罠に落ちる
「マーギン、見て見てっ! 海が見える」
「本当だな。このまま海まで滑ってみるか?」
「それは嫌っ!」
「俺もだ」
えーっと、海があっちだから、遺跡はどこだ? 海側から見えてた地形は……あっ、あそこか。
遺跡の場所を見付けたマーギンはプロテクションを一本橋のように伸ばして森の上を歩くことに。もう何でもありだ。飛べなくてもこれで十分だな。
「ここから、あの山の所までプロテクションを伸ばして歩くぞ。降りて自分で歩け」
「えー」
「えー、じゃない。まっすぐ平坦にするから歩けるだろ」
本当はもう少し幅を広げたいが、自分の魔力値がどうなっているのかイマイチ分からないので必要最低限の幅にしておく。いきなり魔力切れで倒れても危ないからな。プロテクションを出しっぱなしにするのはかなりの魔力を食うのだ。
「なんか怖い」
マーギンの服の裾をギュッと引っ張るカタリーナ。
「馬鹿、引っ張るな。落っこちそうになるだろうが」
「マーギンでも怖いの?」
「当たり前だろ」
カタリーナはマーギンでも怖いのかと思うとピンときた。
圧倒的、閃き!
押せっ! 押せっ! 押せっ!
カタリーナがやっちゃダメだと思う反面、どこからか押せという声が聞こえてくる。
うずっ……。
カタリーナが両手を前に出した時、
「押すなよ」
嫌な予感がしたマーギンが後ろを向かずに押すなよと言ってくる。
「それはフリ?」
「違うわ」
こいつ、本当にやりそうだから怖い。プロテクションの道もこんな高さにする必要もなかったなと、下を見てみる。
「わっ!」
トン。
「うわわわわっ!」
やっぱりやりやがったカタリーナ。下を向いている時は軽く押されてもバランスを崩す。
「きゃあーっ!」
マーギンがバランスを取ろうと両手を広げた時にカタリーナに当たり、カタリーナもグラグラする。マーギンは慌ててプロテクションの幅を広げてカタリーナを捕まえた。
「危ないだろうがっ!」
まだ心臓がバクバクしているマーギン。カタリーナも怖かったのかマーギンにしがみついたままだ。
「ご、ごめんなさい。ちょっと押したくなっちゃった。テヘ」
なんとなくその気持ちが分かるマーギン。ハンナリーとかが前を歩いてたら押してたかもしれん。
「もう乗っとけ。なんかされるよりマシだ」
それ以上怒ることなく、プロテクションの道を階段状にして高度を下げていくことに。
「へへへっ♪」
「なんだよ?」
ご機嫌のカタリーナが背中越しに笑う。
「誰もいないとこうして構ってくれるから嬉しいの」
確かに隠密がいないからと構い過ぎているかもしれん。このままではアイリスと同じく癖になってしまいそうだ。王都に戻ったら躾し直さないとダメだな。と、ペットを甘やかせ過ぎた飼い主のような思考になるマーギン。
遺跡に向かってプロテクション階段を降りていき、ようやく遺跡の前に到着した。
「カタリーナ、俺の後ろに回れ。ここは魔物だらけだ」
遺跡周りにいる魔物はコング系か。これ以上接近されると厄介だな。木や草の茂みの中にゴリラのような魔物がいる。他にも虫系の魔物もいるだろう。気配が多すぎて何がどれだけいるか分からん。
《ブリザードカッター!》
ヒョオオオォゴウウウウッ
マーギンは自分の周りに竜巻を出し、その中に氷の刃を混ぜる。そしてそのブリザードをどんどんと周りに広げていった。
ガサガサっドシュッビシュッズドドドド
周りの草木とともに魔物たちが切り刻まれていき、すべてを凍らせていった。これで虫系の魔物も全滅だ。
上空から見るとミステリーサークルのようになる遺跡周り。
「マーギンすっごーい!」
「これはやばい魔法だから見なかった事にしろ」
もしブリザードの中に人がいたらミンチのようになってしまう魔法なのだ。
遺跡周りの魔物を殲滅した後に崩れた遺跡の中に入っていく。中は暗いのでカタリーナがしがみついて邪魔だ。
《ライト》
暗視魔法を解除してカタリーナのために明かりをつける。
「多分、スライムとかいるから水たまりを踏むなよ」
「う、うん」
そろそろと遺跡の中を探索していく。壁は蔦か何かの根か分からないものが張り巡らされている。何か痕跡があっても見逃しそうだと、ツタを切り、苔むした壁に洗浄魔法を掛けてみる。
「わぁ、真っ黒な石なんだね」
「そうだな。わざわざ黒い石だけを選んで作ったのかもしれんな」
海岸線の岩は黒かったからそれを切り出してきたんだろうか? 大変な作業だったんだろうな。そんな事を思いながら遺跡の奥まで進むと広い部屋になっている。
「多分ここが祭壇のあった場所なんだろう」
ここも苔むしているので部屋全体に洗浄魔法を掛けて洗っていく。壁には灯りを置くような場所もあり、正面の壁は何かを祀る為の凹みがあった。俺はここに祀られていたのだろうか?
「マーギン、なんか書いてあるよ」
と、カタリーナがその窪みの壁に何か書かれているのを発見。
「本当だな」
文字はかすれているが勇者パーティ時代の文字だ。マーギンは文字をじっと眺める。
「ねぇ、なんて書いてあるか読めるの?」
「まぁな。なんかの詩かもしれん」
「読んで」
〜彷徨うものは東から登る太陽を探す〜
「東から昇る太陽かぁ。東ってどっちかな?」
「ここだと方角が分からんな」
遺跡の中をウロウロしたから方角が分からん。
「これも文字?」
「ん? それは文字じゃないな。方角を示す記号だ。この矢印がある方向が北じゃないかな」
「だったら右側が東?」
「かもな。矢印が上を向いているから正面が北だとそうなるな」
右側の壁を見るとそこにも文字が刻まれている。
「これは?」
〜西を向きすでに太陽が沈んだのかと心が沈む〜
「今度は左ってことね」
カタリーナは謎解きのようにはしゃぐが、マーギンはこの詩のようなものの意味を考える。彷徨うものとは俺のことだろうか? それに太陽がミスティのことだとしたら……
「またなんか書いてあるよ! 早く読んで読んで!」
〜彷徨うものは打ちひしがれて天を仰ぐ〜
「天だと上ね、あっ、上にもちゃんと書いてある。ここから読める?」
〜彷徨うものは希望が失われたとうつむいた〜
「今度は下、下っと。早く読んで読んでっ!」
マーギンは下に何が書かれているのか恐る恐る読む。
〜キョロキョロすんなバカ〜
ムカッ。
「なんだよこれっ! 人をバカにしやがって」
昔トイレで見たことがある落書きじゃねーかっ!!
ムカついたマーギンは最後の文言を足でドンっと怒りに任せて思いっきり蹴飛ばした。
ガタン
「えっ? あわぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁっーー!」
マーギンが床を蹴飛ばしたらパカッと開いて下に落とされた。
ドスンッ。
ぐえっ。
マーギンが先に落ちて、その上にカタリーナが降ってきた。しかもマーギンのマーギンの上にだ。
「ふぉぉぉぉっ……」
カタリーナを避けてうずくまるマーギン。
「だっ、大丈夫? どこが痛いの? ねぇ、どこが痛いの?」
「い……いいから、少しほっといてくれ……」
「どこが痛いの? さすってあげるからどこが痛いか教えて」
「いい…からほっといて……くれ」
ナチュラルハラスメントを発動させるカタリーナにあっちいけシッシッをするマーギン。とんだ厄日だ。
自分に治癒魔法を掛けてなんとか収まったマーギン。オルターネンにやられた時以来の痛さだ。
「罠に落ちちゃったね。上の床も閉じちゃってる」
「最悪だまったく。なんちゅう意地の悪い罠を仕掛けやがんだ」
まるでマーギンを嵌めるためだけに存在するような罠。誰だ、こんなのを考えやがったやつは?
気を取り直して落ちた部屋を見渡す。ここは荒らされてないから、誰も来たことがないのかもしれない。
部屋を見渡して見付けたのは部屋の奥にポコンと突き出た石。縦1m✕横2m程度の大きさで、上部は斜めになっている。その上部を洗浄してみるマーギン。
「これ……こんな所にあったのかよ」
【使徒様の仲間 ガインガルフ・ドネイル様ここに眠る】
罠に落ちた先にはガインの墓があった。
「ここで焼肉とかやったら、えらい事になるだろうが」
マーギンはガインの墓を見てボロボロと涙を流しながら酒と焼肉の用意をしていくのであった。