ぞろぞろと……
業者マーギンも終わり、家に帰ることに。
「ん? お前らも来るのか?」
カザフ達が付いてくる。
「俺達、明日休みなんだ。大将の所に行くのにマーギンの家の方が近いだろ?」
「そうか。なら一緒に帰るか」
ぴょん。
「アイリス、なぜ乗る?」
アイリスがマーギンに飛び乗って来た。
「私も明日休みなんです」
「うちに泊まるつもりか?」
「ダメですか?」
「まぁ、いいけどさ」
また俺はベッドで寝れないのか。
「ずっるーい。私達もマーギンの家に行く」
それを聞いていたカタリーナ。
「もうベッドは満員だ」
即、否定するマーギン。
「明日訓練するんでしょ? マーギンの家に泊まった方がいいじゃない」
「お前は朝早いの平気だろうが。朝に来い」
「えーっ。ローズも泊まった方がいいと思うよね?」
「ひっ、姫様っ。聞こえますっ!」
「ほう、お前、マーギンの家に泊まるつもりなのか?」
「ちっ、ちい兄様……」
マーギンの家に泊まると聞こえたオルターネンがこっちに来た。
「オルターネン、あなたはいつまでもシスコンが過ぎます。私の護衛に余計な圧を掛けないでちょうだい」
カタリーナは右手の人差し指でビシッとオルターネンを指さす。
「ひ、姫様……それとこれは……」
「いい? オルターネンがローズを縛り付けてきたから、こんなに不器用な女になっちゃったんじゃないの。可愛い子には旅をさせろっていうの知らないの? それともオルターネンがローズと結婚するとか言うつもり?」
「そ、そのようなわけでは……」
カタリーナはこんこんとオルターネンに説教をする。
「オルターネン、姫様の言う通りだ。お前はお前の道を、ローズはローズの道を歩き出したのだ。いちいち干渉するのはもういいだろう」
「はい……」
オルターネンもローズに干渉するのはやめようと思っていたはずなのだが、つい口を出してしまったのだ。
「じゃ、マーギン。話は付いたわよ」
「だから、明日の朝から来いって。別に泊まる必要ないだろうが」
「えーっ。ほらぁ、オルターネンが口を出すから、マーギンが断ってきたじゃない。どうしてくれるのよっ!」
オルターネンのせいではない。初めから断ってただろうが。
「わ、私は何も……」
間に挟まれるローズは気まずそうにしている。
「大隊長も明日は休みですか?」
「そうだ」
「何か予定あります?」
「なくはないが、別に予定を変えても構わんぞ」
「もし良かったら、明日カタリーナ達との訓練に参加されませんか?」
「何をやっている?」
「それは見てのお楽しみです」
オルターネンは明日休みではないようなので、大隊長だけ誘っておく。
「ということだカタリーナ。明日の朝に大隊長と一緒に来い」
ギヌロッ。
「……オルターネン、説教よ。私の部屋に来なさい」
「はひ……」
もうマーギンの家に泊まるのは無理だと悟ったカタリーナはオルターネンにこれから不満をぶつけるらしい。たまにはオルターネンもカタリーナを存分に構ってやってくれたまへ。
シスコとブリケも同じ方面なので一緒に訓練所を出るとバネッサも付いてきた。自分の家に帰るのか?
「じゃな」
「マーギン、今日はありがとう。久しぶりに思いっきり食べた。大将のも美味しいけど、マーギンのタレのやつも美味しかった」
ブリケが別れ際にお礼を言ってくれる。ちゃんとお礼を言われると何か照れくさいものがあるな。
「シスコ、鶏の内臓や骨とか捨ててる肉屋と話を付けたら、仕入れができると思うぞ。料理屋もするなら仕入れとけ」
「そうね。今日みたいなメニューを出す料理屋もいいわね」
「それは居酒屋ってやつだ。あんまり儲からないとは思うけど、ハンター上がりの就職先にいいかもしれんぞ。ロドと話をしとけ。ハンナリー商会でメニューを決めて食材を卸してやればいい。カニドゥラックと同じ考え方だ。カニ以外の魚介類を売るのにもいいだろうからな」
「分かったわ」
そして、バネッサはこっちに来る。
「お前も泊まるつもりか?」
「明日することねぇんだよ。シスコといたら商売のことを手伝わされるだろうが」
「寝る所ないぞ」
「うちはソファでいいぜ」
ということは俺が床か。マットレス敷いて寝よう。
家に着くとハンナリーが待っていた。
「うちだけ仲間はずれにしなや」
「あのなぁ。こんなにたくさんどうやって寝るんだよっ!」
「うちと一緒に寝たらええやん? 宿舎って結構寒いねん」
狭いマーギンの家がより狭く。
「なぁ、あんた稼いでんねんやろ? もっと広い所に引っ越したらええやん。ほならみんな泊まりやすいのに」
「なんでお前らを泊まらせるために引っ越しをせにゃならんのだ。俺一人ならここで十分なんだよっ!」
そして、なし崩し的に始まる二次会。
「マーギン、なんかないん?」
ハンナリーがつまみを希望。
「イクラと日本酒でも飲んどけ」
「うちにはシャーラムドックを作ってくれよ」
バネッサはタイベで作ったアメリカンドッグを希望。
「今からあんなのを食うのか?」
「いいだろうが」
「マーギン、シャーラムドッグってなんだ?」
と、タジキが聞いてくるので、教えながら作ることに。
「準備している間に順番に風呂入っとけ」
と、女性陣を先に風呂に入らせて、その間にアメリカンドッグを作っていく。
「パンケーキの生地を付けて揚げるだけか?」
タジキが手伝いながら、簡単なんだなと、感心している。
「そう。そのまま食ってもいいけど、ケチャップ付けてもいいぞ」
「旨ぇっ!」
先に食うカザフ。子供はこういうの好きだからな。
「タジキ、明日リッカの食堂を手伝いに行くんだろ? リッカの賄に作ってやれよ。多分、口から出るぐらい食うぞ」
「分かった」
多分、リッカだけじゃなく、女将さんも死ぬほど食うだろうけど。
どんどん揚げていくと、トルクとカザフが運んでくれる。なぜ男連中しか働こうとしないのだろうか?
「さ、お前らも座って食え」
「うんっ!」
リビングにいくと、バネッサとカザフが食べた串で戦ってやがる。危ないからやめろ。
「なぁ、マーギン。いつからライオネルの魚運んでくるん?」
イクラを食べ終えたハンナリーが聞いてくる。
「年明けには荷馬車を動かし始めると思うぞ。それもあるけど、ライオネルはだいぶ変わってきてるぞ。春から夏に掛けてたくさん店ができるかもな」
「何やってるか教えてぇな」
と、言うので飲みながら説明してやる。
「えらいことになってるやん」
「それもちょっと落ち着いてきたみたいだからな。来年から本格的に稼働し始めるだろうな」
「うちなんもしてへん……」
「別にいいんじゃないか? お前はハンナリー隊を率いてりゃいいんだよ。軍人どもを上手くまとめてるじゃないか」
「それはそうかもしれへんねんけど」
「それはそれで凄い才能だと思うぞ。いずれハンナリー商会は大人数を雇う商会になる。実務はシスコとシシリーに任せておけ。お前は雇った人達を奮い立たせる役目でいい」
「うち商会長やねんで。奮い立たたせるだけって……」
「あのな。実務は勉強すりゃできるようになるやつも多い。だけど、人を奮い立たたせるには才能が必要だ。シスコやシシリーでもできないことだと俺は思うぞ」
「ほんま?」
「ほんま。従業員が楽しくやる気を持って働けるなら幸せだ。お前はその先頭に立って旗を振ってやればいい」
「エヘヘへ」
顔が綻びるハンナリー。
「どうした?」
「やっぱりマーギンはええなぁ」
「何がだ?」
「うち、ずっと不安やってん。ハンナリー商会って名前やけど、うちは商会にとっていらん人やないんやろかって」
それは否定できない。
「そやけどな、マーギンがいつもこうしてうちを褒めてくれるやろ? ほなら、心が落ち着くねん。なんやこう、夢の中で走ってるのにいっこも前に進まんみたいな感じ? そんなときにマーギンがこっちや言うて手ぇ引っ張ってくれんねん」
「そうか?」
「そうやで。いつもありがとうな。うちはマーギンと出会えてなかったら、野良猫みたいに死んでたかもしれん」
「まぁ、ときどき自分でも何やってるんだろうと思うことが出てくるだろうけど、やりたいことに向かって頑張ってりゃ、道に迷ってもそのうち元の道も見つかる」
「うん、うち頑張るわ」
そう微笑んだハンナリー。
「ほなら、マットレス出してぇな。うちもう眠い」
何がほならだ。というか、心のつっかえが取れたからホッとして眠くなったのかもしれん。
マットレスを出してやってると、バネッサがソファを譲ると言い出した。
「お前がマットレスで寝るのか? 俺もマットレスで寝るんだぞ」
「テントじゃ一緒に寝てただろうが? 今さら何言ってやがる」
まぁ、それはそうだけどさ。
酒を飲んでぐらんぐらんのアイリスを抱き抱えてベッドに寝かせ、カザフ達と風呂に入る。
「お前ら、だいぶデカくなったな?」
頭を洗ってやってると以前とは身体の大きさが違うのに気付く。背丈だけではなく、身体も大きくなっているのだ。
「もう去年の服が着れなくなったぜ!」
「服はどうしてる?」
「俺達も給料ってのを貰ってるから自分で買った」
「そうか。お前らもう自分の稼ぎで暮らせるようになってんだな」
「宿舎にいたら飯は出るし、獲物を狩ったりもする。それにタジキが作るから、その飯を食う人が食材と調味料を買ってくれるんだ。だから服ぐらいしか金使わないんだよ」
「なるほどな」
こうやって一緒に風呂に入って洗ってやるのも、そろそろ終わりかもしれん。そのうち一緒に酒を飲むようになるのかと思うと感慨深い。
「マーギン、どうしたのー?」
「いや、子供が成長するのは早いなと思ってな。そのうち、膝とか痛くなるかもしれんぞ」
「どうしてー?」
「身体が成長するときにそうなったりするんだよ。そんなときはハードな訓練をするな。休むときはちゃんと休まないと身体を壊すからな。明日大隊長にも言っておく」
「うん」
マーギンの背中は3人で洗ってくれる。力が強くなってるから痛いぞ。
風呂から出るとハンナリーはソファで寝てるがバネッサはワインをチビチビと飲んでいた。
「お前ら、身体が温まっているうちに寝ろ」
「はーい」
カザフ達を寝にいかせて飲んでるバネッサに付き合ってやる。
「何飲むんだ?」
「ウイスキーのお湯割りだ。バネッサにはハチミツ入にしてやろうか?」
「うん」
味見をしながら少し甘めでウイスキー薄めのお湯割りにしてやる。
「なんかホッとするな」
「だろ? 寒い夜はこういうのが楽しめるから結構いいもんだ」
「だな」
「なんか話したいことあるのか?」
寝ずに待っていたということは何か話したいことがあるのかと聞いてみる。
「別にねーけど」
そう返事をして、お湯割りをアチアチしながらすするバネッサ。おっさんみたいだからやめろ。
お湯割りをすすりながら飲むと酔うのが早い。飲み終えたバネッサは目がとろんとしてきた。
「眠いなら寝ろ」
「うん」
バネッサがマットレスに寝た。カブトムシの幼虫みたいに丸まって寝るスタイルは昔と変わらないな。暖房の温度を少し下げて毛布を掛けておく。
マーギンはもう一枚毛布を出して隣に寝転ぶと、少ししたらバネッサが丸まったままこっちの毛布に入ってくる。あー、そうか。ロッカはラリー達と組んでるみたいだし、カザフ達は大隊長と訓練、ハンナリーは軍人達と一緒にいるから、少し寂しかったのかもしれんな。
マーギンの毛布に潜り込んだバネッサは丸まることなく、スヤスヤと眠るのであった。