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終わる日常

年末


「マーギンさん、ぷくが食べたいです」


年末年始に休みをもらったアイリスとハンナリー、カザフ達が家にいる。


「カザフ達はどうする?」


「ぷくって、魚なんだよな? 肉の方がいいぞ」


「なら、お前らは鴨鍋にしてやろうか?」


「やったあ! かっもネギ、かっもネギ♪」


ネギを持って踊るカザフ達。


「お前、ラリパッパ掛けた?」


「か、掛けてへんで」


あらぬ疑いを掛けられるハンナリー。


「ロッカ達も休みなんだよな?」


「うん、家でゆっくり過ごすんだって。カニを渡してあるからそれを食べるってさ」


星の導きは3人で年末年始を過ごし、カタリーナも王城にいないとダメらしいので、もう飯食わせろ襲撃はなさそうだな。


例年より遅めに貰ったフグは味が濃くて旨い。お魚大好きなハンナリーはフグ毒が怖いようで鴨鍋組だから、アイリスと二人でフグ三昧。てっさをがーーっと箸ですくって口いっぱい頬張る。贅沢の極みだ。唐揚はアイリスがたらふく食い、白子は独り占めした。


「さ、シメは蕎麦だぞ」


この世界には年越し蕎麦の風習はないが、これを食うと年末という感じがしていい。


「マーギン、なんで鴨鍋の方の蕎麦を食うんだ?」


「蕎麦はこっちの方が旨いからだ。てっちりのシメは雑炊にする」


そう、てっちりは雑炊が本命。すでに腹がはち切れそうだが、口から出るまで食ってやる。


「死ぬ……」


全員ぽこたん腹になり、リビングの床に寝転ぶ。ある意味至福の時間だ。



「さ、順番に風呂に入れ」


腹がこなれたあとに風呂に入らせる。


ハンナリー、アイリスと入ったあとにカザフ達。


「マーギン、一緒に入ろうぜ」


「俺はまだやることがあるんだよ」


「正月用の料理か?」


「そう。ローストビーフとか食うだろ?」


「うん。なら、俺も手伝うから他のも作り方を教えてくれよ」


と、タジキが言うので、カザフ達も手伝うことになった。タジキには鶏ガラ出汁を作ってもらいつつ、はんぺんやカマボコを一緒に作ってみる。


「マーギン、すり身にするの面倒臭いな」


「魔導具があれば早かったんだけどな、全部渡したから手でやるしかない。面倒だからって適当にやるとボソボソのまずいカマボコになるぞ」


材料は同じだから竹輪も作るか。チーズ竹輪とか好きそうだしな。


「あとはなんか食いたいものあるか?」


「前に肉まんって言ってたよな? あれはどうするんだ?」


「なら、餡を作るか」


豚ミンチで肉まんの餡を作っていく。焼売も作ろう。仕上げは明日でいいからな。


そして、年が明ける前に準備が終わり、カザフ達と風呂に入った。


「もう、年が明けたかな?」


「そうだな。多分明けたと思うぞ」


二年参りならぬ、二年風呂になったな。酒持って来りゃよかった。


「あけましておめでとう」


「おめでとうっ!」


こうして、親子で過ごすような年末年始を過ごしたマーギン。翌朝からは餅つきをして、娼館に雑煮ときな粉餅の差し入れ。イクラ、カズノコ、カマボコとかも箱に詰めてババァ用として渡しておいた。


「この肉まんて旨いな」


「焼売も旨えっ」


餅を散々食ったあとにまだ食うガキども。


「おっ、旨そうなもん食ってんじゃねーかよ」


「来るの遅かったな。餅つきは終わったぞ」


星の導き達がやってきて、そのまま宴会へと突入するのであった。



年明けの3日から特務隊の訓練が再開し、マーギンはインスタント麺を作るための魔導回路が上手くいかないと連絡が入り、手ほどきしながら回路を組み上げたりしていた。


王家の社交会も無事に終わったようで、いよいよ、ミスティの石化解除をしにいくことに。



「マーギン、本当にこの時期にタイベに行くのか?」


マーギンの家までローズがカタリーナを送ってきた。


「まぁね。転移魔法を使うからカタリーナは1週間以内に王城へ戻すよ」


「本当に転移魔法を使えるのか?」


「久しぶりに使うけど、大丈夫。一度覚えた魔法は忘れないから。じゃ、ローズも気を付けてね」


《テレポーテーション!》


ブォン。


マーギンが転移魔法を唱えると、空間が歪んだような景色が現れる。その歪みにマーギンがカタリーナの手を引いて入っていくと消えたのであった。


「あっ……」


ローズはマーギンの言葉が気になり、いつ帰って来るのか聞く前に行ってしまった。


『カタリーナは1週間以内に戻すよ』


カタリーナ()


ということはマーギンは戻って来ないつもりなのか?


マーギンの家に一人残ったローズはもしかしたら戻って来ないような気がして、胸が締め付けられるような思いをするのであった。


◆◆◆


「カタリーナ、多分俺は転移魔法を使って移動すると、到着したときにしばらく気を失うと思う。それは転移酔いってやつでな。船酔いのもっときついようなやつだ。お前に渡したマジックバッグに食料とか入れてあるから、俺が復活するまでそれを食っとけ」


「私も気を失ったらどうするの?」


「その時は二人で気絶してるだけだから問題ない。誰も来ない安全な場所に転移するからな」


マーギンは転移する前にカタリーナに説明をしておいた。カタリーナのマジックバッグには食料と聖杖エクレールが入っている。気絶しているのは1日、2日だから問題ないはずだ。


◆◆◆


ぐにょぉぉん。


「ぐっ、この感じは何回やっても慣れんろ……」


転移魔法の歪んだ空間をくぐると、三半規管がダメになったのかと思うぐらいの目眩に襲われる。時間は一瞬のはずなのだが、何時間もぐるぐると回されているような感覚だ。


パッと視界が明るくなり、ラーの神殿に転移が完了した。


「オロロロロロっ……」


その場で激しく嘔吐するマーギン。吐くことが分かっていたので、胃の中を空っぽにしていたのだが、口から胃が出てくるような吐き方をする。


「マーギンっ、大丈夫っ?」


カタリーナは転移酔いをしていなかったので、倒れて苦しそうに吐くマーギンに駆け寄った。しかし、マーギンの意識はすでになかった。


「どうしよう、どうしようっ!」


事前に説明をされていても、マーギンが倒れたことに動揺するカタリーナ。


「そうだっ、治癒魔法でなんとかなるかもっ!」


カタリーナは聖杖エクレールを出して、マーギンを助けてと心の底から願う。


ぱぁーっ。


目には見えないが光の粒がマーギンに降り注いでいくように感じた。


「うっ、うう……」


「マーギンっ! 大丈夫?」


「あぁ、悪い。やっぱり気を失ったか。どれぐらい時間がたった?」


意識を取り戻したマーギンは、自分が何日か気絶していたのだろうと思ってカタリーナにそう尋ねた。


「多分5分くらい」


「は?」


「ここに着いたのさっきだよ。杖に祈ったらマーギンの目が覚めたの」


「お前、詠唱とか治癒魔法を他人に掛けるやり方知らないだろうが?」


「うん。でもマーギンを助けてって祈ったらマーギンが起きたの」


そうか。やはりエクレールに認められるだけのことはあるんだな。しかし、転移酔いが治癒魔法で治るとか知らなかった。もしかしたらソフィアは知ってて治してくれなかったのだろうか? あのクソ女め……


そんなムカつきを覚えつつ、口の中が酸っぱ苦い臭いで自分が吐いたことを思い出したマーギンは、その場と自分に洗浄魔法を掛けてから水を飲んだ。


「ありがとうな。転移酔いからこんなに早く復活できると思わなかったわ」


「事前に聞いてたけど、マーギンが倒れるのを見て心臓が止まりそうになっちゃった」


そう言ってテヘペロをするカタリーナの頭を撫でておく。


「で、ここどこ?」


「ここはミャウ族が祀る神、ラーの神殿だ」


「あんな一瞬でそんな所まで来れたの? 転移魔法ってすっごーい」


「転移魔法とはそういうものだ。俺も酔わないならもっと使ってもいいんだけどな」


「酔ったら私が治してあげる」


「そうだな。カタリーナといればそれも可能かもしれん」


そう答えると喜ぶカタリーナ。一応、転移魔法を使えるのは内緒だぞと言っておいた。


「で、ここで何をすればいいの?」


「こっちに来てくれ」


カタリーナを連れてミスティの石像の元へ。


「この人、儀式会場の銅像になってる人?」


「そうだな。あの銅像はこの石像を元に作られたものらしい」


「ふーん。石像が壊れたから、銅像に作り直したのかな?」


「そうだ」


「で、何をするの?」


「この石像にエクレールを使って治癒魔法を掛けて欲しいんだ」


「石像に?」


マーギンは一呼吸置いて、カタリーナに説明をする。


「この石像は元々人間なんだよ。魔王の瘴気の影響か、魔法で石化されたのかもしれない」


「えっ? マーギンの知り合い……なの?」


「この石像になった人の名前はミスティ。俺の魔法の師匠だ」


マーギンはカタリーナにそう告げたのであった。



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― 新着の感想 ―
れ、恋愛的な激動よね!!?? ミスティが魔王に乗っ取られてたら泣くぞ!
カタリーナなんだかんだ良い娘やなぁ マーギン公爵家良いじゃない!
これ、話的に2/3くらいなのかな?
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