尋問の後始末
牢から出てきたマーギンをエドモンド達が迎える。
「マーギンくん、どうだった?」
「すいません、何も分かりませんでした。それに……」
マーギンは渋い顔をしながらそう伝える。
「まぁ、マーギン君が尋問をしても分からなかったのなら仕方がない。それと続きはなんだね?」
「賊達は自害しました」
「何っ? 死んだのか」
「はい。中々口を割らないので、少々強引な手を使ったところ、どこかに毒を隠し持っていたようで、自害しました。申し訳ありません」
「そうか……まぁ、仕方がない。こちらも特に被害はなかったのだ。これで終わりにしよう」
「はい……このまま死体を置いておくわけにはいかないので、焼いてしまいます。簡素なもので構いませんので、棺の用意をお願いできませんか」
「ただの箱でよいか?」
「はい」
罪人に高価な棺が用意されるわけでもなく、港から3人が入るサイズの箱が運ばれて来た。
「3人まとめてになるがいいかね?」
「はい。焼くだけですので構いません」
マーギンは牢に戻り、賊の男達3人を順番に抱えてきて箱に放り込む。
「マーギン、この血は……」
「ローズ、見るな。それと俺が何をしたかも聞くな」
血だらけの賊を見たローズはマーギンを疑いの目で見た。
「本当に自決なのだな?」
「あぁ、そう言っただろ」
マーギンはローズの目を見ずに答えた。カタリーナはカタカタと震えて、ローズの後ろに隠れている。
マーギンは箱の蓋を閉め、皆を箱から離れさせる。
《業火よ、全てを焼き尽くせ。インフェルノ!》
ゴォォォォォォッ。
死体を焼くのを見守っていた衛兵達は離れていても、自分まで焼けてしまいそうな高熱に後ずさる。
業火は10分ほどで焦げあとだけを残して、全てが消しさったのだった。
「領主様、この度は申し訳ございませんでした。カタリーナの気分が悪そうなので、領主邸で休ませてやってもらえないでしょうか」
「わ、分かった」
エドモンドの馬車に乗り込み、領主邸に向かうが、マーギンが怖い顔をしたままなので、馬車の中で誰も言葉を発しない。
「旦那様、いきなり賊が屋敷に現れました」
領主邸に到着するや否や、執事が大声で報告をしてきた。
「なんだと? マーギン君、どういうことかね?」
「報告しますので、中に入らせてもらってもよろしいですか?」
マーギンは賊の男達に洗浄魔法を掛けて、血を洗い流し、スリープを解除した。
「ここは……」
賊だった男達がキョロキョロする。
「領主邸だ。お前らのことを報告するから、一緒に中に入れ」
「マ、マーギンっ。これはどういうことなのだっ」
「ローズも落ち着いて。中で全部話すから」
どうどうとローズをなだめて、中でみなに説明をする。
「マーギン、からくりを教えてくれんかね?」
「領主様、自分は転移魔法というものが使えます。このことを知っているものはほとんどおりませんので、内密に願います」
「転移魔法だと……信じられ……いや、マーギン君なら本当の話なのだろう」
エドモンドは目頭を押さえて、自分に言い聞かせるようにそう呟く。
「実は、あの箱を焼く前に、こいつらをここに転移させたんです」
「なぜそのようなことを?」
「こいつらはノウブシルクの隠密なんですよ」
「何っ?」
「と言っても、多分使い捨ての駒です。今回の任務が成功したなら、国に戻ったのでしょうが、目当ての物がなく、任務失敗になったので、わざと捕まったんですよ。領主邸の宝物庫に忍び込めるぐらいのやつが、そう簡単に捕まると思います?」
「なぜわざと捕まったのだ?」
「任務失敗は死を意味するからです。わざと捕まって、隙を見て逃げるつもりだったみたいですけど、こいつらには監視が付いていた。だから、死んだことにしないとダメだったんです」
「あの血は?」
「俺の血ですよ。そこそこ血を使ったので、あとで肉とレバーを食べさせて下さい」
と、マーギンは冗談めかして笑い、報告を続けるのであった。
エドモンドの話によると、賊達の目当てであった金の女神像は、証拠物件として、王家に渡してあるそうだ。
「この者達はどうするつもりかね?」
「ミャウ族の集落で、ワー族と共に魔物討伐をさせます。あそこなら、ノウブシルクもこいつらが生きていることに気付くことはないでしょう。あと、俺が捕まえた6人も同じです。あいつらもノウブシルク出身ですから、戻してやることができません」
「では、マーギン君に任せていいのだね?」
「はい。こいつらはあそこで死にました。そして、ここで生まれ変わったのです。ですので、タイベの住民票を与えてやってくれませんか? それと名付けをお願いします」
こうして、ノウブシルクの隠密であった男達は過去を捨て、タイベの住人として生きることになったのであった。
「マーギン、すまない」
「何が?」
「私はてっきり、あの男達に拷問をして殺してしまったのだと思ってしまった」
ローズがそう謝ってきた。
「そう見えるようにしたからね。でも俺がそんなことをするようなやつに見える?」
「見える」
そう言い切るローズ。
「なんでだよっ」
「私にミミズピーマンで散々酷い目に合わせたではないか」
「なら、ローズに尋問することがあったら、そのまま口に入れてやる」
「いやだーーーっ! なぜ私が尋問されなければならないのだ」
「わ、私は初めからマーギンがそんなことをするはずがないって信じてたわよ」
カタリーナが調子のいいことを言う
「嘘つけ。俺にビビってただろうが」
「だ、だって、マーギンって、たまに怖いときあるじゃない」
「俺が怖いことをするのは、魔物と敵だけだ」
「じゃあ、もし私が敵になったら?」
「容赦しない」
きっぱり言い切るマーギン。
「そっ、そこは、たとえ敵になっても、お前にはそんなことはできない、と言うところでしょっ!」
「お前が敵にならなければ済む話だ」
3人の話を聞いていたエドモンドは、絶対にマーギンを敵にまわしてはいけないと、心に誓うのであった。