癒やされる心
「わふっ」
「ん? 付いてくるつもりか?」
「うん。火の神プレの村に行くんでしょ? 私も行きたい」
ギンに聞いたつもりがポニーも行くと言い出した。
「遊びじゃないんだぞ。それに危ないじゃないか」
当然止めるマーギン。
「オヤビン、プレの村は子供を可愛がる風習がありやすから、ポニーがいた方がいいかもしれないでヤンスよ」
「そうなのか?」
「へい、ワー族はミャウ族と同列に見られてやす。オヤビンは見るからによそ者でヤンスから、村に入れてもらえないかもしれないでヤンス」
マーギンはロブスンと二人で行くつもりにしていた。
「それにキンとギンは山神様でヤンスから、プレの民のウケは抜群でヤンス」
なるほど。山側にあるプレの集落は山神への敬意が高いのかもしれん。
「分かった。ならキンとギン、ポニーも一緒に行くか」
「ヘイ、お気を付けて行ってらっしゃいでヤンス」
「アホか。お前も一緒に来るんだよ」
「へっ?」
お留守番するつもり満々だったピアン。
「な、な、な、なんでアッシも行かないとダメなんでヤンスか?」
「ポニーが来るなら、守りを強化しないとダメだろ? 敵が来たら俺とロブスンが戦う」
「アッシは護衛ってことでヤンスね?」
「違う。生贄だ。お前が襲われている間にポニーを逃がす」
「ひっ、酷いでヤンスっ」
「お前がポニーを連れてけと言ったんだ。責任を取れ」
マーギンに首根っこを掴まれて、ズルズルと引きずられてドナドナされるピアン。往生際悪く、嫌でヤンス、嫌でヤンスと逃げようとジタバタする。
《パラライズ!》
「グギギギギ」
痺れたピアンをギンが咥え、キンの背中にポニーが乗り、プレの集落に向けて出発したのであった。
ドナドナされたピアンはようやく諦めたようで、自分の足で歩きだした。が、あっちこっちチョロチョロする。
「ロブスン、ピアンはいつもあんなんなのか?」
「そうだ。道草を食うというか、木の実とか食ってやがるんだ」
へぇ。
「ピアン、お前何食ってんだ?」
「ロブスン達は食わないでヤンスよ」
「だから何を食ってるか聞いてんだよ」
「今はこれでヤンス」
と、見せてくれたのはムカゴみたいなもの。
「なんだこれ?」
「秋の終わり頃には生のやつがあるんでヤンスけど、今はこれになってるんでヤンスよ。オヤビンも食べヤスか?」
と、いくつかもらう。殻を割って中身を食べるらしい。ピアンはそのまま口に入れて、殻をペッとしている。
殻を割ると中に干しブドウみたいなのが入っていた。
ガリッ、ぺっ。
中にまだ種が入ってるようだ。これは実をこそぎ取るように食わないとダメなのか。
リトライして食べてみると、ドライプルーンみたいな味がする。可食部は少ないが結構旨い。
「マーギン、美味しい?」
「ポニーも食べるか?」
と、殻を剥いて、食べ方を教える。
「あまーい」
「だな。ピアン、食うの面倒だけど、結構旨いぞ」
「そうでやんしょ? アッシは木の実とか好きなんでヤンスよ。こいつも食いヤスか?」
今度のは緑の実だが、割ると中が黒い。食感はネッチョリしている。
「チョコみたいな味だなこれ」
「チョコってなんでヤンスか?」
あー、この世界にはチョコがなかったな。
「気にしなくていい。これもっとあるか?」
「山ほど生ってヤンスよ」
と言うので、チョコの実の木のところに案内してもらって、大量に取っておいた。みんなのお土産にしよう。
「これ気に入ったんでヤンスか?」
「そうだな。アイスと混ぜると旨いと思うぞ」
と言うと食べたいとポニーが言うので、夜営のときに作ることに。
卵黄と牛乳、生クリームと砂糖を混ぜて魔法で冷やしていく。
ガーーーッ。
キンとギンはハンドミキサーの音が怖いのか、離れて見ている。
「チョコの実をミキサーに掛けて」
ガーーーッ。
さっきより大きな音にさらに離れるキンとギン。
クリーム状になったチョコの実をアイスとざっくり混ぜて完成。
「ほら、できたぞ」
「おいひいっ!」
目をパチクリさせてマーギンの顔を見るポニー。ロブスンもこれは食うようだ。
ガツガツ。キーーン。
「頭がっ、頭が痛いでヤンスっ! 毒を盛ったでヤンスか?」
「慌ててがっつくからだ。ゆっくり食えば頭は痛くならん」
毒を盛ったとか失礼なやつだ。しかし、これはソフトクリームみたいにすればいいかもしれん。シャーラムドッグとソフトクリームをタイベの名産にしてもいいな。
ポニーやキンとギンが一緒にいることで、荒み掛けていたマーギンの心が元に戻っていく。
翌日以降もピアンが何か取ってきては味見して、気に入ったやつは大量に採取する。ピアンを褒めると、ギンは対抗心を燃やしてホロメン鶏を狩ってきてグイグイと押し付けてきたりとか楽しい移動になった。
「マーギン、遊んでばかりいるといつまで経っても到着せんぞ」
「あ、悪い悪い。なら、飛ばそうか。ポニー、背中に乗れ。キン、ギン、飛ばすからな」
ピアンもなんだかんだで能力が高いので問題なく付いてこられるだろう。
道なき道を飛ばして、翌日にプレの集落に着いた。
集落は2mほどの高さの石垣でぐるっと囲われているが、入り口は開けられており、そのまま入ってもいいようだ。
「マーギン、念のため、声を掛けてくるから待っててくれ」
と、言われてしばし待つと、ゴツい男達と戻って来た。
「や、山神様だ」
「これで信じたか?」
「あぁ、ぜひ村に……使徒様?」
ゴツい男達がマーギンを見て固まる。
「ここも使徒伝説が残ってるのか? ミャウ族にも間違われたが違うぞ」
そう言っても信じようとせず、いきなり長老の元へと案内されてしまった。
「使徒様、ようこそプレの集落にお越しくださいました」
長老達に土下座されて迎えられる。めっちゃ嫌だ。
「俺はマーギンだ。王都で魔法書店をやっている。使徒じゃないから頭を上げろ」
「し、しかし……」
「いいから。そんな態度をされると居心地が悪い」
「は、はい」
長老達にここに来た理由と、チューマンのことを説明する。
「ここには来てないか?」
「来ました。見たこともない人型の魔物で、牛がやられました」
「人的被害は?」
「ありません」
「追い払ったのか?」
「いえ、殺しました」
「どうやって? 硬くて刃物では殺せなかっただろ?」
「投石機を使って頭を潰しました」
マーギンはチューマンを倒した投石機を見せてもらうことに。
「おー、すげぇじゃん」
シーソーの原理で飛ばすタイプかと思ったら、板バネで飛ばすタイプの投石機だった。
「これはなんのために作ってあったんだ?」
「火吹トカゲ用です」
あー、サラマンダーか。
「デカいのが出るのか?」
「だいたい5m程度です」
「そこそこデカいな。それで遠距離攻撃のできる武器が必要ってわけか」
「はい。もし宜しければ祭壇にご案内させていただけませんでしょうか」
祭壇か。何か過去のヒントがあるかもしれないので行ってみることに。
「ここは火の神プレを祀る祭壇でもあり、使徒様に感謝を捧げる場所でもあるのです」
祭壇にはご神体のように祀られている大きな魔結晶があった。
「この魔結晶を祀ってるのか?」
「はい、数千年前、巨大な火吹トカゲが現れたときに使徒様が討伐してくださったのです。これはその魔結晶にございます」
あ、これ……
◆◆◆
「マーギン、もう雪の花は十分じゃろうが。早くサラマンダーを探しにいくのじゃ」
「クソ暑ぃぞここ。本当にこの花で涼しくなるんだろうな?」
「解熱作用のある花じゃからな。飲めばマシになる」
雪の花を粉にして飲んでみる。
「うげぇぇぇ。なんだよこれっ。この世のものとは思えん苦さだぞ」
「うげぇぇぇ」
ミスティも同じように悶絶していた。
「こんなに採取したのに飲めんとは……」
「そのうち役に立つこともあるじゃろうから持っておけ」
◆◆◆
ここはあの雪の花を採取した場所なのだろうか?
「この山の中腹に雪の花の群生地があるか?」
「ございます」
やっぱり。なら、この魔結晶はあのときに倒したサラマンダーのやつじゃん。
その後、使徒様と呼ばれても、違うとは言いにくくなったマーギンなのであった。