業者マーギン
翌日、マーギンはシスコの所へ。
「また何か始まるのかしら?」
マーギンを見るなり、とっても嫌そうな顔をするシスコ。
「違うわ。人とか大丈夫か?」
「ええ、帳簿管理は目処が付いたわ」
シシリーもといエルラの言う通り、魔道具ショップで働く元遊女達は優秀だった。シスコが仕事を振り分けるとテキパキとこなしてくれたのだ。
「薪を扱う商会からなんか言ってきてただろ? それはどうなってる?」
「魔導チェーンソーを販売しているから、せっせと木を切ってると思うわ」
あー、なるほど。それであんなに木が切り倒されてたのか。しかし、生木が薪になるのは来年になるだろう。
「今シーズンはまだ薪が足らないだろ? 薪を確保してあるから、商業組合にハンナリー商会の名前で寄付しておくぞ」
「売らないの?」
「売ってもいいんだけど、販売価格が高くなるだろ? 生活必需品はなるべく値段を抑えてやりたいんだよ。それかハンナリー商会で通常価格で売るか? それをすると既存の薪を扱う商会と揉めるかもしれんが」
「うーん」
シスコは考える。マーギンの言う通り、大した利益が取れない商品を扱って敵を増やすのは得策ではないか、と。
「じゃ、去年と同じようにしてくれる?」
「いいぞ。あと、ライオネルから領都への荷馬車をそろそろ稼働させろよ。数は少ないだろうけど、冬の間でも魚が溜まっていくだろうからな」
「分かったわ。年が明けたら稼働するように手配しておくわね」
帳簿管理が落ち着いたからか、シスコの機嫌も元に戻ったようだ。
「ブリケは大丈夫か?」
前みたいに口から煙を吐くような感じではないが、ストレスが溜まってそうだ。
「ブリケセットが食べたい……」
あー、北の街の焼き鳥屋で食べた、鶏のモツ系の焼き鳥か。
「王都では取り扱ってる店を見たことがないからな」
「そうなの。お好み焼きも美味しいんだけど、違うものが食べたい……」
毎日お好み焼きだと飽きるわな。
「今日の晩飯にブリケセットみたいなのを作ってやろうか?」
「えっ? あるの?」
「タイベ領では普通に売ってるからな。まだ持ってるぞ」
目をうるうるさせるブリケ。
「奢り?」
「金なんか取るか。どこでやろうか。うちの家か……」
「アージョンにも食べさせてあげたいんだけど」
「なら訓練所だな。夕方に集合でいいな?」
「うんっ♪」
次は商業組合に移動して薪を大量に寄付。来シーズンは薪を扱う商会も準備が整うだろうから、今回で寄付は終わりでいいだろう。
薪を渡したあとは家でせっせとブリケセットを準備しておく。きっと他のやつらも食うと言い出すだろうからな。ブリケセットだけというのもなんなので、ネギマやセセリ、つくね等の焼き鳥各種を仕込んでいくと、あっという間に夕方前だ。さて、訓練所に行かなければ。
訓練所に到着すると、遠征から皆も戻ってきたのかたくさん人がいた。
「マーギンさん♪」
「おっ、アイリス。今日は飛びついて来なかったんだな」
「はい。走り続けて汗だくになったので」
俺に臭いと言われたくないのか。拾ったときのことを覚えているのかもしれない。別に臭くはないが洗浄魔法を掛けてやろう。
「今日はハンバーグですか?」
「違う。焼き鳥だ」
「えーっ」
と、アイリスと話しているとカタリーナとローズがやってきた。
「マーギン、晩御飯は何にするの?」
俺はお前らのオカンか?
「焼き鳥だ」
「えーっ」
どいつもこいつも……
そして、ハンナリー隊がまたなんか始めやがった。
「売ーれー、売ーれー、ハンナリー商会っ! 買ーえー、買ーえー、ハンナリーしょぉっかいでっー♪」
サンバのリズムに乗って踊ってやがる。
「やっと来たんかいなアミーゴ」
誰がアミーゴだ。
「また変なのやってんのか?」
「何言うてんねん。みんな楽しそうに踊っとるやんか。で、晩御飯何にすんの?」
「焼き鳥だ」
「えーっ」
こいつら……
「今日はブリケ用の焼き鳥だ。嫌ならタジキになんか作ってもらえ」
「なんでブリケ用なん?」
「あいつは地元を離れてるだろ? あいつの好物が王都にないんだよ。だからだ」
「うちも地元離れてるやんか。特別になんか作ってぇな」
「ライオネルのものは王都にもあるだろうが」
「美味しい魚ないやんか」
お前、ハンナリー商会が新鮮な魚を扱うの知らんのか?
「粕漬けならあるぞ」
「何それ?」
「味噌漬けは食っただろ? それの酒粕漬けだ。サワラを漬けてあるからそれを食え」
「ほならそうする」
「私の特別は?」
カタリーナも別メニューをリクエストしてくる。
「この前グラタンを作ってやっただろうが」
「ズルいです。私は食べてません」
アイリスが対抗してくる。あーっ、もうっ。
「ハンバーグのような物を作ってやる。カタリーナもそれを食え」
急いでハンバーグをこねて焼き、ホワイトソースの中に入れてチーズをのせる。ローズもこれを食いそうだなと、3食分を用意してから炭火をスタンバイすると、シスコとブリケがやってきた。
「カニも宜しくね」
俺は一人で何種類作らねばならないのだろうか? もう勝手に焼いて食ってくれ。
「ブリケ、あの店は塩焼きだったけど、タレ焼きも食うか?」
「美味しい?」
「好き好きだな。両方焼いてやるから、追加は好きな方を言え」
「うちのはタレにしてくれよ」
次はいつの間にか戻ってきていたバネッサだ。カザフ達と大隊長と共にやってきた。外で訓練してたようだ。
「タジキ、手伝え」
「何やればいい?」
「焼き鳥の塩を頼む」
カザフとトルクは皿とかの準備をしてくれる。さすが手慣れたものだ。
グラタンハンバーグの皿も炭火の上に載せ、グツグツしてきたらチーズを炙ってやる。
「これはアイリス、カタリーナ、ローズの分。熱いから火傷しないようにな」
「うちのまだなん?」
「焼き鳥が先だ。ちょっと待て」
ブリケは先にタジキが焼いた塩焼きから食べて涙を流している。久しぶりで嬉しいのだろう。こっちもそろそろいいな。
「ブリケ、こっちがタレだ」
次はバネッサのだな。タレを小鍋に入れて温め、その中に卵の黄身だけ入れて、少し熱を通して、半熟手前で取り出す。それをつくねの上にのせて完成。
「バネッサはこれを食え」
「生卵じゃねぇのか?」
「こっちの方が好みだと思うぞ」
「おっ、めっちゃ旨ぇ」
「だろ?」
「なぁ、うちの魚は?」
「今から焼くから待て」
粕漬けはすぐにコゲるから焼くのに気を遣うのだ。
「カニは?」
こいつも自分で焼いてなかったのか……
カニは殻付きのまま焼き鳥の隣にのせて焼く。すぐにお腹いっぱいになるようにデカいタラバだ。
業者のように様々な物を焼いていくマーギン。
「肉はまだか?」
大隊長よ、お前もか?
「肉は自分で焼いてくださいよ」
「なら、ソースを頼む」
ハイハイ。
「おっ、デカいカニだな。私もそれを貰おうか」
ロッカはオルターネン達と戻ってきた。サリドン、ホープ、ノイエクスにアージョンも一緒か。
「炭火コンロは自分で用意して。ここで全部は焼けん。食材はここに置いとくから好きなの持ってって」
アージョンにはブリケセットだな。塩はタジキに任せたから、魚が焼けたらタレ焼きにしてやろう。
「カニの殻を外してちょうだい」
シスコ用に焼けたカニの殻を魔法で外して渡していく。ロッカのも外して……
ガリッ、ボリッ、ぺっ。
お前はコブダイか? カニの殻を噛み砕きながら食ってやがる。
「マーギン、お代わりくれよ」
「つくねだけか? 他のも食うか?」
「他のも食う」
バネッサからのお代わりだ。サワラの粕漬けをハンナリーに渡して、また焼き鳥を焼く。俺も食おう。
網全体に焼き鳥を載せ、コゲ付かないように慌ただしくひっくり返していく。
「ブリケ、アージョンの分も焼いたから持ってけ」
で、こちらは卵の黄身を温めたタレに投入。バネッサ用の各種タレ焼きの上にそれをのせる。自分のは山盛り焼き鳥丼にして、その上にのせた。うむ、旨い。
「うちにも米くれよ」
「白飯か?」
「焼きおにぎり」
バネッサ用の米を握って網の上に。
「マーギンの食ってるのは旨いのか?」
「食ってみるか?」
と、言うと口を開けるので、スプーンの上にミニ丼みたいにして入れてやる。
「これも旨ぇな」
「だろ? 俺はこの焼き鳥丼好きなんだよ」
「うちにも作ってくれよ」
「焼きおにぎりどうすんだよ?」
「それも食う」
バネッサとのやり取りを見ていたカタリーナ。
「ローズ、ああやって自然に甘えるのがいいと思うんだけど。一口ちょうだいって言えば、あーんしてくれると思うよ」
「姫様っ。そんなはしたないことしません」
「ふーん。じゃあ、私はしてもらってこようっと」
「私もっ!」
カタリーナとアイリスは焼き鳥丼を一口ちょうだいをしにいき、ひな鳥のようにマーギンの所で口を開けるのであった。