です。マーロックとシシリーはご存じですよね」
「皆様、このようなところに、ようこそおいでくださいました」
と、挨拶が済んだあと、王妃は王国は友好を望んでいることを伝える。
「誠にありがたい話でございます。ゴイル、きちんともてなしを頼むぞ」
「はい、長老様」
どうやら、長老は体調が良くないようなので、早めにお暇した。
「お前、王妃様を連れてくるとか何考えてんだよ。ありえないだろ普通」
ゴイルが目を丸くしながらマーギンと話す。
「だよね。俺もそう思う」
でも、俺のせいではない。
「今日、泊まるんだろ? うちみたいなところしかねぇけど、どうするつもりだ?」
そう、困るのが宿なんだよな。
「王妃様、今夜の宿泊はゴイルの家でいいですか?」
「カタリーナはどうしてましたの?」
「いつも俺のテントですね」
「では、私もテントで宜しいですわ。いきなり来て、泊めていただくのも申し訳ありませんし」
「大隊長、テント持ってきてる?」
「持ってるように見えるか?」
ですよねー。
しょうがない。小屋を作るか。
「領主様は泊めてもらいます?」
「いや、私も遠慮しておこう」
ゴイルは宴会の用意をしてくれるようなので、前に作った東屋の方へ移動。
「テントが人数分ないので、小屋を作ります。これで我慢してくださいね」
小屋といっても、屋根付きの押し入れみたいなものだ。囚人と変わらんな。
王妃とシシリーの小屋は広めに。男は寝れたらいいか。
マーギンがモクモクと小屋を作る間に王妃はシシリーと何やら話をしていた。仲良くしてくれて何よりだ。
小屋が完成するころ、マーイが呼びにきてくれた。
「こんにちは王妃様、領主様と皆様。ゴイルの妹マーイです。ようこそナムの集落へ。お食事の用意ができましたので、ご案内します」
「おー、お前、ちゃんとできるんだな」
「そりゃあこれぐらいわね。あとで、下に敷くものとかタオルとか持ってくるね。うちに泊まればいいのに」
「こういう体験もされたいみたいだから大丈夫だ」
移動しながらマーイと話す。
「明日からどうすんの?」
「ミャウ族の集落に行くぞ」
「全員で?」
「そうだよ」
「じゃあ、私も行こうっと」
「は?」
「ミャウ族から醤油を分けて欲しいって言われてるの。取りに来るか持って行くかまだ決めてなかったんだよね。マーギンがいるなら安心だし、ハナコに運んでもらうよ」
「いや、俺達は……」
「私、ミャウ族のところに行ってみたかったんだよね。楽しみだねマーギン」
と、マーイに微笑まれたマーギンは、そうだねとしか答えることができなかったのであった。




