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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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ガター

タイベで宝探しか……嫌な予感がするな。


マーギンは過去にラーの神殿が荒らされた話を思い出していた。ムーの遺跡も荒らされた形跡が残っていたから、こういう噂話は知る人ぞ知るってやつなのか、それとも……


「マーギン、こいつらはどうするのだ?」


「このまま捨てる? ここなら死んでも魔物か虫が綺麗に掃除してくれるから、何も残らんよ。最終的にGが来ると思うから、早くここを離れよう」


足と口から血をダラダラと流して気絶している男二人と、ガタガタ震える残りの男達。


「見殺しにするのか?」


「連れて行くの面倒じゃん」


しれっとそう答えるマーギン。


「お前というやつは……」


しかし、これはタイベ領主のエドモンドに報告しとかないとダメだな。雇われたのがこいつらだけとは限らん。


マーギンはズルズルと男達を引っ張って集め、土魔法で作った箱に詰める。


「たっ、助けてくれ」


《スリープ!》


潤んだ目で助けてくれと叫んだ男達に睡眠魔法を掛けて蓋をした。


「まさか埋めるつもりか?」


「それでもいいんだけどね。ちょっと気になるから領主に報告するわ」


「このままでは窒息するぞ」


そう言われたマーギンは少しだけ空気穴をあけておく。カブトムシとかと同じだ。


「カタリーナ、起きろ」


まだ爆睡していたカタリーナは先ほどの光景を見ずにすんだ。


「まだ眠い」


「しょうがないな。夜までどこかで休憩するか」


明るい間に転移魔法で領都に行くのもまずいので、Gが寄ってきそうなここから離脱することに。


《スリップ!》


箱を浮かせて移動する。


ゴッ、ゴンッ。


森の中なので箱が木に当たって進めない。


「面倒だなこいつら。やっぱり捨てるか」


「マーギンっ」


ローズに睨まれたので、プロテクションでスロープを作り、空中に浮かぶことに。


カタリーナはローズがおんぶ。マーギンはプロテクションスロープに箱を載せ、押していく。


「くっそ重てぇ」


浮いていても、上に押し上げていくのに相当力を使うので、身体強化をして押した。


「マ、マーギン。大丈夫なのかこれ……」


初めて空中に登っていくローズは足が震えている。高いところが苦手なのかもしれない。


「もうすぐ水平にするから」


木の高さより上に来たところで水平にプロテクションを展開。箱があるから幅は広めだ。


「だ、大丈夫なのか」


「もしかして高いところ怖いの?」


「そ、そうでもないのだが、こう下がすけすけだと足が震えてくるのだ」


膝がカクカクしているけど、カタリーナをおんぶしたまま落っこちないだろうな? それと浮いている箱を押してまっすぐ進ませるのが意外と難しい。気を抜くと落としそうだ。ここまでGは来ないだろうから、夜まで休憩だな。


箱のスリップを解除し、マットレスを出してカタリーナを寝かせておく。この状況で起きないとは大物だな。


「これからどうするのだ?」


「日が暮れるのを待って、転移魔法で領都に行く。どこに出口を設定するか迷うね」


「いきなり我々が現れたら驚くだろうからな」


候補地はアイリスの実家近くか。孤児院でもいいんだが、転移魔法の説明が面倒臭い。シシリーに見つかったら、商売に利用されるかもしれん。


特にすることがないので座ってぼーっと考えごとをしていると、ローズがソワソワと落ち着かない。


「トイレ?」


デリカシーのないマーギン。


「ちっ、違う。なんかこう落ち着かないのだ」


地面から離れているのが落ち着かないというローズ。


「じゃあ一度下に降りようか」


「そ、そうしてくれると助かる」


立ち上がったローズが恐る恐る下をのぞき込んでいるので、イタズラ心が湧き出るマーギン。


トンッ。


「きゃぁぁぁ。何をするのだ。バカモノバカモノっ!」


「ごめん、プロテクションはまだ先にもあるから落ちないって」


ローズは涙目になってキッと睨み、無言でぽかぽかと叩いてくる。うむ、なんか幸せである。


ジーーーっ。


「わぁっ、起きてるなら起きてると言えよっ」


ローズにぽかぽかされてニヤけているマーギンをカタリーナが見ていた。


「ちょっと目を離すと、すぐにイチャイチャするんだから」


「イチャイチャなんかしておりませんっ。マーギンが私を落とそうとしたのですっ!」


「プロテクションで上に登ったの?」


「そうだ。ローズが高い所は落ち着かないというから、今から降りるところだ」


「この箱は?」


「カブトムシが入ってる」


そう答えたマーギンは緩やかなスロープ状のプロテクションを下まで展開する。


《スリップ!》


箱を浮かべてスロープまで移動。


シューー。


音もなく滑って落ちていく箱。


「結構なスピードが出てるけど大丈夫なのか?」


「この角度でもあんなにスピードが出るんだな」


どんどん加速していく箱。


「あっ……」


スピードの乗った箱はプロテクションスロープから落ちてしまった。


「ガターだね」


そう呑気に答えたマーギン。落ちた箱はピンボールの玉のように木々に当たって落ちたから大丈夫だろう。


「さ、俺達も降りようか」


「いっ、いやだ。私もあんな風になるかもしれないではないか」 

今の惨事を見て、腰が引けるローズ。


「歩いて降りるから大丈夫だって。カタリーナも自分で歩けよ」


「歩くの? 滑っていこうよ。これぐらいなら大丈夫じゃない?」


「お前、前のときでこりたんじゃないのか?」


「これぐらいなら大丈夫。私が先頭ね!」


ジェットコースター気分のカタリーナが先頭、マーギンが後ろからカタリーナを抱き抱えるように座り、最後尾のローズはマーギンの背中にしがみつく。


「しゅっぱーつ!」


シュルっ……シュルルルルッ。


前のときより遅いが、まぁまぁスピードが出てきた。


ぎゅぅぅぅう。


ローズが後ろから力いっぱい抱きしめてくる。うむ、次から同じ移動をしよう。


スピードを落とすために、時々登りにしたりしながら下まで降り、落っことした箱を探す。


「マーギン、開けて確認しなくていいの?」


「うーん、気配はあるから大丈夫だろ」


見つけた箱の中を確認せずに、夜を待った。


「さ、移動するぞ」


「結局どこに転移するのだ?」


「衛兵に引き渡すから、離れてると面倒だよねぇ。港に転移しようか」


「人目に着くのではないか?」


「二人とも気配を消して。見つかっても、船の荷物と思ってくれるかもしれない」


最悪誰かに見られたら、騒がれる前に魔法で眠らせよう。


転移の魔法陣を浮かべて、ローズ、カタリーナを先に送ったあと、マーギンも箱を押しながら魔法陣へ。


《シャランラン!》


マーギンが魔法陣から出てきて、オロッとしかけたときに治してくれるカタリーナ。


「おー、めっちゃ楽だ」


「へへーん。凄いでしょ」


「凄いぞ」


カタリーナの頭を撫でてやり、箱を押しながら衛兵の詰所に行く。


「こんばんはー」


「なんだ……お疲れ様です!」


マーギンに気付いた衛兵が敬礼で挨拶する。


「怪しいやつを捕まえてきたんだけどさ、牢屋に入れといてくれない?」


「罪状はなんでしょう?」


「不敬罪」


「えっ?」


「貴族に向かって剣を抜いて殺害しようとしたんだ。未遂に終わったけどね。今、箱開けるから」


と、土魔法を解除すると、血まみれの男達。生きてはいるが、眠ったままなのか、気を失っているのか分からない。


《スリープ解除!》


「う、うーん……痛ぇぇぇっ!」


目を覚ますと、大声で痛いと叫ぶ男達。


「騒ぐとムカデが来るぞ」


ビクッ。


マーギンにそう言われた男達は苦悶の表情を浮かべながら声を殺した。


「酷い状態ですね」


「そうだな。これだと取り調べに支障が出るか。聖女様、この者達に鰯をお願いします」


「鰯じゃないわよっ」


と、プンスカしながらシャランランで怪我を治した。なんか、足が曲がったままな気がするけど、初めからこうだったのだろう。と、いうことにする。


「それぞれ個別の牢に入れといて。明日、内容を領主に直接報告するから」


「かしこまりましたっ!」


「さ、一段落付いたから飲みに行こうか」


マーギン達は宿を取って、街に繰り出したのであった。



翌日、領主の元へ。


「姫殿下、ようこそボルティア家へ」


カタリーナが突然来たから大慌てだ。


「領主様、お気遣い不要ですよ。それより報告があって参りました」


別にマーギンが気遣われているわけではない。


マーギンはエドモンドに男達の話をした。


「宝探しの依頼か……」


マーギンの報告を聞いてエドモンドは難しい顔をした。


「それだけだと罪にはならないんですけどね、カタリーナがいるのに剣を抜いたので、捕まえて衛兵に引き渡しました」


「その者達に、姫殿下のことを明かしたのかね?」


「いえ。身分を知らずとも、丸腰の男一人、女二人相手に剣を抜くのは怪しいですからね。宝探しの依頼を誰に受けたまでは分からなかったんですが、組合を通した依頼ではありません」


「直接の依頼か」


「いや、ハンターとして活動していたものではないと思います。ハンターをしていたら、あの装備であんな森の奥深くまで来ないと思いますので。今回捕まえなくても、いずれ魔物の餌になっていたと思います」


エドモンドは今の話を聞いて考え込む。


「何か気になることでも?」


「あぁ。少し前に当家に賊が入ってね」 


「噂は聞きました。被害はなかったんですよね?」


「そうなんだが、賊に入った目的がはっきりしないままなのだよ」


「金目の物を盗ろうとしたんじゃないんですか?」


「あぁ。金貨や宝石を盗ろうとした形跡がないのだよ。尋問しても金目の物を盗もうとしただけだとしか言わなくてね」


「そいつらはまだ牢に?」


「そのままだ」


「じゃ、明日俺が聞いてみますよ。その許可だけいただけます?」


と、エドモンドに尋問の許可を一筆書いてもらい、翌日、馬車で向かうことになったのであった。


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― 新着の感想 ―
尋問… 尋ねて問うだけだから問題ない(*・ω・) ちょっと強引だったり強要だったりするだけで
マーギンの尋問で心を壊されるがいいw
高所恐怖症的にはこのイタズラは心的ダメージデカすぎて許せないんだがローズがあまりにも可愛いから仕方ないな。 うむ、仕方ない。
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