やっぱり大変だなシスコ
賊だった3人とマーギンが捕まえた6人を転移魔法でミャウ族の集落に送り、ロブスンに託した。存分に鍛えてやってくれたまへ。
「えー、また領都に行くのぉ? パンジャに行きたい」
「遊ぶのはやることをやってからだ」
ブーたれるカタリーナにそう言ったマーギンは領都でシシリーと打ち合わせをすることに。
「はい、マーギン。凄く噂になってるわよ」
「なんの?」
「罪人を箱詰めにして焼き殺したって」
なんて酷い噂だ。
「焼き殺したんじゃない。死体を焼いただけだ」
「ふふふっ、私はマーギンがそんなことをしないって信じてるわよ。チュッ」
シシリーはローズをチラッと見てからマーギンのほっぺにチューをした。やめろと言うだけで、嫌がらなかったマーギンをローズはピーマンを見るような目で見た。
シシリーに水の神ナムを祀る集落と土の神ディンを祀る村に紹介することを伝え、仕事の引き継ぎを行っていく。
「へぇ、他の先住民の集落全部が王国と繋がりを持つようになっていくのね」
「窓口は当面ハンナリー商会だけになる。先住民達は王国側を疑いの目で見ているが、基本は素直な人達だ。悪意を持って接触したら簡単に騙せる。そうなりゃタイベ全体が荒れることに繋がるから、信頼できる商会としか取り引きしないようにする必要があるんだよ」
「それがハンナリー商会ってわけね」
「そう。魔導コンテナは俺が作って、各集落間の輸送は先住民達にやらせる。窓口はナムの集落になるけど、ディンの集落は様々な農産物を作っているから、紹介しておく。王都やタイベで売りたいものがあれば、増産してもらわないとダメだからな」
「分かったわ。これから動くの?」
「そうだな……」
「パンジャで泳ぐの!」
カタリーナが口を挟む。
「だから、それは仕事が終わってからだと言ってるだろうが」
「別にいいんじゃない? マーギンもパンジャの視察をしていってよ。色々仕掛けてるから」
「ったく、分かったよ」
シシリーに仕事としてパンジャに行けばいいと誘導され、マーギンは了承した。
マーロックにパンジャまで船で送ってもらい、夕方に到着。
「泳ぐのは明日ね。食事はビーチのそばの店よ」
シシリーはチラッとローズを見たあと、マーギンに腕を組んで、誘導していく。
(マーギン取られちゃうよ?)
(うるさいですよ、姫様)
ご機嫌斜めのローズ。
「さ、ここよ」
「こんな店あったか?」
「できたのよ」
どうやら、ゴイルとマーイが出稼ぎに来ていた店のオーナーと協力してこの店を作ったらしい。シンプルな建物にステージ。客席はビーチそのものだ。そこにテーブル席がいくつもあり、食事をしながらショーを楽しめる店。ヤシの葉や南国の花を飾り付けに使ってあり、パンジャのイメージにぴったりだ。
席に案内されると、他のテーブルにもどんどん客が入ってくる。
「もうこんなに流行ってんのか?」
「そうね。値段も安めに設定したから。パンジャの住人と先住民は一人3000G、それ以外の人は5000Gで飲み放題、食べ放題なの。バイキング方式だから、好きな物を自分で取りに行くのよ」
「へぇ、いいねぇ」
「でしょ」
マーギンに褒められて、シシリーは嬉しそうだ。
料理や酒を各自で取りに行き、乾杯をしたところで、ドンドドコドコと太鼓が鳴りたした。
「ウラウラウラウラ」
「ウラウラウラウラ」
先住民の男達が火のついた棒を回しながら出てきた。
「わーっ、すっごーーい」
火の棒を回したり、お互いに投げて受け止めたり、火のついたところでリンボーダンスをしたりで、会場は大盛り上がりだ。カタリーナは、立ち上がって凄い凄いと拍手をしている。こういう観客がいると、会場の盛り上がりも良くなる。
そして、豚の丸焼きを担いだ男達が出てきた。
「今から焼くのかな?」
「豚の丸焼きは時間が掛かるから、もう焼いてあるの。ここでは仕上げに炙るだけね」
シシリーが解説してくれる。
ステージ下に組まれた薪にファイヤダンスをしていた男達が降りてくる。
「ファイヤーーーっ!」
火のついた棒に息を吹きかけると、炎のブレスのように燃え上がり、薪に着火。
「うわぁぁぁっ、すげぇぞーーっ!」
また盛り上がる観客。
火が大きくなり、そこへ、豚の丸焼きをセットし、クルクルと回していく。
マーギンの脳内に流れるあの音楽。
「上手に焼けましたぁ」
やっぱり。
テーブルが運ばれてきて、豚の丸焼きをナイフで切り分け、フォークで引き裂くようにしていく。
「へぇ、プルドポークにすんのか。美味そうだね」
「マーギン、あの調理方法知ってたの?」
「まぁね。時間掛かるから自分ではやることはめったにないけど」
「なぁんだ。せっかく自慢してやろうと思ったのに」
と、シシリーはちょっと残念そうだ。
プルドポークは小皿に取り分けられていき、その上にこんがりと焼けた表面をのせる。この料理は全員に行き渡るようにするために一人一皿限定。
「おっ、旨い」
豚の丸焼きを食べて、ビールをごくごく飲むマーギン。スパイスをすり込み、丸一日掛けてじっくりと焼いてあるのだそうだ。
「わー、このソース掛けたらもっと美味しい。マーギンのにも掛けてあげるね」
「俺はこのまま……」
デーーっ。
いらないと言い切る前にソースを掛けられてしまう。それを一口食べたマーギンは固まった。
「ねっ、美味しいでしょ」
ニコニコとそう言うカタリーナ。
なぜ、肉にフルーツソースを掛けるのだ。
お好みで掛けるソースはマンゴーや南国フルーツを混ぜて作った甘いソースというか、ジャムみたいなものだ。
「マーギン苦手か? 私もこのソースで食べる方が美味しいと思うのだが」
ローズもこの甘いソースが口に合うようだ。そう言われて苦笑いするマーギン。
「クスッ。マーギン苦手なんでしょ。私のと交換してあげる」
ソースを掛けてない自分の皿と交換してくれるシシリー。
「いいのか?」
「私もこのソース好きなの」
と、マーギンに微笑んだ。
「エルラも苦手……」
と、マーロックが言いかけたのを、氷のような微笑みで見るシシリー。
「い、いや、なんでもありません……」
「マーギン、美味しい?」
「あぁ、旨いよ」
その様子を見ていたカタリーナとローズはむくれていた。
ステージ上では次の演目、バンブーダンスが行われ、最後はフラダンスみたいなもので締めくくり。時間にして90分くらいだろうか? 会場も盛り上がったまま終了となった。
シシリーに次の店に行きましょうと言われて、小洒落た飲み屋に行く。ここではカクテルのような酒と軽いつまみ主体の店。
「どうだった?」
「楽しいし、美味かったぞ。あの値段で元が取れるのか?」
「食べ放題、飲み放題だったけど、どれくらい食べた?」
そう言えば、初めに料理を取ってきて、豚の丸焼きを一皿。その間にもう一度取りに行ったけど、思ったより食べてないし、飲んでない。
「ふふふっ、バイキング方式だから、スタッフが少なくてすむし、ショーを見ているから、食事もドリンクもそんなに量が出ないの。それに時間も早めに終わったでしょ?」
「そうだな」
「だから、みんな次の店に行くの。軽く飲みたい人はここ。踊り子を見たい人はオーナーのお店にとかね。いくつかのお店と提携して、そこを紹介してるのよ。で、売り上げの一部をバックしてもらうの」
「なるほど」
「どうしてそんなことをするの?」
カタリーナは全部自分のところでやれば儲かるのにと言う。
「自分達だけが儲けるならそれでもいいわね。でも、目的はタイベに来る人を増やすこと。それにはハンナリー商会だけでは力が足りないの。それに、私達だけが儲けていると、いずれやっかみを買ったりトラブルに発展するものなのよ。それより、みんなで協力して客を呼び込む方がいいもの」
やはりシシリーはやり手だな。新参者でも地元民には安くすることと、既存の店に利益を落とすことでやっかみを買わなくなる。客も一カ所でガツンと金を取られるわけではないから、観光地特有のボラれた感もない。それに、キックバックをもらうことで、利益も確保。素晴らしい。
マーギンはシシリーの手腕にウンウンと頷いていた。シシリーの手腕と比べられるんだから大変だなシスコ。
翌日はビーチで遊ぶことになり、午前中は女性陣だけで水着を買いに行った。もちろんマーギンがそれに付き合うはずもない。マーロックは護衛として連れて行かれたが。
「えっ、私がこれを着るのか?」
「嫌なら別に着なくていいわよ。姫様、これなんかどうかしら?」
ローズが水着を着るのに躊躇したらあっさりと引き下がるシシリー。カタリーナには可愛いビキニを勧めている。
「わー、可愛い。試着できるの?」
「大丈夫よ」
と、試着室で着替えさせて確認。
「姫様、これをここにいれるとほら」
「わーっ、すっごーい。私、これにする」
カタリーナ、即決。
「ローズはこれね」
ローズ用に白いビキニを持ってきたカタリーナ。
「ひっ、姫様。私は水着を着るとは言ってません」
「ローズさん、本当にいいのかしら? 私はこれを着て、マーギンに見せるわよ」
シシリーのは黒くて色っぽくて際どいワンピース。
「わっ、私は……」
「じゃ、一人でビーチでさみしく見張りでもしててね。私、これを着てマーギンに抱き着いちゃお♪」
それを聞いたローズはカタリーナからバッと水着を奪い取り、自分で会計をしたのであった。