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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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きっかけ

「じゃ、何やってたの?」


「飯の作り溜めしてるんだよ」


「バネッサと何してたの?」


しつこいカタリーナ。


「ロッカには無理だった原因が分からないからな。バネッサでもう一度試してたんだよ」


「ふーん。じゃあ、私にもやってみて」


「お前はもう十分だ」


「やってみて!」


あー、もう。


「手を出せ」


と、カタリーナの手を握ると、恋人繋ぎをしてきやがった。まぁ、色々試すのにはいいか。


カタリーナが変な声を出しても困るので、流すぞと予告してから始める。


「あー、なんかマーギンの熱いものが身体に入ってくる」


言い方っ。


「それが身体に溜まっていくような感じはあるか?」


「ううん。なんか身体に吸収されていく感じ。喉が渇いてるときに水飲んだみたいっていうのかな」


バネッサと感じ方が違うのか、表現方法が違うのか分からんな。


マーギンはカタリーナを鑑定しながら魔力をもう少し流してみる。


げっ……


カタリーナの魔力がピコンピコンと上がっていく。なんだこの上がり方は?


「お前、熱が出てきたとか、そんな感じはあるか?」


「ないよ。でも、なんか口から魔力が出そう」


嫌な表現をしたので、魔力を流すのをやめた。


「フフフフフ」


いきなり笑いだすカタリーナ。


えっ?


「おもしろーい」


こいつ、俺が魔力を流すのをやめたのに吸ってやがる。


「やっ、やめっ……」


ズズズズズ。


いかん、この感覚はマジックドレインだ。このまま吸われては干からびてしまう。


マーギンは慌てて、べッ、とカタリーナの手を振り払う。


「なんで離すのよ?」


「干からびるわっ。お前、これは絶対に他の人にやるなよ」


「どうして?」


「こんな吸われ方をしたら、普通の人間は死ぬからだ」


「えっ?」


「お前が使ったのはマジックドレインという魔物肉に溜まった瘴気を抜くための魔法だ。危ないから人に使うな」


「そうなの?」


「そうだ」


と、マーギンは言ったが、今のでカタリーナの魔力がさらに伸びた。マジックドレインは魔力を抜いて空気中に霧散させるもの。カタリーナがやったのは魔力吸収だ。似て異なる魔法。というかこいつの能力なのかもしれん。恐ろしい娘……


「カタリーナ、ちょっと実験を手伝え」


「何するの?」


「ロッカの魔力を吸ってみてくれ」


「人にやっちゃダメなんでしょ?」


「あれはゴリラだ」


と、酷いことを言うマーギン。



「ロッカ、もう一度試す」


「え?」


そう言われて顔を上げると、酒と涙で酷い顔になっているロッカ。


「お前、かなり飲んだな。そんな状態だと危ないかもしれんから、またにするか」


「今だ。可能性があるなら今やってくれぇぇぇ」


むぎゅぅぅぅぅ。


酔っているロッカはマーギンに抱きついた。


「やっ、やめっ……死ぬ……」


ゴキゴキと悲鳴を上げるマーギンの身体。


「離れろっ」


それを引き離すオルターネン。


「た、助かったよ、ちい兄様」


背骨をへし折られ掛けたマーギンはオルターネンをまたちい兄様呼びしたことには気付いていない。


オルターネンはそれを咎めず、フッと笑顔で気付かぬフリをした。


「もう一度何をやるのだ?」


「原因がよく分からないから実験だよ。ロッカ、カタリーナと手を繋げ」


「それで魔力が増えるのか」


「だから実験だと言ってるだろうが」


カタリーナが手を出すと、それを握るロッカ。


ギチギチギチギチ。


「痛い痛い痛い痛いっ!」


ダメだ。酔って力の制御が壊れている。


《パラライズ!》


「マーギン、酷いことするわね」


冷ややかな目のシスコ。


「ロッカが暴れたら家が壊れる」


ロッカを猛獣と同じ扱いをするマーギン。


「カタリーナ、やれ。それで俺が止めたらすぐにやめろ」


カタリーナは自分の手にシャランランを掛けてから、ロッカの魔力を吸っていく。


「もっとゆっくり」


吸うスピードが早い。ロッカの魔力量ならあっと言う間に干からびるぞ。


「えっえっ、そんな調整できないよ」


ヤバい。吸われ尽くしてしまう。数値の減り方を見たマーギンは慌ててロッカに魔力を流すと、マーギンが流す魔力とカタリーナが吸うスピードが同じになる。


「カタリーナ、もう吸うのをやめろ。俺の魔力がロッカに流れだした」


「止まらないのっ!」


えっ?


「手を離せ」


「ロッカが握り締めてて離れないのっ。痛い痛い痛いー!」


ヤバいヤバいヤバい。パラライズの影響でロッカの手が硬直したのか?


《パラライズ解除っ!》


しかし、カタリーナの手が離れない。


「痛ーいっ。離してぇぇ」


ヤバいっ。カタリーナが痛さで魔力を吸うスピードが上がった。マーギンもそれに合わせて魔力を強く流していく。


「ちい兄様っ、カタリーナからロッカを引き剥がしてくれ」


「わ、分かった」


オルターネンはロッカの身体を引っ張り、ローズがカタリーナを引っ張った。


スポン。


ゴンっ。


いきなり二人が離れたことで、兄妹共に頭をしこたま床で打つ。オルターネンはそのままロッカの下敷きだ。


「はぁ、やばかった。やっぱりよく知らないことをやっちゃダメだな」


頭をポリポリかきながら、呑気にそう言ったマーギン。その言葉が聞こえたロッカ。


「魔力……私は魔力を増やしたいのだ。頼むマーギン、私の魔力を増やしてくれぇぇぇ」


ムチューー。


自分の下敷きになっているオルターネンをマーギンだと思ったロッカは、オルターネンに抱きつき、チューをして吸った。


「あ………」


全員がその様子を見て固まる。


「ロ、ロッカ。私はオルターネンだ……」


「えっ?」


目の前にあるのは赤くなったオルターネンの顔。それを認識したロッカは酔いが急速に醒めていく。


「わ、私は何を……」


「ロッカ、あなたはオルターネン様にキスしたのよ」


「えっ?」


「えぇ、それはそれは濃厚なキスだったわよ。ご馳走様」


こんなときに、シスコのだって面白いじゃない、が発動。


「あっ、あの、その……私は」


「き、気にしなくていい。酔った上での事故だ。マーギンと間違われたのはあれだがな」


「も、申し訳ありませんっ!」


ドガッ。


ロッカはオルターネンから飛んで離れて、恥ずかしさのあまり、ドアをぶち破って外に出て行ってしまった。


「バネッサ、頼む」


「了解」


「バネッサ、待て。俺が行こう」


あとを追いかけようとしたバネッサにそう言ったオルターネンはロッカを追った。


よろしくね、と心の中で呟いたマーギンは壊れたドアを片付ける。


「あーあー、やっぱり暴れゴリラじゃんかよ」


木製のドアは錬金魔法でも直せない。職人を呼んで修理してもらわないとダメだなこれ。


「マーギン、どう処理するつもりなのかしら?」


シスコの面白いじゃない継続中。


「さぁ。隊長に任せておけばいいんじゃない。もう用件は済んだろ。お前らもそろそろ帰れ」


「あの二人を待たなくていいのかしら?」


「帰ってくるかどうか分からんからな。俺は明日の準備もあるんだよ」


「なんの?」


「ソードフィッシュの試食をするんだろうが。下ごしらえしとかないとダメなんだよ」


「あっ、そのことね」


「ブリケは連れて来てくれ。あとは食べたい人がいたら連れて来てくれて構わないぞ」


「明日なんかやんのかよ?」


シスコしか知らないソードフィッシュの試食会。バネッサは興味を示す。


「大将の店の閉店後に、ソードフィッシュの試食会をするんだよ」


「へへっ、うちは明日休みだからラッキーだぜ」


「私も参加するっ!」


カタリーナも当然のごとく参戦希望。


「いいぞ」


初めから関係者全員参加するだろうと思ってたからな。


「ローズ、帰ろう」


と、カタリーナが珍しく、泊まると言わずに帰るようだ。


「じゃ、貴族門まで送るわ」


こうして、全員がマーギンの家を出たのであった。



「隊長、私は……私は……なんてことをしでかしてしまったのか……誠に申し訳ございません」


ロッカはオルターネンに探し出され、気にするなと言われていた。


「そこまでして魔力を増やしたかった理由はなんだ?」


「そ、それは……」


ロッカはポツリポツリとシスコにした話をオルターネンにする。


「そうか。自分より弱いと思っていた者に抜かれていく焦りか……」


「はい。私は伸び盛りの年齢を過ぎております。努力を続けても、これから伸びて来る者達にどんどん追い抜かれていくでしょう。これが5年後とかであれば、下の者達が強くなったことを素直に称えられるのかもしれません。しかし、私はまだそこまで成長しきれていないのです」


「その気持ちは理解できるな。俺も似たような気持ちがある」


「えっ、隊長もですか?」


「あぁ、そうだ。特務隊の隊長としては魔物から国や民を守るのが目標というか使命だ。しかし、オルターネン個人としては違う。俺は大隊長より強くなりたい。マーギンから特殊な剣をもらい、魔法を使えるようにしてもらい、特訓も受けた。それで大隊長の背中が見えた気がしていた」


「え、えぇ。隊長も大隊長に勝てぬとも負けてはおられないと思いますが」


「いや、まだ次元が違う。それにマーギンからバトルアックスを託され、さらに化け物になってしまった。もう追い付ける気がせん」


オルターネンは淋しそうな顔でロッカに話す。


「俺達はあと何をすればもっと強くなれるのだろうな?」


と、笑顔になりロッカを見た。


「わ、私はそれを魔力で何とかならないのだろうかと……」


「では、もう一度ちゃんとマーギンと相談してみるか。先ほどはロッカが酔っていて何があったかよく分からんかったが、進展があったのではないかと思っている」


「も、申し訳ございません」


「そのことは謝らなくていい。が、一つ謝って欲しいことはあるな」


「な、何をでしょうか」

 

「あれをマーギンだと思ってしたことだ」


「えっ?」


「他の男と勘違いされて、されたことが腑に落ちないのだ」


「も、申し訳ございません。私とマーギンはそのような関係でも気持ちもなく……」


「では、オルターネンだと分かって嫌だったか?」


「そ、そのようなことはありませんっ。ただ、私のような者が、申し訳なく……」


「そうか、俺が相手でも嫌ではなかったのだな」


「は、はい……」


うっ……


オルターネンはロッカに顎クイをしてキスをした。


「私は事故とはいえ、お前とキスできて良かった。お前は嫌か?」


「い、いえっ。そのようなことは」


乙女ゴリラは真っ赤になって両手で顔を隠した。


「ロッカ、共に強くなろう」


「は、はい。オルターネン様……」


ロッカは隊長からオルターネン呼びをした。



「あーあー、オルターネン様をロッカに取られちまったじゃねーかよ」


カタリーナを送ったあと、オルターネン達を見付けたマーギンとバネッサは気配を消して一部始終を見ていた。覗くつもりはなかったのだが、声を掛けようとしたら甘い雰囲気になってしまったので、慌てて隠れたのだ。


「お前、隊長のこと好きだったんだな」


「そうだよ。わりーかよ?」


「別に」


初めの頃は、猫かぶりしてオルターネンに擦り寄ってたけど、途中からそんな素振りを見せてなかったけどな。


「マーギン」


バネッサはオルターネンとロッカが男女の雰囲気になったことを見つめたままマーギンに話す。


「なんだよ」


「うちのことをもらえよ」


そして唐突に自分を嫁にしろと言った。


「それもいいかもな。毎日おっぱいに溺れられるわ」


と、マーギンは手でわしゃわしゃと揉む素振りを見せる。


「スッ、スッ、スケベやろーっ! 誰がそんなことさせるかよっ」


バネッサは両手で胸を隠す。


「だろ? お前がそんなことをされてもいいと思った相手を選べ」


「うっせーよ」


シスコは自分の家に帰ったが、バネッサは明日の試食会に参加するなら宿舎に帰るのが面倒だと、マーギンの家に泊まるといって付いてきていたのだ。


バネッサが大声を出したことで、オルターネンがこっちに気付く。


「他のみんなはどうした?」


「カタリーナが帰ると言ったので、貴族門まで送った帰りですよ。ロッカ、落ち着いたならもう一度家に来い。どうなったか確認する」


「わ、分かった」


オルターネンのうしろに隠れて付いて来るロッカは乙女で可愛いらしいな、と思ったマーギンなのであった。



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― 新着の感想 ―
家が破壊されずドアだけで済んで良かった……… ん?アレ?マーギンの家って強化魔法マシマシじゃなかった???(*・ω・) …………(ブルリ
〉ちっ、ちっ、ちっ。挿絵を見たらその意見は変わるでしょう(笑) 俄然楽しみ
ロッカ良かったのう サキュバスカタリーナ女公爵の相手はマーギンしかおらんやろ と言うかマーギン以外制御できんやろ 夜はマジックドレイン併用されて旦那は腹上死不可避やん
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