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こんなとき、どんな顔をすればいいか分からない

翌日、マーギンはハンター組合を訪ねる。


「すいません、組合長います?」


「お、お待ち下さい」


なぜ俺だと分かると、組合の受付嬢は慌てふためくのだろうか?  


「よう、久しぶりだな。部屋に来い」


ロドリゲスとの話は組合長室ですることに。


「で、今回はなんだ?」


「あのさぁ、1ヶ月か1ヶ月半ぐらい休める?」


「なんかあるのか?」


マーギンはラーの神殿のことを話す。


「古代文字の解読か……」


「そう。多分、どこかの入り口の鍵となる魔法陣なんだけどね」


「魔法陣のことなんか分からんぞ」


「何かヒントだけでも分かればいいんだ。あとはだいたい想像が付く。そこまで複雑な魔法陣じゃないから」


「往復と解読の時間を見て1ヶ月半か。よし、いつ出る?」


「休めんの?」


「あぁ、こう見えても暇だからな。それにお前に貸しを作れるなら悪くない」


嫌なことを言いやがる。


「なら、1週間後ぐらいでいいかな? 冬前に王都に戻ってくるような予定で」


「分かった。飯は用意しとけよ」


「へいへい」


組合を出たあとは魔道具ショップに顔を出す。


「やっと戻ってきたのね」


出迎えたのは機嫌の悪そうなシスコ。ブリケは相変わらず口から煙を吐いている。


「あの店、もうできてたんだな。いつオープン予定だ?」


あの店とはモモイロフクロウの剥製が看板の店のこと。


バンッ。


机を叩いて立ち上がるシスコ。


「なっ、なんだよ?」


「売るものがないのに、いつオープンできると思ってるのよ」


「化粧品売るんじゃなかったのか? それに魔カイコの糸は時間が掛かると言ってあったろうが?」


「その化粧品が問題なのよ。あのクズ真珠をどうやってパウダー状にするのか教えなさい」


と、シスコは薬研か挽き臼で粉にした真珠を見せてきた。


「荒い粉だな」


「そうよ。化粧品に使うには荒くてダメなの。マーギンが魔法で作った粉みたいにならないのよ。これ、どうしてくれるのよ」


知らんがな……


まぁ、勇者パーティ時代も俺かミスティしか、あの粉を作れなかったからな。


「とりあえず、ある分は粉にしてやるけどさ、これからどうすんだよ?」


「あなたがこんなに王都にいないなんて想定外だったの。何とかしてちょうだい」


こいつ、俺を真珠の挽き臼にしようと思ってたのか。


「お前、人を頼らないとダメなときに頼らんくせに、俺をあてにすんなよ」


そう言うと、キッとシスコが睨む。


「みんなマーギンに甘えてるでしょ。どうして私はダメなのよっ!」


シスコって、こんなキャラだったか? なんかヒス女みたいになってんじゃんかよ。


「お前、遊んだりしてるか?」


「そんな暇あるわけないでしょっ。もうすぐカニのお店がオープンするのに」


これ、また壊れるんじゃないか?


「分かった。粉にする方法を考えるけど、必要なものがある。今から取りにいくから付き合え」


「私は忙しいのよ。マーギン一人で何とかならないの?」


「無理だな。それにお前も自分の目で確かめた方がいいものだ。時間がないからすぐに出るぞ」


「もうっ!」


マーギンはシスコを連れ出した。


「走れ」


「えっ?」


「時間がないって言っただろ? 夕方に王妃様と約束してんだよ」


と、シスコを走らせた。向かうのは前によく訓練をしていた森の中の広場。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。ちょっ、ちょっと待ってよ」


「お前、衰えてんな。前ならこれぐらい平気だったろ?」


「しょうがないじゃない。訓練なんてしてないんだから」


「それもそうか。お前、高いところ平気か?」


「別に怖くないけど」


と、答えたので、プロテクション階段を出していく。


「ほら、乗れ」


「えっ?」


「鈍ってるお前だと落っこちるかもしれん。だからおぶってやるって言ってんだよ。お前も甘えたいんだろ?」


「そ、そんな甘え方をしたいわけじゃないわよ」


「いいから乗れ。早くしないと間に合わなくなるぞ」


と、言うと、嫌な顔をしながらマーギンにおぶさるシスコ。


マーギンはひょいひょいとプロテクション階段を登っていき、水平に展開したプロテクションを森の奥深くに向かって伸ばしてホバー移動。


「ここらでいいか」


「こんなところに何かあるのかしら?」


「ないよ」


「キーーーっ。何しに来たのよっ!」


「まぁ、落ち着け。上空は結構冷えるからホットミルクでも作ってやる」


その場を広く展開してから座り、温めたミルクにバレットフラワーの蜜を入れて渡した。


「あ、美味しい」


「だろ? それ飲んで周りを見てみろ」


そう言われたシスコはゆっくりと景色を見渡す。


「こうして上空から見ると、遠くまで見渡せるだろ?」


「そうね」


「あっちがタイベで、あの山を越えて向こう側に行くとゴルドバーンになる。こっち側は大陸の中心で砂漠地帯だな」


と、マーギンは指で方角を示す。


「何が言いたいのよ?」


「お前、周りが見えてないだろ?」


「え?」


「前のときよりマシだとは思うが、またストレスが溜まってるんだよ。そのままだと、眉間のシワが深くなって、きっつい顔のオバハンになるぞ」


「う、うるさいわね」


「せっかく美人なのにもったいないと思わないか?」


「そんなお世辞言わなくてもいいわよ。私はマーギンの好みじゃないでしょ」


「確かに好みではないな。お前も俺は好みじゃないだろ?」


「そうね」


「好みなんて人それぞれだ。だが、美人かどうかは分かる。お前みたいな顔立ちを好む男は結構いるだろう。だからもったいないと言ったんだよ」


「で、私をここに連れてきた理由はなに?」


まだツンのシスコ。


「周りをちゃんと見ろということだ。地面にいたら見えないものも、こうして上から見たら見える。もっと高い目線を持っておけ」


「高いところに登れってこと?」


「意識上のことだ。お前の人生の目標や、こうあるべきとか、商売のスタイルは見付けたんだろ? また目の前のことしか見てないからそれを見失ってんじゃねーか?」


シスコはマーギンの言葉に気付かされる。


「事務所にいた人達はお前のそばに来ようとしないだろ? 近寄ると当たられそうで怖いんだよ」


「そうね……」


「身近に愚痴でも相談でもいいから聞いてくれる人いないのか?」


シスコはなんでも自分で消化しようとするからな。今まではロッカが姉のような存在で、バネッサとやいやい言い合って、喧嘩してストレスを発散できてたからそれでも良かったのだろう。今は全員部下みたいなもんだからな。


「で、今回は店のオープンが差し迫ってるからイライラしてたのか?」


「それはそうかもしれないけど、ハンナのこともね……」


「なんかやらかしたのか?」


「あまりにも何もしないから腹が立つのよ」


理由を聞くと、ホープが平民落ち予定の貴族で使えそうなやつを紹介してくれることが発端のようだった。


「余計なことをされるより、何もしない方がマシだと思うけどな」


「それはそうかもしれないけれど、面接しといてな、ぐらい言いに来てもいいと思うのよ」


「それはそうかもな。今日、会うと思うから叱っとくわ」


「いいわよ。言うなら自分で言うから」


「そうか。なら、みんなで一緒に飯食うか。ブリケも連れて来い。口から煙吐いてたぞ」


「ブリケももうすぐ帰っちゃうからね。詰め込めるだけ詰め込まないとダメなのよ。北西領都支店の責任者になるんだから」


「宿の給仕は辞めるのか」


「みたいよ」


「そうか。なら、お土産もいらなかったかな?」


「お土産?」


「前に約束したんだよ。ソードフィッシュの干したものを送ってやるってな。今回そこそこの数をもらってきたから、向こうで売れるなら、ブリケの給料になるかと思ってたんだ」


「美味しいの?」


「結構いろんな料理にあうぞ。戻すのに時間掛かるけど。食べてみたいなら、明後日に大将の店で食ってみるか?」


「えぇ、お願いするわ」


「あと、ライオネルの魚の倉庫に隣接する飯屋周りに街灯作っておいてくれ。それで飲み屋として稼働できるようになると思う」


マーギンはどさくさに紛れて、街灯設置を押し付けておく。


「結局、何を取りにきたの?」


「シワだ」


そう答えて、おんぶ&ホバー移動で森の広場に戻る。


「ほら、走るぞ」


「このまま連れてって」


「は?」


「甘えてもいいんでしょ」


「……」


何かを言いかけたマーギン、声を押し殺して王都に戻る。


「もう降ろして」


門の近くまで来ると、恥ずかしいから降ろせと言うシスコ。みんなにシスコが甘えているところを見せてやろうと降ろしてやらないマーギン。


「降ろしてってば」


「やなこったい」


「降ろしなさいよっ!」


ギュッ。


「ゲホッ、死ぬわっ!」


首を絞められたマーギンはキブアップして降ろしたのだった。


その後、王妃の元へ向かう。


「マーギンさん、こちらで良かったかしら?」


王妃が金の女神像を渡してくれた。マーギンは手に取り、魔法陣が刻まれてないか確認するも、隠蔽されているのか魔法陣が見当たらない。


「何か分かりまして?」


「いえ、祭壇の魔法陣も焼肉の煙で浮き出てきたようなので、これもそうかもしれません。後ほど確認します」


マーギンからは過去の文字との置換表を渡しておく。


しかし、王妃の今日の服、いつもと違うな。


王妃は置換表をしばらく見たあと、人払いをする。


「何かありました?」


「ええ、お見せしたいものがありますの」


「見せたいもの?」


王妃はすくっと立ち上がり、


「じゃーん、どう?」


と、服の前をバッと開いて水着姿を見せた。


「ブッ」


吹き出すマーギン。そして慌てて目を逸らす。その様子を見て我に返る王妃は真っ赤な顔をして、慌てて服を閉じた。


「し、失礼いたしましたわ。カタリーナがマーギンさんにこれをやりたかったらしいので、私も試しに……」


「い、いえ、驚いてしまってすいません。とてもよくお似合いでした……」


「いい歳して、はしゃいでしまいましたわ」


「いえ、成人した子供がいるとは思えない美しさでございました」


マーギンは赤くなっている。


「ありがとう。今夜王にもしてみますわね」


と微笑む王妃。それをやめとけとは言えないマーギン。王の心臓が止まっても知らんぞ。


マーギンは、カタリーナはやっぱり王妃の子供なんだなと思うのであった。



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― 新着の感想 ―
取り敢えず王妃は見開きでばばーん!とじゃーんして欲しいですな(*・ω・)
カタリーナ、妹が出来る日も近いぞ…
女将「じゃーん。どう?」 マーギンは意識を失った
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