女性にしてもらう
マーギン達がタイベに到着した頃、王都ではカタリーナが王と王妃の2人に話があると呼び出されていた。
「なんか嫌な話?」
2人揃って話をされるのは宜しくない話だと思うカタリーナ。
「嫌な話ではなく、大切な話よ」
「大切な話?」
「そう、あなたの将来の事よ」
「えっ、まさかもう社会勉強の期間が終わりなの? 5年間という約束だったじゃないっ!」
カタリーナは今の楽しい時間が奪われてしまうのかと怒る。
「話は最後まで聞きなさい。では、王からどうぞ」
「うむ、ではカタリーナよ。心して聞くが良い」
「う、うん」
「お前は当初の予定通り、20歳まで社会勉強を行なった後、国政に携わり、国の為に嫁ぐ」
「そうっ、それっ!」
20歳まで今まで通りでいられると聞いて即答する。
「話は最後まで聞けと言うたじゃろうがっ!」
「は、はい」
「もう一つの道は誉れ高き道ではあるが、過酷な道じゃ。人々から神のように崇められ、様々な人が助けを求めてやってくるじゃろう。そしてそれに応え続けなければならん道じゃ」
「ふーん、マーギンみたいな事をしろってこと?」
「マーギンみたいじゃと?」
「うん。マーギンはそんな事をしてるじゃない。タイベの先住民から崇められてるよ。魔道具ショップとか特務隊、漁師さんとかから色々助けを求めてきてそれに応えてるじゃない」
「う、うむ……マーギンはさぞかし大変なのじゃろうな」
「そう? 楽しそうにしてるよ」
上手く話を続けられない王。マーギンのような規格外の人物がカタリーナの傍にいることで、重大な話が普通のことのようになってしまいそうだ。
「あっ、でも辛そうに泣いてたこともあった」
「そっ、そうじゃろう、そうじゃろう。そういう険しい道じゃ。その道の事を聞く覚悟はあるのか?」
話を元に戻せて嬉しくなった王は小さくガッツポーズをして王妃にヒジドンされる。
「うーん、聞いてみないと分かんないよ。先に言ってよ」
「う、うむ。お前は聖女になる覚悟はあるか?」
「聖女って何?」
「聖女とはじゃな……聖女とは……」
王は王妃の方を見るが、王妃は素知らぬ顔をする。カタリーナに自分から話すと言ったのは王なのだ。
「聖女とは……人々に癒しを与えるものじゃ」
残念ながら上手く説明できなかった王。
「ふーん。それになったら国政に携わったり、知らない人に嫁がなくていいの?」
「そのような暇はなくなるじゃろう。王族の籍は残るが、特別な存在として一生あり続けるのじゃ」
「私がそんな人になれるの?」
「う、うむ。そうじゃなオルヒ」
「そうね。なれると決まったわけじゃないわ。なれる資格を持っているということになるわね」
「どうやったらなれるの?」
「それはマーギンさんにお願いすることになるわ。あなたにその覚悟があるならマーギンさんが戻ってきたらお願いしてみなさい」
「分かった」
話はこれで終わり、外で待っていたローズと訓練所に向かう。
「どのようなお話だったのですか?」
「うーん、なんかよく分からなかったんだけど、私の将来の話だったの」
「もしや、どこかに嫁がれる話だったのですか?」
「ううん、それは今までと同じ事をしてたらそうなんだけど、それとは違う道なんだって。人々に癒しを与える女性とか言ってた」
「癒しですか?」
「うん。お父様もお母様も私をその女性にできないからマーギンにお願いしろだって」
「えっ?」
「だから、私が女性になるのはマーギンにしてもらいなさいだって。それで知らない人に嫁がなくてよくなるんだって」
「そ、そうですか……マーギンが姫様を女性にするのですね……」
「うん。お母様がそうしなさいって。マーギンいつ帰ってくるかなぁ。早く女性にしてもらわないと」
カタリーナは聖女というキーワードが頭に入っていなかったので中途半端な説明をした。カタリーナを女性にすることで知らない人に嫁がなくてよくなる。つまり、そのお相手にマーギンを指名したのだとローズは誤解した。
「そうですね……姫様のお相手にはマーギンが適任かもしれません……」
「うん。私もそう思う」
カタリーナは知らない人に嫁がなくて良くなった事に気を良くして適当に返事をしたのだった。
◆◆◆
「マーロック、パンジャまで送ってくれ」
「イルサンには行かなくていいのか?」
「それは帰りに寄る。先にパンジャでシシリーに見てもらっておきたい場所に行って、その後、バネッサを迎えに行ってやらないとダメなんだよ」
今朝、シスコからシシリーを雇う事になったことを聞かされ、マーイと出会った店に連れて行くつもりなのである。
「了解だ」
半日程でパンジャに到着。店の開く時間まで待たないとダメなのでビーチで休憩することに。
「泳ぐには寒いが日光浴をするにはちょうどいいな」
ビーチには水着で寝そべっている人が結構いる。
「私も水着を着ようかなぁ。ねぇ、マーギン。水着を買いにいきましょうよ」
と、シシリーが腕を組んでくる。
「嫌だ。いくならシスコと行け。マーロックも行きたきゃ行けばいいぞ。俺はパスだ」
色っぽい美女のお誘いを間髪入れず断るマーギン。
「んもうっ。一緒に選んで欲しいのに」
「だってよ。マーロックが護衛代わりに行ってやれ。俺は嫌だ」
マーギンはシシリーの腕を振りほどいて、マーロックを生贄に差し出した。女の買い物に付き合うのは地雷原を歩く行為と変わらないのだ。
買い物を断ったマーギンはさっさと離れていき、バスタオルを出してビーチに寝にいってしまった。
「じゃあ、マロ兄でも連れていくしかないわねぇ」
シシリー達が買い物に行ったのを見計らってレモンチューハイをのむマーギン。
「うむ、旨い。昼間っからビーチで飲む酒は格別だな」
ガインにもお供えしてやろうかと思ったが、ここでミイラ化したガインを出したらドン引きされるだろうなと思ってやめておく。
そして待てど暮らせど戻ってこないシシリー達。マーギンは寝転がっているうちに爆睡してしまった。
「マーギン、マーギンっ。何爆睡してんのよっ!」
何やら上から声がする。
「ん?」
見上げたらシスコムーン。
「お前、そんな短いスカートをはいて顔の上に立ってるからパンツ丸見えだぞ」
ゲシッ。
顔面を踏まれるマーギン。
「これは水着よっ。人前で変な事を言わないでちょうだい」
シスコの水着はスカート付きのものだった。色が白だからパンツかと思ったわ。
「どう? マーギン」
シシリーは赤いビキニを着てウッフンポーズをする。
「おっ、いいねぇ。さすがシシリーだ」
抜群のスタイルのシシリーを見た後にシスコを見る。
ゴフッ。
何も言ってないのにヤクザキックを食らうマーギン。
「うるさいわよ」
「何も言ってないだろうが」
「目が語ってるのよ、目がっ!」
シスコは身長はやや小柄だが、スタイルは普通だ。胸は……
「あれ? お前、胸が大きくなったんじゃないか?」
ビタンッ!
「うるさいっ!」
「マーギン、この水着凄いでしょ。ある胸はよりボリューミーに。ない人でもそれなりに見えるのよ」
シシリーが仕組みを説明してくれる。どうやらパッド入りの水着だそうだ。
シスコの胸はパッド入り。
こんなフレーズが頭に浮かんだ後、ほっぺたが赤く染まるのであった。
夜に踊り子の店に向かう。
「あー、ヤキソバの人だ」
それやめろ。
「あのさぁ、ここの支配人と話がしたいんだけど、繋いでもらうこと可能かな?」
「その色っぽい人を働かせるの?」
「違う。他の仕事の話がしたいんだよ」
「ちょっと聞いてくるね」
と、ドリンクカウンターの女の子に支配人を呼んできてもらった。
「初めまして。マーギンといいます。突然すいません」
「いや、マーイの知り合いだと聞きましてな。最近来てくれないので、客から不満が出てるのですよ。その件ですかな?」
「違いますよ。こちらはハンナリー商会の会頭代理のシスコ、こちらは……お前、シシリーとエルラのどっちだ? あと役職は何になった?」
「エルラで。役職はタイベ支会長よ」
支会長って、支社長みたいなものなのだろう。
「ハンナリー商会タイベ支会長のエルラ。それと魔物海賊頭マーロックです。自分はマーギン。王都で魔法書店をやってます」
マーギンはハンナリー商会の説明と、これからやることの説明をした。
「なるほど。タイベならではのショービジネスですか」
「ええ。領都ではダンスショーをやるつもりです。パンジャはもっと南国らしいものがいいかと思いまして。料理を食べながらのショーを考えてます」
「王都から客を呼び込むとは難しいものに取り組まれてるのですね」
「そうなんですよ。引退した貴族夫婦とかをターゲットにしています。もしくは金持ちの庶民ですね」
「新しく箱を作って、人を手配してとかなり投資がかさみそうですね。月別と年間の客数、客単価とかどれぐらいを想定されてますか?」
「まだそこまで決まってません。エルラ、お前窓口になって話を詰めてくれるか?」
「いいわよ」
「こちらとしても大きな商売に結び付きそうな話で取り組みたいと思います。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願い申し上げます」
マーギンがイメージするのはファイヤーダンスみたいなものだ。
シシリーは挨拶をしたあと、事業計画はどのような形で報告すればいいかとの打ち合わせ始めるのであった。