疑問に気付く
ミャウ族の集落での宴会は焼肉とウナギ。
「これ美味しいっ!」
カタリーナ、ウナギにどハマりする。うな丼をがっつくからほっぺがご飯粒だらけだぞ。
「これ旨ぇな」
バネッサもお気に召したようだ。
「なんで今まで作んなかったんだよ?」
「王都にウナギなんていないだろうが」
「ならなんでお前は知ってたんだよ?」
嫌なところを突いてくるバネッサ。
「昔食べた事があったんだよ。どこでかは覚えてないから聞いても無駄だ」
「このタレは?」
「唐揚げの甘辛とほぼ同じだ。ウナギの脂や出汁が足されてるからちょっと違うように思うかもしれんがな。ま、バネッサ好みの味ってやつだ」
「ウナギ持って帰ろうぜ」
「そうだな。チューマンを探しに行くときについでにウナギも探すか」
「こいつらからもらえばいいんじゃねぇかよ?」
「ウナギはそんなにたくさんいると思わないんだよな。捕りすぎるといなくなるかもしれんから、違う場所で捕る方がいいんだよ」
「ちぇっ、こいつが魔物だったらいくら捕っても問題ねぇのにな」
フラグみたいな事を言うのはやめて欲しい。ウナギは程よい大きさのがいい。バカデカいウナギなんかいらん。
夜はこのまま儀式会場でテントを張ってお泊り。ミャウタンが屋敷に泊まってくれと言ってくれたのにカタリーナもバネッサもテントでいいと言う。ポニーも一緒に寝ると言ったのでぎゅうぎゅうだ。
「4人並ぶと狭ぇな」
「明日もうちょい拡張するか。マットレス4枚敷けるぐらいにしないとな」
「じゃー、今日はマーギンの上で寝ようっと」
ポニーがマーギンの上に乗ってくる。起きている間はそれほど重いと思わないのに、寝たらズシッと重たくなるのはなぜだろう? 皆が寝入ったところでポニーをマットに寝かせてマーギンは外に出た。
「夏の暑さは王都とあまり変わらんが湿度が高ぇな」
テントから出ると湿度の高さを実感する。人は快適に慣れるのは一瞬だけど、不快に慣れるのには時間が掛かる。
「水浴びでもすっかな」
誰もいない儀式会場でパンイチになり、指先からジョボジョボと水を出して頭と身体に掛けていき、優しい風魔法で自分を包む。
「おー、快適快適」
こういう涼み方はエアコンと違った快適さがある。レモンチューハイ飲んじゃお。
風魔法を止めてレモンチューハイを飲もうとするマーギン。
「うちにもくれよ」
「うわぁぁぁっ。びっくりするじゃねーかよっ!」
「別に気配消してたわけじゃねーぞ」
バネッサが後にいたことにまったく気付かなかったマーギン。まだ心臓がバクバクしている。
「すっかり油断してたわ。甘めか?」
「いや、少し控えめでいい。なんかスッキリしてぇ」
というので、レモンとライムを絞ってやる。アルコールはラム酒。俺も同じものを飲もう。
「もうちょい甘くしてくれよ」
「お前が控えめにしろって言ったんだろうが。ったく、ほらコップを貸せ」
マーギンはコップのフチをライムでくるっと回してぬらし、砂糖を付けてやる。
「おっ、旨ぇ」
「そりゃ良かったな。寝れなかったのか?」
「お前がテントから出たからだろうが。なんかあったのかと思ったら水浴びしてやがっただけかよ」
「ポニーが寝たら重くてな。起きてるときはそんなに重く感じないのに不思議だな」
「知らねぇよそんなの」
「お前も寝たら手や足をのせてくるんだぞ」
「そんな事してねぇ」
「してるんだよ。その点カタリーナは寝相いいけどな」
「マーギンは寝てる時ほとんど動かねぇよな」
「そうだな。寝返り打ったらどこを触ってるんだスケベとか叩かれるからな。寝てる時に叩かれて起きるとか最悪なんだよ。だから動かなくなったのかもしれんな」
「それってミスティって奴のことか?」
「そうだ。他にも仲間はいたんだけどな、ミスティと俺はセットにされてたんだよ」
「どうしてだよ?」
「俺の魔法の師匠だったからだな。俺が魔法で悪さしないように見張られてんじゃねーか」
「お前よりすげぇ魔法使いだったのか?」
「攻撃魔法は俺の圧勝だな。ミスティはデバフ専門だ」
「デバフ?」
「ハンナリーのスロウ、アイリスのスリップ、俺がよく使うパラライズとかのことだ。特にパラライズは天下一品だったぞ」
「だからマーギンもパラライズをよく使うのかよ?」
「そういうわけじゃないけどな。パラライズって使い勝手がいいんだよ」
「うちも使えるようになるか?」
「いや、パラライズは適性が物を言うからな。バネッサには適性がない。パラライズって本当はそこそこレアな魔法なんだよ。アイリスもハンナリーも使えるから珍しく思わんかもしれんがな。バネッサも何か魔法を使いたいのか?」
「いや、別にそうじゃねぇけどよ」
「だな。お前が使うのはナイトスコープぐらいでいいんじゃないか? 水を出す魔法や着火魔法ぐらいは使えるようにしてやれるけどな」
「誰か出してくれるから別にいらねぇよ」
その後少し話をして、マーギンはテントに戻らず、地面にタオルを敷いて外で寝たのであった。
んん、なんか重いぞ。身体に重みを感じて目を開けたら、バネッサの足がのっていた。ったくこいつは……。
もうすぐ夜明けなので、マーギンはそのまましばらく足をのせたままにしてやるのだった。
「ロブスン、俺達は明日チューマン捜索に行ってくるわ」
「俺達は行かなくていいのか?」
「お前らはここの防衛の方が重要だ。調査は俺達でやってくる」
「姫様も連れて行くのか?」
「そうだな。一応俺は今回こいつの護衛を兼ねてるから置いていけないんだよ。バネッサもいるから問題ないぞ」
「マーギンがそう言うならいいけどな。ポニー、お前は留守番だぞ」
「うん。分かってる」
「山間を中心に見てくる。大元の巣がどこかにあるかもしれん」
今日は討伐隊の訓練の成果を見せてもらうと各チームの連携練度がかなり上がっている。これならチューマンが出ても苦戦する事はないだろう。そして驚きの成果を見せたのはロブスン。
「はぁーーはっ!」
バンッ!
丸太に掌底を撃つと、丸太の背後が爆発するかのように弾けた。
「どうだマーギン?」
「おー、すげぇよ。こんな短期間にここまでの威力を出せるなんて凄いな」
「問題は集中する時間が必要なことだ。これではまだまだ実戦では使えん」
「それはそうだけど、できるようになっただけでも凄いぞ。これなら背後からの攻撃でも効くかもしれん」
「そうか。これなら正面から攻撃しなくても済むかもしれんのか。よし、動きの組み立てを変えてやってみる」
こうして終日訓練に付き合った。
「バネッサ、フェアリーを見といてくれるか?」
「どこかに行くのか?」
「ミャウタンに話がある。ちょっと遅くなるかもしれんから先に寝ててくれ」
「いいけどよ」
マーギンはポニー含めて3人を残してミャウタンのところへ。
「今夜はコチラにお泊りになられますか?」
「いや、泊まるんじゃなしに神殿へ行っていいか?」
「どうぞご自由に。扉はマーギン様でも開くようになっておりますので」
マーギンは1人で神殿へと向かう。ミスティ像がどうなったか確認をしたいのだ。隠し扉を通って神殿へと到着。
「変化なしか」
米粒で繋いだ部分がカピっとしているぐらいでミスティ像に変化はなかった。しばらく石像を眺めてから神殿内を見て回る。
「祭壇にも何もないんだな」
ガインの隠し金庫があったのは祭壇へと上がる階段の裏。祭壇に上がってみるも何もない。何かを置いてあった形跡だけがある。ミスティ像はここにあったわけじゃないのだろうか? 仰向けに寝たミスティ像を置くには小さい台だしな。
祭壇の上にあったのは1メートル四方程度の台。ミスティが小柄だったとはいえここに石像を寝かせるのは無理がある。もしかしてあれは仰向けに寝ているのではなく、立っていたのだろうか?
マーギンはもう一度ミスティ像のところに行き、足元を確認する。
「この石像を立たせようとすると足を台に固定しないと無理だよな。じゃ、やっぱり寝てる像でいいのか」
だとしたらあの祭壇には何が祀られていたのだろうか? ラーの使徒ミスティを祀る神殿なのにミスティの石像ではないものが祀られていたのか?
初めてここに来た時には砕けたミスティ像を見て何も考えられなくなったが、落ち着いて考えると疑問が出てきた。ここはそもそもラーの神殿なんじゃなかろうか? 自分でも神殿と言ってて矛盾に気付く。ミスティの為の建物なら使徒殿? とかになるのだろうか? そんな言葉は聞いた事がないのだけれども。
もう一度ミャウタンに話を聞くかとマーギンは神殿をあとにするのであった。