過去に言われたことを理解する
「やはり虫の特徴と一致する部分が多いな」
呼吸をしているのは口ではなく腹の横だ。だが、あまり酸素を必要としないのか、水で腹を包んでも絶命するまでに結構時間が掛かる。10分程度は息をしなくても大丈夫ってことか。
一通りチューマンの確認を終えたマーギンは、まだギチギチと威嚇をしているチューマンごと炎で包んだ。これでまだ生きているやつがいれば炎での攻撃は無駄だということになる。
ジュウジュウジュウと斬った関節から湯気が上がり、生きていたチューマンも死んでいった。やはり、外殻が防御の全てのようだ。一部でも破壊できたら炎でも殺せる。おそらくパーフォレイトも外殻のない部分に撃てば効くだろう。
次に見付けたらこれらのことを検証だな。
クックック。
マーギンは対策方法を見付けたことで笑みを浮かべる。
「ヒッ……」
チューマンが燃え盛るのを見て笑みを浮かべたマーギンに村人は恐怖した。
「お前ら、もう大丈夫だ……」
「うわぁぁぁぁぁっ」
振り向いたマーギンに声を掛けられた村人達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「なんだよ? もう大丈夫だと言っただろうが。今さら逃げても無意味だぞ」
その様子を見て呆れるマーギン。村人達が自分に恐怖したことに気付いていないのだった。
マーギンはチューマンがやってきた方向に巣がないか探しにいくことに。
「しまったな。誰かが肉団子にされて巣に持っていかれるのを待てば、巣を見付けるのことができたな。どこかに賊とかいないかな? いたらまき餌にできるのに」
魔王のような思考になるマーギンはブツブツと独り言を言いながら、ホバー移動をした。
……ブーン。
マーギンがその場を去ったあとに、小鳥サイズの虫が飛んでいった。
「見当たらんな」
どこを探してもチューマンどころか、巣穴らしきものも見当たらない。仕方がないのでプロテクション階段を出して、空から探すも結果は同じだった。
数日間、周辺の山を捜索しても結果は同じだったので、気配を消してゴルドバーンに潜入してみた。
「街はかなり発展しているんだな」
ゴルドバーンは田舎の国かと思っていたが、気候もこの時期としては温暖で、街並みはシュベタインより発展している。特に魔道具関係は数段上のようだ。メイン通りには魔道具の街灯があるし、どこの家からも煙が出ていない。これは薪ではなく、魔道具で調理などをしている証拠だ。しかし、気になるのはあの人達だな。
「おらっ、サボるなっ。さっさと運べ」
あれは奴隷だろうか? 鎖に繋がれてないが、腕に焼印のようなものがある。ゴルドバーンは奴隷制度があるのかもしれない。犯罪奴隷なら分からんでもないが、奴隷の見た目はタイベの先住民みたいな感じの人が多い。
「なんの罪もない人が奴隷にされているとしたら嫌な国だ。ゴルドバーンは助ける必要がない国なのかもしれん」
マーギンはそう呟き、見て見ぬふりをする。
もうこの国を出よう。そう決心をする。これ以上見ていると、奴隷解放運動とかをしてしまうかもしれない。それは必要なのかもしれないが、優先順位はチューマン討伐が先。それに魔王討伐もある。
マーギンはギリッと唇を噛んでその場を離れた。
プロテクション階段で遥か上空に昇り、ゴルドバーンの街がどこにどれだけあるか確認していく。北上していくとウエサンプトンになるだろう。見るのはゴルドバーンだけでいいか。
上空から確認した限り、国の規模はシュベタインより小さいように思える。地形は元の世界のチリみたいな感じで南北に細長い。海と山脈に挟まれたような国だ。
しかし、これだけ広範囲に山脈があると、チューマンの巣が広がってたら、全部を見付けるのは不可能だな。各国で独自にチューマン対策をしないといけないのかもしれない。
マーギンは一人でチューマンの巣を潰すというのは驕った考えだと悟る。魔王は1体だけど、チューマンは魔物並に数がいるかもしれない。
昔、ミスティにピンクロウカストに襲われたシャーラムの村で言われた言葉を思い出す。
『自力で自分達を守れる力を持たなんだ結果がこれなのじゃ』
あの時はなんて酷い言い草だと思ったが、今ならミスティの言っていたことが分かる。いくら勇者パーティが強かったとしても、全てを守りきれるわけではないのだ。
「タイベに注力するしかないな……」
マーギンはそう自分に言い聞かせてタイベに戻るのであった。
◆◆◆
時は少し遡った北の街。
大隊長達、東方面を担当していたマッコイ達も作戦を終了して、領都へと戻って来た。そして、今回の報告会を行う。
「マッコイ、今回の報告会に領主も参加してもらえ」
と、ロドリゲスが伝える。今後の対策を領として取ってもらわないと、北の街が魔物に殲滅されてしまうかもしれないのだ。
「俺がいってもなぁ」
「そうだな。俺が領主を呼んで来よう」
大隊長が領主を呼びにいく役を買って出てくれた。貴族の大隊長の方がスムーズに呼び出せるとの判断だ。
その間にロドリゲス達が情報共有をする。
「じゃ、まずは東側の状況だが、魔狼しか出なかった。討伐もそこそこの数をしたが、きりがないから、追い払うだけに専念した。思ってたより雪が深くて、それが精一杯だ。怪我人はいるが犠牲者はなしだ」
「次は中央だ。魔狼はほぼ殲滅。キルディアが3匹、グロロが1匹。そのグロロの毒を食らって、仲間を死なせかけた。助かったのは姫様のお力のおかげだ」
「姫様の? どの姫様ですか?」
と、マッコイがオルターネンに聞く。
「第三王女、カタリーナ姫殿下だ。姫殿下は聖なる力を宿され、聖女となられた。その奇跡の力で仲間を助けてくださったのだ」
「ここにわざわざ姫様が来られたのですか?」
「そうだ。カタリーナ姫殿下は特務隊の見学にもよく来てくださるのだ。我々を心配して来てくださったのだろう」
「ひ、姫様はどこにおられるのですか?」
「テントでお休み中だ」
「姫様がテントに? えらいこっちゃ。すぐに領主様に知らせないと」
「その判断は大隊長に任せておく。慌てて知らせるよりも、効果的に事実を知らせてくれるだろう」
「しかし……」
「大丈夫だ。姫殿下はテントで寝るのにも慣れておられる」
「は?」
マッコイはオルターネンの言うことが上手く理解できないのであった。
「じゃ、こっちの報告もいいか?」
話の途中でマッコイがカタリーナのことを聞かされて話が中断してしまったのだ。
「お、おぉ、ロドリゲス、すまん」
「こっちは魔狼以外に雪熊が出た。それも3匹の群れだ」
「なんだと?」
「うち1匹は大型の統率個体でな。うちのハンターが対応していたら討伐できてないな。一応、近隣の村人達を避難させてから討伐した。被害がなかったのは特務隊のおかげだ」
「雪熊に統率個体か……中央はグロロ、かなりヤバい状況になってるじゃねーかよ」
「そうだ。大隊長が今回の雪熊はノウブシルク側から来たのではないかと、調査に出てくれた。その結果、凍った湖を渡って来たと思われるとのことだ。ノウブシルク側にはマンモーという、化け物みたいな魔物が出ている。今後もっと冬が寒くなって氷が厚くなれば、そいつが出るかもしれないんだとよ」
「……なんだよそれ。どこからその情報を仕入れた?」
「マーギンだ。去年ノウブシルク側を調べてきてくれた。ノウブシルクの北側の村とかはマンモーに滅ぼされたようだ」
「そうか、あいつか。今回マーギンが来てないのはなぜだ?」
「あいつは他にもやることがあるんだよ。それに自分がいなくても、他のメンバーでなんとかなると思ってんだろ。実際なんとかなったしな」
と、各人が報告を終えたところで大隊長が戻ってきた。
「すまん、領主はここにはいない。社交シーズンで王都にいるようだ」
大隊長はすっかり貴族の風習を忘れていた。王都に戻ったら自分から話すということで、マッコイからの報告を聞く。領主には北側の山側に渡る橋を落とすこと、湖側から川沿いに防衛の為の塀を作ることを提案すると皆に説明したのだった。
◆◆◆
「マーギン、思ってたより早かったな」
マーギンはミャウ族の集落に戻ってきた。
「あぁ。ゴルドバーンまで行ってきたが、巣を見付けられなかった。だが、ゴルドバーンの山近くで30匹ほどの隊列を見付けて始末しておいた。それで今回分かったことを報告するわ」
と、ロブスンに今回分かったチューマンのことを教えた。
「これからマーギンはどう動く?」
「ロブスン達は前に仲間がラプトゥルに連れ去られたかもしれないと洞窟の調査に行ったろ?」
「あぁ」
「あの近くに村があるんだ。そこの様子を見に行って、領都に向かう」
「そのまま王都に戻るのか?」
「いや、王都とタイベの間の森を調査する。チューマンがここを餌場にするのを諦めたのなら、他の場所が狙われるかもしれん」
「そうか。俺達は火の神プレを祀る集落と、風の神ロムの集落に行きたいと思ってる」
「いつ頃出る?」
「もう出ようかと思ってたところだ」
「なら先にそっちに俺も同行するか。火の神プレの集落は山側だったよな? そっちの方がヤバいかもしれんからな」
「分かった。マーギンの準備が整ったら出よう」
「俺はいつでもいいぞ」
「なら、明日出発だな」
ということで、マーギンはすぐにミャウ族の集落を出発することになるのであった。